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神愛転生  作者: クレーン
第二章
42/210

041話:滞在二日目

 火竜の月、二一日の朝。

 オレはというと、朝食の準備をしながらメイリン女史に色々と料理の指導をしている。

 しかし和服に割烹着スタイルのメイリン女史がキッチンに立つと、ホント絵になるねぇ。


「具材に火が通ったら仕上げに塩とコパルを少々入れて、軽く混ぜ合わせたら出来上がりだ」

「コパルを入れるのは最後なのですか?」

「そう。そうするとコパル独特の風味を味わえるようになる。逆に早めに入れると野菜の甘味と調和して味に深みが出るようになるから、その時の食材に合わせて入れるタイミングを変えてみるのもテだ。ただし加熱し過ぎるとコパルが焦げるから、そこだけ注意して」

「なるほど……奥が深いです……」


 そんな感じで野菜炒めを作りながら、まだ寝てる者の起床を待っている感じだ。

 とはいっても、まだ寝てるのはライラだけなんだけどね。




 昨夜はアリオス爺の脚を治した後が、もうそれは大変な騒ぎだった。

 感動の境地に至ったアリオス爺に拳骨を落として沈黙させ、しばらくして目覚めたと思うと、そのままの勢いで全快祝いと称して宴に突入。

 神酒アカツキで精神の鎮静化を図ろうとするも、それもほんの一瞬。

 ノリにノリまくったアリオス爺を筆頭に、みんな飲めや歌えの大宴会に発展。

 落ち着いたのは日付が変わったあとだった。


 とまぁ、そんな感じで宴もお開きとなり、女性陣は以前ライラたちが使ってた部屋で。

 アリオス爺とダイルはリビングで寝てもらった。

 美味い酒と飯をたらふく飲み食いしたせいか、みんな寝付きも早かったわ。


 で、現在に至るわけだが、先ほどからメイリン女史がオレの顔色を伺うように、キョロキョロと視線を彷徨わせている。


「メイリンさん? どうかした?」

「えっ? いや……その……あの……」


 うわ~解りやす! 明らかに何か聞きたそうなリアクションだ。


「何かオレに聞きたいことでもあるの?」

「えと……その……」


 メイリン女史は両手の指先を合わせて擦り合わせながら、モジモジとした仕草を見せる。

 なんだこの可愛い生き物は?

 その可愛さに免じて、できることなら話を聞いてしんぜよう。


「ライラが信用してる人だから、なにかあるなら遠慮なく言ってくれていいよ」

「本当ですか⁈ えっと……その……パ……パン……」


 パン? パンが食べたいのか? でもあいにく小麦が無いんで作れないんだよね~。残念!

 なんて思ってたら全然話が違ってました。


「パンツを……私にも頂戴願えないかと思いまして……」

「…………………………はい?」

「実は姫様が帰国された際、持ち帰られた衣類の中で「パンツ」と呼ばれる下着を一着だけ賜ったのですが、それが凄く穿()き心地が良くてですね…… 詳しく聞いてみたらソーマ様がお作りになられた逸品だとお伺いしまして…… それでその……」


 ……………………あ、そう……パンツ……パンツね……。

 いやいや! 美女からパンツを要求される男とか、どんなシチュエーションだよ!

 しかし思い返してみれば、初めてパンツを穿いたライラとシルフィーも凄く興奮してたし、この世界の女性にとっては新感覚の下着なんだろうね。

 まぁとにかく、それくらいならお安い御用なので快諾しておこう。


「ええ、いいですよ」

「ほ、本当ですか⁈」

「でもライラのだと少しサイズが小さかったでしょう?」

「とんでもございません! 伸縮性も高く、肌に優しい滑らかな素材で今も夢心地です!」


 今も履いてるのね…… 一着しかないのにどんだけ使いまわして――――おっと、そういう想像はレディーに対して失礼だからそこまでだ!

 しかし漫画のヒロインとかなら、今の発言で我に返り「恥ずかしいこと言っちゃった~」とか思って赤面するシーンなのだが、流石は性欲に無頓着なドワーフ族。

 メイリン女史も御多分に漏れず、少し興奮気味ではあるが、実に平然としておられる。


「ハハハ、でもメイリンさんの体型に合ったものだともう少し履き心地も良くなるはずだから、あとで採寸させて下さいね」

「は、はい! 是非お願いします! 嗚呼……これでパンツが毎日着用できるかと思うと、天にも昇る思いです!」


 なんて話をしていたら、ようやくライラが目覚めて眠気眼を擦りながら部屋から出てきた。

 新しく作ってやった、サンタ服を模したパジャマとナイトキャップ姿が実に可愛らしい。


「ソーマ殿にメイリン……おはようなのじゃ~ふぁああああ~~」

「おはよう。って、前にも言っただろ? 女の子が大きな欠伸を見せるんじゃありません。せめて口を手で隠しなさい」

「ソーマ様は淑女の嗜みにも博識がおありなのですね」


 いや、これはオレの親の躾だったんだけどね……。


「ソーマ殿は相変わらず細かいところに厳しいのじゃ……」

「ですが姫様、ソーマ様の仰るとおり、そのような振舞いは直していただきますよ」

「ぐぬぬ……メイリンにソーマ殿の二人が相手では分が悪いのう……。できる限り善処するのじゃ~~っふわわわぁぁぁ~~」


 ありゃりゃ、言ってるそばからこれだよ。

 そんなライラの大きな欠伸を見て、オレとメイリン女史は顔を合わせながら苦笑いをする。

 いやほんと、お互い苦労しますなぁ。




「ところで皆はどうしたのじゃ? 姿が見えぬようじゃが?」


 ライラが濡れタオルで顔を拭きながら訪ねてくる。

 今この家に他の面子はいない。


「みんなは朝早くから、外で武術の稽古をしているよ」

「もしかしてお爺様もかや⁈」

「先武王陛下、脚が完治されたのが余程お喜びの御様子で、他の皆を引き連れて真っ先に飛び出されましたよ」


ズドォオオオオオンンン!!


 なんて話をしていたら、外からもの凄い轟音が鳴り響いた。

 今朝はこれで三度目だ。


「なんじゃ今の音は⁈」


 突然の轟音に驚くライラだが、お前二度目まで寝てたよね?


「メイリンさん、次は誰だと思う?」

「またマクモーガン卿では?」

「オレはエルナイナさんに一票」

「二人して何の話をしておるのじゃ?」

「外に出たらわかるよ……」

「どういうことじゃ?」


 頭にクエスチョンマークを浮かべるライラがドアを開けて外に出ると、家の前に直径五メートルほどのクレーターが三つでき上がっていた。

 そしてその内の一つに、シルフィーが全身ボロボロの某飲茶状態で倒れている。


「ひえええええ! シ、シルフィー! 生きておるかー⁈」

「がっはっはっは! シルフィリアよ! まだまだ精進が足らんぞい!」


 気を失ってるシルフィーを心配して顔面蒼白で駆け寄るライラと、豪快に高笑うアリオス爺。

 そしてそのすぐ側では、全身をガタガタと震わせながら武具を構えるダイルとエルナイナの姿がある。


「マ、マクモーガン卿……陛下のアレ、さっきより威力上がってませんか?」

「じょ、冗談じゃねぇっすよ…… 今あんなのまともに食らったら、いくら訓練用の武器でも死んじまうっすよ!」


 二人ともシルフィー同様、全身ボロボロだ。

 ちなみにこのクレーターはアリオス爺の奥義「爆削斬(ばくさくざん)」が炸裂した跡だ。

 なんでも火魔法「爆裂(エクスプロージョン)」のエネルギーを剣に込めて叩き付ける大技らしいが、正直中二病全開な技なので、個人的に再現してみたいとは思わない……。

 無論アリオス爺も手加減はしているはずだが、右脚が治ったのが余程嬉しいのか、高揚した気分が少し加減具合を誤らせてる様子だ。


 で、一発目の犠牲者がダイルで、二発目がエルナイナ。

 そして三発目にシルフィーが餌食になったって流れだな。

 猪突猛進なエルナイナがまた食らうと思ってたのに……予想が外れたか。


 なんて他人事に思ってるけど、当の本人たちはたまったものじゃないよね。

 それにこれ以上、家の周りを荒らされるのも勘弁して欲しいので、そろそろ助け船を出してやるとするかな?


 今はあくまで訓練なので、みんなオレが作った木製の武具を装備している。

 エルナイナは細身の双剣、ダイルは片手剣と小盾でシルフィーは片手剣のみ。

 そしてアリオス爺は更に大きな大剣だ。


 木製とはいえ、作り自体はかなりしっかりと作り込んだので、まともに食らうと大怪我の恐れもあるが、皆もそれなりに武術に精通した猛者たちなので、手加減などもちゃんとできるだろうと思っていたのだが……。


「おお、ソーマよ! 朝飯はもうできたのか?」


 大剣を肩に担ぎ、仁王立ちしてるアリオス爺は凄く活き活きとした笑顔だが、オレはそんなアリオス爺に飛びかかって頭に拳骨を食らわせる。


「朝飯じゃない! さっきから加減しろって言ってるだろう! 毎回みんなを回復させる身にもなれっての!」

「ごふぅ!!」


 拳骨一発でアリオス爺を沈黙させ、そのままシルフィーに回復魔法をかけて起こしてやる。

 ついでにアリオス爺も回復させて説教したあと、訓練組を風呂に入れてからようやく朝食タイムとなった。




 そんな感じで、二日目は皆で狩りに出かけたり、ホルスタンの乳搾りをしたり農園の世話をしたりと、オレのこの島での生活を体験してもらって一日を過ごした。

 夕方には約束通りメイリン女史の下着を作ることになったのだが、エルナイナも欲しがってたので、まとめて作ってあげた。

 ちなみにメイリン女史は緑の縞パン。エルナイナは黄色の縞パンにした。

 縞パンは正義。ここだけは譲れない……。


 明日の昼頃にはライラたちが帰国するということで、今夜は極上の熟成肉を用意して、量より質を重視した豪華な食事内容にした。

 肉好きのドワーフ族だけに大変好評で、皆の表情もほころんでいる様子だったが、アリオス爺だけ少し浮かない顔をしている。


「どうしたのアリオス爺? 口に合わなかった?」

「ん? いやいや、この肉料理は美味いぞ。正直このような肉は初めて食して驚いておるよ」

「ならいいんだけど…… なにか考え事?」


 オレの言葉を聞いたアリオス爺は顎に手をあてて少し考え込むと、意を決したかのようにオレへ語りかけた。


「のう……ソーマよ、おぬし、我が国に来るつもりはないか?」

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