085話:ゴーサイン
ソルムを傷つけられた怒りで派手に啖呵を切ってしまったけど、AR表示さん? マジで本当に大丈夫なんでしょうね?
>大丈夫です
>今備わっている上神たちの加護の力を存分に奮って悪者を懲らしめましょう
うん……クレイトに喧嘩売ろうと思った時、実はこっそりAR表示さんにコレだけは確認していたんだ。
本当に今のオレはこの世界で最強たる存在なのか?
で、結論からして本当に世界最強らしいので、今回のような状況に踏み切った次第だ。
ここまで啖呵切って返り討ちじゃカッコ悪過ぎるからな~。
まぁゴラス島の時みたいな自然災害を相手にするわけじゃないから、なんとかなるだろう。多分……。
じゃあまずは…………。
「シャルクさん! ごめんなさい!」
オレは深々とシャルク侯爵に頭を下げた。
「ソ、ソーマ殿? なんだいきなり?」
「オレが勝手をやらかしてすまない! この責任は全部オレが取るから、どうか今回は手を出さないでくれ!」
そう。まずはアルグランスの介入を止めるのが先決だ。
さっきからシャルク侯爵やペルマンが話してた「東大陸戦時協定」ってのがどんなものかは知らないが、恐らくオレが仕出かしたことは、その協定とやらに違反する行為なんだと思う。
いくらオレ自身がアルグランスに所属していないことをペルマンに強調したとはいえ、この国のお世話になっていることには間違いないから、何かあればクレイトの連中は間違い無くそこを突いてくる。
もしそんなことになれば、オレを客人として持て成してくれたシグマ陛下やアリオス爺たちの顔にも泥を塗ることになる。
だからこそ、ここから先はオレ自身の手でケジメを付ける必要がある。
そのためにも、今ここでアルグランスの人々に動かれるのは、なんとしても回避したいのだ。
「シャルクさん。あんたの立場は重々に承知しているが、どうかここはオレの顔を立てて、クレイトが宣告した二日後の日付が変わるまであいだ、どうかこのまま静観していてくれないか?」
「…………詳しく話を聞かせてくれるのだろうな? ソーマ殿よ?」
シャルク侯爵の鋭い目に、オレは少しだけ観念するしかなかった。
「すまない! 詳しくは言えない! だけどオレは貴方たちの人智を遥かに超えている存在だ。それは神獣であるマークたちがオレに従っていることから察して欲しい」
「そのことについては、色々と事情あってのこととは思っていたが、それほどまでなのか?」
「デオンフォード候よ。我が主様が本気になれば、我ら一族が束になっても敵わぬと心得よ」
シャルク侯爵の問いにマーク自らが明確な答えを示す。
うん……今まで完全な本気ってのは出したことないんだけど、一国を亡ぼすとまで言われるマークには何故か負ける気は全然しないんだよね……。
そのことからも、恐らくオレが本気になれば世界を亡ぼすこともできるんだと思う……。まぁそこまではやらないけどね。
多分この新しい体と、妙に自分じゃないような感覚になる精神力の影響のせいでそう思えるのかも知れない……。
自分の体と心なのは間違いないのに変な話だ。
「二日だ……」
「む?」
「今日と明日の二日だけ時間をくれ。それまでにクレイトの奴らをオレとマークたちが叩き潰す! それが過ぎたら、奴らが宣戦布告した開戦の日になる。もしそうなれば、あとは好きにしてくれてかまわない。だけどそんなことは絶対にさせやしない! オレとマークたちがこの戦争が起こる前に必ずクレイトを止めてみせる! だから頼む! それまでの間、今までのことを全部ひっくるめて静観してくれ!」
そう言ってシャルク侯爵に再び深々と頭を下げるが、返事はなかなか返ってこない。
そりゃそうだ。もしオレがヘマをやらかしたら、アルグランスにクレイトの軍勢が押し寄せて大変なことになる。
無論それまでの間、王都への連絡も止められるので全てが後手に回る。
下手をしたらアルグランスという国が無くなるかも知れないんだ。
そんな危険極まる提案を「はいそうですか」と、簡単に受け入れてくれるはずがない。
いくらマークたち神獣という存在があったとしても、そう簡単に答えを出せる話じゃない……。
「いやいやソーマ殿よ……いくら貴殿の言葉でもそれは無理な話だぞ」
グラス氏のお言葉ごもっとも!
だけど頼むよシャルクさん!
そう願いながらずっと頭を下げていると、思わぬ言葉が返ってきた。
「よかろう…… ソーマ殿よ、神の使徒とまで謳われる貴殿の手腕。しかとこの目で拝見させてもらおうか……」
「閣下! 正気でございますか⁈ いくら我が国の恩人の頼みとはいえ、これは個人の喧嘩などではございませぬぞ!!」
グラス氏の正論を手を出して制するシャルク侯爵の目つきは優しかった……。
「実はな……先日届いたシグマ武王陛下の親書であるが、その他にアリオス先武王陛下とライラ姫殿下の親書も含まれておった……」
「先武王陛下と姫様のでありますか?」
「うむ……。そして御二方の親書には、ある共通の御言葉が記されておった…… 『ソーマ殿が頭を下げるほどのことあらば、それは国事よりも優先し、最大限の便宜を図るべし』とな……」
「なんと…………」
その言葉を聞いて、オレは思わず涙目になった。
ライラ……アリオス爺…………ありがとう!
「しかもその想いはライラ姫殿下が強く感じ取れる……。グラスよ? 信じられるか? あの我儘を地で行くライラ姫殿下が何よりも、今ワシらの目の前にいる一人の人間の少年に心酔しておられる……。これは夢か幻かの?」
「閣下…………」
「そして我が娘、シルフィリアからの手紙にも同じようなことが書かれておった……。あの無気力でぶっきら棒な娘が、まるで恋する乙女のような文面でソーマ殿のことを綴っておるではないか……」
「姫様方がそこまで仰られておられるのであれば、最早私の出る幕は無さそうでありますな。差し出がましい発言、どうかお許しを……」
シャルク侯爵の言葉でグラス氏もようやく納得してくれたようだ。
「だけどソーマ? お前の底知れない力は十分理解してるつもりだけど、本当に大丈夫なんだろうな? 一応シグマ陛下の特使という立場で、改めて確認はしておきたい」
いつになく真剣な面持ちでダイルがそう尋ねてくる。
まぁヘタすりゃ国の一大事だから心配する気持ちは十分に理解できる。
だがここは大丈夫という他ない。
ここまできたら神様の加護の力とオレ自身を信じるしかない。
「ああ、大丈夫だ!」
オレの返答を聞いたダイルだったが、徐々にその表情を軟化させていつもの軽い笑顔に戻った。
「…………よし……解った。全部任せるなんて無責任なことは言わないが……お前の好きにやりな! クレイトの皇帝とやらに一発お見舞いしてやれ! そして絶対この戦争を止めろ! いいな!」
「おう! 任せろダイル!」
ダイルがそう言いながら突き出した右拳に、オレも同じように右拳を突き出して合わせる。
「ナンだそれ?」
「お互いの意気が合った時にする挨拶みたいなものだよ」
確かフィストバンプって言い方だったかな?
一度やってみたかったんだよねコレ。
「ほほう、ソーマ殿の国では斯様な風習があるのか? 実に心躍る行為であるな」
シャルク侯爵がそんなことをいいだしてるが、のちのちアルグランスで流行だしたりしてな?
とまぁ、最後にダイルの了解も得られたので、早速出撃準備を整えるか!




