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神愛転生  作者: クレーン
第三章
53/210

047話:王城と見習いメイドさん

 アルグランス武王国に到着し、港に降りてからマークたち神獣家族を晒してひと騒動あったわけだが……実はその騒動は今も続いていたりする。


 だって今、神獣モードのままで王城へ向け、王都の城下街を堂々と闊歩(かっぽ)してるんだもの……。


 当然のことながら、道行く人々全てが驚きの表情でその光景を眺めているが、ここまで公にするのにも理由がある。


 アリオス爺曰く、「お主の正体を明かせず、見たままのことが全てと言うのであれば、神獣の主という事実も公にし、よからぬ企みを持つ者たちを牽制する必要がある」とのことだ。


 まぁ確かに、一頭で一国を亡ぼせる力を持つ神獣を四頭も従えてるオレだ。

 当然その力に目を付けて近寄ってくる(よこしま)(やから)もいるだろう。

 だけどヘタにオレを怒らせたら、とんでもないしっぺ返しを食らうのもまた事実。

 であれば、下手に隠し通すよりは、最初からこちらの戦力を存分に見せつけて牽制した方が何かと対処もし易くなるという話だ。


 実際問題、オレのことはまだしも、マークたちの正体までこのままずっと隠し通せるかと言えば些か不安でもある。

 なにより行動の殆どを制限されては、マークたちのストレスにもなる。

 それはオレとしても本意なことじゃない。

 できればマークたちにものびのびとした日々を過ごして欲しいからね。


 それとマークたちに人々の意識が集中すれば、それだけオレの身に及ぶ害も減るだろうというのも理由の一つだ。

 相手はこの世界にとって畏怖と尊敬の対象となる神獣だ。

 その主人であるオレを怒らせたらどうなるか?

 そんなものは想像するまでもない。


 それにオレと神獣家族を、あくまでアルグランスの客人として迎え、政治や軍事といった国事には絶対に利用しないとアリオス爺が宣言してくれている。

 それでも他国は納得しないだろうが、力を(ぎょ)するのもまた力。

 こちらの力を見せつけておけば、滅多な気持ちで対立する輩もでなくなるだろう。

 というのが主な狙いだ。


 アリオス爺の言う事も(もっと)もな話なので、この展開は承諾したが……。




「皆の者~♪ なんと我が国に神獣様たちがやって来てくれたのじゃ~♪」

「我らにしばしの平穏を与えて下さる方々じゃ! 皆粗相のないよう頼むぞい!」


 王城へ向かう行列の先頭をゆくマークに跨ってるライラとアリオス爺がそう言いながら、道行く人々に手を振っている。


 うん、先ずはマークたちがアルグランスの味方であるアピール。

 これは凄く大事だね。

 特にライラとアリオス爺の王族二人が神獣の背に跨ってるというビジュアルは、非常に効果てきめんだ。

 これによって、マークたちがこの国にとって災いをもたらす存在ではないという絶好のアピールになっている。

 そしてその意識が集中することによって、オレに対しての視線もかなり薄れている。


「アルグランスの民たちよ、しばしの間世話になる。みな宜しく頼む」


 マークがそう言った瞬間、オレの視界に入る人々の大半がその場で平伏(ひれふ)した。


「おお……我が国に神獣様が……なんと吉兆な!」

「神獣様のお背中に姫様が……なんと凛々しきお姿だ……」

「これでアルグランスも安泰じゃ……ありがたやありがたや……」


 一部の人々はマークたちを拝みだしてる始末だ。

 神獣ってこの世界じゃ本当に神聖視されてるんだな~と改めて実感したよ。




 とまぁ、そんなパレードもどきをしつつ、城下街を抜けて商店や工場などが多く建ち並ぶ商工業地区、貴族や裕福層が住む貴族街を順に抜け、王都の最奥にある王城へとたどり着いた。


 眼前にそびえる大きな城だが、いや……これ、凄い城だわ……。

 外見はファンタジー作品でよくあるヨーロッパ風の城なんだけど、この城、実は大きな岩山を削って城にした建造物だ。

 その証拠に、城の後ろは半分に割れた大きな岩山が、今も城の背後を守るようにそびえ立ってる。

 さしずめ天然の要塞のような立派な王城だ。

 ドワーフは鍛冶と炭鉱の民というイメージがオレの中にあるが、いやこれホント、イメージぴったりだわ……。


 AR表示の地図(マップ)で城の見取り図が見えたけど、背後の岩山の中にも色々と部屋や隠し通路なんかがある。前にある城だけじゃなく、背後の岩山も全部含めて一つの城になっているんだな……。

 いやホント……何度も言うけど、これは凄い城だ。

 オレの中にある建築神様の加護の力が疼くが、今は静まるんだ……ジャッカル……。

 オレは疼く右手を御する。


 とまぁ、そんな下らない厨二心を妄想しつつ、無事に王城へ到着。

 先に伝令が伝わってるおかげか、王城ではマークたちの姿があっても大した騒動にはならず、オレたちは普通に城へと入ることができた。




 で、オレは犬モードのマークたちと共に客室に入れられ、武王様との謁見を待ってる最中だ。

 今この部屋にいるのはオレ、マーク、サタ、キャスト、ガドラ。

 そして部屋の隅で控えている若いメイドさんが一人だ。

 しかしこのメイドさん、衣装はメイリン女史と同じ和服割烹着姿なんだが、少し違和感を感じる……。

 オレはそのメイドさんに意識を向けた。


>名前 :サーシャ・アドバン

>レベル:11

>種族 :人族

>年齢 :16歳

>職業 :王家付きメイド隊

>称号 :王家付きメイド隊見習い筆頭

>スキル:礼儀作法・料理・家事


 あっ! この人「人間」だ! 違和感の正体が解った。

 というか、今まで出会った人たち全員ハイドワーフとドワーフばかりだったから、人間の姿に違和感感じてたよ。なんだかな~。


 少し焦った気持ちを落ち着かせようと、テーブルに出されている紅茶をすする。

 AR表示でも普通に「紅茶」と表示されている。

 小麦粉もあるので今度シフォンケーキとか作ろう。


 そんなことを考えながら気を紛らわせていると、例のサーシャさんがポットを持ちながら近寄ってくる。


「失礼致します。この度のお世話役を仰せつかっております、名をサーシャ・アドバンと申します。ソーマ様、お紅茶のおかわりは如何ですか?」


 うわ~ この人もメイリン女史に負けず劣らずの美人さんだ。

 白い肌にキラキラ光が反射する見事な金髪を綺麗に編み上げて、実に清楚な雰囲気を(かも)し出してる。

 どことなく恋愛神様に似ているね。


「あ、いただきます……」


 オレは少しだけときめく心を精神力で落ち着かせ、平常心を装ってカップを差し出すと、サーシャさんは流れるような手つきで紅茶をカップに注ぐ。

 見習いとは言え、流石は王家付きのメイドさん。

 実に優雅な動きだ。

 和服割烹着だけど……。


「しかし驚きました……まさかこんなところで人族に方に会えるとは思いませんでしたよ」

「あら? 人族とお会いになるのは初めてでございましたの?」

「アハハ……なにせ辺鄙(へんぴ)な無人島で暮らしていたものでして……」


 しまった! 迂闊なこと言っちゃった。少し反省。


「というか! 人族と会うのが本当に久しぶりだったので、少し動揺してしまった感じでして……」

「あらあら…… 姫様からある程度のお話は聞き及んでおりましたが、大変な生活をなされていたみたいですね……」

「アハハハハ…… でもそのおかげでライラたちに出会え、こうしてこの国にお招きいただけたんですから、良かったんじゃないですかね?」

「そう仰っていただけると、私としても嬉しい限りですわ。ところで……」


 サーシャさんがそう言いながらマークたちに視線を送る。


「あちらの神獣様方には、何かお出ししなくても宜しいので?」

「少女よ、我らに気遣いは無用である」

「左様。我らが主様にのみ、その敬意を示すが良い」


 サーシャさんの質問にそう返すマークとサタだが、実際に喋るところを見るのは初めてだったせいか、サーシャさんが驚きの表情を浮かべている。


「たっ、大変失礼いたしました! 差し出がましい発言をお許し下さい!」

「いえ、本当に大丈夫ですので、そうお気になさらず……」

「そうそう♪ ボクたち食べ物無くても平気だから~♪」


 恐縮するサーシャさんをキャストが宥め、ガドラは部屋中をコロコロと転がって遊びながらそう返事する。

 いや~ マークたちとサーシャさんの温度差に、少し居た堪れない気分になるよ……。

 ホントうちの()たちが存在感あり過ぎてスンマセン……。

 というか、お前ら御飯食べなくても生きてけるんかい! それ初めて知ったわ!




 御飯の件を追求しようと思った矢先、部屋のドアがノックされ、エルナイナとメイリン女史の二人が入ってきた。


「ソーマ殿、大変お待たせしました。武王様との謁見の準備が整いましたので、御支度をお願いしますわ」

「あいよ~」

「サーシャ、御苦労様でした。あとは私たちが引率を行いますのでお下がりなさい」

「かしこまりました、メイリン姉様。 それではソーマ様、神獣様方、これにて失礼いたします」


 サーシャさんはそう言いながら、割烹着の左右を両手で軽くつまんで少したくし上げ、左足を斜め後ろの内側に引く。そして右足の膝を軽く曲げて背筋を伸ばしたまま挨拶をした。

 いわゆる淑女の挨拶のポーズ「カーテシー」だ。

 本来ならばスカートをつまみあげてって感じなんだけど、和服割烹着でそれをやるとこうなるのか……なんだかなー。


 ……おっと、お茶のお礼くらいはしておかないとね。


「ありがとうサーシャさん。紅茶美味しかったです。また今度御馳走して下さい」


 そう言うと、サーシャさんは少し頬を赤らめながら、嬉しそうな表情で部屋を出て行った。

 ……変なフラグを立ててしまってないことを祈ろう。


「ソーマ様、サーシャに粗相などはございませんでしたか?」

「え? いいえ全然。マークたちにも気を遣ってくれて嬉しかったですよ」

「そうですか…… あの子はまだ見習いなものでして、ソーマ様の御相手をさせるには些か不安だったのですが、それを聞いて安心しました」


 聞いた話では、この時はオレを歓迎する為に城の使用人たちが総動員で動いていたので、オレのお世話役に出れる人がメイド見習いの筆頭であったサーシャさんしかいなかったそうだ。

 本来、賓客相手に見習いなどを付けるのはあり得ない話なのだが、ライラ自らサーシャさんを選出し、ゴーサインを出したそうだ。

 それでメイリン女史は少し不安だったみたいで…… そんなに気を遣わなくてもいいのにねぇ……。

 多分ライラはオレだからこそ、見習いでも大丈夫だと踏んだのだろう。

 いやホント、あいつオレのこと良く理解してるわ。

 今度コパルを少し増量してやろう。


 ……ところで一つ気になったのを質問。


「あの~メイリンさん、さっきサーシャさんが言ってた「姉様」ってのは?」

「私たちアルグランスのメイド隊では、見習いの者が正規のメイドを呼ぶには姉付けをするのが仕来りなのです。無論、正規のメイドとなっても、格上のメイドには必ず姉付けを致します。つまり副隊長の私を呼び捨てにできるメイドはメイド長。あとは私と同じ副隊長クラスの他の二人だけということになりますね」


 なるほど納得。

 某学園百合モノのスール制度とは違うのだろうが、なんかこういう血の繋がってない女子たちが姉妹のように振舞う光景はナンかいい! 久しぶりにキマシ心が滾りますワー♪




 とまぁそんな一幕もあったが、いよいよライラの父親、アルグランス武王国の武王、シグマ・ジーク・アルグランス陛下との謁見だ。

 失礼の無いよう、少し気合入れるとしますかね!

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