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神愛転生  作者: クレーン
第二章
27/210

026話:初めての狩り

 雨の月、二五日。

 ライラとシルフィリアとの共同無人島生活を始めて五日目の朝がきた。

 その間は特に問題もなく、二人に与えた仕事もそつなくこなしてくれている。


 ひとつだけやった大事(おおごと)といえば、東西南北の砂浜に高さ一〇メートルの土壁を設置した。

 これは捜索隊に二人の存在を知らせるために設置した目印だ。

 土壁に「ライラ、シルフィリアここにあり」と明記し、居場所を示す地図まで書き込んでやった。

 運よく見つけてくれることを願うよ。




 で、今日は畑に植えたカルフェルの収穫だ。


「おおお! カルフェルを早く収穫するのじゃ!」


 先日からライラが水やりとかの世話をしていたので愛着が湧いたのか、昨夜収穫する旨の話をしたら凄く楽しみにしてた。

 カルフェルは何度も水やりの必要がないので、一回水やりしただけなのに自分が育てたかのようなはしゃぎようだ。


「焦らなくてもカルフェルは逃げないぞー。あと手を傷つけるから、ちゃんと軍手もしろよー」

「もう装着済みなのじゃ!」


 ライラは軍手を装着した両手を上げてバンザイする。

 準備のよろしいことで。


 今日は収穫のあとに西の森で狩りをする予定なので、今は全員探検服に麦わら帽子と軍手といった感じのスタイルだ。


 そんな感じで一人張り切るライラにカルフェルの殆どを収穫させつつ、その間に西の森を色々と地図検索する。


 狙いはホルスタンの牛乳と仔牛だ。

 ホルスタンはライラたちの国でも飼育されている家畜らしく、牧場を営んで肉や牛乳を採っているそうだ。

 牛乳が採れるなら、そこからバターやチーズなんかも作れるので少し気合が入る。

 ここから西北西に三キロほどの場所にホスルタンの群れを発見したので、乳を出す牝と仔牛数頭にマーカーを付けておく。


「おおーい、ソーマ殿! 大漁なのじゃー!」


 引っこ抜いたカルフェルを木ザルに山盛り載せ、シルフィーと一緒に嬉しそうに持ち上げるライラが呼ぶ。

 よく見ると二人とも顔や服が泥だらけだ。


「ほれ! 見てたもれ! こんなに大きいカルフェルが山盛りなのじゃ!」

「凄く大きくて上質なカルフェルですよ! どれも美味しそうです」


 ははは、王族や貴族の面影もどこへやら。

 収穫を楽しむ村娘みたいに笑って楽しそうだ。

 二人ともこういった野菜の収穫は初めての経験なのだろう。


「あんまりはしゃぎ過ぎると午後の狩りまでにバテるぞー」

「大丈夫なのじゃー! ほれシルフィー、次はそっちのを掘るのじゃ!」

「了解です!」


 二人ともそこそこスタミナが高いので、栽培してたカルフェルは昼前には滞りなく全部収穫できた。

 泥だらけの二人を風呂に入れてる間に、現状できるカルフェル料理としてフライドポテトを作ってみる。

 ライラたちは初めて食べる調理法だったせいか非常に好評で、オレの倍以上を食べてた……。

 あれだけの量を食べて、よく胸焼けをおこさないものだ。

 ドワーフの胃袋恐るべし!


 オレは早くマヨネーズを作ってポテトサラダを食べたいよ……。

 酢の作り方は料理神様と酒神様の加護の知識で解るんだけど、肝心の米や穀物の類が、このゴラス島では皆無なんだよな……。

 無い袖は振れないので、今は諦めるしかない。


 しかしライラのヤツ、仕事こそは言われた通りしっかりやってはいるが、どうにもお姫様気分が抜けきってないのか、遠慮なくおかわりはするし酒も飲みたがる。

 シルフィーは初日こそ久しぶりのまっとうな食事で羽目を少し外していたが、そのあとはそれなりに謙虚だ。

 やっぱりこういうのは育ちの違いなんかね?

 ふむ…… ここはひとつ、午後からの狩りで少し現実を叩き付けるのもありかも知れないな……。




 昼過ぎ。

 オレたち三人はホルスタンの牛乳を求めて西の森を進んでいた。

 アロン道のある南の森と違い、西の森は木々の間隔も結構広く見晴らしもそこそこ良くて進みやすい。

 一応二人には護身用として、オレが鍛冶で作った武器を手渡している。

 出発前、今まで作った武器を色々手に取って試してもらい、ライラには軽めの短剣。

 シルフィーには細めの片手剣を進呈した。


 彼女たちが武器を持ったところで、高レベルの猛獣が多いこの島で身を守るのは難しいだろう。

 だけどオレに全てを頼られても困る。

 という気持ちを少し察してもらうために武器を手渡したのだ。

 まぁそれも理由としては半分くらいで、少し緊張感ももって欲しいというのが本当の狙いだ。


 そりゃあんだけ無人島とは思えない快適な生活を数日体験したら緊張感も薄れるわな。

 でも、それは全てオレにある神様達の加護の力あったればこその話だ。

 オレが一緒にいない時の最低限の自衛を促すためにも、手に武器を持つことが最も効果的な意識の植え付けに繋がると思ったので手渡したのだ。


 その効果はあったみたいで、二人とも午前中とは違って真剣な表情で辺りを警戒しながらオレのあとを付いてくる。


 地図を確認するとホルスタンの群れがいる草原が近い。

 二人に大きな声を出さないよう注意を促しながら身を潜める。




 いた。


 草原には小さな池があり、その周りに五〇頭ほどのホルスタンが草や水を口にしていた。


「ほほう……随分と数がいるのう……」

「しかも国で飼育してるホルスタンに比べ、一回り大きい感じがしますね」

「もう少し声を潜めろっての」


 オレの左右からヒョコっと出す二人の頭を、繁みの高さより下に押さえつけながら状況を把握する。


「オレは一番手前にいる牝を拘束するから、それが終わるまでの間に二人は池の周囲にいる子供……なんて言えばいいんだ?」

「仔ホルスタンでよろしいかと?」


 仔牛じゃないんだね。了解。


「では仔ホルスタンをどれか一頭足止めしてくれ」

「足止めだけで良いのかや?」

「ああ、でも状況によっては仕留めてくれてもかまわない」

「仕留めても宜しいのですか?」

「ただし体の部分を刺して傷つけるのは厳禁だ。狙いは仔ホルスタンの胃袋だから、首を狙ってあまり苦しませないように仕留めてくれ」

「りょ、了解したのじゃ……」


 短剣を持つライラの手が震える。

 予想通り、生き物の命を奪う行為を自分でやったことがないんだろうな……。

 国では大層な暴君っぷりだったらしいが、シルフィーや周りの人たちが宥めてくれて、そこまでに至らないという考えが常にあったんだろう。

 だけど、今こうして本当に命を奪うという行為をしようとしてる。

 怖くて当然だ。

 オレもここに来るまではそうだったんだから……。


「決して無理はするな。危ないと思ったら逃げてもいい。これは命を賭けてまでやることじゃないってのを忘れるなよ」


 オレがそういうと、ライラの表情が少し和らぐ。


「う、うむ、肝に命じておくのじゃ……」

「では姫様、我々は今水を飲んでるあの仔ホルスタンを標的にします。宜しいですね」

「了解したのじゃ」


 ターゲットが定まったので、オレの合図と共に突撃する。


「いくぞ!」


 全速力で迫るオレに気付いたホルスタンたちが、ワラワラとばらけるように北側の森目がけて走り出す。


 オレが標的にしていた牝ホルスタンは気付くのが遅れたみたいで、迫るオレに今頃気付いたらしい。

 だがもう遅い!


「■■……土壁(ウォール) ■■……土硬化(コンクリート)


 安定の土魔法コンボで牝ホルスタンの周囲を高さ一五〇センチ、五メートル四方の壁で塞いで封じ込める。

 狙いは牛乳なので、生け捕りにするにはこの方法が一番だ。

 よし、ひとまずこっちは片付いた。

 そう思って二人の様子をうかがうが……。




プギー! ブモー!!


「こ、こら! 大人しくせい!」


 必死に逃げようと威嚇する仔ホルスタンに対して、短剣を突き出すライラが気迫負けしていた。

 ライラとシルフィーの二人で仔ホルスタンを挟み撃ちにしてる状態だが、仔ホルスタンは小さいライラに向かって果敢に威嚇する。

 体を傷つけるなと言われたせいか、後ろにいるシルフィーもなかなか手が出し難いみたいだ。


「こっちだ! かかってこい!」


 仔ホルスタンの標的を自分に変えさせようとシルフィーも叫ぶが、仔ホルスタンはライラから目を離そうとしない。

 こりゃ完全にライラをウィークポイントとして認識してるみたいだな。

 コイツ、妙に知能が高いみたいだ。


 そんなことを考えていると、仔ホルスタンは意を決したかのようにライラ目がけて突進する。


 身長一四〇センチのライラに対し、子供とはいえ体長一メートル近いホルスタンだ。

 まともに突進を食らったら危ない。

 オレはライラを助けようと加速するが、それは杞憂に終わった。


「くっ! 来るでない!!」


 そう叫びながら、突進する仔ホルスタンに対してライラが短剣を突き出すと、偶然にもそれが首筋に突き刺さった。

 どうやら動脈に当たったらしく、仔ホルスタンは大量の血を流しながら徐々に力無く横たわる。

 噴き出た返り血を浴びたライラは短剣を突き出した状態のまま、荒い息づかいで全身をガタガタと震わせ、その場から微動だにしない。


「ひ、姫様! 御無事で――」


 シルフィーがライラに駆け寄ろうとするが、それをオレが肩を掴んで静止し、そのままライラに近づく。


「ライラ、まだ終わってないぞ」


ブギュゥ…………ブギュゥゥゥ……


 オレは体を痙攣させながら苦しむ仔ホルスタンを指差す。


「ちゃんと止めを刺してやれ」

「と…………止……め……?」

「ソーマ殿! それならば私が――」


 シルフィーの言葉を手を出して制止する。

 そう、これはライラ自身がやらなきゃいけない事なんだ。


「そうだ。お前が半端な覚悟で傷つけたからコイツは今苦しんでいる。だからお前がちゃんと止めを刺してやらなきゃならない。命を奪い食らうということは……そういうことなんだ」


 ライラは真剣な目でオレの瞳を見つめるとコクリと一度だけ頷き、横たわる仔ホルスタンに近寄って膝を落とす。

 オレはその横で何も言わず、急所の位置だけを指で指示する。


「すまぬ…… わらわの覚悟が足りぬせいでお主に苦しい思いをさせてしまった……。許してくれとは言わぬ…… だがお主の命は決して無駄にはせぬ。だから安らかに天に召されよ……」


 ライラはそう仔ホルスタンに語りかけると、指示した急所に短剣を突き刺す。


ブギュゥゥゥゥ…………


 息も絶え絶えだった仔ホルスタンは急所を刺されると、徐々に体の痙攣もなくなってゆき、そして絶命した。


 ライラは少し不安そうな顔をしながらオレを見つめる……。


「よくやった。今の気持ちを忘れるなよ」

「命を奪い、命を食らう…… わらわは今日のことを二度と忘れぬ……」

「見事な心掛けでございます、姫様!」


 シルフィーが感動しながらライラに寄り添う。

 これで我儘姫もまた一つ成長したな。

 ……なんて偉そうなこと言ってるけど、オレ自身も狩りを始めるまではそんな覚悟なかったんだよな……。

 最初のガンガルドの時とは違い、自分の意思で狩りを始めて解体し、その肉を食らった時に実感した。

 人や獣、どんな生き物も他の命を食べて生きているってことを……。

 今回の狩りにライラを参加させたのは、それを理解してもらいたかったんだ。


「よし、こいつはあとで解体するから今は収納しておくぞ」


 無限収納で仔ホルスタンの遺体を回収すると、次は土壁で閉じ込めた牝ホルスタンの方に向かう。

 逃げ場のないホルスタンが囲いの中を右往左往している。

 オレが壁を乗り越えてホルスタンの前に立つと、奴は怒り狂った様子でその三メートルはあろうかという巨体をぶつけてきた。


「ソーマ殿!」


 シルフィーがオレの身を案じて叫ぶが心配御無用。

 牝ホルスタンの巨体を全身で受け止め、高い筋力値にものを言わせてその勢いを殺す。

 さしずめ人と牛の相撲状態だ。


「焦るなよ! なにも命まで取ろうってワケじゃないんだ。少し乳をもらいたいだけなんだよっと!」


 そう叫びながら、そのままの姿勢で力任せに牝ホルスタンをなぎ倒す。


ブモォオオオオオ!!


 転倒した牝ホルスタンが直ぐに立ち上がったので、オレは両手両足を広げて待ち構える。


「どうした! 気の済むまで相手してやるぜ!」


 そう叫びながら覇気を飛ばすと、牝ホルスタンが急に大人しくなった。

 おそらく今の一発で敵わない相手と理解したんだろう。

 現に牝ホルスタンは土壁に体を寄せて少し脅えている。


>威嚇スキル(極大)を得た


 こんな時に威嚇スキルゲットかよ……。

 多分さっきの雄叫びが切っ掛けだろうな。

 とにかく牝ホルスタンが大人しくなったので良しとしよう。


「よしよし、傷つけるつもりはないから安心しろ」


 無限収納からアポルの実を取り出して差し出すと、牝ホルスタンは尻尾を振りながらそれを食べる。

 するとさっきまでの殺気が嘘のように、その大きな頭をオレの体に摺り寄せてくる。

 ハハハ、なんだ、結構可愛いやつじゃないか。


>調教スキル(獣)を得た


 お、またまたスキルゲット。

 知能が低めの獣限定らしいが、役に立ちそうなスキルだ。


「も、もう大丈夫かの? ソーマ殿?」


 壁をよじ登ってきたライラが恐る恐る様子をうかがう。


「ああ、中に入ってきても大丈夫だ。大人しくなったよ」


 その後は三人で交代しながら乳しぼりをして大量の生乳をゲットできた。

 乳を提供してくれた牝ホルスタンには大量のアポルの実を与えて解放してやった。

 とりあえず地図レーダーにマーキングを付けて、また乳が欲しくなった時にお邪魔させてもらうよ。




 そんなこんなで久しぶりに充実した一日が過ぎ去った。


 ちなみにその日の夜は早速生乳からバターを作り、ガンガルドのモモ肉のバター焼きと、じゃがバターならぬカルフェルバターを振舞った。


 どうやらバターというものの存在も知らなかったみたいで、二人とも、またその初体験の味に感動していた。

 心なしか、ライラは肉よりカルフェルを多く食べていたように思えたのは御愛嬌だ。

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