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神愛転生  作者: クレーン
第三章
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066話:地図の価値

 お屋敷生活三日目の早朝に、オレは一つ重要なことを思い出した。

 そう、地図作りだ。


 このAR表示の地図機能なんだけど、オレを中心として行動した半径一キロしか表示されないんだよね。

 しかし未表示範囲の外周を移動して囲んでしまえば、囲まれた部分が表示されるようになり、検索機能などの適用が可能となる。


>アルグランス武王国・王都エトロスタンの外周を走破しました

>地図「王都エトロスタン」を全表示


 マークたちの朝駆けに付き合って、王都の外周をランニングしてたらこれが表示された。

 最近半径五〇〇メートル以内しか表示してなかったから、すっかり忘れていたわ……。


 そういやここには世界地図とかあるのかな?

 確かダイルが地理に精通してるって話だから尋ねてみるか。


 そんな感じでハルガスにダイルへアポを取って欲しいとお願いしたら、昼食時にダイルが屋敷へやってきた。


「来たぞソーマ!」

「随分と早くない?」

「お前絡みの話は最優先せよとの御達しなんだ。堂々と訓練から抜け出せる口実ができたから助かったぜ!」


 おいおい、だからこんな早く来たのか?

 大丈夫か? ここの騎士団は?


「しかしいい匂いだな~♪ 昼飯なら俺にもくれよ!」

「きて早々飯の催促かよ……まぁいいけど」


 先ほど完成したばかりのカツカレーライスをダイルにも出してやる。

 他の使用人たちも美味しそうに食べてくれてるのは嬉しいね。

 ちなみに当屋敷では身分に関係なく、出来るだけみんなで一緒に食べようってことにしてる。

 こんな広い食堂で一人だけの食事なんて寂し過ぎるよ……。

 まぁそれはいいとして…………


「うむ! カレー単体でも美味じゃったが、米との相性も抜群じゃ!」

「それにこのピーグのフライにもよく合います!」


 うん……だからなんで新メニューが出来た時に限って、タイミングよくいるかなキミらは?


 ちなみにピーグとは豚のことだ。

 地球のと違って少し大きな黒豚だったが、味はまんま豚肉だったので早速トンカツにしてみた次第だ。


 三杯目に突入したライラとシルフィーは料理長に任せ、食事を終えたオレはダイルと応接室に行こうとしたのだが――


「スマン! あともう一……二杯くれ!」


 ――思う存分食べたまえ……。

 そういやドワーフ族の食欲の凄さを忘れてたよ……。







「なるほどのう……地図か……」


 今、応接室にはダイルともう二人、アリオス爺とガッシュ騎士団総長がいる。

 ダイルに地図の話をしたら、ダイルの一存では話せない内容の話らしく、それ相応の責任者を連れて来るという話に発展。

 そしたら今の面子になったという流れだ。

 つか、王族がいる時点で穏やかな話じゃないよね? これ。


「して、ソーマ殿は地図を求めてなんとするのか? まずはそれをお聞かせ願いたい」


 ガッシュ氏からそんな質問が飛んできた。

 「なんとする?」って言われてもねぇ……ただこの国の形状とかを知っておきたいだけなんだけど……。

 少し質問してみるか。


「待って。その前に一つだけ聞きたいんだけど…… もしかして地図って機密扱い?」

「やはりソーマは知らなんだのか……」

「やっぱりねぇ……」


 聞いた話では、地図というのはその国の国力を示す要素の一つに分類されるらしい。

 より精度の高い地図を所有しているということは、それだけ情報戦にも長けているということに直結する。

 そしてアルグランスは他国に比べて、魔法に関しては少し劣っているが、地理に関しては世界トップクラスの情報を有しているらしい。


 その背景にはドワーフ種族特有の長い寿命があり、それ故の技術の継承がしっかりとした形で、脈々と受け継がれているのが大きい。

 人間の寿命では一国の精密な地図を作り上げるには時間が足りず、その技術の継承が途切れ途切れになるからだ。

 故に人間の統治する国の大半の地図は精度も甘く、ところによっては地図すら作ってない国もあるらしい。

 人間に比べると人口は少ないが、長寿命の種族というのはそれだけのアドバンテージを持っているということだな。


 では地図の無い人々はどうやって国々を巡るのか?

 実は地図という形に満たない簡易版の地図が存在する。


『今いるA地点から南に道なりに進めばB地点である分岐点へ。そこから東に進めばC地点、西に進めばD地点。C地点から更に――』


 といった具合の、いわゆる簡単な道しるべを示した「標図(しるべず)」と呼ばれるもので、それも一般人から見れば高価な情報ではあるのだが、地図を持たない人々は基本的にそれを使う。

 それ以前に地図なんか持ちながら旅してると、盗賊どころか他国の諜報員に命を狙われかねないそうだ。怖いねぇ……。


 つまるところ、地図というのは各国の戦略級の武力そのものでもあり、より広く、より詳細な地図を有している国が、そのまま国の多きさに比例されるってことだ。


 で、ここからが今回の話をややこしくしてる要因なんだが、オレが「地図」と言っちゃったばかりに、ダイルはこの国の機密情報の掲示を迫っているものと勘違いしたみたいだ。

 いやいや、流石にそんなこと知ってたら自力でなんとかしてたよ。

 でも地球では一般的な情報も、この異世界では最高機密になるほどの価値があるのか……。

 今後はもう少しその辺りも注意しよう。




 しかし何故にここまで地図という情報が貴重かと思ったら、どうやらこのフォーランドには「空を飛ぶ」技術や方法がないらしい。

 ファンタジー世界なら翼の生えた有翼人とか鳥人とかいても良さそうなものだけど、生憎とフォーランドにそのような人種はいないそうだ。


 唯一空を飛べる「妖精族」というのがいるらしいが、基本的に他種族との関わりを持たず世界情勢とも無干渉。

 そのうえ森の中に結界を張り、その中で集落を作ってひっそりと暮らしているので、滅多に出会えないそうだ。

 しかも魔力だけはべらぼうに高いらしく、過去に妖精族を隷属させようと企んだ人族の国が森に攻め入り、逆に国ごと滅ぼされたって話もあるらしい。これまた怖い話だねぇ……。

 まぁそれ以前に、飛べると言っても数メートル程度らしいし、体が小さいから高く飛んでも風に煽られて墜落するのがオチらしい。


 なら空を飛ぶモンスターを飼い馴らせばいいんじゃね?

 そんなことを言ったら――


「ドラゴンなんて手懐けられるか」

「ワイバーンやグリフォンでも出会ったら絶望するレベルです」

「地面をはってるガンガルドの方がまだ可愛く見える」


 ――というお返事が返ってきた。

 ドラゴン……いるんだ……。

 ………………調教スキルでテイムできるかな?


 しかしそうなると「飛行(フライ)」の魔法なんてのも多分存在してないな、こりゃ。

 魔法で空飛ぶのって結構憧れだったんだけどなぁ……。

 まぁこの辺りはまた後ほど、魔法を勉強しながら模索していこう。


 とりあえず地図が貴重な理由も解った。

 これは迂闊に飛行機や気球の話もしない方が良さそうだな。

 少し注意しておこう。




「そんなわけじゃから、いくらソーマの願いでも地図の掲示はどうか勘弁してくれんじゃろうかのう?」


 アリオス爺が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いやいや、知らなかったオレが悪かったんだ。話をややこしくさせて謝るのはオレの方だよ。ごめんねアリオス爺。ガッシュさんとダイルも面倒かけちゃって申し訳ない」


 でもこの感じじゃあ地図の掲示どころか、協力も頼めそうにないな……。

 今のところはアルグランスだけの地図が欲しいところなんだけど、それを作る為に闇雲に移動するってのもなんだかなぁ……。

 せめておおよその形だけでも分かれば助かるんだけど……。




 ん? 待てよ?

 地面を歩きながら計測して作り上げた地図でもそれほどの価値があるって話なら、オレの地図機能は世界最高の価値ある情報ってことになるな?

 なんせ地形どころか、高低差までなんでもござれの超精密地図なんだから。

 ……少し気が引けるところもあるが、地図に関してはとにかく情報が早く欲しい。

 ここは交渉といってみようかな?

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