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神愛転生  作者: クレーン
第三章
89/210

083話:宣戦布告

 侯爵領に神獣やそれを従える少年、つまりオレが現れたと思って警戒していた様子のペルマン伯爵だが、オレの隠しステータス情報や犬モードのマークたちの姿を見て、ものの見事に勘違いしているようだ。

 面白いからしばらく泳がせよう。



「やれやれ……斯様な下らぬ噂を流して、我が帝国に揺さぶりをかけるとは、アルグランスの名も地に落ちたもの……。昨日もこの付近で神獣らしき巨大な獣の姿を見たという報告が入ったが、我が兵の見間違いであったことは明白のようですな」


 うわははは♪ 何も聞いてないのに、まぁ饒舌に喋ること喋ること。


「これで心置きなくこれを差し出せるというもの……。おい、例の物を」

「ハハッ!」


 ペルマン伯爵の指示で、後ろの騎士一人が手紙らしき物を差し出すと、それをグラス氏が受け取って安全を確認してからシャルク侯爵に手渡した。


「我が皇帝陛下の親書である。しかと内容を確認されよ……」


 相変わらずのニヤけ面でそういうと、シャルク侯爵はフンと鼻息を荒げながらその顔を一瞥し、受け取った手紙の内容を確認する。

 だがその訝しい表情は手紙を読み進めるにつれ、徐々に険しい表情へと変わってゆく。

 ペルマン伯爵はその表情の変化をまるで愉しむかのような、更にそのニヤけ面を強調させる。




「き、貴様……これは本気であるか⁈」

「ええ……その親書に記されている通りですよ! 我々クレイト帝国は東大陸戦時協定法に則り明後日、すなわちアルラス歴一五八五年、雷の月の一二日の日付変更と同時に! アルグランス武王国に対して宣戦を布告する!!」


 ペルマン伯爵はニヤけ面から一変すると、狂気に満ちた表情でオレたちを見下すように視線を送りながら、そう高らかに宣言した。




「ペルマン伯爵! その言葉に二言は無かろうな⁈ 本気で我がアルグランス武王国に対し、一〇〇〇年の時を超え、再びその刃を向けると言うのだな⁈」

「くどい! 我が皇帝陛下の言葉に二言無し! この場にいる全員も首を洗ってその日を待っておるがよい!! ……だがその前に――」


 シャルク侯爵の険しい表情での最後の確認に対し、ペルマン伯爵は一切の躊躇をすることもなく、その視線から目を反らさずにそう言葉を返すと、次はオレに向けて言葉を向けた。


「――そのな小僧よ。貴様は人間であろう。どういった経緯で斯様な場におるのかは知らぬが、見たところここの客人といったところか? どうだ? 同じ人間の(よしみ)だ。我に忠誠を誓うというなら、下男として執り成してやっても良いぞ?」


 ペルマン伯爵の無礼極まる発言に、この部屋にいる全員が更に険しい表情と殺気を放つ。


「へぇ~ それは面白い提案だね? じゃあオレの家族も一緒でいいかな?」

「貴様の家族だと?」

「ああ、そこの獣人とこの犬たちだ」


 オレはソルムとマークたちを指差した。

 すると、ペルマン伯爵は一瞬呆気にとられたかのような表情をしたと思ったら、次の瞬間顔を上に向けて大きな声で笑う。


「ハッ~ハッハッハッ! 汚らしい獣人と犬どもが家族だと⁈ 小僧! 笑わせるな!」

「なら交渉決裂だね」


 まぁハナから交渉するつもりはないけどね。

 あと今後、こいつは呼び捨てでいいや。


「交渉だと⁈ ほざくな小僧! 同じ人間と思えばこそ情けをかけてやれば頭に乗りおって! ……決めたぞ……開戦の暁には私自らが貴様とそこの獣人や犬もろとも屠ってやるわ。ここで首を洗って待っているんだな!」


 ………………んだと?

 オレだけならまだしも、ソルムやマークたちを殺す?

 そんなことオレが許すと思ってるのか!


 と、そんな黒い感情と思考が出てきた次の瞬間――


「貴様! どこまでも無礼な! 旦那様に謝れ!」


 ――そう叫びながらペルマンに襲いかかったのはソルムだった!


 なんでキミなんだよ⁈

 真っ先に手を上げるとしたら、まずシャルク侯爵からだとばかり思ってたから完全に不意を突かれたわ。




 ソルムはそのままペルマンの顔面めがけて鋭い拳を放つが、それはどういうことか? 見えない壁のようなものに阻まれてしまった。


「な……なにコレ……⁈」


 ソルムは必死に拳を押し込もうとするが、その拳はそれ以上前へ進めることができない。

 ペルマンの周囲に見えない壁が展開されて守られているようだ。


「ぬっ! 守りの結界器か⁈ 貴様ら! そんなものまで作りだしていたとは⁈」


 シャルク侯爵はペルマンの不思議なからくりに気付いたようだ。


「いかにも……物理防御の障壁を発するマジックアイテムですよ。貴様らのような野蛮なドワーフの巣窟に来るのに、なんの準備もしないはずがないでしょう!」


 ペルマンは自身満々にそう答えながら、腰に携えている剣に手をかけた。

 駄目だ!


「ソルム! 逃げろ!!」

「え?」


 オレの叫びも虚しく、次の瞬間、とあるものが宙に舞った……。

 それはソルムの狼の耳だった…………。


「ぐっ…………!!」


 右の耳を斬りおとされたソルムは傷口を押さえながら、後ろに下がりつつペルマンを凄まじい形相で睨みつける。


「フン…… 小娘とはいえ、流石は獣人といったところか? 首をはねてやろうと思ったのだが、寸ででかわされたか……」


 コイツ! 完璧にソルムを殺す気でいやがったな!


「やれやれ……言っておきますが、これは正当防衛ですよ。見たところ、この獣人はアルグランス所属の者でありましょう? ならばデオンフォード候の監督不行き届きということになりますな。使者に手を出してはならないことくらい、ちゃんと躾けておいて欲しいものですな。これは立派な協定違反ですよ?」

「貴様…………」


 ペルマンの不遜な言葉に、ソルム以上に凄まじい形相で睨みつけるシャルク侯爵の怒りは爆発寸前だ。


 ああ……そうかい…………オレの友人を侮辱するどころか、オレの庇護下にあるソルムまで傷つけるのか…………。


 もう許さねぇ!!

 眷属通信!


『おいライラ! 返事しろ! 直ぐしろ!』

『おおうっ⁈ ソーマ殿かや? 大慌てでどうしたのじゃ⁈』

『ソルムをオレにくれ!』

『ハイ⁈ 藪から棒に一体なんの話じゃ?』

『ソルムは王家付きのメイドなんだよな? だったらその所有権云々は王族であるライラでも自由にできるんだよな⁈』

『それはそうなのじゃが……』

『なら今すぐソルムを解雇しろ! オレが責任を持ってソルムを引き取る!』

『だから一体なんの話なのじゃ!』

『説明してる暇がない! いいからさっさと解雇しろ!』

『わ、わかったのじゃ! ライラ・アーク・アルグランスの名において、一般メイド「ソルム」を解雇するのじゃ! これでいいかや?』

『ああ、ありがとう!』

『なにがあったのかは後で聞くが、くれぐれもソルムのことは頼んだぞ!』

『ああ、任せろ! 帰ったらご褒美にコパルを沢山やるからな!』

『なぬっ! それは本当かや――』


 通信終了!! あとは…………。


「ぐぐっ…………」


 片膝をつき、苦しそうな表情で傷口を押さえるソルムのもとへ駆け寄る。


「大丈夫かい? ソルム」

「旦那様……申し訳ございません……。旦那様を侮辱するあやつをどうしても許せなくて……」

「ああ……オレのために怒ってくれてありがとうな……☆☆☆☆……再生(リジェネレイト)


 オレはソルムの頭を優しく撫でながら、斬り落とされた耳を再生させた。

 その光景を見たダイル以外の人々は皆仰天の表情だ。


「なっ⁈ 再生魔法だと⁈ 小僧、貴様は一体……」


 中でも一番驚いてるペルマンを無視しつつ、ソルムに話しかける。


「どうだいソルム? 耳は大丈夫? ちゃんと聞こえる?」

「は……はい……はい! 聞こえます……左も……右からもちゃんと旦那様の声が聞こえます!」

「うん、良かった……。それと大事な話がある。ソルム、キミはさっき王家付きメイドを解雇された」

「…………え?」


 うん……やっぱりなんの話かさっぱりだよね……。


「詳しい話はあとでするけど、今ソルムは無所属の状態だ。それでどうかな? オレに雇われてみない? 勿論頑張ってお給金は出すからさ?」


 ソルムはオレの言葉をただ黙って、真剣な眼差しでじっと目を見ながら聞いてくれる。

 そして少し目を閉じて一考したと思うと、ゆっくりと目を開き、笑顔でこう言ってくれた。


「もしそのお話が本当でしたら…………私は旦那様の下にお仕えしたいです!」

「うん、いい返事だ! じゃあソルム、オレの最初のメイドさん。これからよろしくね」

「はい……はい…………ハイ!!」


 ソルムは満面の笑顔で何度も返事をしながら尻尾をブンブンと振っていた。


 ……よし! これでお膳立ては全て整った!

 戦争開始だ!!


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