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神愛転生  作者: クレーン
第三章
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054話:アルグランス料理と迫る気配

 オレの歓迎パーティーが催されたわけだが、まずはとにかく挨拶の連続だった。

 アルグランス武王国でも有数の名門貴族当主やその令息令嬢と、まぁ次から次へと声をかけてくる。

 パーティーが始まって小一時間程の間に軽く五〇人以上の人たちと言葉を交わしたと思う。

 とりあえず知能の強化で記憶力も上がってるので、全員の顔と名前は頭に叩き込めているが、一応念を入れて挨拶している間の録画もしてある。

 あとで映像から顔写真などを抜き出して貴族リストを作っておかないとな……。


「ふぅ……ようやく一段落したかな?」

「そのようで御座いますね。本席に出席なされている貴族様で、銘家と呼ばれる方々との御挨拶は粗方終えられたかと」

「後ほどからは子爵以下の方々がお声をかけられるかと思われますので、今の内にお食事でもなされた方がよろしいかと存じます」


 オレの後ろに控えて色々とサポートしてくれているリゼット女史とエキルス女史がそんな事を言う。

 え? まだ挨拶続くの?

 そう思いながら広間中を見渡すと、オレに視線を送る人達が相当数確認できた。

 恐らく今までの状況を見て、向こうも少しオレに一息入れる機会を作ってくれているみたいだ。

 なるほど、これはありがたい気遣いだ。


「ソーマ! メシならオレと一緒にどうだ?」


 そんな風に気さくに声をかけてきたのはダイルだった。

 あれ? ダイルってさっきまで騎士の鎧を着て会場警備をしてたんじゃ?

 そう疑問に思ったので聞いてみたら、先ほど交代時間になったので本日のお勤めが終わったそうだ。

 今のダイルの衣装は、薄い青と濃い青で描かれた幾何学模様のズボンに、上半身はこれまたズボンと同じ色と柄の……作務衣か? そんな感じの色は控え目だが模様が派手な出で立ちだ。

 なんでもドワーフの伝統的な宴席用礼服の一つだそうだ。


 とりあえずダイルの誘いに乗り、一緒に食事をすることとなった。

 ダイルに連れられて豪華そうな食事の並ぶ飲食スペースに到着する。


「ソーマ様、私が取り分け致しますので、御希望のお料理を仰って下さいませ」


 エキルス女史がお皿を手にそう言ってくれる。

 う~ん、でもどれがどんな味の料理なのか、見た目じゃイマイチ解り難いな?

 ここは一つ、エキルス女史のお勧めに任せてみようかな?


「じゃあエキルスさんのお勧めでお任せします」

「えっ⁈ わ、私のお勧めでございますか?」


 猫耳と尻尾をピンと立てて驚くエキスル女史が非常に可愛い。


「折角なので、リゼットさんとダイルも何かお勧めがあったら選んでよ」

「ほ、本当にそれでよろしいのでしょうか?」

「ソーマの作る料理の方が絶品だから、ヘタなの選べねぇなコリャ……。二人とも、コイツ相当に舌が肥えてるから慎重に選んだ方がいいぞ」


 ダイルがそんな風に二人のメイドにプレッシャーを与える。

 いや、別にそんなの、特に不味いものでもなければ適当でいいのに……。


「ダイル、あんまり余計なこと言っちゃだめだよ。二人ともそんなに緊張しないで。皆が好きな料理とかでいいから、それをお願い」


 そんな感じで三人が選んでくれたのは……。


 ホルスタン肉の煮込みスープ(ダイル)

 ホルスタン肉のスパイス焼き(エキルス女史)

 ホルスタン肉と野菜の串焼き(リゼット女史)


 …………全部ホルスタンじゃねえか…………。


「も、申し訳ございません……」

「自分の好きな料理と言われたので……」

「で、でもこのスープとかは結構いけると思うぞ?」


 なんか三人とも凄く申し訳なさそうな表情をしているが、好きな物を選べと言ったのはオレだし、文句は言うまい。

 というか、流石はハイドワーフと獣人だ。

 やっぱりみんな肉が好きなのね。


「大丈夫だよ。三人ともありがとう。じゃあ早速いただいてみようかな」


 エキルス女史の選んでくれたスパイス焼きを箸に取って口に運ぶ。

 そう、この国の食事は箸が主流なんだそうだ。

 でも箸を使うのはドワーフ族ぐらいなのだそうで、箸を扱えたオレに皆驚いていた。

 そんな事知ってたら、ゴラス島にいた時もライラたちへの食事に箸を出してやればよかったな。


 そんなこんなで料理を口に入れたが…………ナンだこりゃ?

 味はかなり塩気と辛味が強く、肉もかなり歯応えがある……

というか固い。

 不味いとまではいかないが、味付けが大雑把過ぎる。


 串焼きも同様で、ハーブの香りで若干風味は増しているが、これも大した味じゃない。

 煮込みスープに至っては、ホルスタン肉の臭みが全然消せていない。


 つまり総合的に見て、素材の味が全然活かせてない料理ばかりだった。

 不味くはない。不味いとまではいかないんだけど……色々と惜しい!

 それがオレが初めて食したこの国の肉料理の感想だった。


「ふむ……やはりこの国の料理はソーマ殿の口には合わぬと見えるのう」

「というか、あれほどの料理を作るんですから、結果を見るまでもなかったと思いますが……」


 アルグランス料理を食べて少し表情を歪ませるオレに、ライラとシルフィーが声をかけてきた。


「ひ、姫殿下! 申し訳ございません!」

「私たちがソーマ様の御食事を選んでしまったばかりに……」


 エキルス女史とリゼット女史がライラに平謝ってるが、ライラは手を出して二人を制止する。


「よい。気にするでない。恐らく全てのアルグランス料理を並べてもソーマ殿の口を満足させることは叶わんじゃろう」

「これでも今回の料理は最高級のものばかりを揃えたんですけどねぇ……」


 ライラとシルフィーは少し残念そうな表情だ。

 ナンかごめんね。舌の違いは文化の違いって言うから、その文化を否定する気はないんだけど、舌ばっかりはそう簡単に矯正できないんだよ。

 オレは正直に味に関しての感想を述べた。


「とにかく味付けがかなり大雑把に感じるね。調理法に対して、肉の部位の選択は間違っちゃいないし、鮮度も問題ない。けど調理の仕方が悪い。これでは折角の食材の旨味も台無しだ」

「だそうじゃ、料理長」

「むうう…… 恩人殿にそこまで言われると無念でございますな……」


 ライラの背後から黒い作務衣を着たハイドワーフの男性が出てきた。

 っていうか料理長だと⁈ 料理を作った本人がいたのかよ⁈

 これはめちゃくちゃ失礼なことを言ってしまった!


「も、申し訳ありません! 大変失礼なことを! この通り謝罪します!」


 オレはすぐさま立ち上がって料理長に頭を下げる。

 こんな味でもこの国では高級な料理。

 いや、それ以前に、オレを歓迎する為に心を込めて作ってくれた料理だ!

 そんなものを作ってくれた人に対してオレはなんて失礼なことを!

 あ~~ 穴があったら入りたい!


「ああ、いえいえ! どうか頭をお上げ下さい。姫様やメイリン殿からソーマ様の御料理に関するお話は伺っております。むしろ至らぬところはどんどんと御指摘のうえ、宜しければ御指南もいただければ幸いに存じます」

「というわけじゃソーマ殿。良ければその料理の知識を少しでよいので、料理長に伝授してはもらえぬかのう?」


 あーなるほどね……そういう事か。

 とりあえずオレの料理に対してライラたちの反応は良好だったし、オレの美味しいと思う料理は大方ドワーフ族にも合うらしい。

 となれば、やはりあとはそれの知識だけの問題だろうし、それなら色々と教えてあげれそうだ。


 オレはその話に関して快諾し、後日に厨房へお邪魔させてもらう約束を料理長と交わした。




 そんなこんなで食事一つでひと騒動あったけど、それが終わると次はダンスの時間らしい。


 ダンスかぁ…… オレそんな洒落た事なんてやったことないぞ?

 小学生の時に運動会でやったフォークダンスくらいか?

 広間中央で優雅に踊ってるペアたちを見ても、やはり立派な社交ダンスの類だ。

 フォークダンスとはワケが違うね……。

 

「ソーマ殿。先ずはわらわと踊るのじゃ」


 ライラが凄く嬉しそうに手を出しだす。


「オレ、ダンスなんてやった事ないから恥かきそうでヤだな~」

「ほほう……ようやくソーマ殿をリードできる機会に巡り合えたようじゃのう」


 ライラが少し意地悪そうな表情で、差し出した腕を更に伸ばす。

 くそ~ こういう時だけいい気になりやがって~。

 まぁ仕方がない。癪だけどここは甘んじてライラ先生に御指南賜るか……。


「まったく……調子にのって……」


 そう言いながらライラの手を取ろうと腕を出した次の瞬間!

 オレは背後から迫る異様な気配に、全身が凍り付いたかのように硬直した!


 駄目だ! その気配に呑まれて体が動かない! なんだこのプレッシャーは⁈

 ヤバイ! これは絶対ヤバイ存在の気配だ!

 その「何か」が迫ってくるカツカツといった足音が徐々に大きくなってくる。

 確実に距離を詰めてきてるぞ!

 ライラ……ライラは?

 そう思いながらライラに視線を戻すと、ライラ……だけじゃない。

 この会場全体はオレと「何か」を除いて時間が静止しているような状況だった。

 この広間にいる人々やマークたちでさえも微動だにしていない。

 なんなんだコレは⁈


 そして迫ってきた「何か」がオレとライラの間に入ってくると同時に、止まっていた時間が何事もなかったかのように動き出した。

 先ほどまで襲った圧迫感と体の緊張も一気に解ける。

 いや、むしろ今までとはまるで違う気配に変わり、心が穏やかに、そして体がほんのりと温かくなってゆく……。

 なんだ? この安らぎは?


 そしてその「何か」はオレの方を向き、オレにしか聞こえない小さな声で話しかけた。


「いやいや、すまない。ソーマ君を見つけた嬉しさで、ついつい神力が漏れてしまったのだよ」


 それは赤いラメ入りのドレスに身を包み、キラキラと光る金髪をなびかせる美女だ……。

 そう、それは正に絶世の美女だ。

 男であれば、誰もがその美しさに絶句するだろう。

 だがオレは別の意味で絶句していた……。


「う、うそでしょ…………?」


 なぜならその美女はオレのよく知る人物だったからだ。

 そう……忘れようもない……。

 なんで貴方がここにいるんですか⁈ 恋愛神様……。

思わぬ休日が取れたので更新できました。

週明けも予定通り更新できそうです。

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