031話:信頼の証
聖杯や神酒の確認をしていたら日の出の時間になっていた。
朝日がフェンリル家族の姿を鮮やかに照らし出す。
白と思っていた体毛は、少し金が混じった銀だった。
朝日に照らされてキラキラと輝く姿は実に幻想的だ。
改めてこのフェンリル家族を観察する。
父フェンリルはレベル二七〇で、額にはエメラルドのような緑色の宝石のような物が埋め込まれている。
スキルは威嚇(強大)、隠密(強大)、噛み付き(強大)、加速(強大)、風魔法(極大)等々、全部で一〇と実に多彩だ。流石は神獣。
母フェンリルはレベル二三八。
同じように額には青い宝石があり、スキルは水魔法(極大)を含めて八つ。
さっき雄のスコルが「姉上」と呼んでいたから、雌のスコルが姉スコルね。
レベルは一二二で額には赤い宝石。
スキルは火魔法(極大)を含めて七つ。
最後に雄の弟スコルがレベル一一七で、額には茶色い宝石。
スキルは土魔法(極大)を含めて七つ。
四頭に共通してるのはスキルとは別にユニークスキルが存在してることだ。
四頭とも「偽装変化」「眷属強化」「神威(獣)」というスキルを持っている。
細かく検証したいところではあるが、今はそれよりもこのフェンリル家族との対話が先だ。
幸い言葉は喋れるので非常に確かる。
「待たせてすまなかった」
「何を言われます。我ら一同、主様の御命令とあらば何年でも伏せていましょうぞ」
「左様。我らが存在は主様のために御座います」
「死ねと命じられれば、喜んでこの命を差し出しましょう」
「なんなりと御命令下さい! 主様!」
お、おう…… なんだか知らんが凄い持ち上げようだ。
オレ自身は羽振りがいい時に軽く飯を奢ってやったくらいの感覚だったんだけど、凄く恩義に感じてくれてるみたいだな……。少し心が痛む。
「あ、いや、敵対しないってんなら、命を奪う気はさらさらないんだけどね」
「お優しきお心遣い……感激に御座います!」
父フェンリルがそういうと、他の家族も尻尾をブンブンと振りながら安堵の息をもらす。
「我らが主様の聖杯の力によってこの姿に変化する時に神の声が聞えました。貴方様に仕えよと。主様、どうか我ら一同を貴方様の配下となる許可をいただきたい……」
「なんと神の声が……」
「ソーマ殿、これはどういう……? それにその杯は一体……?」
父フェンリルの言葉にドワーフ娘たちが反応する。
う~ん……こりゃもう隠しようが無ぇな……。
異常な身体能力に超レアスキルな魔法や錬金術の数々。
そして只の獣を神獣へと進化させるアイテムの所持。
ここまで見て聞かれちゃ、誤魔化すのも無理だ。
でも一応確認はしておこう。
「お前たちは神獣となったことで、オレがどういう存在なのか理解しているってことで間違いはないか?」
「「「「御意!」」」」
「ちなみにさっきの神の声の話だけど、正確にはオレに「仕えるっしゅ」って言葉使いだったよな?」
「「「「御意!!」」」」
…………腹、決めるか……。
「ライラにシルフィリアさん、とても大事な話がある。聞いてくれるか?」
真剣な表情で二人に話を持ち掛ける。
今までにない異常な光景と今までの会話を聞いて、オレがこれから話す内容が今までとは次元が違うことを察した様子だ。
二人とも真剣な眼差しでオレを見つめている。
「うむ、その話、聞こう!」
「私も是非お聞かせ願いたいです!」
「言っておくけど聞いたら最後。後戻りできないぞ? それでもいいか?」
「フッ……それに関しては今更じゃな」
「ええ、ソーマ殿が神の使いであったとしても驚くことはありません!」
シルフィーの核心を突く言葉に少し苦笑いしちまった。
神の使いではないけど、似たような感じだからね……。
ともあれ言質は取ったので、フェンリル家族の前で二人にオレの正体を明らかにする。
「ステータスを可視化で。フォーランド東大陸の言語に翻訳して表示」
二人の前でオレのステータス画面を見えるように表示した。
「こっ、これは⁈」
「もしかしてソーマ殿のステータス…………レベル七六三⁈⁈」
「なんということじゃ…… しかも見よシルフィー! この膨大な神の加護の数々を!」
「ソーマ殿……貴方は一体何者なのですか?」
「オレはこのフォーランドとは違う、別の異世界から神様たちの加護を受けてやって来た人間だ。この体もその時に神様たちが与えてくれたもので、本当のオレは十五歳じゃなくて四十歳だ」
………………言っちゃった。
その後は神様の世界のことを少しと、オレがこの世界にやってきた理由を二人に話して少し落ち着いた。
が、少しスッキリしたオレに反して、二人は神妙な面持ちだ。
「ふむ……しかしこれはチト困ったのう……」
「ええ……まさか神の使いでもあり、異世界の住人であったとは……」
「やっぱり困るか?」
「いや、困ると申すか……わらわたちは怖いのじゃよ、ソーマ殿……」
…………そうだよな~、やっぱり怖いよな~。
理屈では理解してても、こうして言葉で言われるとやはりショックだ……自分が畏怖の対象として見られるってのは……。
軽くヘコむ……。
「ああ! 違うのじゃ! 怖いと言っておるのはソーマ殿自身のことではない! その力が他の者に知れたらと考えればの話なのじゃ」
「え?」
軽く表情を曇らせてしまったオレに、ライラが慌てて弁解する。
どういうことだ?
「ソーマ殿、そなたはわらわたちの命を救ってくれただけでなく、今まで経験したことがないことを沢山体験させてくれておる。正直毎日が楽しいのじゃ!」
「そうです。ですがその楽しい体験はどれも我々にとって未知のものばかり。当然人里に出ればこの力を悪用しようと思う不届きな輩も現れましょう。その時に我々がソーマ殿をお守りできるのか? そのことを考えれば怖くなるのです……」
………………。
オレは自分自身の頬を思いっきり引っ叩いた。
突然の奇行に驚く皆だったが、なんでもないと伝えて安心させる。
激しい痛みが頬に伝わるが、妙にそれが心地いいや……。
なんだよ……なんなんだよコイツら……いい娘すぎるじゃないか!
確かにオレは二人の命を助けたけど、それは成り行きだ。
なによりライラと仲違いしてる時でも助けてやりたいと思ってたのはオレの方だ。
ライラ自身は直ぐに救助が来ると踏んで、自分の意地を貫き通したのにだ。
そう……今のこの状況は全部オレの勝手で進めただけだ。
言ってみればオレが二人を巻き込んだようなものだ。
なのにこの二人ときたら……そんなオレを本当に真剣に守ってくれようとしてる……。
こんなに嬉しいことがあるかい?!
そんなことを思いながら感動してるオレだが、二人の真剣な表情はまだ解けない。
少しの間だけ沈黙が流れたが、先にライラの口が開いた
「ソーマ殿、此度の話は我らにとっても大変な驚きじゃったが、この秘密はここにいる者のみに止めねばならぬ大事な話じゃ」
「ええ、下手に広がれば世界の勢力図が大きく揺らぐ事態にも発展しかねません」
「勿論、わらわたちはこの秘密を口外せぬと厳守するつもりじゃが……」
「もし精神支配などの魔法を使われたら、どこまでこの秘密を守れるのか? 正直悩んでいます……」
なるほどね。自分の意志以外の力がかかると、二人の秘密を厳守しようとする意志も破られてしまうのか……。ん? そういやこういうのに打ってつけの能力があったな……。
正直この能力の行使には少し躊躇いもあったけど、オレはこの二人を今、本当に信頼しようとしてる。
だからこその、この能力だ。
これはお互いの信頼を証明する証なんだ……。
なんとなくこの能力の本質が見えた気がしますよ、神様の皆さん……。
「なら一つだけいい方法がある」
「それはなんじゃ?」
「二人とも、オレの眷属になってくれないか?」




