056話:踊る神と特異点(クイックステップ)
今回も会話多めです。
ダンススペースの中心でフィニッシュを決めているオレと舞踏神様に対し、周りの人々から盛大な拍手が送られる。
「おお! なんという高度な踊りだ!」
「あんな複雑なステップは見たことがないぞ?」
「ソーマ殿も凄いが、あの御婦人も余裕でついてきている……一体何者なのだ?」
ヤバイ……かなり注目を集めているな……。
でも舞踏神様はまんざらでもない様子で笑顔が絶えない。
それもそうか……踊りを司る神様だもの。
自分の踊りを見て喜んでくれるのが嬉しくないわけないよね……。
「残念、時間切れのようなのだよ。どうする? 続きを聞きたいなら次の曲も踊ることになるけど?」
舞踏神様はお道化た表情でそんなことを言いながら、再び手を差し出した。
……これは絶対ワザとだな?
オレは大きくため息とついて舞踏神様の手を取った。。
「ハァ……わかりました……。続けてお相手させてもらいますよ……」
「うむ。それが良いのだよ♪ でもあの子たちには少し悪いことをしちゃったみたいだね」
観衆に紛れているライラとシルフィーに視線を向けると、二人とも頬をぷっくりと膨らませてオレを睨んでいた。
どうやら続けて踊ることに対して不服そうな御様子だ。
「あとで誤っておいて下さいよ。オレと踊るのを結構楽しみにしてたみたいなんですから」
「了解なのだよ。では次は少しペースを上げて踊ろう。クイックステップ、いいね?」
先ほどの緩やかな曲調と違い、次の曲はかなりハイテンポな曲調となった。
軽快なリズムのイントロが始まり、オレと舞踏神様は先ほどのワルツと同じホールドの姿勢に入る。
「両腕のテンションに気をつけるのだよ」
「はい!」
クイックステップは飛んだり跳ねたり走ったりする、軽快でスピーディーなダンスだ。
そしてその動きをよりダイナミックに見せるためにも、両腕の姿勢の維持は重要だ。
オレは先ほどのワルツより気持ち強めに腕の力を込めて緊張感、つまり「テンション」を保ちながら姿勢を正す。
無論、舞踏神様もそれに合わせてテンションを上げる。
曲がメロに入ると同時に、オレたちは細かいスローとクイック、ターン、そしてジャンプを繰り返しながら、先ずはダンススペースを一周するように駆け抜けた。
オレと舞踏神様の一糸乱れぬハイスピードなステップの妙技に、大半の観衆はどよめきの声を上げ、またある者はその動きを見逃すまいと、固唾を飲みながら静かに見守っている。
最早このダンススペースは、完全にオレたち二人の独壇場と化していた。
「で、世界神様はなんと?」
「まずは無人島からの脱出おめでとう。ここからがキミの本当の新しい人生の幕開けだ。私たちはいつもキミを見守っているよ。キミの人生に幸多からんこと願って…………だそうだ……」
…………ヤバイ……目頭が熱くなってきた………………ん? 待てよ?
「ちょっと待ってください? なんで無人島から脱出した事まで知ってるんですか?」
「そりゃまぁ……文字通りキミを見守っているからなのだよ?」
「ええ~~! もしかしてオレの行動って全部見られてるんですか?」
「アハハハハ! 流石に四六時中観察しているわけではないのだよ」
「ハァ…………まぁそれならいいんですけどね……」
「でもそれは、私たち天上界に住まう上神だけの話なのだよ」
「と言いますと?」
「この世界の天界に住まう者。つまりフォーランドの偶像神たちは、かなりの頻度でキミを観察しているのは間違いないだろうね」
「マジですか?」
「なにせキミがここにいることで、一番影響を受けるのは彼らだろうからねぇ。恐らく近い内にキミのもとへ挨拶にもやってくるだろう。気のいい連中だし、その時はヨロシクしてあげるのだよ♪」
「そうは言われても、神様相手にどんな接し方をすればよいのやら?」
「アハハハハ♪ 既にキミは私という上神とこんなに楽しく踊ってお話できているじゃないか? 同じように接すれば良いのだよ」
「そんな気軽な感じでいいんですかね?」
「偶像神の思考や感性などは人間のそれに近いものなのだよ。実際に会えば、多分我々上神たちよりも親しみを感じると思うのだよ」
「わかりました。そこまで仰るのなら、いずれ会うその日を楽しみにしておきます」
「うむ、それが良いのだよ♪」
「あ、そうだ! 一つ確認しておきたいことがあるんですが?」
「なんだい?」
「今フォーランドに来てるのは舞踏神様だけなんですか?」
「………………」
この人、連続クイックのタイミングで、露骨に笑顔で顔反らしやがったよ!
「…………他にも来てるんですね……?」
「いや~……思った以上にこの世界に来たがってる神々が多くてねぇ~。私は一回目の抽選会で運よく当選したから、今この場にいるわけなんだがね。しかも降臨した場所がソーマくんの近くで本当に運が良かったのだよ♪ ………………あ……」
「…………抽選会? それに今「一回目」って仰いましたよね?」
「すまないのだよ! 今のは聞き流して欲しいのだよ!」
舞踏神様のその言葉と同時に曲が終わると、オレたち二人は華麗なフィニッシュを決めて、またもや観衆から拍手喝采を浴びていた。
舞踏神様は踊りによるものではなく、別の理由で汗を流しているが、オレはまだ舞踏神様とのホールドの姿勢を解いていない。
すいませんが、ここは逃がしませんよ?
「ちょ~~っとその辺りのお話をお伺いしたいのでぇ~、是非とももう一曲お付き合いいただけませんかねぇ~~?」
「ハ、ハハハ…… ソーマ君? 目が笑っていないのだよ……」
「次はもう少し激しいので踊りましょうか!」
「ハァ………… お手柔らかに頼むのだよ…………」
オイオイ、一体何柱の上神様が来てるんだよ?




