051話:うっかりサタボンバー
「どうじゃソーマ殿! わらわの晴れ姿は?」
黄色を貴重とした綺麗なドレスに身を包んだライラが目の前でクルクルと回りながら、その姿をオレにお披露目する。
「うん、良く似合ってるじゃないか♪ 可愛い可愛い♪」
「えへへへ~♪ ソーマ殿に褒められると嬉しいのじゃ~♪」
両手を頬に当てて体をクネクネとくねらせる仕草がまた可愛い。
先ほどまで着ていた式典用の清楚な感じのするドレスとは違って、ノースリーブでスカートの丈も若干短めな辺りから、恐らくダンスなどをすることも想定したドレスなのだろう。
シグマ陛下とアリオス爺たち男性陣も、先ほどまでの厳粛な風格の衣装と違って、少しだけ装飾が施されたシャツとズボンという衣装。
シルフィーとエルナイナはシグマ陛下やライラの護衛も兼任しているので、これまた動きやすい衣装をしているのだが……袴の上に道着、いわゆる合気道のスタイルってのがオレの違和感を刺激する。
まぁ袴や道着の布地自体に色とりどりの幾何学模様が施されており、見た目には鮮やかなんだけど……ドワーフの衣装も勉強する余地がありそうだな。
ちなみにメイリン女史はいつも通りの和服割烹着だが、和服の色模様が若干派手になっている感じだ。
これまたあとで聞いた話だけど、ライラたち王族の皆さんは他国との関わりもあるので、ドワーフの民族衣装は極力避け、この世界の大半を占めている人間の国の一般的な衣装「洋装」を常に着用しているそうで、それ以外の者は民族衣装か洋装を選んで着用しているらしい。
衣装選びも色々と大変だね……。
あれ? そういえばシェリム王妃の姿がまだ見えないな?
その事をそれとなしにライラに聞いてみた。
「ああ、すまんのじゃ。シェリム殿はお腹に子を抱えておるゆえ、此度のパーティーは欠席じゃ。大事な時期ゆえ、無理をさせてはいかんからのう」
「すまないね、折角の宴の席だというのに礼を欠くような事になってしまって」
シグマ陛下もお詫びの言葉をかける。
「いえいえ、とんでもないです! 御懐妊の御身になにかあると大変ですし、なによりも安静が一番です。どうかお気になさらないで下さい」
そう言いながら恐縮したオレなんだが、その後にサタがとんでもない爆弾を投下した――。
「左様でございますな。先ほど王妃殿を拝見したところ、健康そうな男が宿っておる様子。世継ぎに何かあれば大変でありましょう」
「「「「「「「「えっ⁈⁈」」」」」」」」
部屋にいるハイドワーフたち全員が一斉にサタに目を向ける。
――ヲイ……なんでソレ言っちゃうかなぁ~?
オレがジト目でサタと目を合わせると、「しまった!」といった感じで、サタから焦りの表情が見えた。
ハイ眷属通信~。
『あ、主様! 申し訳ございません! わたくしとしたことが余計な真似を……』
『いや、そこまで怒っちゃいないけど、お前って人物鑑定スキルなんて持ってたか?』
『いえ、これはスキルではなく、この身に最初から備わっている鑑定眼でして……』
あー……なるほどね……。
言ってみればオレのAR機能と同じ感じか?
これもスキルではないからな~。
『もしかして他のみんなも持ってるのか?』
『左様にございます。鑑定できる項目は各自異なりますが……』
サタの説明では、鑑定対象のレベルとHPやMP、スタミナの基本ステータスを見れるのは全員共通。
それ以外では、マークは称号、サタは状態、キャストは名前、ガドラはスキルを見抜く機能があるらしい。
しかしオレの加護の力による鑑定眼に比べたら劣化版な位置付けで、オレの偽装機能を突破するまでの機能は持っていない。
とにもかくにも………… さて、どうすっかね? コレ?
「サ、サタよ、それは本当なのかや?」
「神獣様よ! 本当にシェリムのお腹には男子が宿っておられるのですか⁈」
ライラとシグマ陛下に凄い勢いで言い寄られるサタは、オレに目を向けて「どうしましょう?」といった感じで困惑している。
ハァ……しゃあない……。
「すいません、サタが余計なことを言ってしまったようで……。彼女の言っていることは本当です。実はオレの鑑定眼でもシェリム王妃様のお腹の中には男の子が宿っている結果が出ていたんです……。こういうのは黙っておいた方が良かったのではと思って言わなかったのですが――」
「「「「「「「「とんでもない!!」」」」」」」」
部屋にいる全員が凄い勢いでオレの言葉を覆す。
「陛下! ソーマ殿と神獣様によるお世継ぎのお告げ! これは吉兆以外の何物でもありませぬぞ!」
「うむ! 流石は神の使徒殿たちである! まさかお腹の子の性別まで見抜くとは、なんという神の御業!」
宰相さんとシグマ陛下が凄い興奮してる。
どうやらお腹の子の性別を話したこと自体は歓迎されてる様子でよかった。
でも、その神の使徒ってのはマジで勘弁してくれと、念を入れて言及しておいた。
「父上! おめでとうなのじゃ!」
「シグマよ! でかした! これでアルグランスも安泰じゃ!」
「陛下! おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
ライラやアリオス爺、その他の家臣たちも次々と祝辞を述べ、部屋中が歓喜に満ち溢れる。
で、このシェリム王妃のお腹に男子が宿っている件についてだが、これはこの場にいる者全員に箝口令が敷かれた。
無論シェリム王妃自身にも言及してはならないと。
これの理由としては、まずは王家転覆を目論む者に知れ渡るのが一番危険だからだ。
世継ぎが産まれる事が今の時点で確定したと知れれば、最悪シェリム王妃ごと亡き者にしようと目論む輩が現れかねない。
それはなんとしても避けないといけない事態なので、オレやマークたちも含めて、その場で他言しない誓いを立てた。
シェリム王妃本人に伝えない理由は、ただでさえ懐妊中で色々とストレスの溜まる時期だ。
嬉しい報告ではあるのだが、それに付随する余計な心配事まで増やしてはお腹の子に悪影響を及ぼしかねない。
とまぁ、そんな訳でシェリム王妃にも秘密となった。
ライラとシルフィー、マークたち眷属には強制機能を使って、この項目について言及しない強制力をかけた。
個人的にはそこまで必要かと思ったが、これはライラたち自らが全員希望してきたので、オレに反論の余地はなかったことを付け加えておく。
あと、オレがこの国に滞在してる間、サタにシェリム王妃の護衛役を命じる。
今回の騒動の原因を作ってしまった張本人でもあるが、これに関してはサタ自身も是非やらせて欲しいと快諾してくれた。
同じ母親同士、なにか通ずるところでもあるんだろうか?
その事をシグマ陛下に伝えたら――
「おお! 神獣様が妻の護衛を⁈ それは心強い!」
――とまぁ大層お喜びだ。
来月に入ってオレが屋敷暮らしをする時に、サタだけは王城に残ってシェリム王妃の護衛を務めるということで話がまとまった。
とまぁそんなこんなで、この客室にいた時間だけでいろんな騒動に見舞われたが、いよいよオレの歓迎パーティーという名の晩餐会の開始だ。
ん? これって所謂「社交界デビュー」って事なんかな?
おおお……そう思うと少し緊張してきたぞ!




