007話:チートボディー初体験
闇……。
静かな闇……。
何も見えない。
何も聞こえない。
ああ、そういえば俺、車に轢かれて死んだんだったな?
ん? では今までのあの神の世界での体験は何だったんだ?
ああそうか……夢か……。
いや待て! 死んでから夢みるなんておかしいだろ?
じゃあ、あれが走馬灯ってやつ?
いやいや長過ぎるでしょ~。
『……まくん』
ん? いま何か聞こえたような?
『…………うまくん……』
お! 目の前にうっすらと光りが見えてきた!
あそこに行けば……。
「蒼馬くん!!」
「ハッ!!」
俺は聞き覚えのある声で目が覚め、ガバっと上半身を起こした。
「大丈夫かね蒼馬くん?」
「え? あ? はえ?」
俺の目の前にいるのは……
「世界神……様?」
「ああ、そうだ。最後の頭部の再構築で、脳を含めた神経系に手を入れたせいで少し思考が混乱しているみたいだけど、その様子なら大丈夫そうだね」
あ、そうか……俺、死んで神の世界に来て、そしてこれから異世界に転生するから体を新しくするんだった――
ん? ナンだこの違和感は?
視界がいつもと少し違う……
というか、なんだこの視界に移るウインドウみたいなのは?
「ああ、それね。ビデオゲーム神の提案で、キミのいた世界のゲームを参考に「AR表示」というナビゲートを組み込んでみたんだ」
AR表示!?
確か拡張現実とかいう技術で、一部のスマホアプリで導入されてるヤツだったよな?
「これからキミに持たせる能力や技能、状態とかを全てこれで管理できるように調整している。頭で考えるだけで操作できるから有効活用してくれたまえ」
では早速自分の手を見て――
誰の手だ? 俺の手だ!
あれ!? 俺の指ってこんなに細かったっけか!?
視線を下半身に向けると……おおマイサンよ、すっかり逞しくなって……
いやいやそんなことを考えてる場合じゃない!
今の俺、素っ裸ですやん!!
「ああ、すまない! 服を着せるのを忘れていたよ」
世界神様がそう言って右手の人差し指をクルっと一回しすると、俺の体に光が集まって、あっという間に服が着せられた。
服のデザインが世界神様と同じなのがアレだけど。
というか、うしろでニヨニヨとガン見してた恋愛神様と魔法神様と酒神様の御三方! そんな残念そうな顔しないの!
どうもこの女神さん方からは腐の波動を感じる……。
とりあえず少し冷静さを取り戻した俺は、改めて自分の体を見直した。
腕と脚は少し細く、腹を摩るとお腹の出っ張りも綺麗サッパリと消えている。
顔を触ってみたけど、髭の感覚も無くお肌ツルツルだ。
感覚的には本当に十五の頃の体に戻ったような感じがする。
「今の容姿が気になるみたいだから鏡を用意しようか」
時空神様が気を利かせてくれたみたいで、何もない空間へ手を入れると、そこから大きな姿見の鏡を取り出して俺の前に置く。
こういうのを見ると、この人が本当に時空神だと実感させられる。
では自分の姿を拝見……。
おおおおおお~~~!!
鏡の中に俺のイメージした銀髪の少年がそこにいる!
え? これが俺!?
魅惑の変身なんて目じゃないくらいの変わりようだぞ!
俺は夢想してた今の自分の姿に心底見惚れていた。
だってそりゃそうだろ?
四十歳で不精面。
特に筋肉もついてなく、お腹の脂肪は糖尿寸前の体たらく。
それが今はどうよ!
顔は幼さが少し残るけど、中の上くらいの爽やかプチイケメン!
髪の毛はサラサラの銀髪!
瞳は青より少し濃い藍色!
体は全体的にスリムで無駄がない! なにより軽い!
こんな体にしてくれた五大神様たちに、この言葉を言わずにはいられない!
「パーフェクトです! 感謝の極みです!」
「ホッホッホ、どうやらお気に召してくれたようじゃのう」
「でもよー、やっぱりもう少し筋肉付けたほうが良かったんじゃねぇか? 男っつったらまずは筋肉だろうが?」
「破壊のおっちゃんは古いだわさ。今はこういうスリムな男が流行りなんだわさ」
「そこまで喜んでくれるとボクたちもなんだか嬉しいよ」
「うむ、今後はこの新しい体で、新しい人生を謳歌したまえ」
最後の世界神様の言葉に過去の不養生を思い出し、少し涙腺が緩んだけどグッと堪えて俺は五大神様たちに深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「うむ。では次はこの体について説明するとしようか」
え? 体の説明? どゆこと? AR表示以外にもナンかあるの?
「まずその体の身体能力だが、簡単に死なれても困るのでかなり底上げをしておいた」
「世界神よ、口で説明するより実践した方が解り易いだろうぜ! おい蒼馬! 俺の手に一発、拳叩き付けてみろや」
割って入ってきた破壊神様が俺に手の平を突き出す。
「遠慮なく思いっきりこい!」
破壊神様は不適な笑みを浮かべながらそういうが、神様に手を出すってのはやっぱり抵抗あるよ。
まあ今回は手の平にパンチ一発だけらしいし、あんなゴツい手なら今の俺の細腕じゃビクともしないだろうからやってみるか!
俺は軽くファイティングポーズをとって、言われるがまま思いっきり右拳を破壊神様の手に突き出した。
バスゥゥゥウウウウウウンンンン!!!!
えっ!? なにコレ!?
凄まじい轟音が響いたと思ったら、俺の拳が命中した破壊神様の手の平から薄っすらと煙が上がった……。
なんだ今の俺のパンチのスピード!?
もしかしてプロボクサーよりも速かったんじゃないか!?
「ガハハハハ! いいねいいねぇ! これが今のお前の拳の威力ってわけだ!」
唖然とする俺をよそに、破壊神様は満足そうに笑いだす。
「お次は動体視力だわさ~」
死神様がそういうや否や、いきなり俺に向かって大鎌を振り下ろしてきた!
いやいやそんなの思いっきり振り回されたら危ないでしょう!! って………………アレ?
俺が大鎌に視線を集中させたとたん、急にその動きがスローモーションのように映りだした。
なんだこれ!? でもこの速度なら躱せる!
俺は体を少し後ろに下げ、ギリギリの距離で大鎌を避ける。
地面に大鎌が激突すると、死神様はそのまま大鎌を横に向け、俺の首めがけて振り回してきた!
だけどそれもスローモーに映り、俺はそのまましゃがんでそれを避ける。
するとまた周りの感覚が通常の状態に戻るのを感じた。
「カカカッ! 人間レベルの範疇でかなりの速度で振り回したんだけどちゃんと見えてたみたいだわさね」
「えっと……つまり今のは……?」
「キミの動体視力や体の動き、つまりパワーやスピードなどが全部……解り易くいうと人間離れしたレベルにまで上がってるってことだよ」
笑う死神様をよそに、俺の疑問に時空神様が答えてくれる。
異世界転生のチートの代表格である身体能力向上は基本中の基本だけど、いざ自分が体験するとその凄さがよく解る。
確かにこんな力を不用意に乱発したら一気に悪役コースまっしぐらわだ……。
「ホッホッホ、ちなみに身体だけではなく、知能なんかも底上げしとるぞい。記憶力や理解力は無論のこと、思考速度なども以前の人間の体とは比べ物にならんくらいに上がっとるわい」
俺は創生神様の言葉を聞いて、今度の人生ではそれを活かして勉強も頑張ろうと思った。
思い起こせば親の言葉に翻弄されて自暴自棄になったのが落ちこぼれた原因の一つだからなー。
せめて異世界では勉学にも励み、少しは知性溢れる存在になりたい。
「とまあ、そういうことで他の者が説明した以外のところでは、翻訳機能や無限収納、地図など、異世界で生きる上で役立つ基本的な能力も付けておいたし、無限収納にはある程度の装備品や備品も入れておいたからあとで確認するといい。全ての能力はAR表示の各項目で管理できるから有効活用してくれたまえ」
いやもう、何から何まで至れり尽くせりで本当に感謝ですな。
これだけのチート能力を持ってれば、異世界での新しい生活も安泰ってなもんですよ。
などと思ってたら、五大神様たちが全員首を傾げる。
え? 俺、なにか変なこと言った?
というか、また俺の思考を読みましたね!
「ああ、すまないすまない、つい癖で……。でも蒼馬くんの強化はまだ終わりじゃないよ」
「いかにも。その程度の能力ではまだまだ不安じゃわい」
「ああ、キミには簡単に死なれては困るからねぇ~」
「カカカッ! ここからが本当の神々の手によるチートの本領発揮だわさ!」
「ガハハハハ! さあオメエら! 楽しい神の加護付け始めるぞ~♪」
最後の破壊神様の言葉が響くと、周りにいた他の神々たちが一斉に大きな歓声を上げた。
あっ! そういや特典の三つめが神々の加護をできる限りってあったけど……
え? なに? 俺、まだこれ以上チートされんの?
天上界編、もう少し続きます。