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神愛転生  作者: クレーン
第二章
26/210

025話:お嬢様ズ・レベルアップ

 雨の月、二一日の朝がきた。

 昨夜は少しハメを外し過ぎて飲み過ぎた感じだが、酒神様の加護のおかげで二日酔いもなく頭スッキリだ。

 寝室からリビングに移動すると、丁度ライラが多目的部屋から眠気眼で出てきた。


 このログハウスはキッチンのあるリビングとは別に、寝室、作業部屋、そして多目的部屋という名の空き部屋がある。

 流石に女子と同じ部屋で寝るわけにもいかないので、この部屋で布団を敷いて寝てもらった。

 布団は水鳥の羽毛を使った高級仕様だ。

 さぞグッスリと眠れただろう。


「おはよう、よく眠れたか?」

「ソーマ殿……おはようなのじゃ……」


 ライラはまだ完全に目が覚めていないのか、頭を少しふらつかせながら返事する。

 昨夜は結構な量の酒を飲んだので二日酔いなのか?


「シルフィリアさんはどうしたんだ? まだ寝てるのか?」

「ふぁああああ~~ いや、シルフィーは既に起きて、外で鍛錬をしておる」


 こらこら、年頃の女の子が人前で大きな口を開けてあくびしなさんな。

 とりあえず外に出て、シルフィーの様子を見ておくか。


「フッ! フッ! フッ!」


 シルフィーは玄関前で、昨夜使った松明の棒を握って素振りをしていた。

 棒を振り下ろす度に額から汗が飛び散り、さながら青春真っ盛りの朝練女子といった感じだ。

 そんなことを思いながらシルフィーを見ていたら、向こうもオレに気付いたのか、素振りを止めて声をかけてきた。


「おはようございますソーマ殿! 申し訳ありませんが、しばしこの松明の棒をお借りしております!」

「おはよう、シルフィリアさん。朝から精を出すのはいいけど体は大丈夫かい?」

「はい! 昨夜御馳走になった料理や酒のおかげで体もこの通りです!」


 シルフィーはそういいながら左腕に力こぶを作り、フンスと鼻息を荒げた。

 逞しいのは結構だけど、もう少し女の子らしい仕草にしような……。


「いつも朝早くから素振りとかしてるのかい?」

「はい! 騎士たるもの、鍛錬を疎かにはできません! ここ数日はあのようなこともあって少々体が鈍っていたので、また今日から再開した次第です!」


 確かに昨日までみたいな状況にあったら鍛錬もなにもないわな。

 そんなことを考えながら、オレは昨夜ほったらかしにしてた残りの松明の棒を引き抜いて回収する。

 するとシルフィーが少しモジモジした仕草をしながらオレを見つめていた。

 ん? なに? 好感度を上げた覚えはないぞ?


「あ……あの~、ソーマ殿は剣術の心得はございますか?」

「え? ああ、一応あるけど……」

「そっ! それでしたら、よろしければ私と一局手合わせ願えないでしょうか! どうしても素振りだけだと実戦の勘が鈍ってしまいそうで……」


 ああ、そういうことね。

 剣術の相手が欲しかったのか。

 心得があるっていっても剣神様の加護の力だけどね。

 できるって言っちゃった手前、無下に断るのもなんだし、彼女がそれで少しでも気晴らしできるなら相手してあげよう。


「ああ、いいよ。手加減は無用だから遠慮なくおいで」


 オレは松明の棒を一本、右手で握りしめて軽く構えた。

 しかしシルフィーは少し怪訝そうな顔をする。

 姿勢を整えながら両手で構える彼女に対して、こちらは軽く構えた片手持ち。

 少々ふざけていると思っているんだろうな。

 だが剣神様の加護の力がそのままで良いと魂に訴える。

 この構えは片手剣のみでの防御に比重をおいた構えだ。

 それを見抜けないということは、それだけシルフィーがまだまだ未熟であることを示している。

 どれ、いっちょ揉んでやろうかい。


「かかってきな」

「やああっ!!」


 シルフィーは勢いよく正面から棒を振り下ろしてくるが、正直素直過ぎる。

 オレは軽く手首の返しだけでその攻撃をいなした。

 体は微動だにしない。


「なっ?!」


 渾身の振り下ろしが簡単に反らされてしまったのだ。

 シルフィーとしては完全に不本意な結果だったのだろう。

 確かに力はあるが、それだけじゃ駄目だ。

 剣神様の描く真の剣術の極意とは、神速の域に達する速さにある。

 シルフィーの剣筋もそれなりに速い方なんだろうが、オレの目でスローに見える程度では、まだまだその域には程遠い。


 一瞬唖然としたシルフィーだったが、直ぐに体勢を整えて上下左右あらゆる方向から棒を振り回してくる。

 が、どれもこれも完全に見えているので全部棒先で弾き返す。

 そして眼前に迫る突きを軽く首をいなしてかわし、そのままくるりと反転しながら棒を横振り、彼女の横顔スレスレにオレの持つ棒がピタリと止まる。


「そこまでじゃ! 勝者、ソーマ殿!」


 いつの間にかオレたちの試合を見ていたライラが試合終了の声をかける。

 と、それと当時にシルフィーが力無くペタンと地面にお尻をつけた。


「大丈夫か? シルフィリアさん?」

「は、はい…… ガンガルドを圧倒した時点で実力は理解していたつもりですが、まさか剣術の腕前もここまでとは……。正直脱帽です……」


 オレの手を掴んで引っ張りあげられるシルフィーが少し悔しそうだ。

 まぁオレ自身の努力で得た力じゃないんだけど、この力を授けてくれた剣神様の名誉の為にも、どんな形であれ、手加減はできても負けることは許されないので勘弁してくれ。


「しかしソーマ殿は剣術の腕前も一流じゃのう。シルフィーもそれなりの腕前なのじゃが、まるで赤子扱いじゃったぞ」

「国で五本の指に入る実力じゃなかったのか?」


 オレは少し意地悪そうな顔で言葉を返す。


「あー、いや~…… それはじゃな~……」

「シルフィリアさんから聞いてるからもういいよ……」


 オレを斬りつける命令をしたことを思い出したのか、目を反らして誤魔化そうとするライラの頭にポンと手を置いて鷲掴み、グリグリと頭を振るように強めに撫でる。


「あわわわわ…… 嘘ついて御免なのじゃぁああああ~~」

「姫様、これに懲りたらもう言わないで下さいよ、あんなことは!」

「あわわわわ! 解った! 解ったのじゃ! だから許してたもれぇええ~~」


 朝からそんな団欒があったが、今日から本格的に三人での生活が始まる。

 少し気を引き締めていこう。




 …………朝から二人に働いてもらった。


 まず食後の食器洗い。

 二人して三回お皿落とした時点で交代した。

 料理神様の食器だから割れはしなかったけど、落とす度に肝が冷えた。


 風呂の準備。

 二人とも魔法が使えない。

 そういや風呂の準備は水魔法と火魔法が使えないと無理だったわ。

 貯水タンクを大型化して風呂にも使えるようにしようかと考えたけど、流石に建物の強度的に無理っぽい。


 洗濯。

 洗濯桶に水は外側に設置した水道で問題無し。

 一応念を入れてタオルだけ洗わせてみたが、どうしたらこんな風になるのか? 見事なまでにボロボロになった……。

 洗濯板を用いるやり方だが、力入れ過ぎだろ……。




「結論。キミたち使えない」


 「ガーン!」という音が聞えそうなくらい二人がショックを受ける。


「ううう…… このような下働きなどしたことないのじゃ……」

「私も使用人に全て任せていたので……」


 ある程度予想はしていたが、ここまで生活力が無いのは逆に驚きだよ……。


「まぁなんだ…… 当面はオレがやるから、その間に二人でもできそうな仕事を考えておくよ……」

「うう…… 今度から城の使用人たちは労うことにするのじゃ……」

「ですね…… 実際に自分でやってみて、彼らの苦労が身に沁みました……」


 うんうん、自分で経験し、普段「当たり前」に感じることへの苦労を理解できただけでも前進だな。


 しかしこの二人、どう扱おうか悩むな?

 再確認も兼ねて、もう一度ステータスを拝見させてもらうか。


>名前 :ライラ・アーク・アルグランス

>レベル:6

>種族 :ハイドワーフ

>年齢 :14歳

>職業 :王族

>称号 :アルグランス武王国第一王女

>スキル:なし

>>状態:異常なし

>HP  :53/53

>スタミナ:82/97




>名前 :シルフィリア・デオンフォード

>レベル:29

>種族 :ハイドワーフ

>年齢 :17歳

>職業:騎士

>称号:王女直属近衛騎士

>スキル:剣術・礼儀作法・火魔法

>>状態:異常なし

>HP  :175/175

>MP  : 30/30

>スタミナ:105/116


 ん? …………んんんっ?!

 ライラはレベルが一つ上がってる! しかもやけにスタミナが高い。

 前回見た時は、最大値が三〇にも満たなかったのに……。

 シルフィーに至ってはレベルが三つも上がってる上に、火魔法のスキルが増えてるぞ⁈

 でもレベルの上昇に対して、ライラほどのスタミナ上昇はない。

 一体どういうことだ?


「どうかしたかの? ソーマ殿?」

「あ……いや…… 正直に話すけど、今お前たちのステータスを見てるんだ……」

「なんと! ソーマ殿はステータスチェックのスキルもお持ちなのですか⁈」

「本当に多彩じゃのう……」


 あ、やっぱりそういうスキルはあるんだな。


「で、わらわたちの状態に何か変化があったのかの?」


 ライラが興味深々な表情で迫るので、正直に現状を話す。


「わらわのレベルは六になっておるのか? そう言われると、心なしか体が疲れにくくなっている気がするのう?」


 ライラはそう言いながら、自分の体をペタペタと触っている。


「私のレベルが二九まで上がってる上に火魔法が……。確かに以前から入学に備えて、魔法の勉強も少しはしておりましたが……」


 オレは試しに、シルフィーにファイヤーの魔法言語を教える。

 今知ってる火魔法ってこれだけだし……。


「じゃあ、やってみて」

「は、はい………… ▲▲……(ファイヤー)


 やった! シルフィーの指先から小さな火が現れたぞ。


「おお! 火魔法なのじゃ! シルフィー凄いのじゃ!」

「あわ! あわわ! ほほほ本当にできました! 私が魔法を!」


 自分のことのように喜ぶライラと、慌てふためくシルフィーが実に対称的だな。

 しかしなんで急にこんなことになったんだろう?

 ライラは一つレベルが上がってスタミナ値が異常に増え、シルフィーはレベルが三つも上がった上に火魔法スキルの習得……。

 原因が一つあるとすれば、昨日のガンガルドとの戦いで経験を積んだってくらいしか考えられんわな?

 あくまでゲーム的な考えだけど、低いレベル時にあんなハイレベルなモンスターと対峙して戦ったんだ。

 倒したのはオレだけど、いわゆるパワーレベリング的な効果? が、あったのかも知れない。


 とにかくこれは、生活する上でも喜ばしい成長なので良しとしよう。

 ……ところで……。


「あの~ シルフィリアさん? いつまで火を出してるの?」

「え? いや…… 初めての魔法で嬉しくて…………あ、あれ?」


 シルフィーがフラついたと思ったら指先の火が消え、次の瞬間脚を崩してカクンと倒れ込んだ。


「おお! シルフィーよ! 大丈夫かや⁈」

「あ、あれ……? 急に眩暈がして……」

「あのね…… それは魔力切れ。ずっと魔法を行使してるとそうなるから、早めに自分の限界を見極められるようにね……」

「は……はひ…………」


 シルフィーのMPがゼロになって、まだ回復はしてない。

 やはりオレと一般人とではMPの回復速度も違うようだ。

 シルフィーには悪いけど、今回のことでオレも色々と学べたよ。




 そんなこんなでステータスを確認して考えた結果、二人の仕事内容が決定した。


 ライラは草むしりや薪割り、畑仕事などの体力を使う仕事全般。


 シルフィーはライラと同じ内容に加えて風呂の湯沸かし担当。

 正直風呂はオレがやったほうが早いんだけど、シルフィーがどうしても湯沸しだけでもやらせて欲しいと懇願するのでそうした。

 火魔法が使いたくて仕方がないんだろうな。


 あとは状況に応じて、二人にはオレの趣味作業の手伝いもしてもらう。


 という事で、順風満帆とまではいかないが、これで少しは快適な生活ができるかな?

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