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神愛転生  作者: クレーン
第二章
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039話:王族の礼と揺れる島

 お昼過ぎにはバーベキュー大会も終了。

 ライラ一行は三日間滞在するとのことで、ハイドワーフ六人全員を連れてオレの家に向かっている途中だ。

 アリオス爺は片脚で長距離の歩きも大変だろうから、以前作ったリヤカーを出して、それに乗ってもらってる。

 以前に比べて柔らかいクッションとかも追加してるので、少しは乗り心地が良いはずだ。

 牽引役はダイルに任せている。


「すまんのう、色々と手間をかけて。五〇年ほど前に魔獣討伐へ出陣した際に不覚を取ってしもうてのう……」

「いえいえ、大したことではないですからお気遣いなく。なにか気になる点があったら遠慮なく仰って下さい。馬車とかがあれば良かったんでしょうが生憎……」

「ホッホッホ! これで十分じゃよ」

「アリオス陛下~ 馬役の俺には労いの言葉は無しっすか~?」

「バカモン! 卿は最近少し弛んどるからこれで鍛え直せ!」

「そりゃないっすよ~」

「ならばわらわも乗ってやるのじゃ! ダイルよ、家に着くまで気張るのじゃぞ!」

「ぐえっ! 急に重く……」


 ライラはそう言いながらリヤカーに飛び乗り、アリオス爺の懐に入る。


「お爺様と一緒なのじゃ~♪」

「ホホッ、ライラは急に甘えん坊になりよったのう」


 こうして見ると、本当に仲睦まじい老人と孫って感じで実に微笑ましい。


 そうこうしている内にアロン道を抜け、オレたち一行は家の前に到着した。

 ダイルが汗ダラダラでヘバっているので、グラスに水を注いで渡してやると、一気にそれを飲み干した。

 そして濡れタオルを渡して額や首筋を冷やすように言ってやる。


「おお! これは良いな! 朦朧とした気分がスッキリするぜ!」

「あはは、熱中症になるから水分補給や体を冷やすのもしっかりとやらないとね」

「水魔法を使えるのにも驚きじゃが、その熱中症……というのは?」

「……え?」


 やはりというか、なんというか、熱中症とかも知らなかったんだな……。

 とりあえず簡単にその症状や対策法を、アリオス爺に説明してあげた。

 こういうのは一時期テレビで散々っぱら説明してたからね。


「なるほどのう……喉の渇きだけではなく、体温の上昇による体調不良か……」

「確かに炎天下の行軍訓練で倒れる兵士は多かったっすね……」

「とにかく小まめな水分の補給と、体温を下げる対策が必要なんです。最悪死に至る場合もありますから」


 そんな一場面もあったが、熱中症の知識はすぐさまメイリン女史によって記録された。

 今後の医療に役立ててくれるそうだ。

 あくまで人間としての知識なので、ドワーフに適用できるかは検証の余地ありと付け加えておいたけど。


「どうやらそちはワシらが思っている以上に、博識な人物なのかも知れんのう……」

「買い被り過ぎですよ」

「それに謙虚なところも――」

「それよりも早く家に入るのじゃ! お爺様ばかりソーマ殿とお話ししててずるいのじゃ! わらわももっとソーマ殿とお話ししたいのじゃ~~!」


 ライラがアリオス爺の言葉を遮って間に割り込む。

 そんなライラの可愛らしい仕草に、オレとアリオス爺は目を合わせて笑い合った。




「おお~! 以前と違って間取りが変わっておるのじゃ~!」


 ライラは家に入るなり、間取りの変わったリビングを見て驚きの声を上げた。

 ふっふっふっ。このひと月半の間に家の中も色々と改装したのだ。


 まずリビングは椅子とテーブルを廃し、ローソファーとローテーブルを作って配置した。

 この方がのんびりとくつろげると思ったからだ。

 特にローソファーは、建築神様の加護による木工技術の知識と、裁縫神様と機械神様の加護の知識の融合技で作り上げた特別性だ。

 このように、複数の加護の力を合わせて行使することができるようになったのも、これまでの研鑚の成果だ。


「うわははは! この椅子、ピョンピョン跳ねて面白いのじゃ!」

「ほほう、これはなんと座り心地の良い椅子じゃ。脚も楽になれるし腰にも優しい。こりゃ格別じゃわ!」


 中にスプリングをタップリと入れてるから腰の負担もかなり軽減されるだろう。

 以前椅子に座ってたドランの爺さんが、何度か立ち上がって腰を伸ばしていたのを見て、腰に優しい椅子を作ろうと考えてたんだ。

 まだピョンピョン跳ねて遊んでるライラはさておき、アリオス爺には好評でなによりだ。


「しかしすまんのう、まさか土足厳禁じゃとは思わなんだでな……」


 アリオス爺が申し訳なさそうに右足の義足をさする。


「気にしないで下さい。別にそこまで拘っているわけじゃないですから、気にせずくつろいで下さい」


 オレはそう言いながら皆にアポルジュースを配る。


「なんと! これは氷なのじゃ!」


 ふふふ、気付いたか。

 これも無限収納の新機能のおかげだ。

 温度を零下に設定すれば水もたちまち氷となる!

 しかも低温冷凍でじっくり時間をかけて凍らせてあるから、透明で溶けにくい。

 家電の冷凍庫で作った白い氷とは質が違うぜ。

 自分の名誉のために言っておくが、決して氷系魔法が使えるサタに嫉妬したのではない! ないのだ!


「暑い日にこれは嬉しいですね」

「う~ん♪ 冷えたジュースが喉に沁みるわぁ~♪」


 シルエル姉妹(今命名)も御満悦のようだ。


 さて、皆も落ち着いて少し和んできたところなので、そろそろ本題に入ろうかな。


「で、ライラ。わざわざこんなところまで何しに来たんだ?」

「だからさっきも言ったであろうに。遊びに来たのじゃ」

「それだけじゃないだろ?」

「ほっほっほ。その先はワシが話そう」


 オレの質問にアリオス爺が座りながらだが、少し背筋を伸ばして姿勢を正す。


「此度ここに訪れたのはワシと(せがれ)……武王シグマの意向での。ライラを助けれくれた恩人殿に、どうしても礼を言いたくてお邪魔させていただいた次第じゃ。生憎倅は王ゆえに国事でもない限り、長期間国を離れるわけにはゆかぬ。そういうことでワシが代役で来たというわけじゃ。すまんのう……娘の恩人なのに不義理を見せてもうて……」

「いえいえ! いや本当にお礼なんて――」

「本当に! ライラを救ってくれて、本当にありがとう!! ソーマ殿よ! アルグランス武王国の王族として、心より厚くお礼申し上げる!!」


 アリオス爺はオレの言葉を遮り、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。

 その光景にライラ以外の皆が驚く。

 そりゃそうだろ? 先代の王であろうが、一国の王族がどこの馬の骨とも解らない人間に頭を下げたんだ。

 そういうのはラノベで結構見たシチュエーションだけど、本当に大事(おおごと)な話なんだよね……。

 だけど、そこでその人物。しいては国の姿も見て取れる。

 多分ライラのお父さん、シグマ武王が来てたとしても、同じことをしただろう。

 オレはこの国の王族は信用できる人達だと直感した。

 だからこそ、オレもキチンと返事をしなきゃいけないな……。


「貴方たちアルグランス武王国王家の謝辞を謹んでお受けします」


 オレもアリオス爺の正面を向いて姿勢を正し、そう告げた。


「さあ、顔を上げて下さい。あまり家臣の者に見せてよいお姿ではありませんよ」

「ほっほっほ、その歳にして礼儀、礼節もしっかりと身についておるどころか、気遣いもできる。こりゃ大した傑物じゃわい」


 アリオス爺は恩人に礼を言えた満足感と、少し緊張の糸が切れたせいか、またいつもの好々爺な爺さんに戻った。

 なかなか食えなさそうな爺さんみたいだ。


「お爺様。わらわの為に斯様なことをさせてしもうて…… ありがとうなのじゃ……」

「なに、可愛い孫娘の命に比べたら安いものじゃわい。ほっほっほ!」


 うっすらと涙を浮かべるライラの頭を、アリオス爺は優しい笑顔で撫でる。

 なんかいいな、この爺さん。かなり気に入ったよ。


「それよりもソーマ殿よ、あの我儘なライラをどうやって大人しくさせたのじゃ? 帰国してからというものの、人が変わったかのように素直になりよって――」

「あわわわわ! お爺様! その話はいいのじゃ~~! って、うわっぷ! こら、マークたちよ! 何をするか!」

「「「「わふん!」」」」


 実に興味深い話をライラが大声で遮ろうとするが、マークたちに指示を出してライラを取り押さえ、詳しくその話を聞いた。


 ライラが帰国したあとだが、まず光の神の聖教会で「懺悔業」と呼ばれる、過去の過ちを悔い改め、心身を清める五日間の修行を率先して(おこな)ったそうだ。

 そのあとは今までに迷惑をかけた家臣や民たちにもお詫びをしたりと、ひと月ほどは「暴君姫、改心す」「ライラ殿下、淑女と生まれ変わる。天変地異の前触れか?」「暴風消ゆ!」などと、国中が大変な大騒ぎだったらしい。


「へぇ~ ほほぅ~ あのライラがそんなことを~」

「ぐにゅう…… 恥ずかしいのじゃぁ~~」


 ソファーとフェンリル家族でサンドイッチ状態のライラの顔は茹で蛸のように真っ赤っかだ。

 でも国に帰ってもしっかりやってるからいいじゃないか。


「恥ずかしがることはないだろう? ちゃんと有言実行してるんだから偉いと思うぞ」

「それでもソーマ殿に聞かれるのは恥ずかしいのじゃあ~~」


 そんなライラの姿に一同みんなで大いに笑い合った。

 と、その時、少し大きな揺れを感じた。また地震だ。


「おおっ! 何事じゃ!」

「大地が揺れてる⁈」

「ひぃいい!! 大地の神の御怒りか⁈」

「みみみ皆様おおおお落ち着かれよよよよよ⁈」

「なんなのじゃこれは⁈」

「この世の終わりっすか⁈⁈」


 なんかみんな大層な驚きようだ……。

 そんな感じで驚く皆を観察してたら地震が納まった。


「今回は結構揺れたな~ 震度四くらいかな?」


 家に異常がないか確認してるオレを、皆が更に驚いたような表情で見つめる。


「な、なんでソーマ殿はそんなに落ち着いておられるのじゃ?」

「大地が揺れたのですよ! それに「しんどよん」ってなんなんですか⁈」


 ライラとシルフィーが落ち着いてるオレを理不尽な存在のように見る。

 いやいや、キミらが驚き過ぎなんだよ?


「いや、大した地震じゃないだろう?」

「「「「「「………………地震?」」」」」」


 嘘……もしかして地震も知らないの?


 オレは皆に先ほどの揺れのメカニズムを、知ってる限りの知識で皆に説明してやった。

 このフォーランドが地球と同じかどうかは怪しいんだけどね。


「なんと、我らが大地がそのような仕組みになっておったとは驚きじゃったわ……」

「断層のズレにプレート…… どれも初めて知る知識です」

「いや、でもこの説明なら、今までの文献に記されてる事象も全部納得のゆく説明ができるかもっす。こりゃ世界の常識がひっくり返る凄い理論っすよ!」


 今の面子の中では博識な部類に入るアリオス爺とメイリン女史、ダイルの三人も、地震の仕組みを知って驚きの声をあげるばかりだ。


 ライラは無論、アリオス爺ですらも地震を体験したことはなく、古い文献で似たような事象が記されてはいるそうだが、それは「大地の神の怒り」、すなわち神の力による天変地異として解釈されているらしい。

 大地の神アストンか…… 今後会う機会があれば詳しく聞いてみよう。


 そんな一幕もあったが、今は皆も落ち着いた様子だ。

 そのあとはお互いに色んな他愛のないお喋りをして穏やかな時間を過ごし、陽も傾いて薄暗くなってきたのでお風呂タイムとなった。

 今回は抜かりないぜ。

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