081話:同室
「ハハハハハ! いやはや、してやられてしもうたわ! ワシの完敗だ!」
デオンフォード侯爵との戦いのあとだが、まずは気絶した侯爵の傷などをお抱えの魔術師が光魔法で回復。
侯爵が全快で目を覚ましたかと思うと、オレとの戦いが余程楽しかったのか、大層オレを気に入ってもらえたようだ。
この人といい、ドランの爺さんといい、殴り合いで友情するのが好きなタイプの人みたいだな……この脳筋族め!
で、バトルという名の謁見も程々に、そのまま会食に移って現在に至る感じだ。
「すまなんだのうソーマ殿よ。シルフィリアの命の恩人ゆえ、手荒なことは避けたかったのだが、貴殿の話を聞けば聞くほど辛抱できなくなってな……。どうか許されよ」
「いえ、侯爵閣下の話は少し伺っていましたし、全て想定の範囲内ですよ。お気になさらず」
「ハハハ! 想定の範囲でここまで完封されたらぐうの音も出んわ! あと、ワシに斯様な堅苦しい振舞いは無用だ。聞けば先武王陛下とも友の間柄であるとか? できればワシともそう接してくれ。我が娘の恩人殿よ……」
あー…… 多分この人も、一応侯爵という身分ではあるけど、基本はさばけた感じの人みたいだな。
なら遠慮なく……。
「そうかい? まぁオレも堅苦しいのは好きじゃないから、これからは遠慮なくそうさせてもらうよ。シャルクさん」
「うむ! それでよい! これ! もっと酒と料理を持ってまいれ! 今宵は宴だ宴!」
シャルク侯爵は満足そうに頷くと、パンパンと手を叩いて使用人たちに追加の料理と酒をもってこさせた。
まぁ正直料理に関しては味がアレだったので、調味料を取り出して少々アレンジさせてもらった。
当然シャルク侯爵やグラス氏もそれに飛びつき、特に気に入ったマヨネーズのレシピを屋敷の料理長に伝授した。
ここにも光魔法の「浄化」が使える人がいて良かったね。
これからビネルガ(酢)の流通が激しくなりそうだ。
そんなこんなで宴も酣。
流石にやって来たのが夕方だったので、今はすっかり陽も暮れて外は真っ暗だ。
宴を無事に終え、ダイルはシャルク侯爵と少し話があるそうなので、グラス氏と三人で別室へ移り、オレとソルムは屋敷のメイドに案内されて客室へと案内された。
「ではソーマ様、ソルム様、どうぞこちらでお寛ぎ下さいませ」
「ああ、案内ありがとう」
案内された部屋に入ったオレたちだが……アレ? なんか違和感感じるぞ?
「うわ~ 綺麗なお部屋ですね、旦那様」
そうだよ! ソルムだよ! なんでオレとソルムが同室なんだ⁈
「では私どもメイドは側室で控えておりますので、何か御用立てがございましたら、なんなりとお申し付け下さいませ」
「待った待った! ちょっと待って!」
そう言いながら側室へ行こうとするメイドさんを全力で止める。
「あの……なにか?」
「あ、いや……オレとソルムは同室なんですか?」
「は? ソルム様はソーマ様のお側役でございますよね?」
「うん……確かにそうだけど……」
「で、ございますれば、御同室なのは当然のことかと?」
しまったー! ここの常識では主人とその側近やお側役って、性別に関係なく寝食も共にするのか!
そういやゴラス島でライラとシルフィーも一緒だったし、アリオス爺たちがやって来た時も、二人にメイリン女史を加えて三人で一緒に寝ていたな……。
と、そんなことを考えていたら、ソルムが今にも泣きだしそうな表情でオレの顔を見てる。
「だ、旦那様ぁ…… やはり私がお邪魔なのでは…………」
「だぁー! 違う違う! オレが少し勘違いをしてただけだから! 一緒にいてもいいから泣かないの!」
「ほ……本当ですかぁ~……?」
「本当だから! オレの勘違いで言ったことだから大丈夫!」
オレはそう弁明しながら、ソルムの頭を撫でてあげると――
「えへへへ~♪ 良かったです~♪」
――直ぐに機嫌を直してくれた……。
やれやれ…… しかしスキル「調教(獣)」が効いてるとはいえ、頭を撫でてやると、本当に嬉しそうな表情をするなぁ……。
ソルムは体も大きい狼耳の獣人娘だが、今はなんだが小動物みたいな感じがするよ……。
………………顎下も撫でてやろう……。
「アハハ~♪ 旦那様~くすぐったいですよ~♪」
なんか猫みたいな感じでゴロゴロとした仕草してはる……。
アハハ……可愛い娘だ♪
なんて感じのスキンシップをしていると――
「あの~……お話はまとまりましたでしょうか?」
――この様子を見ていたメイドさんが微笑ましい表情でオレにそう尋ねる。
スッカリこの人の存在忘れていたよ! 超恥ずかしい!
「はっ、はい! 大丈夫です! 大変お騒がせしました!」
「うふふふ……」
「あの~……なにか?」
「あ、いえ、失礼しました。ソーマ様やソルム様の内情的なお話も伺っておりましたので、実は一応ソルム様用の別室も準備してはいたのですが、今のお二方を見ていましたら、その必要もなさそうだと思いましたので♪」
部屋用意してたんかい!
おにょれ……一杯食わされたわ!
「ソルム様……いえ、ソルムさん。お優しいご主人様にお仕えできて羨ましいですわ♪ 頑張って下さいね♪」
「ハ、ハイ! ありがとうございます! 頑張ります!」
頑張るって何をだよ⁈
言っとくけど夜は頑張らないからな!
スーパー精神力の力を見せてやるぞ!
「なあ……娘と息子よ? もしかして我らは空気ではなかろうか?」
「そんなことありませんよ! 父上!」
「父上ファイト~!」
すまん……マークたちのこともスッカリ忘れてたわ。
ずっと側にいてくれてたのにね……。




