059話:舞踏神様の肩書
とりあえず今の状況についてのお話は終わり、次は舞踏神様の今後について協議することになった。
正直、オレに会いたいという目的は果たされたので、早々に天上界へお帰りいただきたい気持ちで一杯なのだが――
「ソーマ君に会って加護を与えるという目的は早くも果たされたけど、この下界の生活もまだまだ満喫したいのだよ」
――まぁ、そうは問屋が卸しませんよね……。
聞いた話では降臨期間は特に設けていないそうだ。
天上界へ帰りたいと思ったら、その時に時空神様へその旨の念を送れば直ぐに帰還できるシステムらしい。
……降臨期間くらいは設けておいて下さいよ……。
脳裏に時空神様のイケメン顔を思い浮かべながら、そう念を送った。
届け! オレの願い! ……まぁ届くとは思ってないけど……。
「問題は肩書ですよね……」
シルフィーが手に顎を乗せて考え込む。
そう、舞踏神様がここで生活をする以上、肩書が必要になる。
流石に「舞踏神」ではまかり通らないのであります。
そんなことしたらこの国どころか、この世界がそれこそひっくり返る。
それはなんとしても回避しないとならない。
「それもなんじゃが、舞踏神様はどのようにしてこの会場へお越しになられたのじゃ? ここは事前に登録されておる我が国の貴族や賓客、あと限られた上流家庭の者しか参加できぬはずだったのじゃが?」
「ああ、それは警備の人たちに神気を使ってちょっと……ね♪」
神気? 新しいワードが出てきたが今はスルーだ。
オレたちは舞踏神様の今までの経緯を教えてもらった。
舞踏神様が降臨したのは火竜の月、二二日の夕方。
つまりオレがゴラス島を脱出した日なわけだが、降臨場所はこの王都から少し離れた東の森の中だったそうだ。
当然右も左も分からない状況だったそうだが、西方面近くに多くの人の気配を感じたらしいので、とりあえずそこを目指して丸二日踊りながら移動したら、ここ王都だったって流れだ。
踊りながら移動って……どんな体力……もとい、どんな神経してんですか?
まぁ踊りの神様だから少しは解らんでもないけど……。
で、王都の到着した舞踏神様。
検問所や登録所を、さっき言った「神気」を使って警備兵を催眠状態にして忍び込んだらしい。
「つまりズルしたってわけですね……」
「それについては謝罪するのだよ。でもこうでもしないと、人前で踊れない寂しさでどうにかなりそうだったのだよ……」
舞踏神様は踊りを司る神だが、その踊りは常に観衆を楽しませるためのものでもあるという。
丸二日間観衆のいない一人踊りでストレスを抱えていたそうで、少し強行手段で人込みに潜入。
市民街で人通りの多い広場に辿り着くと、路上で楽器を奏でていた若いドワーフを発見するなり、その音楽に乗せていきなりセッションを始めたらしい。
その見事な踊りに広場中の人々が拍手喝采。
大量の見物料を落としていってくれたそうだ。
これには若いドワーフ音楽家も大感謝。
今日の昼間までの三日間、コンビとして路銀を稼いでいたそうだ。
そして観衆の一人から、今日王城で大きなパーティーが催されるという話を聞き、いてもたってもいられなくなって、これまた神気を使って潜入。
すると本パーティーの主旨が耳に入り、早くもオレを発見して現在に至る。といった内容だ。
「ぐぬぬ……警備兵に一言言ってやりたい気分じゃが、神が相手では仕方がないのう……」
「というか、それで罪に問えば、それはそれで可哀想過ぎますよ…… この件に関しては不問が最適かと思います」
「じゃな……」
「いやいや、本当にすまない事をしたのだよ。どうか我が舞踏神の名において、警備の人たちを許して欲しいのだよ!」
ライラとシルフィーの言葉に、舞踏神様が慌てて謝罪する。
まぁ不正な手段でこの場にいるだけだから、神様とはいえ、その辺りはきちんと謝らないとね。
というかこの神様、こと踊りに関しては少々辛抱が足りないように感じるよ……。
とまぁ、そんな感じで舞踏神様の経緯は把握した。
問題はここからだね。
「で、舞踏神様はまだフォーランドに降臨していたいということですけど、どうします? 後日オレの為にお屋敷を用意してくれるそうなんで、もし良ければそこに住むというのは?」
「本当かい? それは助かるのだよ♪ 是非にお願いしたいのだよ」
「となると、益々もって舞踏神様の身元の肩書をなんとかせねばのう……」
あ、そうか。それなりにちゃんとした理由と肩書がないと、オレの為の屋敷とはいえ、色々と問題はあるわな……。
「ではどうでしょうか? 舞踏神様はソーマ殿の御家族、もしくは親族の方という形にされてみては?」
「それは名案じゃのう! ソーマ殿自身の身元も明確に明かされておらぬし、国の恩人の親族という形であれば公表もし易いし納得もさせ易い。一石二鳥じゃ!」
おいおい、神様がオレの家族とかって……流石にそれは不敬過ぎやしないか――
「それは名案なのだよ! 是非それでいこう!」
――エエエエエ~~⁈ マジですかぁ~?
「なんだい? 私が家族では不服なのかい?」
「いえ、別にそういうわけではないんですが……」
「ならそれで決まりなのだよ♪」
ハァ…… なんか、この先出会う上神様全員がオレの家族って事になりそうな気がする……。
カオスな家族像が見えるようだよ……。
「で、舞踏神様はどのような肩書になされるおつもりなのかのう?」
「そりゃあ決まっているのだよ♪」
嫌な予感しかしません……。
秘密会議を終えたオレたち一行が再びパーティー会場に戻ると、ライラが壇上に上がり、拡声器を使って会場中の人々に告げた。
「皆の者! 今宵はもう一人紹介したいお方がいるので聞いて欲しいのじゃ!」
会場にいる人々の視線がライラに集まる。
そしてライラの手招きで舞踏神様がその隣へ移動すると、少しだけどよめきの声が上がった。
もうほんと、どうなっても知らないからな……。
「では紹介するのじゃ! ソーマ殿の御家族であらせられる――」
「姉のフラメンなのだよ♪ 弟共々、みんな宜しくなのだよ♪」
前略、神様へ
異世界に転生して、何故か神様の姉ができました。解せぬ……。
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一方その頃、南大陸でどの国にも属さない不毛の大地「大荒野」では――
「焼けたでヤンスよ~」
「おお、すまんのう! では早速いただくとするかいのう!」
「我輩は果物が食べたいのじゃ!」
薄く青い長髪で細身の男が、たっぷりと髭を蓄えたドワーフに大きな肉を焼いたものを差し出すと、そのドワーフの横に座っている金髪縦巻きロールの幼女エルフがそのようなリクエストを所望する。
残念だが、この不毛の大地に果実を実らせる木々は存在しない。
「こんな荒野に果実なんてあるワケないでヤンス~。今回は肉で我慢するでヤンスよ~」
「ところで他の奴らはどこに降りたのかのう?」
「さあ? 我輩は知らぬぞ」
「とりあえず、こやつを食い尽くしたら次の行動を考えるかのう」
「いやいや、コレ全部食べる気でヤンスか?」
「お主なら一晩で食い尽くしそうじゃがのう」
「任せておけい! 命は無駄にせず、全部食らい尽くしてやるぞい!」
荒野で焚火をしながら肉を焼いて貪り食う三人組。
その背後には尻尾を切り落とされて絶命しているガンガルドの姿があった。
そのガンガルドの喉元は鮮やかな槍の一突きの痕。
そして脳天には一本の矢が刺さっており、その鏃は頭蓋骨を貫通して脳にまで達している。
恐らくこれが決定的な致命傷となったのであろう。
あと目立った外傷と言えば、まるで何か堅固な壁のようなものに激突したかのように、無数に並ぶその鋭い牙や歯の大半が砕け散っていた。
「ほう! この獣の肉、思ったよりも美味いではないか! 我輩、気に入ったのじゃ!」
「それはよかったでヤンス~。どんどん焼くからバリバリ食べるでヤンスよ~」
「ガハハハハ! 食って食って食いまくるぞい!」
夜空の星の輝く荒野で、神の笑いが木霊する……。




