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神愛転生  作者: クレーン
第二章
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幕間:ライラ・アーク・アルグランス その3

 ソーマ殿の眷属となってから数日経ったある日、わらわとシルフィーはマークとサタに跨り、島を一回りする早駆けに出かけた。

 マークたちは体の大きさを変化させるスキルを持っており、大型犬程度にまで小さくなれるのじゃが、わらわたちを背に乗せても余裕の体力を持っておる。

 流石は神獣。数々のスキルや身体能力侮り難しじゃ。


 そんなことを思いながら颯爽と浜辺を駆けておると、頭の中からソーマ殿の声が聞えた。

 距離が離れていてもソーマ殿と会話できておるのは便利なのじゃが、なかなかこの感覚には慣れぬのう……。

 じゃが、このような経験をすると、ソーマ殿の眷属となって……なんというか……魂の繋がりを感じて嬉しくなるのう。


 で、ソーマ殿の話では、どうやら家の近くにまでドワーフの一団が接近しておるという。

 遂にわらわの国の捜索隊が来よったか!


 わらわたちが戻るまでの間はソーマ殿が対応してくれることになったのじゃが、生憎とここは島の最北じゃ。

 マークとサタが最短距離で一気に駆けると申しておるのじゃが……なんだか猛烈に悪い予感がするのう……。


 ひええええ~~!! やはりわらわの悪い予感は当たった。

 マークたちは凄まじい速度で木々の隙間を駆け抜け、崖や谷間を飛び越えよる!

 わらわたちも乗っておるのじゃから、もう少し優しく駆けてたもれぇ~~!


 しかしその甲斐あってか、家の近くまでは直ぐに戻れた。

 で、遠目からソーマ殿の様子を見ると、騎士団の連中となにやら揉めておるようじゃ。

 ええい! あの馬鹿共めが! よりにもよって恩人であるソーマ殿に刃を向けるとはけしからん!


 わらわはマークたちに指示を出し、ソーマ殿に悟られぬよう家の屋根まで運んでもらった。

 屋根から確認すると、ドラン爺にエルナイナやダイルまで来ておるではないか。

 しかし相手が悪過ぎる。おぬしらごときでソーマ殿の相手が務まるものか。

 ほれ、エルナイナもダイルもてんで相手にならずに完敗じゃし、ドラン爺の必殺剣も軽々と受け止められよった。

 ほんにソーマ殿の戦いは惚れ惚れするのじゃ~♪

 ……おっとイカンイカン…… そろそろ戦いを止めねばの。

 よいなシルフィー? マークとサタも手筈通りでいくぞい?


 わらわたちは屋根の上から派手に登場して戦いを止めた。

 ふふん……やはり高い所から人を見下ろすのは気分が良いのう。

 おっと、わらわを称える皆に手を振っておる場合ではない。

 早う降りて状況を確認せねば。

 ほれ! みな早う降りるのじゃ! なに? 普通に現れた方が良かったのではじゃと? そういうシルフィーもノリノリだったじゃろうが!


 そんなこんなで、爺を筆頭とした捜索隊全員にソーマ殿への無礼を謝罪させ、今までの経緯をお互いに説明し合って事無きを得た。

 そのあとは捜索隊の皆を労うため、ソーマ殿にお願いして例の仔ホルスタンの肉を使って丸焼きを作ってもらい振舞った。

 わらわの振舞いに皆動揺しておるようじゃが、こればかりは自業自得なので甘んじて受け入れよう。

 ともあれ皆の衆、ここまでの道のり、大変大義であった。

 今宵は存分に食べて飲むがよい!


 ん? 明日の昼前には出港の準備が整うのじゃな? あい了解した。

 ソーマ殿も荷造りの準備をしてたも……え? なに? 行かぬじゃと⁈ なんでじゃ⁈




 その日の夜、宴も終わり皆が寝静まっておるのじゃが、わらわは今も目が冴えて眠れぬ……。

 まさかソーマ殿がこの島から出ぬとは思いもよらなんだ……。

 なぜじゃ? なぜそこまでこの島に拘る?

 いくら説得しても、最後までソーマ殿は首を縦には降ってくれなんだ……。

 ぐぬぬ! 納得できぬモヤモヤのせいで余計に目が冴える!

 隣でぐっすり寝とるシルフィーのなんと呑気な寝顔のことか……。

 こやつは将来大物になりそうな予感がするわ。

 ん? 今風呂場から物音が…… ソーマ殿みたいじゃな……。

 ………………よし! 今一度、今度は裸の付き合いで問いただすのじゃ!

 昔、お爺様も「お互い腹を割って話すのは裸で語り合うのが一番じゃ!」と申しておったしの! いざ突撃じゃ!




 突然風呂場に現れたわらわにソーマ殿が動揺しとる。

 まったく……これしきのことで狼狽えるとは人間とは難儀よのう。


 その後、わらわとソーマ殿は色んな話をした。

 特にソーマ殿のいた世界「地球」の話は驚きばかりであった。

 「インターネット」という技術が世界中に普及し、あらゆる情報が容易に取得でき、また、個々の情報を世界に向けて容易に発信できるじゃと?

 国の数は百を優に超え、言語や文化形態も多種多様。

 宗教上、文化上の理由で何百年も戦争を繰り返している国もあるという……。

 理解できぬ……舞い込んでくる数々の情報がまったく理解できぬ……。

 そんな喧噪に包まれた世界でソーマ殿は生きておられたのか?


 ソーマ殿の暮らしておった国はかなり安全で治安の良い国ではあったそうじゃが、飛び交う情報量は凄まじかったそうじゃ。

 そんな環境で暮らしておったら、静かな生活を求めるのも無理はない話か……。

 「心が疲れる世界」か……あまり想像したくない世界じゃ。


 ソーマ殿の胸の内を知り、少し気も晴れた。

 島を出たくない理由も理解したし、無理強いもせぬ。

 最後にソーマ殿の背中を抱きしめて、わらわも少しだけ胸の内を語った。

 しかし本当にソーマ殿の体は綺麗で華奢じゃのう。

 こんな体のどこにあのような力を秘めておるのか謎じゃが、これも神々の成せる業というものなのかの?


 ともあれ、ソーマ殿の気持ちも理解できたので、風呂から出たあとは、そのまま朝までぐっすりと寝れた。

 うむ、やはり何事も話し合うのが一番じゃ!

 ………………国に帰ったら父上やお爺様……そしてシェリム殿とも話をしよう……。

 皆に話したいことが、今は山ほどあるのじゃ!




 翌朝、スッキリとした気持ちで目が覚めた。

 荷物はシルフィーがまとめてくれたようなので、わらわは最後にカルフェル畑で水やりをした。

 わらわがいなくなっても大きく育つのじゃぞ。

 あと、ソーマ殿にお願いしてパンツをもう五着ほど作ってもらった。

 流石に最初の三着では心もとないので非常に助かるのじゃ。

 わらわもシルフィーも、すっかりパンツとジャージの虜になってしもうた。

 我が国でも同じ衣服を作れる職人はおらんものかのう?


 出港の準備が整ったようなので、わらわたちは浜辺に向かう。

 ソーマ殿やマークたちも見送りに同伴してくれた。

 しかしボートに乗り込もうとしたとき、またもやガンガルドが現れよった!

 じゃが、ソーマ殿はわらわたちを逃がし、一人でそれを相手するそうじゃ。


 ソーマ殿……この島で初めて出会った人間の少年。

 そしてソーマ殿がこの世界にやって来て、初めて出会ったのがわらわじゃ。

 最初の出会いこそ最悪なものじゃったが、お互いに言葉を交わし、そして心を交わし、今は良好な関係を築けておると思っておる。

 ん? この胸の奥に感じる温かい気持ちはなんじゃ?

 …………そうじゃ……わらわはこの気持ちを知っておる。

 かつて母上にも向けていたこの気持ち……。

 じゃが言葉に乗せるには些か恥ずかしいのう……。

 じゃからわらわはこの気持ちを念話で伝えた。

 多分この気持ちは愛や恋などではない。

 純粋にわらわはソーマ殿のことを「大好き」と、そう思うようになってしもうたのじゃろう。

 

 しかしその気持ちを聞いたソーマ殿はどうじゃ?

 顔を真っ赤にして照れてくれておる。

 わはは、そういう反応をしてくれるとは嬉しいのう。

 わらわは精一杯の笑顔でお別れの言葉を言う。

 するとソーマ殿はいつもより少し上機嫌な感じでガンガルドを瞬殺で仕留め、その尻尾を餞別だとボートに投げ入れおった。

 うわはははは! 流石はソーマ殿なのじゃ!

 わらわも凄く楽しかったのじゃ!

 またいつか再び会える日を楽しみにしておるぞ!

 そう、この別れは決して悲しい別れなどではないのじゃから。




 島を離れて三日目の朝がきた。

 今日も絶好の航海日和になりそうで、ドラン爺がいうにはあと二、三日ほどで国に到着の予定じゃ。

 しかし長い船旅での食事はやはり保存食が主で、固いパンと干し肉を戻したスープばかりというのが難点じゃ。

 嗚呼……ソーマ殿の作る絶品料理の数々が恋しいのう………… あ………………コパルを忘れてしもうた……。


ライラ編。もう一回だけ続きます。

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