065話:穀物とマヨネーズ
お供のメイド二人が、この王都で一番大きいと言われる穀物を扱う店まで案内してくれている。
「あそこの店ですわ、旦那様」
「穀物を専門で扱うソルナーク商店です」
熊耳系獣人のアニルと狼耳系獣人のソルムの二人が指差す先に、大きな看板を掲げる商店が見えた。
「この店は我が国以外の穀物も多く扱っています。ここなら旦那様の御眼鏡に適う品も揃いましょう」
「だと嬉しいね」
オレは期待に胸弾ませながら店の入り口をくぐると、穏やかそうな表情をしたハイドワーフの男性が出迎えてくれた。
「おや? アニルとソルムじゃないか? いらっしゃい」
「おはようですわ、店長さん」
「今日は旦那様をお連れしました」
「旦那様?……えっと……そちらの人族の?」
「「はい♪」」
オレは店長さんに軽く会釈する。
「初めまして、ソーマと言います。どうぞ宜しく」
「ソーマ…… おお! では貴方が噂の恩人殿ですか? ソルナーク商店へようこそ。店主のオリバ・ソルナークと申します。今後とも御贔屓に」
また噂か……まったく、どんな噂が飛び交っているのやら?
まぁさっきの調味料店の店主とかもそうだけど、悪い印象は与えていないみたいだし、とりあえず良しとしておこう。
「で、何かお探しの物でも?」
「そうですね――」
この世界の穀物を知らないので、とにかく片っ端から見せてもらいながら全部鑑定して調べまくった。
で、その結果、米、大麦、大豆、そしてなんと蕎麦を発見した。
いや~ 流石は王都一の穀物専門店。
お目当て以上の物が見つかって良かった……と言いたいところだけど――
「結構いいお値段するね……」
特に米と大豆が地球での感覚に比べて五倍相当の値段がした。
簡単に言えば、米が五キロで銀貨一枚。
つまり一万円相当ってことだ。
しかしそれも仕方のないことだ。
米や大豆はこのアルグランスでは栽培しておらず、全て他国からの輸入品だからだ。
しかし金さえ積めば手には入るので、この二つは出来る限り買い占めておこう。
次はいつどこで手に入るか分からんからね。
「米と大豆はあるだけ全部売って欲しい」
「え? 米と大豆を全部ですか?」
この国では主食となっていない穀物なだけに、店長さんも驚きの表情だ。
「旦那様、この二つがそこまで必要なものなのでしょうか?」
料理長が少し不安そうな表情で訪ねてくる。
「ああ、美味い料理や調味料を作るうえで、この二つは欠かせないんだ。まぁ期待しててよ」
そんなこんなで、店にある米を一〇〇キロ。
そして大豆八〇キロも全て買い占めた。
大麦と蕎麦はあまり高価でもなかったので、それぞれ二〇キロづつ購入する。
なんで安いのか聞いてみたら、パンの風味付けに使うくらいにしか使い道がないからと言われた。
そうか……麦茶や蕎麦麺も知らないんだね……。
米と大豆に関しては両方ともまだまだ在庫が欲しいので、店長さんに王銀貨一枚分づつ仕入れてもらうようお願いした。
「米と大豆両方に王銀貨一枚づつですか⁈」
「ああ、とにかく量が欲しいので出来る限りお願いしたい。いけるかい?」
「はい! お任せ下さい!」
これまた諸手を上げて喜ぶ店長さんをあとに、オレたちは店を出る。
そのあとは魚介類や野菜、卵、香辛料、ハーブ、ホルスタン以外の肉も色々と買って帰宅した。
ふふふ……酢と鶏の卵が入手できた。
あとは手持ちの植物油があるから、遂に念願のマヨネーズが作れるぞ!
昼頃に帰宅し、足早に厨房へ向かうオレと料理長。
さあ! マヨネーズ作るぞ!
まず卵の黄身と白身を分け、錬金術で雑菌を取り除いた後で黄身を十分に解きほぐしておく。
AR表示でも食用可と確認済みだ。
続けて植物油に酢を入れてかき混ぜる。
が、酢と植物油は水と油と同じ。
いくらかき混ぜても合わさることはない。
だけどそこに卵の黄身を加えると、あら不思議!
なんと酢と油が混ざり合うのだ!
これは卵の黄身に含まれているレシチンという物質が、水分と油の両方に混ざり合って結びつける性質を持っているからだ。
そしてそのレシチンの乳化作用を応用したものこそマヨネーズ!
人類の知恵が生み出した至高の調味料の一つだ!
「凄い……水と油が混ざるなんて……」
「正確には酢と油だけどね。あと塩を加えて味を調えると……ほい! マヨネーズ完成!」
出来立てのマヨネーズを指ですくって味見する。
うん、美味い! 程良い酸味と卵のまろやかさが口に広がる!
「なんと濃厚で後を引く味⁈ これは美味い!」
恐る恐る口に運んだ料理長も気に入ってもらえたようだ。
じゃあ早速これを使って色々料理を作るか。
と言う事で、その日の夜はシーフードフライやポテトサラダを作って使用人たちに振舞った。
「美味しい~♪ この魚のフライという物だけでも美味しいのに、このマヨネーズを付けたら更に味に深みが……」
「いやいや、生野菜にも凄く合う! なんなんだ? この調味料は?」
「このカルフェルを潰したサラダも凄く美味しいです♪ 病みつきになりそう」
無論、酢と野菜を使って早速ピクルスの製造に入ったのは言うまでもない。
数日後にはタルタルソースも作って、シーフードフライの完成形を目指すよ!
ところで…………
「うむ! このカルフェルのサラダが美味いのじゃ!」
「先日頂いたフライも更に美味しく! 素晴らしいです!」
ライラとシルフィーがマヨネーズ料理をモリモリと頬張っていた。
………………うん……なんで今日もいるのかな? キミたちは?




