緑がいっぱい その三
あの後、僕は、ひたすら、孔明の肉球に触ろうとしたことで孔明くんに何度も噛まれた。
あの肉球の誘惑には、逆らえなかったのだ。
その時に気づいたのだが、僕が人間だった頃よりも、痛みの感覚が違うのだ。
この魂だけの状態だと、前後左右どこからでも攻撃を受けると、頭に直接響くような感じで、痛みを感じるようだ。
つまり、軽い脳振盪のような感じである。
(ハァハァ、やっぱり、リードで繋がれていなくちゃ、孔明くんの機動力は天下一品だな。)
孔明くんは前世では、家の中で生活をしており、家にいるときにはリードをつけていたのだ。
そのため、今の状態は孔明くんがリードに繋がっていないので、積極的にガブガブができるのである。
(そういえば、孔明の破壊行為は凄まじかったなぁ)
孔明くんは、自分に構って欲しいとき、破壊活動をするのだ。
(畳に穴を開けて、壁を削り、トイレシートを噛み破り、ドアに穴を開けそうになったこともあったなぁ)
家族全員がそれに悩まされたものだ。当の犯人は、申し訳なさそうな顔をしていたが、自分のことを構ってくれることに、尻尾を少し上げていたのを覚えている。
(でも、一番構って欲しい人はママだったけどね。僕と姉ちゃんはママがいないときの保険程度にしか、考えていなかったんだろうなぁ。ちょっと、残念。)
でも、寂しがり屋なところは、可愛ゆいのだ。
そんなことを考えていると、もうこの世界に来てから、せいぜい、5時間くらい経ったのではないかと思った。
理由は、空が暗くなり始めているので、それくらい、時間が過ぎているのではないかと思ったからだ。
確信があるわけではない。
ようするに、勘である。
(あれ?太陽はどこの方角にあるのだろう?)
日本でならば、西から出て、東に太陽が沈むとき、太陽が沈む方角には、夕焼けが起こる。
だが、不思議なことに、この世界では、そうではないらしい。
(孔明くんに魅了されて、気付かなかったけど、あの、UFOみたいな穴を見たとき、昼間なのに、空に太陽がなかったな)
そして更に、不思議なことは、周りの森と空の境界線からまるで、ゆっくりと、空を染め上げるような薄い紫色が現れたことだ。
その色は、徐々に、微々たるものだが、色味が増していく。
(あっ、夜になるんだ)
∑(OωO; )(ハッ!)
寝転んでいた孔明くんは驚いて立ち上がって、この現象を興味深く観察している。
(@_@)『ジー、コテンッ』
(真っ直ぐ見つめるその瞳!、コテンと傾げるその顔!、ピンと立てたその耳!やっぱり孔明は何をしても可愛ゆき、もふっとちゃんだな♡♡♡)
この反応は、孔明くんが、不思議に思っているものがあるときの仕草だ。
(〃ω〃)「アゥッ!、アゥッ~ン!」
(この鳴き声は何だろう。遠吠えにしては、鳴いている時間が短いな。)
きっとはしゃいでいるのだろう。孔明もこの世界が不思議に満ちあふれているのだと、理解したんだろうなと思った。
(にしても、幻想的だな~ぁ)
森と空との境界線に近いほど、紫色が濃くなっており、今では、空の全てが、濃淡のある紫に染めあがった。
そして、空全体が、境界線に近い場所と同じ濃さになったとき、世界が切り替わるかのような変化が起きた。
(うぁー)
(゜o゜;)「………」
瞬く間に、森と空との境界線から出てきた、藍色が空全体を染め上げ、その後、その藍色はスッと黒に色が変わってしまった。そして、その黒から、まるで、電球をつけたときのような光の粒が
ポツポツと浮かび上がり、その黒の中で、それぞれ、色とりどりの星となった。
僕たちは、その圧巻の光景に圧倒され、しばらくの間、そこに立ち尽くしていた。僕が再起動したのは、虫の鳴く声が聞こえてきてからだ。
(新月なのかな?)
僕は夜空を見ながら、そんなことを思った。
一方、我が家の座敷わらしは、僕の隣で伏せをしている。顔は空の方に向けていた。
;つД`)『ファアア……』
孔明くんがあくびをしている。
可愛ゆい……
(なんか、眠そうだな)
今日は、ここらた辺で眠ることにした。
寝床は、草原地帯の終わり、つまり、森に近いところに生えている60cmほどの茎を持つ植物が群生している茂みの中である。
ここは追いかけっこをしている最中に見つけたのだ。
ここなら、孔明くんの体を雨風から防ぎ、敵対生物から隠すことができると考え、選んだのだ。
そして、その茂みの中に孔明くんが穴を掘って、葉っぱを敷きつめて、自分が寝やすいようにリフォームをしたものがこの寝床である。
孔明くんはそこで丸くなって、あくびをしている。
そして、僕は、ここで、自分のスキルを使うことにした。
僕のスキルは、ポルターガイストや、念力に似ている。
僕がこのスキルを持っていることに気づいたのは、寝床に葉っぱを敷きつめるときに、この葉っぱが持ってたらいいなと、自分に腕があって、葉っぱを持つという妄想をしたらできたのである。
風も吹いていないのに、葉っぱが浮かび上がり、その時、この葉っぱを僕は持っているということが不思議だが理解できた。
(よし、それじゃッ、やるか)
意識を集中させる。…………そして・・・
(白海潜航)
それは、もう一つの僕のスキル
(あぁ、癒やされる~ゥゥ!)
このスキルは、僕と相性がいいと思う。というか、僕のためのスキルである。このスキルは、孔明くんのもふもぉふの中に僕の身体……あっ、間違えた、霊体をうずめることで、ゲームでいうHPなどを回復するものだ。
(何でか、分からないけど、スキルをどう使うかが理解できる。………アバウトだけども)
だが、そんなことよりも孔明の心配だ。
孔明は僕のような回復スキルを持っていないと思う。
これからは、孔明が怪我をしないように注意しながら、生活していかなければならない。
(孔明、今日は、ご苦労さま)
喋れないのに、喋った風に思考し、孔明を全霊を使い、ナデナデした。
(-_-#) ピクッ『ギロリ』
(あっ、ばれた)
僕は、念力で、孔明くんをナデナテしながら、後ろ足に寄り、肉球を密かにプニュプニュしていたのだ。
(-_-#)「グゥ………」
(ハーイ、静かに寝ます~)
僕は、孔明くんの尻尾と敷きつめた葉っぱの間に潜ると、今度こそ、大人しく寝た。
しばらくして、上に乗っていた尻尾の感触がなくなった。
そして、木の枝のこすれあう音がし、孔明くんが僕の方に方向転換をした。
(どうしたんだろう?)
そう、思っていると今度は、僕の右隣に、孔明くんの左前足がきて、その後に、その上に、顎を乗せた孔明くんの顔。
(僕が見えないと嫌だっていうことかな?)
僕は、孔明くんに寄り添おうとした。
すると、孔明くんは、左前足から、顎をどかして、左前足の隣に間を作り、顎を置いた。
つまり、顔の近くで眠ってほしいと誘っているのだ。
(正解か~い!)
そして、今夜僕は、孔明くんの顔と左前足の間で眠りについた。
孔明くんが僕に甘えてくるときは、我が家に僕しかいない時でしか甘えてはこないので、非常に有意義な時間をとれたと思っている。