079話:デオンフォード侯爵領、到着
王都から西海岸線を抜けて東方向の内陸に入り、全行程で五一〇〇キロ程を走った位置にオレたちはいる。
「うん、この調子だと、今日中にはデオンフォード侯爵領の都市に到着できそうだな」
ダイルが地図を取り出して現在位置を確認する。
今は一五時のおやつ休憩の時間だ。
無論そんな習慣はこの世界にないが、オレがそう決めた。
だっておやつ食べたいじゃん?
「デオンフォード侯爵領?」
「エルナイナ様とシルフィリア様の御父上であるシャルク・デオンフォード侯爵様が治める領地にございます」
「ああ、なるほど。あの姉妹の実家ってわけか?」
「はい。それにしてもこのプリンというお菓子、凄く美味しいです~♪」
オレの疑問に、プリンを食べて笑顔になるソルムが教えてくれる。
……にしてもシルフィーとエルナイナの親父さんが治める領地か……。
ダイルの説明では、デオンフォード侯爵家はアルグランスの中でも有数の名門貴族らしく、代々勇猛な騎士の家系だ。
そしてアルグランスの北側を領地として任せられており、過去幾多のクレイトの侵入を妨げていることから「北の番人」とも呼ばれているそうだ。
勇猛な騎士の家系ねぇ……エルナイナの件もあるし、その親父さんってのも脳筋じゃないだろうな?
一末の不安が過るよ……。
オレの地図とアルグランス製地図を照らし合わせながら都市の位置を確認する。
マークたちの脚なら二時間ほどで到着できそうなので、今夜は屋根のある宿に泊まりたいところだ。
「よし、じゃあ都市の北側まで行ったところで南下。そのままノンストップで行くぞ!」
「「「御意!」」」
オレたちは颯爽と北側の大地を駆け抜けて都市へ向かった。
「開門! 開門されよ! 我が名はダイル・マクモーガン士爵である! 武王陛下の特使としてこの都市に参った! 開門されよ!」
ダイルがガドラに跨りながら、大きな城壁の門の前で叫ぶ。
今は一七時を少し回り、既に門は閉ざされていた。
検問とかも当然あるだろうし、もう少し早く到着できれば良かったな……。
で、さっきからダイルが同じようなことを叫んで門の開錠を要請しているのだが、城壁の上からオレたちを見ている兵士たちがマークたちの姿に驚いているせいで、現在混乱中って感じだ。
「しばし待たれよ! 現在確認中である! しばし待たれよ!」
城壁の上の兵士からそう言われたので、オレたちはマークから降りて待機することにした。
「なぁダイル、やっぱり適当なところでマークたちから降りて来たほうが良かったんじゃない? マークたちの姿にかなり警戒されてる感じだぞ?」
「いや、伝令は既に行ってるから問題ないはずなんだけどな~?」
「あの~……もしかして私たちの動きの方が伝令よりも早かったとか?」
「あ……それ、あるかも……」
なんて間抜けな会話をしていると、観音開きの門の右側だけが大きな音を上げながら開いたかと思うと、人が二人通れるくらいの隙間を作ったところで止まった。
そしてその隙間から兵士や騎士が五〇名ほどゾロゾロと出てきて横一列に整列すると、次は列の中心に一人の立派な甲冑を纏ったハイドワーフの騎士が出てきた。
「我が名はグラス・ベイハート子爵。デオンフォード侯爵閣下の騎士団長を任されておる。よくぞ参った特使殿よ!」
「お初にお目にかかります。私はダイル・マクモーガン士爵と申します。高名なベイハート卿自らのお出迎え。誠に恐縮の至り……」
侯爵の騎士団長を名乗るグラス氏の挨拶に、ダイルが深々と頭を下げる。
で、よく見たらオレの横にいたソルムも、いつの間にか片膝を着いて深々と頭を下げていた。
あ、やべ! オレもそうした方がいいのかな? と思って咄嗟に頭を下げながら膝を曲げようとしたら――
「よい。そなたであろう? 我が国の恩人というのは? 我に斯様な挨拶は無用だ。面を上げられよ」
――そう言いながら、オレの動きを静止した。
「それにしてもすまぬな……。実は貴殿らに関しての密書が到着したのが昨夜の事でな。まさか今日の内に到着するとは思いもよらなんだで、対応が遅れてしまった。どうか許されよ」
やはりソルムの予想が当たってたようだ。
本来は伝書鳩「クルッポ」と使って速度を活かした伝令をするのだが、今回のは内容が内容なだけに、万が一にも他者や他国にその内容が漏えいするとまずいので、全ての密書は早馬による人の手での輸送となったのだ。
しかしクルッポと早馬ではその速度差は歴然。
しかもそのどちらよりもマークたちの方が断然に速いので、このようなラグが生じてしまったのだ。
そのことから考えても、いくら早馬とはいえ、恐らく相当なペースで走ってたんだと思う。
「しかしまさか本当に神獣様に跨ってやってくるとは…… 侯爵閣下から話を伺った時は、流石に我も仰天したぞ! ハッハッハッ!」
グラス氏はそう言いながら、その眼前に立ち尽くすマークたちの姿を見て臆するどころか、大きな声を上げて笑っている。
なかなか胆力のある人みたいだな。
そんなこんなで互いに挨拶も済ませ、オレたち一行はグラス氏引率のもと、デオンフォード侯爵の待つ侯爵邸へと馬車で案内された。
無論、都市の人々を驚かせないためにも、マークたちは犬モードに変化してもらって同じく馬車に乗り込んでいる。
あと待遇についてだが、オレやダイルは賓客扱い。
簡単に言えば超VIP待遇だ。
そしてソルムは王家付きとはいえ一般メイドなので下女扱いとされ、侯爵邸などでオレと侯爵が会する席では、基本的に同席が許されないのが普通なのだが、今はオレの護衛という話をしたらお側役扱いにされて、常にオレの横に付くことが許された。
つまりライラにおけるシルフィーやメイリン女史と同等の扱いにされたということだ。
「わわわ私がお側役扱いですか⁈」
「ん? 別にいいじゃないか?」
「とんでもございません! お側役扱いということは、どんな席でも私が常に旦那様のお側に付くということで、私も侯爵閣下と謁見することになるんですよ! 無論会食なども同席なんです! 恐れ多いですよ~! ダイル様~なんとかして下さいまし~」
「ハハハ! まぁ一度くらいは上流階級の嗜みも経験しとけ」
「そうそう。下女扱いで冷や飯食べるよりはいいじゃないか?」
「そんな~旦那様まで~~! うう……尻尾の毛が抜けそうです……」
恐縮しまくりで耳をペタンを閉じるソルムの頭を撫でていると、馬車は大きな屋敷の前に到着した。
新年あけましておめでとうございます。
新年に入ってもまだまだ至らぬ課題は山積みですが、
少しでも進歩できるよう頑張りたいと思いますので、
本年も稚作「神愛転生」をどうぞよろしくお願いします。




