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神愛転生  作者: クレーン
第三章
56/210

050話:謝礼とお洒落

 部屋の空気が和やかになってきたところで、次は今後の待遇などの説明を受けた。

 今日が火竜の月の二七日で、今月一杯まではオレを歓迎するパーティーを連日催したいということで、この王城に宿泊することになった。


 そんなに連日パーティーを催す必要があるのかと疑問に思ったが、先の謁見に出席してない貴族、特に貴族の家族とかにもオレの存在を隈なく知らせるためには、数日のパーティー開催は仕方がないとのこと。

 それに、これほどの大規模な催しとなると、それだけ出席率も上がるので、特に貴族令嬢や令息などのような若い層の出席率もよくなる。

 そうなれば婚活がメインとなるのだが、それだけオレへの認知度も上がって、今後の対応もやりやすくなるというのが狙いだそうだ。

 あと、社交界にとっても面識が広がって活性化するのは良いことらしい。


 ……言っとくけどオレは婚活する気ないからね?


 で、あとはそれまでの間に、もう少し穏やかな生活をしてもらえるようにとの配慮で、貴族街にある屋敷を一つ準備してくれるらしいので、来月からはそこで生活して欲しいとのことだ。




 次にライラとシルフィーを助けた褒賞について。


 最初はこの国の爵位、すなわち貴族の権威を与えようとしていたらしい。

 しかしそれを実行すると、オレがアルグランス国民となってしまうから対外的な問題が発生するので、それは無しにした。

 オレも貴族なんて柄じゃないので、その話は丁重にお断りする。


 で、その変わりに、先の話で出てきたお屋敷なんだけど、それを進呈するという流れになった。

 無論それも、あくまでオレの「別荘」という形にし、オレがアルグランスに拠点を置いているのではないと隣国に説明する予定だ。

 まぁそんな大した屋敷でもないだろうけど、今は住まいも必要だ。

 それに関してはありがたく頂戴することにする。

 まぁとにもかくにも、色々と隣国に対して面倒事起こしてるみたいで、本当に申し訳ない……。




 続いて褒賞金も出た。

 シグマ陛下が宰相を務めるリキッド侯爵を隣部屋から呼び寄せると、麻袋を乗せた銀のお盆を恭しく掲げ上げるように持って、部屋に入ってきた。

 テーブルの上にそれを静かに下ろすと、その麻袋をシグマ陛下自らの手でオレに手渡してくれた。

 うん、これはお屋敷と違って少な目だね。

 受け取った時の感触からして、硬貨が二〇枚ほど入ってるみたいだ。

 多分大銀貨だろうから、日本円換算にしたら約二〇〇万円ってところか?

 いやいや、それでも十分十分♪――


「中には王銀貨が二〇枚入っている。遠慮なく受け取ってくれたまえ」


 ――――……ハイ? ナンデスト?


 シグマ陛下がサラっと、さも当たり前のような表情でそう言うと、オレは慌てて麻袋に意識を向ける。

 うん、AR表示でも「>王銀貨20枚」と表示されてるね……。


 …………冷静になれ、オレ。そう、クールになるんだ……。

 ええっと……大銀貨の上に王銀貨ってのは確かにあったね。

 以前にライラたちから説明も受けたし、ちゃんと記憶に残ってる。

 でも日本円に換算したらいくらだったかな~?

 あっれぇ~? オレ、そこだけド忘れしちゃったよぉ~~アハハハ~♪


 おっと! そうそう思い出した! 銀貨が一万円、大銀貨が一〇万円なんだから、その上の王銀貨は一〇〇万円だったよね~――


>500万円です


 ――現実逃避させろやAR表示さんよぉおおお!!

 ああそうだよ! 王銀貨一枚五〇〇万円ですよ!

 そしてそれが二〇枚ときたもんだ! つまり褒賞金の額は!


>一億円です


 はい、御名答! AR表示さん、代わりに答えていただきありがとうございます!


 じゃなくて!


「いやいやいやいや! これは流石に貰い過ぎでは⁈」


 オレは初めて見る大金に尻込みし、差し出された麻袋を差し返そうとしたのだが、その手をアリオス爺が阻む。


「それはならん。確かに、屋敷に加えて王銀貨二〇枚の褒賞というのは、おぬしの感覚ならば破格のように感じるであろう。しかしこれは厳密に言えば褒賞ではなく謝礼なのだ」

「アリオス爺…………」

「半分の王銀貨一〇枚は国、すなわちワシら王族を慕ってくれておる民からの礼。そしてもう半分の一〇枚はライラの家族、すなわちワシら王族からの礼じゃ。ソーマよ、どうかこのアルグランスの感謝の気持ちだけは無下にせんでおくれ……」


 アリオス爺が優しい表情で、困惑するオレにそう訴えかける。


 なるほど……お礼……ね……。

 与えられる物ではなく、感謝の気持ちと礼を込めて差し出された物なら、確かに無下にしたらいけないね。

 お返しするのは逆に失礼だ。

 了解! そういうことならありがたくいただきましょう!


「わかったよ、アリオス爺。アルグランスの気持ち、確かに受け取らせてもらうよ。シグマ陛下、王銀貨二〇枚、謹んでお受け取りさせてもらいます」

「うむ、それで良い!」

「その金は今後のキミの大事な資金となろう。有効的に使ってくれたまえ」


 そんなひと騒動もあったが、オレが謝礼のお金を受け取ったことで、他の皆も凄く嬉しそうだ。


「まぁでも、ソーマ殿はもう既に莫大な資産を持っておるから、この謝礼もしばらくの間は死蔵されそうじゃのう」

「あ~~……確かにそうですよねぇ~」


 和やかな空気の中、ライラとシルフィーがそんなことを言いだす。

 え? 莫大な資産? どゆこと?


「え? オレ、なんか持ってたっけか?」

「な~にを(とぼ)けておるのじゃ」

「ソーマ殿は潤沢なコパルの実をお持ちじゃないですか?」


 あ~~、そういえばコパルの実ってこの国じゃ凄い価値が高い食材って言われてたな。


「なんと! ソーマ殿はコパルを持っておられるのか?」


 シグマ陛下が凄い食い付きようだ。


「え、ええ。今出します」


 無限収納からコパルを五〇〇グラム詰め込んだ瓶を一本取り出し、静かにテーブルの上に置いた。


「おお! それがソーマ殿の収納魔法か⁈ 話には聞いていたが……いや、今はそれよりもコパルだ!」


 珍事より食いもんが先かい! こういうところはホント、ライラの父親だと実感するよ。

 そしてシグマ陛下はコパルの詰まった瓶をまじまじと眺めている。


「ううむ……間違いない、正真正銘コパルの実であるな。若い頃に一度だけ食したことがあるのだが、まさかこれほど大量なコパルを目にする日が来ようとは……。ソーマ殿! このコパルの実、買い取らせてもらうことは可能であろうか?」

「え? ええ……構いませんよ。全部というわけにはいきませんが、少しくらいなら……」

「いや、流石にこの一瓶全てでは我が財政も危うい。少量で良いのだ」


 少しくらいなら差し上げますよ、と言おうとしたのだが、シグマ陛下はポケットマネーから出来る限りの量を購入する気満々の様子だ。

 それでもこれひと瓶にも満たないって……。

 ホント、コパルってどんだけの価値があるんだ?

 一〇〇グラムほどで豪邸が一件建つって言われても、いまいちピンとこないわ。

 それよりも…… コパルを詰めたその瓶、あと一三本あるってことはしばらく話さない方が良さそうだな……。

 ゴラス島に自生してたコパル、根こそぎ採取したからねぇ……。

 一応ライラたち眷属ズにも、念話でその辺りを念押ししておいた。


「宰相! メーキス商伯(しょうはく)をここに! 彼なら適性な価格を掲げてくれよう。あと、私の資金帳簿をここへ!」


 商伯? 多分爵位のことなんだろうが、聞いた事もない爵位だな?


「陛下、誠に畏れながら、メーキス商伯は輸入物資の大規模搬送の指揮を執っておる為、現在この王都にはおりませぬ」

「ぬううう、なんと間の悪い! 無念である! ソーマ殿よ! このコパルの実、少量でよいので後日まで取り置くことは可能であろうか? 私の財政が許す範囲で、必ず適正な価格で買い取らせてもらうので、どうかお願いしたい!」


 うっわ~! この人、またオレに頭下げちゃったよ!

 どんだけコパルに執着してるんだよ、ドワーフ族は⁈


 とりあえずシグマ陛下のお願いは快諾し、後日、そのメーキス商伯さんが王都に帰ってきたら、その人も交えてお値段の交渉をしようってことで話がついた。


 あとでメイリン女史から聞いた話だが、「商伯」というのはこの国で輸入出全般を取り仕切る商人の中でも、重要なポストに就いてる人物たちに与えられる特殊な爵位のことらしい。

 大きく分けて三つの特殊爵位があり、商業事業を取り仕切る商候(しょうこう)商伯(しょうはく)商子(しょうし)の商業三爵と、工業事業を取り仕切る工候(こうこう)工伯(こうはく)工子(こうし)の工業三爵。

 そして農業や畜産を取り仕切る農候(のうこう)農伯(のうはく)農子(のうし)の農業三爵が存在する。

 一般的な王侯貴族と違って国政への発言権は無いが、どちらもその道にかけてはエキスパート揃いなので、国の産業に関して無視できない存在となっている。

 国政には参加しないが、貴族の地位としては通常貴族より二ランク落ちる権威がある。

 つまり、先の話で出てたメーキス商伯は男爵と同等の権威があるということだ。

 ちなみに、アルグランスでは領地を持つ侯爵や伯爵は、大体この特殊爵をそれぞれ二、三人づつを抱えており、領地の運営を行っているらしい。

 餅は餅屋という言葉もあるし、やはりその道のエキスパートがいるのは非常に心強いだろう。




 とまぁ、そんなこんなでコパルに関する話もまとまった頃に、パーティーの準備がもう少しで整うとの知らせが入ったので、オレとマークたち、あとは宰相さんと警護役のドランとダイルを除く全員が一旦部屋を出る。

 パーティー用の衣装に着替える準備らしい。

 さっきまで賑やかだった部屋が少し静かになる。


 そして意外にも宰相さんがオレに話しかけてきた


「しかしソーマ殿のその御召し物、見慣れぬ形状でございますな。これはなんという御召し物なので?」


 ああ、タキシードが珍しいのか? ダイルも欲しいって言ってたし、とりあえずドワーフ族の目から見ても不快に思わせるような衣装でなかったのは良かった。


「お! 流石は礼服に関しては一家言ある宰相閣下ですな。早速ソーマのタキシードに目を付けられたっすか?」


 そんな質問をしてきた宰相さんに、ダイルが少し嬉しそうな表情で話しかける。


「タキシードであるか? マクモーガン卿、卿もやはり感じるか? この衣装の先進性を?」

「ええ、黒を基調としながらも、下に着こんだ白い服との組み合わせが実に馴染む。それに、どういった技術で作られた糸なのかは分からんが、その銀色の刺繍も意匠に趣きがあって実にいいっす!」

「そしてなによりも目を引くのが……」

「流石は宰相閣下。やはりそこに注目したっすか?」

「こと、礼服にかけてはまだまだ耄碌(もうろく)しておらぬよ」


 ……なんだこの二人の会話? 衣装一つでなかなか個性的な世界感を作り上げているぞ?

 そういや銀糸を使って刺繍も施したけど、銀糸ってどうやって作るんだろう?

 裁縫神様の加護の力と知識は、あくまで「裁縫作業」に関することだけで、裁縫素材の作り方の知識までは入っていない。

 簡単に言えば、オレが死ぬ時点までに存在した地球の衣装や裁縫関連の品の知識と作成技術はあるけど、それに使用する素材までは作れないってことだ。撚糸(よりいと)は作れても、糸は作れないって感じ。


 料理神様の加護の力と知識は、それこそ素材さえ揃えば、醤油や酢などの調味料素材まで作れる知識と技術があるのになんでだ?

 加護の種類でそのふり幅にも色々あるのかな?

 と思ったら――


>料理神の加護と酒神の加護が連動しているためです


 AR表示が答えを出してくれた。

 あ、なるほど。そういや酒神様の加護は酒の製造に関する知識、つまり発酵に関する知識もある。

 で、醤油や酢、味噌などの発酵食品の作り方も二つの知識が連動して理解できてるんだ。

 ということは、もしかして化学の神様の加護とかあったら、こういう銀糸の作り方とかも解ったのかも知れないね。

 まぁその辺りは大量のお金も入った事だし、今度インターネットなどを利用して調べてみよう。

 情報載ってるといいな……。


 なんて事を考えていたら、いきなり宰相さんとダイルがオレの首元を指差す。


「「そう! その首にある蝶のような小物!!」」


 おっと! なんだなんだ⁈ 二人して蝶ネクタイを指差して少し興奮気味だ。


「ソーマ殿! その首に付けているのは一体なんという物なのですかな?」

「首回りに着けるのは貴金属で作られた装飾品を付けるのが一般的なんだが、これは全く新しい発想だ!」

「ああ、ネクタイのこと?」

「「ネクタイ?」」


 二人が初めて聞く名前に首を傾げる。


「ああ、これはそれの一種で、蝶のような形をしてるから蝶ネクタイって呼ばれてる。オレの国ではそれをこのフォーマルシャツ……つまりこの白い服の首元に巻き付けるのが、まぁ言ってみれば礼装における紳士の嗜みみたいなモノなんだよ」


 うん、まぁニュアンス的に嘘は言ってないはずだ。


「ふむ……首回りを引き締める布地か…… 確かにこれは絵になる一品だ」

「俺も最初見た時は衝撃的でしたからねぇ。思わずソーマに一着お願いしちゃいましたよ」


 あ、ダイルのバカ! 今の話の流れでそんなこと言ったら……。


「なんだとマクモーガン卿! け、卿はまさか既にこの衣装を……⁈」

「へっへっへ~ ソーマにお願いして、今度作ってもらう約束をしたんスよ♪ 少し値は張りそうっスけどね」


 こらこらダイルさん。そんな風に煽っちゃダメだよ~。


「ソ、ソーマ殿! どうか! どうか私めにもこの衣装一式を!」


 ホラきた……。

 まぁタキシードの制作自体は大して時間もかからないから別にいいけど、宰相さんとダイルだけでもこの食い付きようだ。

 もしかしたらお洒落好きのドワーフが他にも沢山いるかも知れないし、そうなると後々面倒なことになりそうだから、とりあえず二人の分を作るのは了解。

 それ以降はサンプルを一式差し出すので、それを研究して増産してくれってことで話をつけた。


 タキシードの話で盛り上がるお洒落好きの二人を横目で見ていたドランは、少し難しそうな表情でこう言った。


「全然わからん……」


 うん、オレも衣装に関してはどちらかっていうと無頓着な方なので、その気持ち解るよ。

 でも、今度この世界の衣装などの資料があれば少し勉強しておこうと思う。

 身嗜みって言葉もあるし、第一印象をよくするには先ずは見た目から入らないとね。


 なんてことを考えていたら、衣装を着替え終えたみんなが部屋に戻ってきた。

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