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神愛転生  作者: クレーン
第二章
29/210

028話:狼家族

 世界樹の月、一日。


 五日間にも及ぶ長雨も昨夜にようやく鳴りを潜め、今日は朝から非常に静かな晴天となった。

 先月は「雨の月」の名に偽りなしだったね。


 ゲームはというと、結局あの後三人がかりでクリアまでした。

 オレは殆ど後ろで見ていただけだけどね。


 最終ステージの迷路をすっかりど忘れしてて、なかなか突破できなかったから余ったお金でネットか攻略本で調べようと思ったら、なんとネットの使用は銀貨一〇〇〇枚。

 書物の閲覧は一番安い漫画類で一冊辺り銀貨二〇枚が必要。

 ゲーム攻略本の類は大体銀貨三〇枚から二〇〇枚が必要だった。

 特にレトロゲームの類になると値段が高くなる傾向で、超配管工兄弟(スーパーなにがしブラザーズ)の攻略本数種は軒並み銀貨一三〇枚を要した。

 大銀貨五枚で銀貨五〇枚分なので、残り四八枚では全然足りなかったのだ。

 つか、ゲームのお値段と比べて格差ありすぎじゃね?

 ちなみにオレの知識で不足してる科学、化学系の専門書になると銀貨五〇〇枚前後もした。

 知識という物は恐ろしくお金がかかることを痛感する。


 そんなわけで三人で試行錯誤しまくって、昨夜遅くにようやくクリアできた。

 でもなんか、少年の時の情報が少ない時代に友人たちとあーだこーだ言いながらクリアした感動が再び味わえた感じがする。

 オレが死んだ時の時代は情報に満ち溢れて、何事も「速さが全て」みたいな感じもあったからね……。

 こうして少しだけ不便なところを感じて、不便なりに楽しかった時代を思い出した次第だ。


 そんなことを思いながら朝食を作っていると、眠気眼を擦りながら、昨夜ゲームをクリアした功労者ライラが起床した。

 うん……昨日まで三日間、ずっとゲームしてました。


「ふわぁあああ~~ ソーマ殿、おはようなのじゃ……」

「おはようさん。まだ眠たそうだけど大丈夫か?」

「心配無用なのじゃ…… 今日からまた働くのでな……」

「よし、いい心掛けだ。じゃあシルフィリアさんも呼んで朝食にしよう」


 外で剣の素振りをしているシルフィーを呼び、三人で朝食にした。




してソーマ殿(ひてホーマほの)今日はどのような(ひょうはほのような)ご予定を(ほよへいほ)?」


 シルフィーがマッシュポテトを頬張りながら質問してきた。

 喋る時は飲み込んでからにしなさい。

 なんかこの人も段々と砕けた感じになってきたなぁ……。

 案外こっちの方が素なのかな?


「今日は少し北側の森に行ってみようかと思ってる」


 目的は北側の森にあるコパルの実の確保だ。

 地図検索で確認したところ、昨夜までの長雨の影響で少し数が減っているみたいだから、残りの実だけでも根こそぎ採取しようと考えていた。


 だが一つ問題点がある。

 島の北側は総じてレベル高めの肉食動物が多い危険地帯なのだ。

 オレ一人なら問題ないだろうが、ライラとシルフィーを連れてゆくとなると話が違ってくる。


「わらわも行きたいのじゃ!」


 ほらきた……。

 ライラが行くとなると、シルフィーも自動的についてくることになるので護衛の手間が増えるのが面倒なんだよねぇ……。


「あーでも北の森はかなり危険だぞ? 二人は留守番してたほうが……」

「ソーマ殿がおれば大丈夫じゃろう?」

姫様の護衛は(ひめひゃまのほえいは)できる限り(へひるはひり)私がしますから(わらひがひまふから)手に負えない時だけ(へにほえないほひらけ)ソーマ殿に(ホーマほのに)お任せします(ほまかへひまふ)

「シルフィリアさん……喋る時は飲み込んでからにしてくれ……」


 あーアカン。これは完全についてくる気満々な顔だ。

 でもまぁ、ゲームで少し気晴らしできたとはいえ、久しぶりの晴天だ。

 やっぱり二人も外で体動かしたいんだろうな。

 しゃあない、少し面倒だけど連れてってやるか。


「わかったよ。だけど絶対オレのいうことを守るんだぞ」

「了解したのじゃ!」

お供させて(おほもはへへ)もらいます(もらいまふ)




 そんなこんなで朝食を終えたオレたち一行は、中央の火山帯を西の森から迂回して北の森へ向かった。

 最初は徒歩で向かっていたけど流石に時間がかかり過ぎるので、途中から二人を両脇に抱えて全力疾走した。

 猛スピードで走り、途中いくつかの崖から飛び降りることもあってその度に二人が悲鳴を上げていたが、無理についてきたんだからそれくらいのリスクは負ってもらおう。

 大自然はかくも厳しいものなのだよ。




「よし、到着っと」

「はぁはぁ……ひぃひぃ…… か、過激な行進だったのじゃ……」

「こ、腰が……抜けて……」


 ハハハ、少しやり過ぎたな。

 二人とも降ろした途端、地面にへたり込んでしまった。


「少し休憩したら森を進んで目的地まで行くぞー」


 差し出した水を飲む二人にそう言いながら、地図検索でコパルや害獣の詳細な位置を確認する。

 すると、今いる森を少し進んだ所でバイキングウルフ四頭の群れを発見した。

 しかし妙だ? バイキングウルフは基本的にこんな覆い茂った森の中にはおらず、草原近くでホルスタンやランサーディアーを単独で狩る動物だ。

 今までに何度か遭遇したことがあるが、どれも単独だったから少し怪しいな……。

 三頭はどうやらこの先にある崖の洞穴の中で動かないみたいで、残り一頭が洞穴の外でウロウロと動いている。

 どうやら外の一頭は見張りをしているようだ。


 地図レーダーで外にいる一頭の詳細な情報を引き出す。


>狂狼「バイキングウルフ」

>レベル42

>ステータス

>HP  :380

>MP  :  0

>FP  :  0

>スタミナ:250

>全長3メートル

>成獣

>オス

>スキル「噛み付き」「威嚇(小)」「隠密(中)」


 レベル四二か……、これなら問題はないな。

 どのみちその崖の奥側に行かないとコパルが手に入らないから突き進もう。


「この先にバイキングウルフ四頭の群れがいるみたいだけど行くぞ」

「バイキングウルフじゃと?!」

「だ、大丈夫なんですか?」

「問題ない。二人には厳しい相手だけど、襲われた時はオレがなんとかするから、その時は後ろに下がっててくれ」


 二人にそう言いくるめて森を突き進む。

 すると向こうもこちらに気付いたのか、洞穴の手前でピタリと動かなくなったみたいだ。


 ん? なぜ動かない?

 バイキングウルフは基本的に凶暴な狼で、その俊敏性と隠密スキルの特性を活かした狩りをする獣だ。

 こちらの動きが判っているなら、真っ先に忍び寄ってから襲いかかってくるはずなのに、なぜ動こうとしない?

 そんなことを思いながら森を抜けると、こちらを警戒してるバイキングウルフと遭遇した。


グルルルル……! バオォオオオオオ!!


>敵のスキル「威嚇(小)」をレジストしました


 なかなかの威嚇だが、その程度じゃびくともしないな!

 では今度はこちらも……。


「うおらぁああああああ!!!!」


 あらんばかりの声を上げて眼前にいるバイキングウルフを威嚇スキルで怯ませる。

 お、効いてる効いてる。

 オレの威嚇をモロに受けたバイキングウルフは、脚をガタつかせながら少し後ろに下がる……が、今だにオレに対する戦意を無くさず小さな声で唸り声を上げている。


グルゥゥウウウウ…………


 なぜ退かない? 今ので相手の強さは解ってるはずだろう?




 ……………………。


 あ、もしかして?

 直ぐに地図レーダーで洞穴内にいる残り三頭の情報を引き出す。




 やっぱり……。


 オレの確認が済んだと同時に、一匹の小さなバイキングウルフの子供がヒョコっと洞穴の中から出てきた。

 バイキングウルフは慌ててその子供を洞穴内に押し戻そうとするが、そんなことをしている間にもう一匹の子供も出てくる。

 子供はどちらもレベル一だ。

 そして洞穴内にいた成獣のバイキングウルフもヨロヨロと力無い歩みだが、こちらを警戒した鋭い目つきをしながら外に出てくる。

 そうか……こいつら家族か……。


 状態とかを確認すると、出てきた雌……母ウルフが「疲労(中度)」「空腹(重度)」となっており、かなり痩せ細っている感じだ。

 子供二匹は「空腹(軽度)」。

 そしてオレと対峙した雄が父ウルフで「疲労(中度)」「空腹(中度)」となっている。


 ……なるほどね、子供がいるから父親は巣穴から遠出できない。

 とかいってこの北の森では草食動物も少なく、エサも確保できずにこの洞穴へ籠っていたわけか。

 しかも母親と子供の状態からすると、恐らく母親が疲労し過ぎて乳が出なくなったってところか?


 オレが無限収納からガンガルドの胸肉を一塊(ひとかたまり)取り出すと、父ウルフと母ウルフがじっとこの肉を見つめる。

 すると親ウルフが肉に気を取られている隙に、子供二匹がオレに向かってヨタヨタと近寄ってきた。

 だが親ウルフたちは動けない。

 さっきの威嚇でオレの強さが理解できてるからだ。

 この子供たちはまだ赤ん坊にも近く、その辺りが解ってないんだろうな。

 子供を救うために手を出したくても出せない……。

 うん、実に野生動物らしい反応だ。

 ここで子供が死んだとしても、親が逃げて生き残れば、また種を繋ぐ手段はあるからだ。


 だけどオレ、一応人間なんだよね。

 そして今オレの足元で無邪気にじゃれ付くバイキングウルフの子供二匹……。

 ああもう我慢できん!

 オレは胸肉を親ウルフの方へ投げ込むと、その場に座り込んで子供二匹の頭を撫でてやった。

 うおー!! このモフモフの感触たまりません! モフモフは正義!


 親ウルフは肉と子供、交互に視線を送って困惑している様子だ。

 オレも鬼じゃない。

 食べるものには困ってないし、そっちに敵意がないなら無益な殺生はしないよ。

 そう訴えるように親ウルフの目を見つめると、向こうもそれを理解したのか?

 親ウルフはその場で伏せの姿勢になる。


 オレはじゃれ付く子供二匹を抱え上げて親ウルフに近づき下ろしてやる。

 よし、襲ってくる気配はないな。

 そして取り出したコンツァーで肉を小さく切り分けて肉片を差し出すと、親ウルフたちは最初スンスンと鼻を近づけて匂いを嗅ぐと、伏せの姿勢のまま、ゆっくりとそれを食べだした。

 そして聖杯テンリョウを一枚取り出し、それに牛乳を入れて子供にも飲ませてやる。

 すると、親たちも喉が渇いていたのか? 親子仲むつまじくペロペロと牛乳を飲む。

 あっという間になくなったので、追加の牛乳を注いでやる。

 肉もたっぷりあるから、たんとお食べ。


 父ウルフの頭に手を近づけるが抵抗する気配はない。

 そのまま頭に手を置いて撫でてやると、先ほどまでと違って実に気持ちよさそうな表情をする。

 母親の方は子供を産んでかなり体力を消耗してるみたいなので、回復魔法もかけてやった。

 疲労が軽度にまで下がったので、もう大丈夫だろう。


「ソ、ソーマ殿~」

「もう……大丈夫かのう?」


 ライラたちが恐る恐る小声で話しながら近づいてくる。


「ああ、もう大丈夫だ。大人しくさせることができたよ」


 肉を取り出してからここまでの流れは全部、先日手に入れた調教スキルのおかげだ。

 詳しい理屈はまだ解らないが、どうすれば獣を大人しくさせ、どうすれば手懐けることができるのか? その思考や行動が自然とできるようになっていた。

 まったくスキル様様だね。




 そんなこんなで三人と四頭で楽しく昼食を食べたあと、巣穴の中を鍛冶で作ったスコップを使って少し掘って拡張し、そこに十分な肉と水を置いてその場を去った。

 子供二匹を挟んで父ウルフと母ウルフがお座りの姿勢をしたまま、姿が見えなくなるまで見送りをしてくれた。

 折角なので、この四頭にもマーキングをしておこう。


 その後は単独のバイキングウルフから三度ほど襲撃されたが、全部撃退してお肉になってもらった。

 その合間にコパルの実を根こそぎ回収し、今日の仕事を終えた。

 ライラたちも少し欲しがっていたので、もし帰国することになったら今日の回収分の二割分だけ進呈することで話が付いた。

 それでも製粉したら四〇〇グラム分くらいにはなるだろう。

 

「国で豪華な別荘でも建てる気なのか?」

「全部料理に使うのじゃ!」

「そうですよ! 勿体ない!」


 ハハハ、流石はドワーフ。花より団子だね。




 かくして日が沈む直前に帰宅し、風呂で汗を流して夕食にする。

 粗びきコパルを使った肉野菜炒めを腹一杯食べた。

 やっぱり米欲しいなぁ……。


 その後は他愛のない話をしながら夜をすごし、流石に今日の疲れが出たのか、ライラが頭をこくりこくりと揺らしだしたので就寝する。


 明日の予定はまだ決めてないけど、また楽しい一日になればいいなと思いつつ瞼を閉じる




 その日の深夜、島のどこからか、獣の遠吠えが鳴り響く。

 それはあたかも四重奏の調(しら)べの如き、美しい遠吠えであった。

 その時のオレは微睡(まどろ)みの中におり、そのことに気付いていなかった……。

夏コミ参加の影響で、次回更新も一週間後になると思います。

夏コミに参加される方々は良きコミケとなりますように。

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