049話:折檻と密議
シグマ陛下との謁見とオレのお披露目が終わったあと、夕方から大ホール会場でオレの歓迎パーティーが催されることになっていた。
時間にしてあと二時間ほどだ。
だがその前に、オレとマークたちはまた別の客室に通され、他の貴族たちの目が入らない状況で王族の皆さん、あと数人の側近だけで話を進めていた。
ちなみにその部屋は先ほどの客室の倍の広さがあり、装飾品なども多いことから、恐らく王族が使用するための部屋だと思われる。
縁に綺麗な彫刻が施された綺麗なローテーブルの左側に椅子が三席。その対面の右側には二席という配置で、その二席にはシグマ陛下とシェリム王妃様。
オレは三席並んでる椅子の真ん中に座っている。
シルフィー、エルナイナ、メイリン女史、ドラン、ダイルの側近たちはオレの背後で控えている。
で、残りの二席にはライラとアリオス爺が座るはずなのだが、今はテーブルのお誕生日席の位置に、床の上で頭にタンコブを作って正座している。
先ほどの謁見の時におふざけが過ぎたので、オレが全力で折檻した結果だ。
「うう~ ソーマ殿~ ごめんなさいなのじゃ~ もう足が限界じゃ~ どうか許してたもれぇ~」
「すまん、ワシも謝る…… だからこの姿勢だけでも解かせてくれ。脚が治った分、余計に堪える……」
「だーめ。あと五分はそのままでいるように。これはれっきとした罰なんだからね」
「「そんな殺生な~!」」
許しを乞う二人だが、今回は流石にやり過ぎ&ふさげ過ぎ。
オレは心を鬼にして、その願いを却下した。
友の過ちは正さねばならない。それが友であるオレの務めなのだから……。苦しむ友の姿を見るのは辛いが……。
なんて建前は置いといて、これはぶっちゃけ、さっき笑われた二人に対しての腹いせだ。
いきなり「神の使徒」なんて肩書で紹介されたら誰でも噴き出すわ!
ホント色々とあるんだから、そういうの勘弁してよね……。
「だからわらわは言ったのじゃ! 悪戯心でソーマ殿を怒らせると後が怖いと……」
「そういうライラこそ、最後は一緒になって爆笑しておったろうに!」
「あれは横で笑うお爺様につられただけなのじゃ!」
「なんじゃと!」
「なんじゃ!」
そんな感じで睨み合いながら醜い言い争いを始めた二人だが、こらこら、そんなに無闇に体動かすと――。
「はひいっ⁈」
「ぬおうっ⁈」
――はい脚の痺れ臨界点突破~。
二人とも足を崩して悶絶しながら倒れ込んだ。
まだ二分残ってたけど、今回はこれくらいで勘弁してやろう。
「二人とも、これに懲りたら反省するように~」
「りょ、了解したのじゃ……あひぃいいいん!」
「ワシ……二度とソーマを怒らせんぞい……おふぅうう!」
とまぁ、そんなどうでもいい一幕を挟んで――
「スマン! ソーマよ! マーク殿たちの存在がある以上、あの方法しかなかったのじゃ!」
今、オレに平謝りしてるのはアリオス爺だ。
謝ってる理由は、例の謁見の間でのオレの紹介の内容についてだ。
アレはアレで、アリオス爺も色々と考えてくれてたのが判明した。
「いや、もう別にいいよアリオス爺。元はと言えば、オレ自身が詳しく事情を話せないのが原因なんだから、仕方がないよ」
「それはそうなんじゃが、せめてもう二、三日時間があれば色々と思案することもできたのじゃがのう……。とにかく今の段階ではあれが精一杯じゃ! 許せ!」
「私からも謝罪しよう、ソーマ殿よ。まさか本当に神獣様を従えた少年が実在するとは半信半疑だったので、私も準備が遅れてしまった。本当に申し訳ない……」
アリオス爺と並んでシグマ陛下も頭を下げる。
「なんじゃシグマよ! ワシの言葉を信じておらなんだのか⁈」
「そうは仰いますが父上……こんな荒唐無稽な話、にわかには信じられませんよ。父上からの伝書を拝見した時は、流石に父上の頭を疑いましたから……」
つまりこういうことだ。
オレたちがゴラス島を脱出して色々と話をした翌日。
アリオス爺はその状況を認めた手紙を伝書クルッポにのせ、いち早くシグマ陛下に知らせてその対応を考えるように促したのだ。
だけどそれは、普通の神経ではとても信じられないような内容。
シグマ陛下はアリオス爺の「いつもの悪ふざけ」と思い込んで、深く思案していなかったのだ。
あと、ライラ捜索隊の皆にオレのことを口外しない誓いを立てさせたのも、事態の悪化に拍車をかけた。
彼らからオレに関する情報を得たくても、その誓いがある以上、無理矢理それを聞き出すことはできない。
それはこの国の国是の一つに反する行為だからだ。
ちなみにその誓いは、最早今更感が強いので、ライラと話を付けて後日に無効とすることで話をつけた。
そしてオレが国に到着し、本当に神獣を従えているものだからさあ大変。
シグマ陛下は急いで色々と対応を考え出したのだが、時すでに遅し。
帰ってきたアリオス爺と緊急協議をして先程のような対応、つまり、オレが言った「見たままが全て、あとは各自で想像しろ。あと、絶対ちょっかい出すんじゃないぞ!」という線でゴリ押しすることに決めたそうだ。
道理でさっきの客室での待ち時間が少し長いと思ったよ……。
でもオレ自身もゴラス島の大噴火なんてなかったら、こんなに早い段階で島から出るつもりもなかったから、今の展開は正直大誤算だ。
こんな状況になるのが解ってたら、もう少し上手い誤魔化し方も色々と考えれたんだろうけどね……。
そう考えると、異世界転生モノで正体隠し通す系の主人公たちは、どうしてああも巧みに上手く誤魔化し通せるのか不思議でならない。
少し突っ込まれたら絶対ボロが出そうな感じだよ……。
オレには到底真似できそうにないな……。
隠し事多過ぎるとストレスがマッハだよ。
でもまぁ、オレの場合はマークたちの進化ってのが一番の致命傷になってしまったんだよな~。
この一件をライラとシルフィーの二人に見られてしまったせいで、誤魔化しが効かなくなったんだよね……。
でもこれは全部オレの責任だ。
あの時、聖杯の効果とかもちゃんと全部把握していたら、こんな状況にはならなかったはずだ。
しかしそれを今さら悔やんでも仕方がないし、マークたちは何も悪くない。
そう、全部オレが悪いんだ。
でも幸いなことは、オレは神様たちからこの世界を好きなように生き、好きなように改変しても良いという許可をもらっている。
自ら進んでこの世界をひっくり返そうなんてことは思っちゃいないが、その辺りも含めて、もう少し気楽な気持ちで今後を進んでいこう。
そうする力と、障害を跳ね返すだけの力はあるはずだから。
…………よし! オレの中での葛藤終了!
「別に大丈夫だよ、アリオス爺。今の状況でもなんとかなるし、なんとかする。シグマ陛下もあまり深く考え込まず、この国にとって良くなる方向で色々と考えて下さい。この国を出ろと言われれば直ぐにでもお暇させてもらいますから」
「それはダメなのじゃ! 折角ソーマ殿が来てくれたのに、もうお別れなんて嫌なのじゃ~!」
オレの言葉を聞いたとたん、ライラが胸元に飛び込んできて、駄々を捏ねながら身体にしがみ付いて離れない。
そんな光景を見て、アリオス爺とシグマ陛下はお互いに顔を見合わせると、先ほどまでの険しい表情から一転して穏やかな顔に変わった。
「その心配には及ばんよ、ソーマ殿よ。状況がどうあれ、先にも述べた通り、そなたは我が愛娘の恩人だ。如何なる事情があろうと、そんな人を無下には扱わぬ。そんなことをすれば、アルグランス王家末代までの恥となろう」
「うむ、その通りじゃ! シグマよ、よう言うた! それでこそ我が倅よ!」
「ハァ……まったく、父上は調子が良すぎます……。普段からもう少し素行良くしていただけたなら、此度のようなことにはなりませなんだのですよ……」
「ええっ⁈ ワシのせいかっ⁈」
そんな二人の親子漫才に周りの人々がにこやかに笑いだした。
うんうん、難しく考えるより、少し気楽に笑顔が一番だね。




