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神愛転生  作者: クレーン
第二章
37/210

036話:捜索の経緯

 世界樹の月、四日の夕方。

 

 ライラの国「アルグランス武王国」の騎士団たちと遭遇して交戦状態に陥るというトラブルがあったものの、そのとき留守にしていたライラが戻った事でお互いの誤解も無事に解け、先ほどのピリピリした状況と打って変わって、今は多少の穏やかな空気が流れている。


「皆の謝意はソーマ殿に伝わったようじゃが、今後このようなことがないよう、肝に命じるのじゃ」

「「「「「「「ははぁーー!」」」」」」」


 二一人の騎士がまた一斉に(ひざまず)く。

 こうして見ると、本当にライラって一国のお姫様だったんだなと思ってしまう。

 いや……普段がアレだからさ……ちょっとね……。


「ソーマ殿? なんか無礼なことを考えておらぬかや?」

「ソンナコトナイヨー」


 意外に鋭いライラの言葉に、オレは全力ですっとぼける。

 なぜオレの考えがわかったのだ?!


 その後はライラやシルフィーと、その無事を喜ぶ騎士団一行とでいくつかの言葉を交わす。

 特に妹の無事を喜ぶエルナイナは、シルフィーに抱きついて大号泣だ。なかなかいいお姉さんじゃないか。




「しかして爺よ、なぜお主ほどの者が捜索隊におるのじゃ?」

「はっ、実は――」


 ライラの質問にドランの爺さんが今までの経緯を説明しだした。

 その話と今までの流れをまとめるとこうだ――。




 雨の月、九日の夜。 

 ライラが乗船していた船が嵐に遭遇して沈没。


 一〇日。

 ライラとオレが初遭遇。ビンタをかまされた。


 一二日。

 ようやくライラの故郷アルグランス武王国に「ライラ姫遭難」の報がもたらされる。

 そう判断されたのは、ライラが乗船していた船に使用されていた伝書鳩のような鳥「クルッポ」が複数羽、なんの封書も載せずに帰還したからだ。

 恐らく沈没するまでの間に船員がクルッポを全て放ったためと思われる。

 封書無しのクルッポが複数帰還するということは、その船に非常事態が起こったという知らせなのだ。

 武王、つまりライラの父、シグマ・ジーク・アルグランスは直ちに捜索隊を編成させて、ライラ救出の命を下す


 一三日。

 急遽編成されたライラ捜索隊、三隊が出港する。

 帰りの海路と日程からおおよその場所を割り出しはしたが、そこは広い大海原。

 その後のライラ捜索は困難を極めた。


 一八日。

 第二捜索隊が海の魔物「リヴァイアサン」に襲われて壊滅。

 早くも二次災害が発生し、残った二隊に緊張が走る。

 リヴァイアサンに襲われたのは、このゴラス島を中心として南側の海域だったので、残った第一、第三捜索隊は捜索範囲を北側と東側に修正して捜索を継続した。


 二〇日。

 第一捜索隊がゴラス島を発見。

 東側から北側へ上がって上陸し、捜索を開始すべく森に入る。

 が、早々にバイキングウルフに襲われ数名負傷者が出る。

 そして運悪くガンガルドにも遭遇。

 幸い死者は出なかったが早急に撤退する羽目になってしまう。

 そのことから、とてもではないがこの島でライラが生存してる可能性は低いと判断され、調査対象から除外される。

 その話を聞いてライラとシルフィー、そしてオレもうな垂れた。

 南側だったら直ぐに解決できたのに……。

 ちなみにその日はライラたちが最強ガンガルドに襲われ、オレと和解した日だ。

 ガンガルドさえいなければその日か翌日には問題解決できたかも知れないだけに本当に惜しい話だ。

 やはり残りのガンガルドは後日全部退治しよう。慈悲は無い。


 二二日。

 捜索隊に大きな動きはない。

 オレが島の四方にライラ生存の旨を伝える土壁を設置した日だ。


 二三日。

 捜索隊の水と食料が底を尽き始める。

 速度を優先した中型の高速船を使用したための弊害が出てきた。

 このまま捜索を継続すれば三次災害を引き起こし兼ねないと判断した捜索隊隊長は一時撤退を指示。

 同時に母国へクルッポを飛ばして状況を伝えた。


 二五日。

 捜索隊、ライラ姫捜索中断の報が武王へ届く。

 落ち込む武王を励ますべく、ドラン自らが指示を出して特別捜索隊を直ちに編成。

 長期航海の覚悟を決めて大型帆船を選定し、決死の覚悟を武王に伝えてその翌日に出港を開始した


 二七日。

 特別捜索隊が撤退途中の第一、第三捜索隊と合流。

 その中から一部隊員を情報把握の為に特別編成隊へ組み込む。


 三〇日。

 いまだライラ発見の足取りがつかめず、絶望的な空気が流れる。


 世界樹の月、一日。

 今までの捜査結果から総合し、ゴラス島周辺の再調査が立案される。


 そして四日の今日、ゴラス島東側付近まで接近すると、以前には無かった土壁を発見。

 土壁に記された文字と地図を見てライラ生存を確信したドラン一行は、指示通りに浜辺を南下して南側からアロン道を通ってここまでやって来たという流れだ。


 なるほどね。惜しいニアミスがあったものの、やはりあの土壁を造ったのは正解だった。

 ともあれ、ライラを無事に発見できたので、国のお父さんも安心だろう。


「なるほどのう…… 此度のことでは騎士の皆にも随分と苦労をかけたようじゃのう。第二捜索隊の話は残念じゃったが、せめて遺族には償いをせねばならんのう……」


 ライラのその言葉を聞いて皆が仰天する。


「あの姫様が我らに労いの言葉を……」

「そればかりか、遺族にまで気遣いを?」

「これは夢か幻か?」

「やはり偽物……?」


 あーいや……ライラよ……お前ほんとに母国でどんな生活送ってたんだよ?


 動揺する騎士団一行だが、その中で一人、ドランの爺さんは穏やかな表情をしていた。


「姫様…… どうやら成長なされたみたいですな……」

「うむ! 過去のわらわは誠に愚かであった。それを教えてくれたソーマ殿に感謝なのじゃ!」


 アハハハ……改めて面頭向かってそう言われると、照れ臭いというかムズ痒いね。

 そんなことを思っていると、ライラはオレにある提案を持ちかける。


「そうじゃ! ソーマ殿! すまぬが今宵は宴を催してはくれまいか? ここにいる皆に、わらわが以前仕留めた仔ホルスタンの肉を振舞ってやりたいのじゃ!」

「お! それはいいな! ちゃんと捌いていつでも焼ける状態にしてるから直ぐに準備できるぞ」


 楽しくなりそうな宴なら大歓迎だ。

 それじゃあ早速準備にとりかかるとしようかな。

 ちなみにその仔ホルスタンの胃袋だけはチーズ作りに必要なので、別に確保させてもらってる。


「は? 仔ホルスタン? 殿下が仕留めた?」

「それに宴って…… どういうことっすか?」

「うふふ、エルナ姉さまもマクモーガン卿も、その言葉のままですよ。ソーマ殿にお任せすれば万事大丈夫です!」


 エルナイナとダイルの困惑する言葉に対し、シルフィーはフンスと鼻息を荒げてドヤ顔になる。




「おお、そうだ! 姫様の無事を陛下に早くお伝えせねば! おい、カートン!」

「はっ! ドラン様!」


 カートンと呼ばれた、たっぷりと髭を蓄えたドワーフ騎士が東側の岸辺に停泊してる船へ伝令に行くことになったので、オレは念話でマークに指示を出し、このカートン氏を浜辺まで乗せていってやるよう命令した。

 流石に船員たちは動けないので、ガンガルドの肉塊五〇キロほどを布に巻き、船員たちへの差し入れとして持たせてやる。

 カートン氏は驚きながらも肉を受け取ると、そのままマークの背に恐る恐ると跨り、颯爽と東の浜辺へ向かった。

 無論ここでの出来事は他言無用にするよう、ライラから命令してもらってる。

 数分後にマークとカートン氏が戻ってきたので、改めてこの場にいる全員にここでの出来事を口外しないよう、これまたライラから命令してもらう。

 ちなみに船員たちはライラの無事を喜び、直ぐにクルッポを飛ばして母国に吉報を送ったらしいが、その後に出てきた肉を見て更に大喜びだったらしい。


「よいな貴様ら! ソーマ殿のことは絶対に口外してはならぬ! わらわもこの名に懸けて誓ったのじゃ! ゆめゆめ忘れるでないぞ!」

「「「「「「「ははぁーー!」」」」」」」


 ライラの言葉に騎士団全員が平伏(ひれふ)す。

 その時にふとした疑問が出たのでシルフィーに質問した。


「ちなみに口外した場合はどうなるんだ?」

「無論厳罰ですね。最悪処刑か…………あ、そうだ! 姫様が昔の姫様に戻るというのはどうでしょう?」

「「「「「「「天地神明に誓い! ソーマ殿のことを口外致しませぬ!!」」」」」」」


 うお! シルフィーの返答を聞いたとたん、騎士団の面々が一斉に顔を青ざめさせながら、先ほどよりも感情のこもった大きな声で誓いの言葉を立てた。


「おぬしら……わらわをなんだと思っとるんじゃ…………」


 その光景を見たライラの表情は複雑だ。

 うん、自業自得だ。今後も精進しろよ。

 と、心の中でライラへささやかなエールを送る。

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