035話:ごめんなさい 再び
いきなり襲いかかってきたエルナイナを早急に沈黙させ、次に対峙したダイルもチートパワー全開で倒しっちゃった。
我ながら調子に乗りやすい悪い癖が出ちゃった感じ。
少し反省だな。
おろ? 仰向けで気絶してるダイルをよく見ると、皮膚が元の状態に戻ってる。
どうやらダイルが使った身体強化の魔法は気絶すると効果が切れるみたいだな。
いや、状態を確認したら「骨強化」の魔法だけ、まだ効果が持続している。
なるほど、「骨強化」は一度の発動で三〇分効果が持続するタイプで、「筋力強化」と「皮膚鱗化」は効果が発揮されてる間は、術者の意識がある限り、徐々に魔力を消費するタイプみたいだ。
前者は時間が経過するまで任意での解除が不可能。後者の二つは解除可能らしい。
強化系の魔法は種類もさることながら、その効果持続時間の形態もいろいろなタイプがあるんだな。
覚えることが多そうだけど、まぁ高い知力で記憶力も上がってるらしいから、その辺りは大丈夫だろう。
魔法の考察もほどほどにし、今は目の前で少し嬉しそうな表情を浮かべているドランの爺さんに集中しよう。
「二人とも殺しちゃいないから安心してよ」
「ふん、そんなものは見てれば分かること……」
「ここまでやっといてこんなこと言うのもなんだけど、こっちに敵意はない。アンタたちがここに来た理由もライラの捜索なんだろう? だったらこのまま少しだけ大人しくしててもらえるとありがたいかな~って……」
「ガァ~~~~ハッハッハッハッ!!」
うおっと⁈ なんだよこの爺さん? 急に大声で笑いだしてさ……。
「お主に邪な心が無いことは百も承知! そんなものは目を見れば判るわい!」
「じゃあこのまま大人しく……」
「馬鹿を申せ小僧! 今、わしの目の前に強いヤツがおる! こんなに心躍ることがあるか!」
……………… チクショー!! この爺さんも脳筋かよ!!
ドワーフは脳筋、ソーマ覚えた。
ドランはまるで新しい玩具を見つけた子供のような、心から嬉しそうな表情で大剣を手に取り構える。
ったく……仕方ないなぁ……。
聖槍ゲイボルグと聖盾ファランクスを収納し、ドランに合わせて聖剣アロンダイトを取り出して構える。
久しぶりに握ったけど、やっぱデケェな~。そしてカッコイイ!
「ほう…… 双剣や突撃槍だけでなく、大剣も扱えるのか?」
「他にももっと色々扱えるかも知れないよ?」
「それに、その武器が出たり消えたりする魔法も実に興味深い。だが今はそんなことはどうでも良い…… こんな強い男と剣を交えれる機会を与えてくれたことに戦神スクレーダよ、感謝しますぞ!! うおおおおおお!!」
今度そのスクレーダって神様に会う機会があったら絶対文句言ってやる!
「う……ううん……」
「ぐぐ……」
気を失ってたエルナイナとダイルの二人が、ドランの雄叫びで目覚めたようだ。
もう少し寝てると思ってたんだけどね。
>スキル「士気高揚」の影響です
>
>スキル「士気高揚」
>味方の士気を高め、体力・精神力にプラス15%の補整を与える
へぇ~、こりゃ実に指揮官向けの良いスキルだな。
二人が目覚めたのもこれの影響ってことか。
だけど戦闘には参加できそうな状態じゃないな。
大人しくそのまま観戦しててくれると助かる。
「ザ、ザイバッハ伯…………お気を付けて……」
「このガキ……普通じゃないっすよ…………」
「フンッ! 相手の力量も見極めず、浅慮で先走るからそうなる!」
エルナイナとダイルが苦しそうな声でドランに忠告するが、当の本人は逆に二人の戦いぶりを叱咤する。
その言葉に二人は何も言い返せない……。
うん、なんかごめんね……。
「さて小僧、待たせたな……」
「できればこのまま何もせずにずっと待たせてもらえると嬉しいんだけどね……」
「それは叶わぬことよ……」
ドランはオレの正面で堂々と大剣を構える
「▲▲▲……筋力強化 ▲▲▲……筋量増大 ▲▲▲……筋肉耐久上昇 …………フンっ!!」
>ドラン・ザイバッハ
>
>火魔法で筋力80%上昇
>火魔法で筋力150%上昇
>火魔法で筋力200%上昇 スタミナ50%上昇
どんだけ筋肉好きなんだよ! この爺さんは!
しかも身体強化で膨張した筋肉で、腕と肩周りの甲冑がバラバラに吹き飛んだぞ?
「いくぞ小僧! うおおおおおお!!」
ドランが雄叫びと共に、その巨体からは信じられないような速度でオレの眼前まで迫る! これが加速スキルか?
「受けてみよ! 恐斬剣!!」
そして振り上げた大剣を、更に剛力スキルを使って渾身の力を込めて振り降ろす。
うひゃあ~! すんげぇ迫力!……なんだけど、全部丸見えなんだよね……悪いけど。
下手に避けたら逆にひんしゅく買いそうだし、ここは大人しく受けとめておくかな?
ガキィィイイイイインンンンンン!!
オレはアロンダイトを真横に構え、ドランの剣を受け止める。
うん、少し膝を曲げる演出はしたけど、実際は楽勝で受け止められた。
ごめんね、規格外な筋力で。
で、渾身の斬撃を容易く受け止められたドランの爺さんはといえば……。
「ハッ……ハハッ……受け止めよった……受け止めよったぞ! 恐獣をも屠ったワシの渾身の剣を! この小僧が受け止めよった!」
大剣を振り下ろしたままの状態で全身をプルプル震わせている。
ようやく穴からよじ登って出てきたドワーフ騎士たちや、エルナイナとダイルも、まるで信じられないような物を見る目で、口をポカ~ンと開けた状態で言葉も出ない状況だ。
と、その時! オレたちの頭上から聞き覚えのある声が響きわたる。
「な~はっはっは! そこまでじゃ!! 全員武器を下げい!!」
「皆の者! ライラ姫殿下の御前であるぞ! 控えよ!!」
「「ワォオオオオ~~ン!」」
うん、ライラとシルフィーだ。それにマークとサタもいる。
ようやく到着したか……遅いぞまったく!
……というか……なんで家の屋根の上にいる?
しかもその三文芝居みたいなのはなんなのさ?
マークとサタも少しノリノリみたいな感じだし……。
あいつらそんなキャラだったの?
なんてことを考えていたら、いつの間にかドランの爺さんは大剣を地面に下ろして片膝をつく。
「お……おお! 姫様! 御無事でありましたか!」
「殿下!」
「姫様!」
「ライラ姫!」
「姫殿下!」
「ライラ殿下!」
ドランや他の騎士たちも片膝をつきながら喜びの笑顔でライラに歓声を送る。
「うむ! ………………少し待ってたもれ」
ライラはそう言うと、シルフィーやマークたちと屋根の向こう側に消える。
多分裏側から降りてるんだな……。
向こうから「早く降りるのじゃ!」「だから普通に現れましょうっていったのにぃ~」「お主も高い所でノリノリじゃったろうが!」なんて言葉が聞えてきてるが、スルーしておいてやろう。
カッコつけたかっただけか……。
そして家の裏側からライラはマークに跨りながらオレたちの前に悠々と現れた。
騎士たちの前までいくと、マークから降りて腰に手をあて、尊大なポーズで立ち尽くす。
そんなライラに第一声を上げたのはドランの爺さんだった。
「姫様! この度は捜索及び救助が遅れましたこと、誠に申し訳なく――」
「くぉんの! 大馬鹿者らめがぁあああああああ!!」
ドランの言葉を遮って、ライラの怒りの咆哮が飛ぶ!
おいおい、ここまで苦労してお前を助けるために来てくれた人たちに対してそれはないだろう? 確かに救助は遅れたんだろうが、そんな言い方はあんまりだろうが?
なんてことを思っていると、ライラの怒っている理由が違っていた。
「よりにもよって、わらわの恩人であるソーマ殿に刃を向けるとは何事じゃあっ!」
「ひっ、姫様⁈」
「ソーマ殿! 此度の家臣の無礼、平に容赦願いたいのじゃ! どうか許してたもれ!」
「あ、いや、誤解が解けたならオレは別に……」
「本当に申し訳ないのじゃ~!」
まさかの理由でオレも少し押され気味になっていた。
「姫様が……姫様が謝罪を⁈」
「あのライラ殿下が……」
「暴君姫とまで呼ばれた姫様が……人間のガキに頭を……」
「あの殿下が謝っている……」
「う、うそだろ?」
「まさか偽物?」
「嵐の前触れか⁈」
他の騎士たちも今のライラを見て信じられない物を見るような目でザワついている。
というか、この騎士たちのセリフだけでも、ライラが国でどんだけヤンチャしてたかが容易に想像できるよ……。
「ほれ! 貴様らも謝るのじゃ! 全員起立!」
「「「「「「「はっ、はいっ!!」」」」」」」
ライラの一喝で騎士団全員も訳が分からないといった表情のままビシッと立ちあがる。
「こぞ…… い、いや、ソ、ソーマ殿…… 此度は大変な無礼を――」
ドランの爺さんがしどろもどろで謝罪するが、またもやライラの声がそれを遮る。
「バカモ~ン!! 謝る時は「ごめんなさい」なのじゃ~!」
「ご、ごめ? は……はい? で、殿下?」
「姫様、一体なにを? え? ごめんなさい?」
ライラの言葉にエルナイナとダイルが素っ頓狂な声をあげる。
「なんじゃおぬしら? わらわの言葉になんぞ文句でもあるのかや?」
「「いえっ! 何もございません!!」」
そんな二人に対してライラは低い声で目をギラつかせる。
ライラの迫力に圧倒された二人は、その視線を反らすように顔を上に向け、ダラダラと油汗を流しながら再びビシっと直立する。
「よいなおぬしら! さん、はい! ごめんなさい!」
「「「「「「「ごめんなさい!」」」」」」」
二一人の騎士たちが揃ってそう叫びながら、オレの前で一斉に頭を下げる……。
…………ナンだコレ?
「しゃ……謝罪を受け入れます……」
オレの言葉でライラも納得してくれたみたいだ。
「うむ! これでいいのじゃ!」
………………馬鹿のパパかよ……。




