044話:朝の襲撃、ところにより雷
突然の大噴火によってゴラス島を脱出し、アルグランス武王国の船に便乗してから三日目の朝がきた。
そのゴラス島だが、島を脱出した日の夜に地図で調べると海に沈んで完全に消滅していた。
確かに凄まじい噴火と爆発だったけど、直径三〇キロもあるような大きな島が一日で影も形も残さずに海に沈むのか?
色々と謎と疑問の残る島だったけど、沈んでしまったのは事実で、今となっては調べようもない。
少し作為的な何かを感じもするが、全てオレの妄想の域を出ない。
これもファンタジー的な自然災害と思って、今は気持ちを切り替えよう。
そして島を脱出してから今までの間も色々とありました。
特にオレの正体についてだ。
アリオス爺をはじめ、メイリン女史、エルナイナ、ダイルといった、オレの正体を知らないライラ縁の人たちへの説明が大変だった。
なにせ聖獣や神獣といった、神の使いのように神聖視されている類のモンスターを、しかも四頭も従えている人間だもの。
そりゃ色々と根掘り葉掘りと質問責めにあいましたとも。
だが、今はまだ時期尚早。
特にアリオス爺に対しては信頼もあるが、これ以上他の人々に何もかも全てを知らせるのは些か抵抗があった。
ということでライラやシルフィーと相談し、自分自身の今後も視野に入れながら色々考慮した結果、「見たままのことが全て。あとは自分たちで想像してくれればいい」そして「オレに敵対しない限りは、オレからも敵対することはない」という話でケリをつけた。
そちらが友好的なら、こちらも友好的に接するってことだ。
一頭で一国を亡ぼせると言われる「神獣」。
しかもそれを四頭も従えている時点で半分脅しにも近いが、正直無駄な争いはこちらも避けたい。
アリオス爺もその話で納得してくれた様子で、オレがアルグランス武王国にいる間は賓客以上の待遇、つまり爵位の授与も視野に含めた待遇で接することを約束してくれた。
オレとしてはアルグランスに骨を埋めるつもりは毛頭ないので、正直爵位云々はどうでもいいんだけどね……。
ともあれ、そういう話でまとまったので、神獣家族を見てしまった船員たちにもその事が告げられ、他言無用の誓いを立てる必要はないけど、敵対したらオレもそれ相応に対処させてもらうって事で話がついた。
まぁこの一連の話の後見人としてアリオス爺が直々に名乗り出て、全員にそう宣言してくれたので、無用なトラブルに関しては特に心配しなくても大丈夫だろう。
というのが昨日までの話。
着替えを終えたオレは水魔法で洗面器に水を溜め、軽く顔を洗ってから部屋を出て甲板に上がる。
無論一緒の部屋で寝てたキャストとガドラも一緒だ。
ちなみにマークはライラ、サタはシルフィーと一緒だ。
島にいた時から妙に仲がいいよねキミら。
「う~~ん! いい潮の香りだ!」
朝日の光で乱反射する海面を見て背伸びをしながらそんなことを言ってたら、後ろから一人のドワーフに声をかけられる。
「おはようございます、ソーマ殿! 随分とお早いお目覚めですな」
周辺の海上を警戒任務中のカートン氏だ。
ナンだかんだと彼とは接する時もあったから、今ではお互い挨拶する程度には仲良くなっている。
「おはようございます、カートンさん。警戒任務お疲れ様です。今日もいい天気ですね」
「ええ、この調子なら予定通り明後日にはアルグランスに到着できる見込みですな」
「そうですか…… にしても、やっぱりこの時間に甲板に上がるのは迷惑でしたか?」
「いえいえ、とんでもございません。アリオス先武王陛下からも、ソーマ殿に関しては御自由にしていただくよう仰せつかっております。我らに気を遣われる事なく、存分にこの船でお寛ぎ下さいませ。 勿論、キャスト殿やガドラ殿たちもですよ」
オレの何気ない質問に、カートン氏は笑顔でそう返答しながら片膝を落としてキャストとガドラの頭を撫でてくれる。
「お心遣い、感謝します」
「ありがとう! カートンのおじさん!」
キャストとガドラもカートン氏の振舞いに上機嫌だ。
そう、今となってはマークたち神獣家族も色々と制限を解いている。
まぁ、島の脱出の時に全部見られちゃったからね。
という事で、神獣の姿に戻ること以外は基本的に自由にさせている。
面倒事を背負い込まないためにも多少は恐れられるのも大事だろうけど、それで船員たちに心労をかけるのも少し申し訳ない。
しかし喋らせることによってコミュニケーション可能と判れば、向こうも少しは歩み寄ってくれて良い関係が築けるのではないかと思ったのだ。
オレやマークたちの姿を見て畏れる者、避ける者、怖さ半分興味半分でも近づく者、気にせず友好的に接してくる者、それは様々だけど、少なくともオレたちは言葉を交わすことができる。
今はそれが伝わるだけでいい。
そして、それは少しづつではあるが、確実に効果を現し始めているみたいだ。
「お、おはようございます! ソーマ殿!」
「ソーマ様に神獣様もおはようございます」
「おはようございます、ソーマ殿。もうお目覚めですか?」
「おはようございます! ソーマ様! 今日もいい航海日和になりそうですぜ!」
甲板にいるドワーフの船員たち数名が、様々な表情でオレたちに声をかけてくれる。
うん……こういう朝の触れ合い、なんかいいね……。
最終的にはみんなと笑顔で挨拶を交わしたいもんだ。
そんなことを考えていたら突然、船に設置されている四本あるマストで二番目のマストに設置されている監視台にいたドワーフが警鐘を鳴らしはじめた。
「本船に接近する海棲生物アリ! 現在種別確認中! 総員戦闘配置急げ!!」
カンカンカン! といった甲高い金属音が辺りに鳴り響くと、前を先行している軍船からも警鐘が鳴る。
どうやら緊急事態のようだ。
オレはAR表示で地図を表示して警戒レーダーを最大まで広げる。
どうやら一匹の大きな生物がこちら側に急接近しているみたいだ。
「目標確認!! 三の方角からリヴァイアサン一体が接近!!」
監視台のドワーフが右手で望遠鏡、左手で拡声器を持ってそう叫ぶ。
ちなみに三の方角というのは向かって東を指す方向だ。
アナログ時計を基準とした「何時の方向」という表現ではなく、正面を一とし、時計周りに四五度づつ数字を配置して方向を示している。
つまり船乗りの方向を示す数は一から八ということになる。
しかしリヴァイアサンか……。
確か遭難してたライラを捜索してた船が一隻、こいつに壊滅させられたって話をしていたな……。
リヴァイアサンといえば、オレのいた世界でも結構有名な海棲モンスターの代表格だ。
確か海竜とかとも言われていたか?
竜の頭がある巨大な蛇って感じの?
とりあえず近づいてるリヴァイアサンの情報をっと……。
>怪魚「リヴァイアサン」
>レベル73
>
>ステータス
>HP :2600
>MP : 0
>FP : 0
>スタミナ:1500
>
>全長12メートル
>成魚
>オス
>
>スキル「噛み付き」「体当たり」「水泳(大)」
>
>>怪魚に分類される海棲生物
>>巨体にものを言わせた体当たりと鋭い歯で獲物を襲う
>>気性は荒く凶暴。肉食。
竜じゃなくて魚かよ…… なんか一気にテンション下がるな。
すると警鐘で目を覚ましたのか、ライラたちも大慌ての様子で甲板に上がってきた…………寝間着姿のままで……。
「朝っぱらから一体何事なのじゃ!」
「ソーマよ! この騒ぎは一体⁈」
ライラだけじゃなくアリオス爺も少し慌ててるみたいだ。
やはりそれだけ海のトラブルってのは怖いものなんだろう。
「リヴァイアサンが近づいてるみたいなんだ」
「リヴァイアサンですって⁈ よりにもよってこんな時に!」
「これはかなりヤバいっすねぇ……」
エルナイナとダイルが苦虫を噛み潰したような表情で冷や汗を流す。
確かに陸地ならともかく、ここは海だ。
地の利で言えば圧倒的に分が悪い。
そう思っていたら船員の配置が整ったようで、接近するリヴァイアサン目がけて銛や弓矢、投げ槍を一斉に放つ。
だがそう上手くは当たらない。
このリヴァイアサン、デカい巨体に似合わず泳ぐ速度はかなり速い様子だ。
「くそっ! 当たらねぇ!」
「ちくしょう! 陸なら好き勝手させねぇのに!」
「怯むな! この船には先武王陛下と姫様がお乗りなのを忘れるな! 撃って撃ちまくれ!」
狙いを外された船員たちが悔しそうな声を上げるが、シルフィーがそんな船員たちに激を飛ばす。
そう思った次の瞬間、船に凄まじい衝撃が伝わって左側に大きく揺れた。
なんだなんだ⁈
「右舷前方に体当たりを食らった! 整備員は浸水状況を確認せよ!!」
AR表示で船全体を調べたが、どうやら致命傷となるダメージは回避できたみたいだ。
流石は王家御用達の巨大帆船。
四本のマストを備える全長一〇〇メートル級の高級旅客船仕様だけに、その頑丈さもピカイチだな。
だけどこのまま何度もさっきのような体当たりを食らうと流石にヤバそうだ。
ここは手助けするかな。
「マーク、魔法の使用を許可する。大きいのを食らわせてやれ!」
「御意!」
オレの指示と当時に、ライラの横にいたマークが神獣の姿に戻り、背びれで水面を裂くように猛接近するリヴァイアサン目がけて雷魔法を放つ。
「図に乗るな! 主様の優雅な朝を騒がす雑魚めが! ワォォオオオオオオオンンン!!」
マークがそう叫びながら空に向かって吼えると、何もない空から一閃の雷が轟音と共に海上に落ちる。
すると雷が落ちた海の中から、巨大な…………ウン……金目鯛だね……全長一二メートルで鱗が青い金目鯛がプカ~っと浮かび上がってきた。
雷による電気にやられたみたいで完全に絶命しているけど、これがリヴァイアサンかぁ…………思ってたのと違う!
「凄い……あのリヴァイアサンを一撃で……」
驚くメイリン女史の横を抜けて、オレはマークの体を優しく撫でてやる。
「よくやったマーク。一撃とは流石だな」
「お褒めにあずかり恐悦至極にございます。あの程度の雑魚相手に主様の貴重な時間を取らせはしませぬ」
「ハハハ、そりゃどうも。褒美に今夜上手い肉を食わせてやるから楽しみにしていろ」
「ははっ! ありがたき幸せ!」
マークはそう言いながら頭を下げると、徐々に体を小さく変化させて大型犬の姿に戻るが、褒美の肉が嬉しいみたいで尻尾をブンブンと振り回している。
ハハハ、先ほどまでの勇ましい神獣が嘘のようだね。
そしてオレが海上から甲板上に視線を戻すと……ライラたちを除く船員たち全員が口をポカ~ンと開けて固まっていた。
ウン…………スマンが早く慣れてくれ……。
「うむ! 流石はソーマ殿なのじゃ!」
ライラは俺たちの活躍に御満悦の様子だ。
なんだかんだでお前はすっかり慣れちゃったねぇ~。
ところでその「さすソマ」もそろそろ定着しつつあるのかな?
第三章開始です。
ペースを落とさないよう頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします。




