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神愛転生  作者: クレーン
第三章
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064話:調味料を探そう

 お屋敷生活二日目。

 オレは料理長とメイド二人、護衛役のキャストを引き連れて、朝から港付近にある市場へと向かっている。

 

 今日の目的はアルグランスで流通している調味料なども含めて、色々と食材を調べるためだ。

 とにかく今は確保している食材、特に調味料の種類が少なすぎる。

 塩胡椒やカレー味も確かに美味いが、やはりそれだけじゃねぇ?

 料理の幅を広げるためにも、もっと沢山の調味料の確保は必要なのです。


 料理長から厨房の調味料を色々見せてもらったが、塩と砂糖以外では数種類の香辛料とハーブくらいしかなく、発酵調味料が皆無だったのが痛かった。

 酒を造る技術はあるのに、なぜ発酵調味料の類がないのか疑問に思ったのだが、どうやら「菌」という概念がなかったようだ。

 だから発酵酒はワインなどの果実酒だけ。

 それも搾った果汁を樽に詰め込んで自然に発酵させるだけの単純な作りで、酵母菌を入れるという発想そのものが無かった。

 酵母菌の概念がなけりゃ、そりゃ(こうじ)菌なんて発想も無いわな……。

 その事を話したら料理長も驚いていた。

 ただ、料理長の知識にそういった発想がないだけで、もしかしたら世界のどこかにはそういうものがあるかも知れないということで、その辺りの調査も兼ね、多くの食材が並ぶ市場へ向かっている次第だ。

 料理長もアルグランスの郷土料理にかけては国内でも五本の指に入る一流の料理人なのだが、アルグランス以外の料理は詳しくないらしい。

 それじゃだめだ……。


「味の探求はまず国外の料理を認めるところからスタートだ」

「肝に命じておきます」

「だから今日は国外の食材などを重点的に探っていこう」


 そんな言葉を交わしながら市場へと足を運ぶ。




「おおお~! 凄い賑わいだな!」


 港近くの場所は、この王都最大の市場がある。

 数多くの露店や商店が並び、凄まじい活気にあふれていた。

 この中からお目当ての物が見つけられるかな? 結構大変そうだぞこれは。


 ちなみに今回は地図の検索機能は使っていない。

 あまり便利過ぎる機能を使って目的を直ぐに果たしてしまったら、そのあとの余った時間を持て余すと思ったからだ。

 無人島のような右も左もわからない自然の中での生活ならまだしも、ここは文明のある街中だ。

 話せば言葉が返る。

 質問すれば答えが返る。

 そして見る楽しみ、探す楽しみ、見つけたものを扱う楽しみ。

 そういう当たり前のことができる、文明のある街にオレはいる。

 だから今は、そういう当たり前の時間も少し大事にしていこうと思った次第だ。

 そんなわけで、その辺りの検索機能は緊急時以外は極力使わない方向で行こうと思う。


「どうだい兄ちゃん! 今朝上がったばかりの魚だよ!」

「こっちも上がったばかりの貝類だ!」

「新鮮な野菜はどうだい?」

「摘みたてのハーブはいかが?」

「ホルスタンとピーグの肉はどうだい! 良い所押さえてるよ!」

「異国の調味料が入荷だよ! 試しにどうだい?」


 あちらこちらから客引きの声が上がるが、最後に聞こえた「異国の調味料」に素早く反応する。


「どんな物があるんだい?」


 オレはその露店を切り盛りしてる若い人族の男に声をかけた。


「おや? 見慣れない顔だねお兄さん? ……ん? 後ろにいるのは料理長の旦那じゃないか? アンタの知り合いかい?」


 露店の店主が、オレの背後に控えていた料理長を見て声をかける。

 どうやら知り合いのようだな。


「おはよう店主。この方は今の私の主人のソーマ様だ。粗相のないようにな」

「えっ⁈ 旦那、王城からクビになっちまったのかい⁈」

「違う違う! 陛下の命でこの方の下で修業させてもらっているだけだ!」

「陛下の命に旦那が修行って…… おいおい……まさかこのお兄さんって噂の使徒様かい⁈」


 店主がそんなことを言い出した。

 オイ……そんな噂が広まってるのか?

 まぁあんだけ派手に街中を神獣モードのマークたちと闊歩したんだから仕方ないか……。

 ちなみに今のキャストは仔犬モードだ。


「使徒かどうかは知らないけど、多分オレのことじゃないかな? 名前はソーマだ。ヨロシク頼むよ」


 オレはなるべく角を立てない感じに、気さくに挨拶する。


「ほええ~ 姫様の命の恩人って話は聞いてたけど、まさかこんな若い人間だとは思わなかったぜ!」

「おい店主、無礼が過ぎるぞ! ソーマ様は我が国の賓客でもある。言葉使いに気をつけろ!」

「おっと! こりゃあ大変失礼しました……」


 料理長の言葉を聞き、慌てて姿勢と言葉を正す店主だが、オレはそれを手を出して制する


「別にいいよ。堅苦しいのは苦手だし、出来ればさっきのままで頼むよ」

「しかし……」

「いいから!」

「ハハハ、オレっちも敬語とか苦手なんで助かりまさあ。じゃあ若旦那、これからよろしく!」


 その呼び方に若干突っ込みを入れたいところだが、まぁいいか。

 直ぐに慣れるさ……。


「ところでどういった調味料があるんだい?」

「色々ありやすぜ! 最近仕入れたものじゃ、ビネルガってのがありやすね」

「ビネルガ?」


 店主から差し出された壺の蓋を開けると、少し鼻を突くような匂いが広がる。

 こっ! これは!!


「かなり酸味の強い調味料なんですがね? 砂糖と合わせて野菜を漬け込むといい具合に――」

「っしゃああ!! 酢キターーーーーっ!!」


 店主が色々と説明してくれてる途中だったが、オレは興奮してつい叫び声を上げてしまった。

 思わずガッツポーズまでしてしまう。


「「「だっ、旦那様⁈」」」


 料理長とメイドたちが若干引き気味だ。

 イカンイカン、落ち着けオレ。


「ゴメンゴメン、少し興奮しちゃっただけだから」

「若旦那はビネルガを御存知なので?」

「ああ。多分オレの知ってる調味料だと思う。一応確認の為に味見させてもらえるかい?」


 小匙にすくったビネルガを口に含んだが間違いない! 酢だ!

 店主の話では、この東大陸の最東端に位置する「カスガ国」で流通している調味料だそうだ。

 なんか名前といい、和風な雰囲気の漂う国だな?

 機会があれば訪れる必要がありそうだ。


 ちなみに料理長やメイドたちも味見してみたが、みんな微妙な反応だった。

 まぁ酢単体じゃそんなもんだよね。


「よし! これ全部買いとらせてもらう!」

「えええっ⁈ 全部ですかい⁈」


 五リットル程の壺に入ったビネルガを六つ全部買い占めた。

 店主に再入荷は可能か聞いてみたが、提示された金額の三割増しを確約すると、直ぐにでも手配してくれるそうだ。

 と言う事で、ビネルガをあと二〇壺追加で注文した。


 そのあと、酢があるならと期待したが、残念ながら醤油は無かった。

 店主に質問してみたが、そういった調味料は聞いた事もないそうだ。

 となると、いよいよもって味噌の存在も危うくなるな……。

 でも、このビネルガを鑑定したら「米酢」と表記されたので、米の存在は大丈夫そうだ。




 次はゴラス島で皆無だった穀物類を重点的に探してみることにしよう。

 オレたちは諸手で喜ぶ店主を背に、穀物店へ向かった。

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