074話:アルグランス武王国一周の旅へ
ライラとシルフィーの様子がおかしい。
というか、こういう症状をオレは知っている。
完全な寝不足ってやつだ。
となれば、思い当たる原因は一つしかない。
というか、アレしかない!
「ててって ててって ててって ててて♪」
「「ててって ててって ててって ててて♪…………ハッ⁈」」
オレが労働ランナーのBGMを口ずさむと、眠気眼の二人も釣られてそのBGMを無意識に口ずさむ。
そしてハッとした表情で我に返るがもう遅い。
「おまえら……徹夜しただろう?」
オレの言葉を聞くや否や、二人揃って左右に目を反らす。
こういう時もほんと息ぴったりだねキミら。
「一日一時間の制限かけるか……」
「待った待った待ったなのじゃ! 正直に謝るからそれだけは堪忍してたもれ~!」
「すいませんソーマ殿! もう止めよう、もう止めようと思ってはいたのですが、宝が……レンガが……梯子が……」
オレがカマをかけると二人共あっさりと白状した。
どうやら予想通り、徹夜で労働ランナーを遊んでいたらしい。
いや、気持ちは解るけどハマり過ぎだ。
「まったく……ある程度予想はしてたけど、初日でコレかよ……」
「面目ないのじゃ……」
「というか、アレ面白過ぎますよ……」
「まぁそうなんだろうけど、のめり込み過ぎると体にもよくないからほどほどにな」
「了解なのじゃ……」
「以後注意します……」
「しばらくの間は毎日遊んだ時間を確認するから、あまり度が過ぎると本当に制限かけるからな。注意するように!」
「「はぁ~い……」」
オレの説教で二人ともしおしおだ。
適度な量なら問題ないが、度が過ぎれば遊びでも毒だ。
その辺りは本当に注意してもらいたいよ……。
…………一つ気になることがあったから聞いてみよう。
「ところでどこまで進んだ?」
「二三ステージまでなのじゃ!」
「なかなか歯応えのあるステージでした♪」
一日でもう半分近くまで進めたのか……。
このペースだと明日くらいにはクリアしそうだな。
「よしお前ら、いいことを教えてやる。実は労働ランナーにはより高度な続編が存在する」
「なん……じゃと…………?!」
「ソーマ殿! それは本当なのですか⁈」
ワハハハ……すげぇ食い付き。
だが「チャンピオンシップ労働ランナー」はかなりの骨太ゲームだぞ。
「ああ本当だ。それが遊びたかったら、徹夜は二度とするな。言いつけを守れば、帰った時に遊ばせてやる。いいな?」
「了解したのじゃ! 二度とゲームで徹夜はせぬ!」
「私も名にかけて誓います!」
「じゃあ約束だぞ」
そう言いながら踵を返して出発しようとすると、おもむろに後ろからライラに手を引っ張られた。なんだよ?
「ソ……ソーマ殿……その…… い、行ってらっしゃい……なのじゃ……」
…………ああもう! こいつのこういう、たまに見せる可愛いところって本当に反則だよな~。
ゴラス島での最初の別れの時を思い出しちゃったよ……。
まぁでも、こう言われたらちゃんと返事しないとね。
「ああ……行ってきます」
「早く帰るのじゃぞ……」
「ああ、わかってるよ」
オレはそう返事をしながら、ライラの頭を優しく撫でてやる。
ハハハ、なんだか出勤する夫と、それを見送る新妻みたいな会話だな…………って、おっとイカンイカン! そういう気は毛頭ないっての!
昨日のフラメン姉さんとの話が尾を引いてるのか?
少し気持ちを落ち着けよう。
『じゃあ行ってくる。念話で毎晩必ず一度は報告を入れるから安心しろ』
『わかったのじゃ!』
『毎晩連絡が来るなら安心ですね』
『あと、くれぐれもゲームのやり過ぎには気を付けろよ?』
『わかっておるのじゃ!』
『それと、なにか困ったことがあれば、その時はフラメン姉さんを頼れ。きっと力になってくれる』
『その通りなのだよ♪ 遠慮なく頼るのだよ♪』
『うおっと! なんで姉さんが念話に⁈』
『神の力を甘く見ないで欲しいのだよ♪』
そういやそうか……これくらいのことは造作もないか……。
いつの間にか、背後からライラとシルフィーを抱き寄せたフラメン姉さんがにっこりと微笑んでいる
「ライラちゃんたちのことは任せるのだよ。だから安心して行ってきなさい。ソーマ」
「あ……――」
……初めて呼び捨てで名前を呼んでくれた気がするな……。
「――はい、姉さん。ライラたちをお願いします」
「例の修行も怠りないようになのだよ」
「ハイ! では行ってきます!」
オレは元気にそう返事すると、颯爽とマークに跨って号令をかける。
「みんな! 出発するぞ!」
「おう! いくぞガドラ!」
「うん! ダイルお兄ちゃん♪」
「キャストちゃん、よろしくね」
「振り落とされないように気をつけて下さいね、ソルム」
ダイルとソルムもスコル姉弟に跨り、出発準備が整った。
「みんなも留守のあいだ頼んだよ!」
「「「「「お任せ下さい旦那様!! どうぞ行ってらっしゃいませ!!」」」」」
うん、いい返事だ。
みんな元気で笑顔がいい!
「じゃあ行ってくる! 出発!!」
「「「御意!!」」」
オレの号令と共に、マークたちが颯爽と市街地を駆け抜けて城壁の門をくぐると、王都エトロスタンを後にした。
「い~やっほ~~~う!!」
さあ! アルグランス武王国一周という名の冒険の始まりだ!




