052話:ライラのスキルと家庭の事情
「ソーマ殿や、どうかわらわをエスコートしてたもれ」
ライラがにこやかな表情でそう言いながら右手を出す。
そういやこういう場では男性が女性をリードする、作法みたいなものがあったんだっけ?
まいったな~ オレそういうの全然知らんわ。
今まで観て読んだアニメ・マンガ・ラノベの知識をフル動員して、見様見真似でやってみるしかないか?
でも見栄を張って失敗すると、それはそれで恥ずかしいので最初に言及しておこう。
「あ~ オレさ、こういう社交界の作法とか全然知らないから間違っても笑わないでくれよ? あと色々教えてくれると助かる」
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言葉もある。
幸いここには礼儀作法に長けた人たちが沢山いるので、この機会に色々と勉強させてもらうとしよう。
「ふむ、そういうことなら安心してたもれ! 今回はわらわとシルフィーでソーマ殿をリードしてあげるのじゃ!」
「姫様も最近礼儀作法を覚えられましたので、私たちでフォローさせてもらいますよ」
なにいっ⁈ あのライラが礼儀作法を身に付けただと⁈
>名前 :ライラ・アーク・アルグランス
>レベル:6
>種族 :ハイドワーフ
>年齢 :14歳
>職業 :王族
>称号 :アルグランス武王国第一王女
>
>スキル:礼儀作法・掃除
おお! 本当に礼儀作法スキルが身に付いてる!
しかし……ぷぷっ! 掃除スキルってナンだこりゃ?
ああ、そういやゴラス島で生活してる時に掃除ばかりやってたから、多分その時に身についたスキルだな。
ライラのやつ、この事は知ってるんだろうか?
「確かに礼儀作法スキルが身に付いてるみたいだけど、もう一つスキルがあるな」
「なに! それは本当かや⁈」
「え? 姫様がもう一つのスキルを? それはなんですか?」
「掃除」
「……はえ?」
「……はい?」
オレの返事に二人が素っ頓狂な返事をする。
やっぱ知らなかったみたいだな。
「だから掃除。掃除スキル」
「なんなんじゃそりゃ~!」
納得のいかない表情で叫ぶライラと、その後ろで必死に笑いを堪えているシルフィーの姿が実に愉快である。
「うう~ そんなスキル、全然王女らしくないのじゃ~……」
「まぁまぁ姫様、綺麗な部屋からの身嗜みという言葉もあります。良い事ではありませんか」
「シルフィーや、その言葉、もう一度わらわの顔を見ながら言ってたもれ……」
シルフィーは今も笑いを堪えるのに必死だ。
ははは、少し助け船を出してやるか。
「スキルってのは思わぬところで身に付くもんだし、今までの経験の証でもある。ゴラス島での経験を忘れないようにするためのいいスキルじゃないか」
「むう……確かに……。そう言われると少し捨てがたいスキルなのじゃ……」
「そうですよ姫様。恐らくそのスキルのせいでしょうが、姫様のお部屋の掃除を担当している見習いたちが、最近手がかかる箇所が減っているように感じると喜んでおりました。どうかそのスキルは大事に修練して下さいませ」
メイリン女史もライラの掃除スキルについては色々と助かるみたいだ。
そのうち炊事と洗濯も教えて、家事スキルにコンバートさせてみようかな?
スキルの仕組みなんだが、炊事・洗濯・掃除の三スキルをある程度修練すると、スキルが統合されて家事スキルになる。
これが「コンバート」。
で、その内の炊事を更に修練すると料理スキルに昇格する。
これが「ランクアップ」ってやつだ。
ちなみに炊事・洗濯・掃除をそれぞれ料理・クリーニング・清掃スキルにランクアップさせると、家事から「家事スキル(大)」となる。
ちなみにこの王城で働くメイドさんたちは、礼儀作法と家事のスキル習得は必須項目となっているそうだ。
とかなんとかしているうちに、パーティー会場へ向かうこととなる。
オレが左手を腰にあてると、ライラがその間に左手を回してきた。
「ではライラ姫、行きましょうか?」
「うむ! なかなかの紳士っぷりじゃぞ♪」
少しお道化た感じだけど、ライラは凄く嬉しそうだ。
そんな感じで皆と一緒に部屋を出てパーティー会場へと続く回廊を渡る。
で、一先ず確認しておきたかったことがあったので、ライラをエスコートしながら、後ろについてくるシルフィーに眷属通信を繋ぐ。
『ソーマ殿、どうかされましたか?』
『あーいやー……少し気になってたんだけどさ、確かライラのお母さんって亡くなってるって話だったよね?』
『ああ……シェリム王妃様のことですか……』
『ああ、ライラの「シェリム殿」って呼び方が少し気になってね……』
『シェリム王妃様は先の王妃様……つまり姫様の実の母君であらせられたユーリ王妃様がお亡くなりになった後に、武王陛下が御再婚された方です』
………………。
オレはシルフィーから色々と話を聞いた。
ライラのグレた原因とか、この国の世継ぎ問題とか、まぁホントに色々と……。
『なるほどねぇ……。でもさ、いまだに他人行儀な呼び方ってことは、もしかして二人って仲が悪いのか?』
『いえ、お二人の仲はすこぶる良好ですよ。特に島から帰ったあとは王妃様の方が積極的に姫様にお声をかけられてます』
『となると……問題なのはライラの方ってことか?』
『ええ、シェリム王妃様のことはお認めになられているはずなのですが……、恐らくまだ踏ん切りがつかないんでしょうね……』
物心がつき始めた時にそんな話が起こったら、そらまぁ色々と苦悩するわな……。
ただの我儘姫とか思ってたけど、ライラもライラなりに色々と親のことで苦労してるんだ……。
『とりあえず事情はわかったよ。ありがとうシルフィー』
『いえ、ですが今までの話はくれぐれも……』
『了解。その辺りは心得てるつもりだから安心して』
『では…………ああっと! そうだ! ソーマ殿!』
『ん? どしたの?』
『パーティーの際は、どうか私とも一曲踊って下さいね!』
『げっ! やっぱりダンスとかあんの? オレ躍ったことなんてないよ……』
『大丈夫です! しっかりサポートさせてもらいますから御安心を! ですので絶対ですよ! 約束ですからね!』
『はいはい了解~』
オレは少し気怠そうに返事をしながら通信を切る。
ライラとの接し方やらダンスやら、色々と問題は山積みだな。
そんなことを考えてながらライラの横顔を見ていたら、ふいに目が合った。
「なんじゃソーマ殿? わらわの顔に何かついておるのか?」
「あ、いや、なんでもないよ……」
王族として生を受けたんだから、それなりの気構えってのは既にあるだろうけど…… それでも気丈に振舞って……。
まだ遊びたい盛り、親に甘えたい盛りの女の子だってのにさ……。
まったく……ライラ、お前は凄い女の子だよ……。
しかし親の問題か……。
くそっ! なんでオレの親の顔が脳裏に浮かぶんだよ!
異世界にまで来て嫌なこと思い出しちまった……。
もう二度と会う事もないから早く忘れよう。
とにかく、ライラは親の問題で色々と苦悩しているのは間違いない。
こいつは少し馬鹿なところも目立つけど、今のところオレを一番に理解し、そして楽しく接することのできる大切な仲間だ。
助けを求められたら、できる限りの協力はしてあげたいと思う。
同じ、親の問題で苦悩してる者同士としてね……。




