080話:VSデオンフォード侯爵
今、オレたちはグラス氏に引率されて侯爵邸内の廊下を歩いている。
流石は侯爵の住む屋敷だけあって、オレの貰い物の屋敷とは違って凄い広さだ。
そしてしばらくすると、屋敷の奥手にある大きな観音開きの扉の前に到着した。
「侯爵閣下、陛下の特使並びに、お客様をお連れしました」
「入られよ! ただし、まずはお客人のみだ! 他の者は下がってしばし待て!」
扉の向こうから勇ましい声が聞こえるが…………オレを名指しですか?
で、相手はあのシルフィーとエルナイナの父親で…………そこから導き出される行動は………… ハイ、地図レーダーオープン!
…………確認OK! では突撃と洒落込みますか!
「主様、向こうから並々ならぬ気迫を感じます。御注意を」
「ああ、少し遊んでくるよ」
マークの忠告にそう返事を返す。
そして右側の扉のノブを回し、扉を少し部屋側に押した瞬間!
「ハイヤッ!!」
扉の向こう側からの気合と共に、扉をぶち抜いて槍の穂が飛び出してきた。
うん、まぁ予想通りだったので簡単にかわしましたけどね。
「ハイハイハイハイ!!」
お次は四連乱れ突き。
だがそれも全てかわす。
そして攻撃が一旦止んだと当時に、オレは両扉を蹴破って部屋の中に飛び込んだ。
「おりゃ!………………なんだコレ?」
どういうことか、突入した広い部屋のあちこちには色んな武器が散らばっていた。
そして部屋の中心には、先ほどオレに攻撃を仕掛けてきた人物。
今も槍を構えるシャルク・デオンフォード侯爵が意気揚々と立ちはだかる。
「ほほう、あの攻撃をかわすどころか、攻撃そのものを予想しておったな? なぜ気付いた?」
「三つあるけど説明するかい?」
「是非聞きたいな……」
「一つ目はオレのスキル。詳細は言えないけど、あんたの位置は扉で隔ててもオレには丸見えだ。二つ目は扉から聞こえた声。あんたが構えるべき席は部屋の奥側が普通だ。だけど扉から聞こえた声はあまりにも近すぎたから、直前で待ち構えていると判断した。そして三つ目は、あんたがエルナイナとシルフィリアの父親って事だ! オレの力を試そうと、こういう余興を仕掛けてきそうな予感があった!」
オレがそう説明すると、しばしの間、部屋に静寂が流れる。
「フフフ……一つ目は実に興味深いが、武王陛下から貴殿への詮索を固く禁じられておるゆえ聞かぬとしよう。二つ目はなかなかの観察眼をお持ちのようだ。次からは少し声量を控えねばな……。だが解らんのは三つ目だ? なぜ愛娘らの父親であることが理由なのだ?」
…………ダメだこの人……自覚全然ない……。
やっぱりあの二人の父親だ。
シルフィーの天然さとエルナイナの喧嘩っ早さを両方兼ね備えてやがる……。
「その理由については長い人生をかけてじっくりと考えてくれ。で、どうする? まだ続けるのかい?」
「ふむ……三つ目の理由はさっぱり解らんが、貴殿との戦いはもう少し楽しみたい。お相手願えるか?」
「ああ、いいぜ」
「部屋中に散らばる武器を好きに使うが良い。流石に無手では辛かろう?」
「心配御無用。武器は常に手元にある!」
オレは無限収納から鉄製の棍棒を取り出して構える。
折角いろんな武器を用意してくれて悪いけど、慣れてるか信用おける武器しか使わないよ。
「なっ⁈ 何もないところから棒が⁈ それが陛下の仰られていた不思議な術か⁈」
「他にも色々あるかもよ?」
「ええい! まやかしだけではワシは倒せんぞ!」
オレの挑発を含めた言葉に少しカチンときたのか? 侯爵が猛然と迫って槍の連撃を繰り出す。
彼のステータスやスキルを見たところ、侯爵は槍術の中でも長槍に長けた戦闘スタイルを好むようだ。
だが他にも剣術、双剣術、大剣術、戦斧術、突撃槍術、盾術、弓術とまぁ、色んな武術を選り取り見取りに習得している。
ダイルからは事前に「アルグランスでも有数の戦闘狂」と聞いていたけど、こりゃ相当だな……。
で、オレも同じ槍術で挑もうと思ったんだけど、侯爵の槍術の動きと、その独特の叫び声で少林寺を思い出してしまったので、今回は武神様の加護の力で中国拳法を使用して相手しようと思う。
棍棒術もこれに込々だ。
「ハイハイハイヤ!」
上段、中段、下段の三連突きを棍棒の先で流すと同時に、棒を半回転させて逆の棒先を肩に落とす。
無論加減はしてあるが、多少の痣は残る打撃は与える。
こういう相手は下手な手加減をすると傷つくタイプが多いからなぁ……。
「ぐっ! なかなかやるな!」
「棍棒術を相手にするのは初めてかい?」
「うむ……見たこともない武術だ……長棒がまるで生きているかのような軌道を見せよる……」
侯爵がそう言いながら体勢を整えると、今度は上段からの振り下ろし、続けて振り上げといった感じで、突きから払いの攻撃に変えてきた。
「ハイハイ!」
「さっきよりはかなりマシになってるね」
「ほざくな! 次で決めるぞ! ハイヤ~!」
その雄叫びと同時に、突きと払いの複合連撃を先ほどの倍の速さで次々と繰り出してくる!
だがオレには全ての軌道が丸見えだ。
それに槍術自体も槍神様からいただいた槍術の極意に比べたら、まだまだ足元にも及ばない。
侯爵の槍術は穂先を当てることに意識が向き過ぎだ。
槍術ってのは穂、石突、太刀打ち部分も全て使いこなさないと真価を発揮しない。
それを教えるためにも、今回は棍棒でレクチャーしてるわけだが、どうやら向こうもそれに気付き始めているみたいだな……だけど!
穂先を棒先で外側に払うと同時に、逆の棒先で脚を払って姿勢を崩す。
そして前進しながら身体を半回転させつつ、そのまま後ろ回し蹴りを食らわせて後方へ吹っ飛ばした。
「穂先ばかりに気を取られているから、中に入り込まれてさっきみたいな目にあう。覚えておきな」
「ぐぬぬ……まだまだ!」
侯爵は槍を捨てると、次は地面にあった双剣を手に取って襲いかかってくる。
やれやれ……勇猛なのはいいけど、少々無鉄砲なところはほんとエルナイナにそっくりだ……。
「ハイハイハイハイハイハイ!!」
へぇ~……しかし流石はエルナイナの父親だ。
双剣術に関してはエルナイナより手数も多いし速度も速い。
まぁそれでも棍棒のままで対処可能だけど、どれ……一つ驚かしてやろうかい?
「流石の貴殿でも、その長棒では双剣の手数には対処できまい!」
「いつからこれが只の棒だと錯覚していた?」
「なん……だと…………?!」
グッド! ナイスは返答リアクションをありがとう!
御褒美に見せてやんよ!
オレは気合と共に、棍棒の両端を捻ってひっこ抜き、三節棍へと変形させた!
「ハァッ!!」
「鎖で繋がれた三つの棒…………? なんだその武器は⁈」
縦横無尽に迫りくる侯爵の連撃に両サイドの棍を双剣のように扱い、全て払いのける。
そして侯爵が少し引いたタイミングを見逃さない!
オレは真ん中の棍を侯爵に当てるように上段から振り下ろす!
「なんのっ!」
だがそれは双剣を交差させて受け止められた……が! それは想定済み! 三節棍の怖さはこの先にある!
手にしてる棍、そして受け止められた真ん中の棍。
そしてその先の棍は? それは鎖で繋がれているので、振り下ろした遠心力を十分に蓄えて侯爵の後頭部にヒットする!
「グハッ⁈」
「まだまだ!」
お次も同じように真ん中の棍を腕に当てるように横から振り回し、侯爵は想定通り剣でそれを受け止めるが、その先の棍がまたもや無慈悲に背中へヒットする。
「グホォッ⁈」
必死に痛みに耐える侯爵だが、既に勝負ありだ。
三節棍を収納すると、蓄積したダメージで足をフラつかせる侯爵に急速接近!
「ハァッ!!」
「グホォッッ⁈⁈」
最後は発勁の拳を腹に叩き付け、侯爵を壁にふっ飛ばして勝負を決めた。
「勝負あり! 勝者、ソーマ!」
後ろで戦いを見ていたダイルがオレに軍配を上げてくれる。
だが、その両隣にいるグラス氏とソルムの二人は唖然とした表情だ。
そういやソルムにはオレの戦う姿を見せるのは初めてだったな……。
「あ、あの侯爵閣下を圧倒……?」
「だ、旦那様……凄いです……」
「お二人ともわかったっスか? これがソーマという男の実力っスよ。まぁこれでも多分本気じゃないと思いますがね……」
そしてなぜかダイルはいつもの口調に戻って呆れたような表情だ……解せぬ……。
言っておくがオレは戦闘狂じゃないからな!




