1.転生
物語のはじまり。それは決まって出会いから始まるのかもしれない。
朝目覚めるがごとく、修一の意識が戻る。
目覚めの気分は微妙だ。
辺りは薄暗く、何より固い床に寝ていたせいか、体がギシギシと痛む。
「俺は死んだんじゃ…?それにここは、一体…?」
見慣れぬ景色と死んだはずなのに痛覚がある、という謎に修一は思わず呟き、辺りを見渡す。
こじんまりとした室内にいるようで、広さは4畳程度だろうか。盃にサッカーボール大の光る水晶玉が填められたオブジェが一つ、ポツンと部屋の中央に置かれているが、その他には家具どころか窓もなく、飾り気のない扉が一つあるだけである。光源も、この水晶しかないようだ。
死後の世界にしては、雑な扱いだなと思いつつ、現世の罪を数えながら、修一がその水晶に手を伸ばした―――その時。
「はじめまして。」
「…っ!?」
いきなり若い女性らしい声に呼び掛けられ、体が跳ねた。
「びっくりさせちゃってごめんね。私はここよ。」
声の主を探すが、辺りに人影はない。声は例の水晶玉から聞こえている気がするが…。
「もしかして、この水晶玉?」
「そうよ。」
水晶玉から楽しそうな声が聞こえる。
「…一体何がどうなってるんだ?」
死後の世界は現世の常識がこうも通じないのか。
「ふふふ…説明させてもらうわね。色々と信じ難い話が出るでしょうけど、落ち着いて聞いてね?」
それから、水晶玉が話したことは、遥かに想像を超えたものだった。
要点をまとめると、
・俺はあの火災で死んだ。だが、本来死ぬ運命にあったのは、俺が助けたあの女の子。
・それを助けたことによって、俺は輪廻の道から外れてしまい、黄泉の世界に行くこともできず、魂が彷徨っていたらしい。
・そんな俺の魂を、この水晶玉が『マナイーディア』という地球とは異なる世界にひっぱりあげここに呼んだ。
ということらしい。
「はいそうですか、と信じられる話じゃないけど、確かに俺死んだと思うしなあ…。」
(しゃべる水晶なんて聞いたこともないし。)
心の中で修一はぼやく。
「それで、なぜ俺をここに呼んだのですか?そもそも、あなたは一体?」
「そうね、自己紹介をしましょうか。私はダンジョンコア。ここ幽霊船型ダンジョンを司っている者よ。」
「ゆ、幽霊船?…ダンジョン…?」
「あら、ご存じないかしら?」
「ダンジョンって、来訪者を招き捕食するフィールド型モンスター的な、あのダンジョン?」
修一は生前、読書が趣味であり、ジャンルを問わず多様な本を読んでいた。そしてその中にはネット小説やライトノベルももちろん含まれており、流行りの転生ものも幾つか購読していたのである。
「そうそう。まさにそんな感じ。」
水晶玉が話しを続ける。
「おr…僕の世界では、空想の産物でしかありませんでした。」
「ふふふ、楽にしていいのよ。…まさしく、そのダンジョンね。そして、その心臓部であり管理をしているのが私、ダンジョンコアというわけ。」
「な、なるほど。」
「信じてくれた?」
「正直、半信半疑って感じです。」
そう言いつつ、修一は積極的に疑ってはいなかった。水晶玉が嘘をついているようには聞こえなかったのだ。表情を見ているわけでもないため正確性は皆無だが。
しかしそう言ってしまえば、この状況は理解の範疇をとうに超えてしまっている。修一は理解の外にあるものと駆け引きする気などさらさらなかった。
「それで、あなたはなぜ俺をここに呼んだのですか?」
「んー。あなたには、ダンジョンマスターになってほしいの。」
またまた、信じられないような話が来た。
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