086話:土下座、降臨
今オレは侯爵邸の一室にいる。
部屋にいるのは、オレの他にはマークたち神獣家族とソルムだ。
悪いけどダイルやシャルク侯爵たちには席を外してもらった。
なんせこれからソルムに大事な話をしなきゃならないからな……。
一応盗み聞きされないよう、部屋周辺に地図レーダーの警戒網を張っておく
「じゃあソルム、今から話すことは絶対誰にも言っちゃ駄目だよ?」
「は、はい!」
オレはソルムに今までの経緯について全て話した。
「で、では旦那様はこのフォーランドとは違う世界から、神様の御力を授かってお越しになられたと……」
「うん……そういうことになる」
「そしてマーク様たちも元はバイキングウルフの家族で、旦那様が神様たちから授かった道具の力で神獣になられたと……?」
「まぁ直ぐには信じてもらえないだろうけどね」
オレがそういうと、ソルムは慌てたように両手と首をブンブンと左右に振る。
「ち、違います! 旦那様のお言葉を疑っているのではありません! ただ……余りにも想像からかけ離れた内容でしたので、呆気にとられてしまっただけです。私、てっきり神の啓示を受けた賢者様の一族の御方とばかり思い込んでいましたので……」
また賢者の一族か! しかも神の啓示を受けたがプラスされた!
なかなかに想像力豊かだね、この娘も。
「でもそうなりますと…………旦那様の御家族と仰っているフラメン姉様ってもしかして……」
「ああ……想像通りだよ。あの方は舞踏神様で、このフォーランドの神様たちより偉い存在だ……」
「驚きの連続で、最早どう言葉を返せば良いのかわかりません……」
デスヨネー。
でもソルムの表情からしても、恐らく正直なところではまだ半信半疑なんだろうな。
今までにもいくつか異常な力は見せたが、全てを納得させるには決定打に欠ける。
あとライラやシルフィーの時と違って、ソルムとはまだ完全に打ち解けるには時間が足りなさすぎたのも理由の一つだろう。
でもこの話を完全に信じてくれないと、オレが考えている次の行動に移せないんだよね……ソルムを眷属にするってのが。
眷属にするのはお互いの信頼が何よりも重要だ。
オレは、オレのために怒って傷ついたソルムを信じたい。
だけどソルムはまだそうじゃない。
確かにオレのことを慕ってくれてはいるが、いきなり異世界からきた転生者だなんて話はあまりにも飛躍し過ぎていて、別問題にすら感じているんだろう。
「う~ん……ソルムにこの話を完璧に信じさせる決定打が欲しいな~」
「も、申し訳ございません…… 旦那様のことは信じたいのですが、頭が混乱して……」
例えば神様自身の証言とかあれば助かるんだけどねぇ?
でもあのフラメン姉さんじゃな~…………。
と、そんなことを考えていると、
『そのお役目、宜しければ私どもめにお任せ下さいませんでしょうか?』
部屋中に今まで聞いた事のない男性の声が響き渡る。
なにっ⁈ 地図レーダーになんの反応もないぞ⁈
警戒網にもかからなかったなんてどういうことだ⁈
マークたちやソルムも完全に不意を突かれて動揺している。
「誰だ⁈」
オレは聖剣エクスカリバーを構えてソルムを守るように前へ出る。
『これは失礼しましたわ…… 突然の来訪、平に御容赦を…… 今姿をお見せしますので、どうか剣神様の剣をお下げ下さいまし……』
今度は女性の声だ……。
それにしてもエクスカリバーを一目で剣神様の物とまで見抜くなんて……一体なんなんだ?
一応剣はまだ構えたまま警戒は怠らない。
するとオレたちの前方に青白い光の玉が一つ現れたかと思うと、二つ、三つと、それは徐々に数を増し、最終的に五つの光球が現れる。
その光球から光量が少し増したかと思うと、その光球が砕けて光の粒子のように飛び散って人の姿を形作る。
そして光の粒子の光量が徐々に下がると当時に、人型の粒子から明確に人の姿が浮かび上がり、そしてそれは実体化した。
全部で五人の男女の姿…… 全員に共通しているのは、体の周囲が薄い光に包まれているくらいか?
……そして何故かその内の一人は…………見事な土下座をしていた……。
…………ナンだこいつら?
今一度AR表示で確認すると、今度はちゃんと詳細を見ることができた。
…………うそでしょ…………?
警戒するオレの姿を見ると、土下座をしてる一人を除く四人の男女はその場で軽く頭を下げて会釈をする。
そして中央にいる若い赤毛の男性が口を開いた。
「突然の来訪、大変失礼致します……ソーマ様。私の名は炎神フェルナリオ。このフォーランドの偶像神にございます」
ハイ……いらっしゃいませ偶像神様。
確か五大神様たちが言ってた、このフォーランドで生まれたっていう神様のことだね。
「僕……じゃなかった! わ、わたしは大地神アストンといいます!」
「わたくしは光神セイトルナスですわ」
「豊穣神リネールっていいます♪」
「スイマセン! わ! 私はスクレーダ! せせ戦神スクレーダっていいます! スイマセン! スイマセン! スイマセン……」
最後の土下座男は何故かオレに何度も謝っている……。
オレ、なんかやったか?
しかし今はそれよりもソルムの方がもっと大変だ。
いきなり見知った名前の神様が五柱も目の前に現れて全身が震えるどころか、耳も尻尾も総立ちだ。
どうやら本能で彼らが本当に神だと認識みたいだ。
「あわ……あわ……あわわわ…… かかか神リネール…………神殿の石像と瓜二つのお姿で…………」
「脅えなくても大丈夫だよ、信者ソルム。キミの祈りはいつも私に届いているよ。ありがとうね♪」
リネールがソルムに近づき、優しく頭を撫でる。
するとソルムはその場で涙を流しながら跪き、リネールに向かって頭を下げて祈りを捧げる。
しかもその表情は涙を流しながらも、実に幸せそうだ。
「ああ……神リネールよ……いつも我らに恵みをお与え下さり感謝します…………」
そうか……ソルムはあのリネールって女神を信仰しているんだな。
信仰している神様に会えて良かったね、ソルム……。
……って! 今は感心している場合じゃない!
彼らが何故この場に現れたのか、その理由を聞かないと。
あと、態度には一応気を付けておこう。
「えっと……五大神様たちから話は聞いてますが、貴方たちがフォーランドの偶像神様方なのでしょうか?」
「ソーマ様、どうか我らに斯様な言葉使いはお止め下さい。神格は貴方様の方が遥かに上にございます」
フェルナリオがそう言うが、やっぱ神様だしねぇ……。
執事のハルガスのとき以上にハードル高い注文だよ……。
「えっと……じゃあこんな感じでいいのかな?」
「はい、どうかいつも通りの自然体で接していただければ、我らにとっては無上の喜びとなります」
フェルナリオがそう言いながら頭を下げるが、神相手にはどうにもこういうのは慣れないなぁ……。
よし! そこまで言うなら、少し我儘を通させてもらうか。
「じゃあ、キミたちもせめて友人のように接してくれないかな? 神格ってのが上であってもオレの体の半分は人間だし、神から敬語使われるのはかなり抵抗がある。だからそこだけは頼む!」
「い、いやしかし……」
アストンは動揺しつつ遠慮するが、それを諌めたのはリネールだった。
「アストン。折角のソーマ様のお願いなんだ。ここは聞き入れるべきなんじゃないかな? ねえソーマ様。こんな感じでいいかな?」
「できれば様付けも……」
「流石にソレは駄目。一つくらいはケジメが必要だと思うの。だけど言葉使いに関してはこれでいいでしょ?」
ハハハ、なかなかに面白い女神だな。
うん、気に入った! じゃあ今回はこれで妥協しておこう。
「ああ、解った。じゃあ他のみんなもそれでよろしく頼む」
「わ……わかり……解った。じゃあこれでいいか?」
「ああ、よろしく頼む、フェルナリオ!」
「じゃあ……僕もこんな感じでいいのかな?」
「うん、よろしくアストン」
「わたくしはいつもこんな感じですの。宜しいかしら?」
「ああ、了解だ。セイトルナス」
「やった~! 堅苦しい人でなくて助かった~♪ ヨロシクね♪ ソーマ様♪」
「ハハハ、リネールは元気だな。…………で………………」
オレは今も土下座してる男神、スクレーダに視線を送る。
「スイマセン……スイマセン…………ホントごめんなさいごめんなさい…………」
「アレ……ナニ……?」
「「「「…………ハァ~~~…………」」」」
四柱の神は揃って額に手を当て、深い溜め息を漏らした……。




