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神愛転生  作者: クレーン
第二章
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034話:授業という名の無双

 騎士団の面々がオレの姿を確認し、ドランが鋭い目つきのまま左手を少し上げると、ドワーフ騎士の連中は扇状に広がりながら武器を手に持ち、オレの前面を包囲するような陣形をとる。

 三人の隊長格はそのままの位置だ。


「ほう……この状況になっても顔色一つ変えぬとは大した胆力だな、人間の小僧」

「いや~、ビビって固まってるんじゃないですか? ドラン殿」

「おい! 貴様は一体何者だ! 殿下はどこにいる!」


 ハイ、お約束の威圧的な敵対行動ありがとうございます。

 まったくドワーフ族ってのは、みんなこんな感じに好戦的なのか?

 まぁライラがアレだっただけに、さもありなんって感じだけど。

 とりあえず向こうがその気なら、こっちもそれ相応に対応させてもらいましょうかね……。


「随分と物騒な人達だな。人に名を訪ねるなら、まずは自分が名乗るのが筋ってものじゃないのかな? 騎士の方々よ」

「なっ! なにを生意気な!」


 オレがそう返答すると、周りの騎士とエルナイナの表情が更に険しくなる。

 今にも襲いかかってきそうな勢いだ。

 だがそんな険悪な空気を吹き飛ばしたのはドランの爺さんだった。


「ガッハハハハ!! こいつは一本取られたのう、エルナよ!」

「なっ! ザイバッハ伯、なにを呑気なことを!」

「アハハ、エルナイナ殿、確かにこの人間の言う通りっスよ」

「マクモーガン卿まで!」


 二人に諭されたエルナイナの顔は、怒りと恥ずかしさで真っ赤っかだ。

 そしてドランはゆっくりとオレの眼前まで近寄ると、背中の剣を手に取って自分の目の前にズンと突き立てる。


「わしの名はドラン・ザイバッハ! アルグランス武王国に忠義を置く老兵である! して小僧、貴様の名は?」


 いちいち小僧ってのが癪に触るが、一〇〇〇歳超えの爺さんに言われちゃ、そこまで目くじらたてるほどでもないか……。


「オレの名はソーマ。あとできればその小僧ってのはやめて欲しいかな?」


 足元にいるキャストとガドラが凄い剣幕で唸っているんでね……。

 オレの命令が無ければ間違いなく噛み付いてるだろう。


『お前ら、気持ちは解るけど、絶対に手出しするなよ』

『は、はい……承知しました……』

『主様~ 言いたい放題言われて悔しいよ~」

『時には我慢することも大事なの!』

『『……御意……』』


 念話でもう一度釘を刺しておく。

 飼い犬の躾も主人の大事な仕事なのだ。


「ふむ、ソーマか…… なかなか響きの良い名であるな」

「そりゃどうも」

「してソーマとやら、あの浜辺にあった巨大な壁を作ったのは貴様か?」

「だとしたら?」


 オレとドランの間に数秒の沈黙が流れるが、その沈黙を破ったのはエルナイナだった。


「ええい! まだるっこしい! こやつを縛り上げて白状させれば済む話ですぞ、ザイバッハ伯!」

「待たんか! エルナ!」


 エルナイナはドランの制止も聞かず、二本の細身の剣を抜いてオレに襲いかかる。

 オイオイ、妹と違って随分と短気なお姉さんだな?

 ナンか最初の頃のライラを思い出すよ……。


 エルナイナは二本の剣でオレの両肩を狙って振り下ろすが、それが届くことはない。


「なっ! なにぃ?!」

「双剣勝負かい? いいぜ、受けてやるよ!」


 エルナイナの双剣はオレの双剣、聖剣フラガラッハの二本にしっかりと受け止められていたからだ。


「貴様! どこから武器を取り出した?!」

「答える必要はない」


 うひひひひ、一回言ってみたかったんだ、このセリフ。


 まぁそれは置いといて、聖剣フラガラッハは剣神様からいただいた聖剣の一つだ。

 刃渡り六〇センチの二本一対で羽のように殆ど重さを感じない、近接戦闘で威力を発揮する聖剣だ。


「ええい、馬鹿者めが! 仕方がない! 騎士団、全員構えよ!」


 先走ったエルナイナを叱咤しながらも、ドランの爺さんが騎士団の連中に指示を出す。

 どうやらオレを包囲して鎮圧するつもりらしい。

 が、悪いけど雑魚に用はない


「■■……(ピット)

「「「「「「「うわぁああああ!!」」」」」」」


 ピットの魔法で隊長以外の騎士を全員、深さニメートルの穴に落としてやった。

 ドワーフ騎士たちの平均身長は一メートル前後の低身なので、直ぐには出てこれないだろう。


「おいおい、こいつ土魔法を使えるのかよ?!」

「油断するなダイル! こやつ只者ではないぞ!」


 ドランがさっき突き立てた大剣を。

 ダイルもランスと大盾を構えて臨戦態勢をとる。

 だが今はエルナイナと交戦中なので、大型武器である二人はなかなか加勢しにくいようだ。

 なら最初にこのお姉さんから片付けるか。


「せいっ! はぁ! とうっ!」


 双剣を巧みに操ってオレを斬りつけるが遅すぎだ。

 どの攻撃も全部オレの聖剣で簡単に受け止めて捌ける。


「どうしたどうした! 双剣は手数と速さが肝だ。そんな少ない手数とノロい太刀筋じゃ双剣使いの名が泣くぞ!」

「なにを生意気な!」

「あんた……シルフィリアさんの姉妹だろ?」


 つば競り合いをしながらシルフィーの名前を出してみる。


「なっ! 貴様、シルフィーを知っているのか⁈」

「やっぱりそうか、目元がそっくりだと思って……なっ!」


 言葉の最後に力を込めて、エルナイナを後方へ弾き飛ばす。


「貴様! シルフィーをどこへやった! 答えろ!」

「だから今、ライラとシルフィリアさんは出かけてるんだよ! もうすぐ戻ってくるから大人しく待っててくれよ」

「こんな危険な無人島で殿下と出かけてるだと!! 戯言を!!」


 エルナイナは聞く耳持たずで再び襲いかかる。

 あ~もう、本当に面倒臭いお姉さんだな~!


 斬撃から刺突の攻撃に切り替えたエルナイナだが、それでも全然対処できる速度だ。

 オレも同じ刺突で全ての攻撃を捌いてゆく。

 傍から見てれば凄まじい攻撃の応酬に見えるんだろうが、正直剣一本でも余裕で対処できるわコレ。

 少し飽きてきたので、ちょっとだけ力を込めてエルナイナの双剣を後方へ弾き飛ばしてやった。


「そっ、そんな馬鹿な⁈」


 エルナイナは弾き飛んだ剣に一瞬だけ視線を向けたが、オレに視線を戻すと既に目の前にまで接近していたことに気付き、絶望的な表情で硬直する。


「ハイ、双剣の授業はこれにて終了。次までにもっと修練するようにねっ!」


 そう言い残し、エルナイナの腹に膝蹴りを入れて吹き飛ばす。

 甲冑の上からだから大した怪我にはならんだろう?


「おいおいマジかよ? エルナイナ殿がまるで赤子扱いじゃないの?」


 吹き飛んで沈黙したエルナイナを見てダイルが冷や汗を流す。


「お次はお兄さんかい? 得物はランスと大盾か……」


 聖剣フラガラッハを収納し、右手に聖槍ゲイボルグ。

 左手に聖盾ファランクスを取り出し、ダイルと同じスタイルで構える。


「なっ?! 何も無いところから武器が消えたり現れたり⁈ ナンだありゃ⁈」

「ダイル! こやつ怪しげな魔術を使いよるぞ! 心してかかれ!」


 二人は無限収納の光景に驚きの声を上げる。

 いや~ なんか久しいリアクションで少し面白くなってきたよ♪


「こいよ兄さん。突撃槍と盾の授業始めようぜ!」

「へっ……へへっ…… 随分とナマ言ってくれるじゃないの? 後悔すんなよ!」


 オレの挑発に少し反応は示したが、流石は一五九歳。無駄に歳は重ねてないね。

 直ぐには突進せず、大きく深呼吸しながら冷静に構えをとる。


「▲▲▲……筋力強化(ビルドアップ) ■■■……骨強化(アイアンボーン) ■■■……皮膚鱗化(リザードスキン)


 ん? 見慣れない魔法だな? なんだありゃ? 皮膚が全部爬虫類の鱗のように変化したぞ?


>ダイル・マクモーガン

>火魔法で筋力80%上昇

>土魔法で骨を硬質化

>土魔法で皮膚を鱗状に硬質化・防御力30%上昇


 へぇ~ 火魔法や土魔法ってこういう身体強化系のもあるんだ。

 あとで教えてくれないかな?


「いくぞ! 人間のガキ!」


 ダイルは正面に盾を構え、その横からしっかりと腋を締めながらランスを短く突き出した突撃姿勢で突進する。

 お手本のような綺麗な姿勢。突撃槍術の基本が全てしっかりと身についている突進は実に見事だ。


「せいりゃっ!!」


 まずは軽く挨拶と言わんばかりに、穂先をオレの盾にかすめるように当てて横を過ぎ去りながら反転し、最初の姿勢に戻る。

 かすめるだけだったが、盾越しにいい振動が伝わってくる。

 なかなか力のこもったいい突きだ。

 身体強化の影響だなこれは。


「なかなかいい突きだね。基本に忠実で実に重みのある一撃だ」

「へへっ そうだろ? 次は本気でお前を狙う。降参するなら今の内だぜ?」

「じゃあ本格的に授業開始しようか?」


 オレの余裕の返答に対し、ダイルの眉がピクリと動いた。

 この程度の挑発で心乱してちゃイカンですよ?


 ダイルは先ほどの突進とは違い、今度は先の姿勢のままでジリジリと歩きながら接近してくる。

 どうやら突撃槍による突き合いを御所望らしいな。

 だったら相手してやんよ!


「シュッ!」


 ダイルはランスの有効範囲に入った瞬間、鋭い突きを繰り出す。

 しかししっかりと見えているので難なく盾でそれを防ぐ。

 お返しとばかりにオレも軽く突きを繰り出すが、ダイルもそれを盾で防ぐ。

 一見すればお互い交互に同じ攻撃を繰り出し防いだように見えるだろうが、決定的な違いがあった。


「んなっ⁈」


 ダイルはオレの突きを受けて少し後ろに後退……いや、後方へ弾き飛ばされる。

 所謂ノックバックというやつだ。

 無論オレは微動だにしていない。


「槍の扱いはそれなりだけど、盾の使い方がまだなっちゃいないね」


 もっとも、槍に関しても少し身体強化魔法に頼ってる部分が若干見受けられる。

 これでは折角の基本も台無しだ。

 力任せの部分が大きくて精度が甘い。


「なにを知った風な口をっ!」


 激昂したダイルが体勢を整えて素早く三連突きを繰り出すが、全て盾で防ぐ。

 盾はまともに受けるんじゃなく、その都度角度を調整して相手の力を分散させることに盾術の奥義がある。


「突きの精度が甘いよ! あと攻撃時でも盾に意識を向ける!」

「ぐわっ!」


 その証拠に、オレがカウンターで繰り出したたった一つの軽めの突きで、ダイルはまた少し後方へ弾き飛ばされる。

 オレの突きをまともに正面から盾で受けようとするからそうなるんだ。

 同じドワーフの盾神様が見たら泣くよ?


 そろそろ授業も終わりとしようかな。

 オレはそう思いながら少し後ろへ下がる。


「油断したな! もらったぁあああ!!」

「ほいっとな」


 オレの後退に反応したダイルはその隙を見逃さず、渾身の力を込めながら身体と腕を伸ばして突きを放つ。

 やれやれ、これが罠とも気付かずに……。


「う……嘘……だろ……?」


 ダイルの表情が驚愕に変わる。

 オレがダイルの突きの穂先にゲイボルグの穂先を合わせてその突撃を止めたからだ。

 某男漫画の奥義をリアルに再現できました! 流石は槍神様の加護の力!


 ダイルは力でそれを押し込もうとするが――


「無駄だよ……」

「ぐっ! ぐぐっ! くそ! なんで動かないんだよ⁈」


 ――オレは微動だにしない。

 この状況になったら力だけの問題じゃないんだよ。

 そして次の瞬間、ダイルのランスは穂先からヒビが入って粉々に砕け散る。


 そして――


「ばっ……馬鹿なっ⁈」

「ハイ、よそ見してガード()けな~い」


 ダイルが砕けた穂先に気を取られたほんの一瞬だが盾が横に開いた。

 オレはその隙を見逃さず、ファランクスを前面に突き出したままそれを思いっきりダイルの全身にぶつけてやる。

 いわゆる盾攻撃(シールドバッシュ)ってやつだ。

 しかも発勁の技術も混ぜ込んだ一撃だから、コイツは効っくぞお~!


「グハッァァアアアアア⁈⁈」


 その上よそ見したせいで足の踏ん張りも碌に効いてない状態からモロに食らったので、数メートルほど宙に浮きながら吹き飛び、そのままゴロゴロと転がりこんで沈黙した。

 普通の人間なら骨が数本砕けてる衝撃だろうけど、防御系の魔法で強化されてるから大丈夫だろ?


「はい、突撃槍と盾の授業はこれにてお開きっと……」

「し、信じられん…… エルナに続いてダイルまでもがこうも容易く……」


 先ほどまでの戦闘を見たドランの爺さんが驚きの表情を見せている。

 できればこのまま大人しく話を聞いて欲しいんだけどなぁ……。

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