《緑がいっぱい》ゴキブリン
(ほいっ!)
僕は、前から向かってきた〖そいつ〗らの三匹をまとめて、ポルターガイストで横に吹っ飛ばす。
バァッバ…ァ
またもや、衝突してこちらに向かって落ちてくる〖そいつ〗らを確認する。
(のりゃッァ!!!)
上から落ちてきた〖そいつ〗らを、ポルターガイストで積乱雲がある後ろ側に送り飛ばす。上から落ちてくる〖そいつ〗らは、腹側を下にしていることが多く、気合を入れて、見上げなければならない。
(はぁ……はぁ……)
(*^-^*)《ハシュ~》
息はしていないが、息が荒い。孔明くんは、鼻息が荒い。
(疲れたぁ……)
( ・_・)『?』
スキルを使い過ぎた反動なのか、精神的ダメージによるものかは、分からない。だが、この激闘の中、倦怠感が僕の霊体を支配し始めた。
孔明くんも僕をまっすぐ見て、こちらを気にするような顔をしてい……zzz
(グゥ……はっ、寝るるな!)
(る)が二つ付いたが、そう自分を叱りつけるよう思考して、ポルターガイストで〖そいつ〗らを、ふり飛ばす。
もう何時間も、〖そいつ〗らと戦い続けているような気がする。
夢中で、ポルターガイストを発動し続けてはいるが、〖そいつ〗らをポルターガイストで飛ばす方向を考えられなくなってきている。今、飛ばした〖そいつ〗らの一匹が、孔明くんの顔のすぐ横に飛んできたので、慌てて弾き返した。
(もう少し、もう少しで)
だんだん、こっちに向かって飛んでくる〖そいつ〗らが、減ってきた。地面から這い寄る〖そいつ〗らも、大体は、積乱雲の方に行ったらしい。
今は、陸も空も各個体が、散らばっているので密度が低い。
僕は、前から向かってくる奴らが減るのを待っていた。
そうすれば、道が開けるからだ。
逃げるための道が、
(よしっ、十分に減った!!!)
空では、先程までの密度が嘘のように、まばらに〖そいつ〗らは、飛んでいる。地上では、あの不快感をまき散らすカサカサッという〖そいつ〗らの足音が、前方では、しなくなっている。
僕は、振り返って後方を確認してみると、
(ウノェッ~…)
そんな吐き気と、驚愕の感情が倦怠感を押し出し、一刻でも、ここから離れようという意識によって切り替えさせた。
後方では、緑色の地獄絵図が作り出されていた。緑色の〖そいつ〗らの群体が桃色の積乱雲の半分を埋めている。その様は、まるで、緑が生い茂る火山のようだ。
そして、またあの音が聞こえてきた。
《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》《トゥニャプー》
(ウオ~、中が気になる~!)
すると、山を形成している〖そいつ〗らが、より中心に行こうとして、平たい円錐形の緑の恐怖の山が、更に、鋭い円錐形の形になった。
どうやら、あのハイテンションな音を聞くと、あの桃色の積乱雲の煙の中に入りたくなるようだ。
しかし、入るわけにはいかない。中に入ろうにも、《緑がいっぱい》な山を登るはめになる。登るというより、突入の方が近いが……
そんなことより、やっと道が開けたのだ。
(*⌒▽⌒*)「ハッ、ハッ、ハッハッ」
だから、この能天気な顔をした僕の弟である孔明くんを穢れがいない場所に導かなければならない。
孔明くんは、振り返ると……
(孔明くん!!火山の方へ行くんじゃない!!)
僕は、ポルターガイストを使い、孔明くんを抱え上げる。
( -_-)ジッ『シーン』
孔明くんは、高いところが苦手で、抱っこしているときの高さでも怖くて、大人しくなるのだ。
だが、今は、これでいい。
(ごめんね~孔明、後でナデナデしてあげるからね♡)
可愛ゆき孔明くんをあやすように思考し、僕は、孔明くんと共に、《緑がいっぱい》の火山から、離れていく。
〖そいつ〗らは、ほとんどが、あの《緑がいっぱい》の火山を構成しているのか、今は前から向かってくる〖そいつ〗らはいない。飛んでいるのは……いるが。
(後、何メートルだ……)
目指すのは、昨夜作った寝床だ。
そこが、安全とは限らないが、希望はある。
バァァァァァァァァッ……
(!!!)
僕は、飛んできた〖そいつ〗を、ポルターガイストで弾く。〖そいつ〗は弾かれると軌道を戻し、また、向かってくる。
(ポルターガイストの威力が落ちてる…)
元々、このスキルは、集中力や、精神的な強さが発動するのに必要なものだ。
だから、孔明くんを抑えていたとき、飛んできた〖そいつ〗に恐怖し、ポルターガイストが、解除されてしまったのだ。
今の僕は、疲れが溜まっている。そのため、満足な集中力も、充分な精神力も、もってはいないのだ。
それに加え、孔明くんも持ち上げているので、〖そいつ〗の相手をするための力がもうないのだ。
孔明くんは重くはない。人間の成人男性と同じくらいの体重があると、前の世界の動物病院で獣医さんから聞いてはいるが、重くはない。断じてない。絶対ない。絶対という言葉は詐欺師しか使わないが、断じてない。
(来るんじゃねえよ……)
僕は、ジリ貧のポルターガイストで交戦する。
しかし、もう、〖そいつ〗を弾き飛ばすことができない。せいぜい、押し返す程度だ。
また、〖そいつ〗は、向かってくる。その〖そいつ〗の後ろから、別の〖そいつ〗が複数体現れる。
(後ろには、姫君が……)
孔明くんは、男の子ではあるが、僕にとっては、孔明くんは男の子でもあり、女の子でもあるのだ。
だからこそ姫であり、異論は認めない。
孔明くんは種族も性別も超えた存在なのだ。
つまり、可愛ゆき存在だ。
僕は、〖そいつ〗らを睨みつける。そして、激高した。
(お前たちのような外道が触れていい存在ではないぞ!!!)
僕は、孔明くんを落とさないために意識を配り、そして、〖そいつ〗らにも、意識を配る。
(このゴキブリン共め!)
今考えた、〖そいつ〗らの名前である。
そして、この脱出戦において最後の戦いが始まった。
次話で、必ず、多分おそらく、絶対、最後の戦いです。