089話:二人のマスクマンと偶像神の帰還
途中から視点が三人称となります
クレイトに攻め込むまで残り約一時間ほどとなった。
それまでに出撃する準備をしないといけないワケだが、まぁ武装の類は大丈夫なので、今重要なのは衣装だ。
とりあえず無用な遺恨を極力避けるために仮面を付けようと思う。
正直なところ、正体云々に関してはペルマンに顔を見られているので遅いっちゃ遅いんだが、それ以外の相手にはそれなりに効果があるだろう。
で、問題は使用する材質だ。
手持ちの資材では鉄が最適なんだろうけど、鉄仮面という響きがちょっと嫌なので、ここは布で作ったマスクにしてみようと思う。
エゴを強化した者になるのはまだ早いのだ……。
とりあえず覆面レスラーのようなマスクが丁度いいのかな?
書物閲覧で検索したら「マスク大辞典」なる本があったので課金。
銀貨一五〇枚とか地味に高いな!
その本を参考に、裁縫スキルと裁縫資材でオレとソルムのマスクを作る。
ラメ入りやカラフルな金銀糸で作られた布地も豊富なので、少し派手めなマスクに仕上げてみた。
ソルムには漫画から実物のレスラーにもなった虎仮面を参考に、銀色を基調としたのを。
そしてオレは仮面貴族と称えられた伝説のマスクマン、ミロ・マラスカスのマスクを基本形に作成してみた。
額の文字を本来のMからゴッドのGとしてみたが、なかなかにカッコイイ。
ということで早速ソルムと試着してみる。
おお! ソルムは頭の耳が本物の獣耳だから、本当にソレっぽくて実に良く似合う!
「ど、どうですか? 旦那様?」
「うん! カッコイイよ、ソルム。似合ってる似合ってる♪」
「ならいいのですが……本当に変わった仮面ですね、コレは」
少し戸惑い気味のソルムだが、尻尾がブンブン揺れているのでまんざらでもない様子だ。
オレも自分の姿を部屋にあった鏡で確認してみたが……うん……やっぱりボクたちの思ってた通りのマスクマンだね!
とまぁ軽いジョークもほどほどに、次は衣装だが、流石に時間がないのでソルムは先日作ったメイド服を。
オレも片手間に作っていた燕尾服を着用した。
プロレスマスクにメイド服と燕尾服か……なかなかに強烈なビジュアルだが、ここの世界の住人からしたらオレが感じている以上に異質な者に見えるだろう。
見る者に与える心理的影響というのは大事だ。
この姿がどう転ぶかは解らないが、それなりに効果があることを願おう。
「旦那様! 凄く凛々しいお姿です♪ ……惚れ直しちゃいそう……」
ソルムが最後にそんなことを小声でいいながら、今のオレの姿を褒めてくれる。
…………効果あるのかなぁ……少し不安になってきた……。
そんなこんなで出撃の準備も完了した。
あとはクレイトの首都目指して突き進むだけだが、ここで以前アリオス爺から見せてもらったクレイトの大まかな地図で位置確認をしておく。
どうやら首都までの間には、ペルマンの野郎の領地を突っ切ることになるみたいだ。
ペルマン伯爵領の戦力だが、グラス氏の情報では兵士・騎士・魔術師合わせておよそ三〇〇〇〇程らしい。
多分マークだけでも殲滅できるのだろうが、まぁこの辺りは皆でまんべんなく対処していこうと思う。
あと、ソルムは格闘術や火魔法を身に付けてはいるが、やはりレベルが低いので戦闘には参加させない。
キャストを護衛に付け、基本的にはオレの後ろで観戦するように厳命しておく。
「うう……こういう場面でお役に立てないのが辛いです……」
そんなことを言いながらうな垂れるソルムだが、まぁ彼女は基本的にメイドであって、本職の戦士じゃないから仕方がないだろう。
まぁこの辺りはまた後ほど、じっくりと鍛えてあげようと思う。
そのことをソルムに伝えたら大層喜ばれてしまった……。
こりゃ真剣に育成プランを考えておかないとね。
そんなこんなで最終確認も終わったので、オレは皆を引き連れてシャルク侯爵たちの待つ大広間へ行く。
「ほほう……またなんとも得体の知れぬ出で立ちであるな……」
「これがソーマ殿の国での戦装束なのでしょうか?」
マスクを取るのをすっかりと忘れてまして、侯爵とグラス氏から斯様な感想が述べられました…… 迂闊!
そんな一幕もあったが、オレたち一行はグラス氏率いる騎士団たちの先導のもと、侯爵領都市の北側城門まで案内される。
ちなみにダイルだが、今回は侯爵邸で留守番をお願いした。
今回の一件で生粋のアルグランス貴族を連れてゆくのは流石にマズいからね。
理由を述べたらダイルもすんなりと納得してくれた。
まぁこの辺りは流石にダイルも理解してれているようで助かる。
「ではソーマ殿、御武運を!」
「ありがとう、グラスさん。明日の夕方までには戻りますから、そのあと夕食を御一緒しましょう。じゃあマーク、行くぞ!」
「御意!」
オレの号令と共に、マークたちが颯爽とクレイトめがけて駆けだした。
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少し時間を遡ること数時間前の話。
フォーランドの偶像神たちが集う天界の円卓広間に、ソーマのもとに行けなかった偶像神八柱の神々は、フェルナリオたちの帰りを今か今かと待ちわびていた。
「お! どうやら戻ってきたようだな?」
暗黒神アークラが広間の片隅にある大きな魔法陣が描かれている場所に視線を送ると、そこにフェルナリオたちが姿を現した。
どうやら無事に下界から天界に戻ってきた様子だ。
「お帰りなさい。私たちも上から様子は伺ってましたが、どうでした?」
そう海神ウォルナードが訪ねるが、フェルナリオたちは黙ったままだ。
いや、それどころか、全員が深刻な面持ちで冷や汗を流している。
「おいおい? みんな一体どうしちまったんだ?」
「リネールまでだんまりとは珍しいのことネ?」
「な……なにか失敗した?」
風雷神ファイフーンと商聖神ギャンドラーが首を傾げ、魔神ミクサリオは心配そうな表情でフェルナリオたちを気遣う。
そしてフェルナリオたちはただ黙ったまま、円卓の自分たちの席に座り込む。
「みんな……どうしたんだい? 様子が少しおかしいよ?」
「とにかく報告を頼むぜ」
「うん、少しでもソーマ様のことを教えて欲しい……」
皆を心配する竜神サイリュートだが、冒険神アドバと知性神インテグラは早く報告を聞きたがっていた。
そして次の瞬間、フェルナリオたち五柱の偶像神たちは円卓の天板に額を打ち付けるように突っ伏し、五柱揃って大きな溜め息は吐きながら、全身の力が一気に抜けるように四肢をだらりとさせた。
「……あの御方……トンでもない人間だぞ……」
「最初に警戒した時の神力の凄まじさは今でも忘れられないよ……」
「ソーマ様のあの神力の放出…………アレ、絶対無自覚でしたわよね?…………」
「よかった……本気で怒らせてなくて本当によかった…………」
「肉体は間違いなく人間なのに、内包してる神力が上神様並って……一体なんなのあの人?」
五柱の神々はそう述べながら、今も全身を震わせている。
そんな異常な光景を目の当たりにし、残っていた八柱の偶像神たちもまた、深刻な表情となる。
「…………特異点って……特異点って一体なんなんだ?…………」
そんなフェルナリオの疑問が解き明かされるのは、まだ当分先のことである……。




