024話:笑顔は最上のスパイス
9月7日
ライラの父親の名前がお爺さんの名前と間違ってましたので修正しました。
大変大きなポカミスをして申し訳ありませんでした。
「では改めて自己紹介をしておこう。オレの名前はソーマ。この島に住む唯一の人間だ。先日シルフィリアさんにも言ったが、それ以外のことは話せない。以上だ」
「わらわはアルグランス武王国武王、シグマ・ジーク・アルグランスの娘、ライラ・アーク・アルグランス第一王女じゃ。ソーマ殿、此度の無礼を詫びると共に、我が命やシルフィリアを救ってくれたことに感謝の念が絶えぬ。本当にありがとうなのじゃ。それと……今後はお前ではなく、気軽にライラと呼んで欲しいのじゃ」
ライラは少しはにかみながら、最後の言葉を付け足す。
「では最後は私が――」
「いや、シルフィリアさんはもう聞いたからいいよ」
「そんなっ?!」
「わはははは! 今日のシルフィーは散々じゃのう」
「姫様……それ洒落になってないですよ……」
「ははは、まったくだ」
そんな感じで三人で笑い合ったが、徐々にその声も小さくなってゆく。
そう、ここからが大事な話だからだ。
「ここからの話なんだが、二人の状況はシルフィリアさんから聞いて概ね理解している。だけど当然なにもかも全部面倒を見るというわけにはいかない。二人にもそれなりには働いてもらうつもりだ。無論、それに見合った形で救助が来るまでの間の衣食住は提供する。あと、ここではオレの指示には必ず従ってくれ。これもこの島で生き抜くためと理解して欲しい。異論はあるか?」
オレの言葉に二人は更に真剣な面持ちで頷く。
「了解したのじゃ。異論はない。」
「どこまでお役に立てるか分かりませんが、全身全霊をもって働かせてもらいます!」
いや、そこまで気合い入れなくてもいいけどね……。
「じゃあ、これで話は終わりかな?」
「いや、まだじゃ」
ライラが待ったをかける。
ん? 他になにかあるのか?
「救助が来た後の話なんじゃが、わらわはソーマ殿にどのようなお返しをすればよい?」
「そうです! 労働だけではここまでの……そしてこれからの御恩をお返しできるとは到底思えません!」
ああ……報酬の話か……。
ぶっちゃけ今の生活に困ってるところってないんだよね……。
「なるほど……二人が言いたいのは報酬の話だな?」
「いかにも」
「じゃあ、その辺りに関しては追々考えておくよ。そこまで無理なお願いはしないつもりだから、気楽に考えておいてくれ」
「ソーマ殿はそれでよいのかの?」
「ああ、正直そこまでのことは考えてなかった。だからそこまで気にはしないでくれ」
「うむ、了解したのじゃ! では救助が来るまでの間じゃが、宜しく頼むのじゃ!」
「どうか宜しくお願いします!」
うん、二人ともいい返事だ。
では早速、衣食住の衣からスタートするか。
「では早速だが、二人の採寸をしたいんだがいいかな?」
「採寸とな?」
「それは一体どういうことで?」
二人がそろって首を傾げる。
「まず二人の服や靴を作る。正直、あのドレスや騎士の服? それに靴なんかももう汚れや解れで駄目だから、この島で生活するのに適した服を用意したい」
「なんと! ソーマ殿は服も作れるのかや⁈ いやしかし……」
「私があの服を洗って使いますから、そこまでは……」
二人が早速遠慮しようとしているのを、オレは手を出して止める。
「いや、正直あの飾りっ気の多い服ではこの島での生活には不適切だ。それにさっきも言ったが、ここではオレの指示に従ってくれ。もちろん無茶な要求をするつもりはないが、極力オレの手を煩わせることは排除したいんだ。これもそのための準備と思って、ここは聞き分けてくれ」
正直、遠慮される行為ってのが一番煩わしいんだよね。
基本我儘な性格だから、気遣いだらけの生活ってのは止めの方向でいきたいんだ。
「……シルフィーよ、ここはソーマ殿にお任せしようではないか」
「しかし姫様……」
「どうやらこのソーマ殿はわらわと同じで、相当我儘な性格のようじゃ。気遣いあうのが苦手なのじゃろう? ソーマ殿?」
ハハハ、流石は我儘姫、早速オレの本質を見抜きやがったよ。
「ああ、その通りだ。ライラは話が早くて助かるよ」
「わらわもソーマ殿に負けず劣らずの我儘じゃからのう。当然じゃ!」
お互いに目を合わせてニヤリと笑うオレたちを見て、シルフィーがため息を漏らす。
「ハァ……お二人とも、どうかお手柔らかにお願いしますね……」
「なんじゃシルフィー? 浮かぬ顔をしおってからに?」
「なんだか姫様が二人になったように思えて諦めてるだけですよ……」
「随分な言い草じゃのう……」
シルフィーの言葉に解せぬといった感じのライラ。
そんな二人のやりとりが実に面白い。
そんなこんなで二人の採寸を終え、無限収納から裁縫素材一式箱と聖針クォーツ、聖鋏キャンサーを取り出して裁縫を開始する。
丈夫な厚手の布でポケットの多い、俗にいう探検隊スタイルの服を上下それぞれ三着。
デニム生地でジーンズも二着づつ縫い上げる。
流石にスカートはこの島での活動に適さないから無し。
ブラは……残念ながら二人ともその必要のないサイズだったので、申し訳程度にスポーツブラを作った。
使う使わないは二人の自由だ。
その他に家で着る動きやすいジャージや寝間着などを次々と縫い上げる。
そして今回の裁縫で一番大事な衣服! そう! パンツ! これはかなり丁寧に縫い込んだ。
無論使用した生地は縞模様のシルクだ!
縞パンは正義! ここは譲れない!!
ライラには赤縞。シルフィーには青縞を進呈しよう。
靴はオレと同じランニングシューズっぽい靴を二足づつ作る。
これだけあれば当面の衣服には困らないだろう。
完成した衣装一式を手渡すが、まぁ毎度の如く二人とも唖然としている。
「な……なんという仕立ての早さじゃ……」
「私も裁縫は多少の心得がありますが……この速度は常軌を逸してますよ……。それにどれもこれも見た事のない衣装ばかり……」
「もう流石に驚くことはないと思っておったのじゃが……」
「なんだかまだまだソーマ殿には驚かされそうですね……」
二人は半分諦めたような顔で苦笑いをする。
うん……まぁそうだよね。
多分このあとも色々と驚かせることがあると思うけど、腹構えができてるだけでもありがたいよ……。
そんなことを思いながらAR表示の時計を見ると、もうすぐ十六時を回ろうかと言う時間だった。
そういやお昼も食べてなかったな……。
二人に脱衣所で部屋着に着替えるよう指示し、オレはその間に夕飯の献立を考えていた。
極度の空腹状態の時に肉とかの固形物は体に悪いって聞いたことあるけど大丈夫かな?
お、丁度着替え終わった二人が出てきたので聞いて――。
「ソーマ殿! この縞々の下着! 凄く心地良いのじゃ!」
「はい! 少し生地の少ない奇妙な形ですがとても肌に合います!」
二人とも縞パン一丁で出てきやがった!
いや! 非常に眼福ですけどね! ね!
思わず録画してしまったのは絶対に内緒だ。
「だから! 裸で出てくるなって言っただろうが!」
「そんなことよりもこのパンツじゃ! パンツ!」
あ~ だ~めだこりゃ……。
その後、興奮する二人にゲンコツを食らわせて、大人しくさせてからジャージを着せた。
性欲に無頓着っつったって、もう少し女子として恥じらいも持っておくれよ……。
そんなこんなで落ち着いた二人に食事について聞いてみると――。
「肉! 食べるのじゃ!」
「私たちドワーフの胃は人間やエルフよりもかなり丈夫にできています! 極度の空腹時でも消化力は抜群ですお肉食べたいです!!」
「お、おう……」
また二人の気迫に圧倒される。
シルフィーに至っては説明途中で食欲が出ちゃってるよ!
ドワーフは肉好き。ソーマ覚えた。
じゃあ今日は特別に肉ディナーといきますか!
外に出て、先ずは松明を数本立てて火を灯し、レジャーシート代わりの厚手の布を敷く。
次にバーベキューセット一式を取り出して準備を始める。
「これはあの時ソーマ殿が使っておった焼き物の設備じゃな?」
「なんとも奇妙な形ばかりですが、なんと理に適った道具なのでしょう……」
ハハハ、道具だけで満足してても腹は膨れないぜ。
テーブルの上にまな板を置き、その上に極上のホルスタンのサーロインをのせる。
その厚さ五センチ!
「「?!」」
二人とも、その分厚い霜降りの肉に釘づけになる。
フフフ……無理もない……。
手早く塩、胡椒を馴染ませて網の上に投下!!
ジュゥウウウウウウウ!!
たまりませんなー! この火と肉のぶつかる音と匂いは!
自分で作っておいてなんだけど、まさに殺人級の香しい香りが辺り一帯に充満する。
二人は一時も焼かれている肉から目を離さない。
ちゃんと食わせてあげるから、少し落ち着きなさいって。
料理スキルが最高の焼き加減を教えてくれる。
フォークで肉を刺してまな板に戻し、聖包丁コンツァーで素早く切り分けてお皿に盛りつける。
「はいよ! ホルスタンのサーロインステーキおまち!!」
差し出されたステーキに二人の目が輝く。
「おおおおお! なんと美味しそうな肉料理なのじゃ!」
「ほ、本当に食べてよろしいのですか?」
「いいから早く食べなさいって。肉料理は熱い内が華ってね」
二人は恐る恐るフォークを手にし、ステーキを一切れ刺し込んで口に入れる。
「むおおおおおお!! 美味い! 美味すぎるのじゃあああああ!!」
「肉の旨味も極上ですが、この塩加減とスパイスが更に味を引き立ててます! こんな肉料理は初めてですよ!!」
「ソーマ殿! このスパイスはなんというのじゃ?」
「ん? こしょ……コパルだけど?」
オレの返答を聞いた二人の動きがピタリと止まる。
アレ? なんかまずかったか?
「「コパル⁈⁈」」
二人の話で分かったことだが、まぁ案の定だった。
コパルの実はやはり高級品で、ライラの暮らす東大陸では全く採れない植物らしく、輸入でも滅多に手に入らない超高級食材だった。
ちなみにライラの国では一〇〇グラムほどの量で、豪邸が建つほどの価値があるそうだ。
無限収納に一キロ以上あるので、一〇件は家が建てれそうだな。
まだこの島にコパルの実があるので、後日根こそぎ採取しとこう。
「おおう……これがコパルの味かや……初めて食したのじゃ」
「ああ……こんな離島でコパルを口にできるだなんて……」
二人は感動で涙目になっちゃってるよ。
まぁ胡椒は美味しいから気持ちは解るけどね。
とりあえず手持ちのコパルの量については黙っておこう。
「ハハハ、まぁ今日は特別ってことで。他にもいろんな肉をどんどん焼くから、じゃんじゃん食べてくれ!」
オレの言葉に二人の目が光った……というか、ギラついた。
その後はガンガルドのモモ肉のカレースパイス焼きや、以前作ったバーベキュー肉串などを存分に振舞い、各料理を口にするたびに起こる二人のリアクションが実に面白かった。
特にカレースパイスはあまりの美味さ故に、二人とも泣き出して数分手が止まるほどだった。
オレから言わせれば大袈裟だけど、二人からしたらどれも初めての味で凄く感動したんだろうな。
しかし驚いたのは二人のその食欲だ。
今現在で一人当たり二キロの肉をペロリと平らげたのだが、まだその食欲が落ちる感じがしない。
あんな小さな体のどこに、あの量の肉が納まってるんだ?
そんなことを考えていたら、オレは二人の体の異変に気付いた。
痩せ細っていた頬や腕や脚が、心なしか徐々に元に戻ってる感じがしたのだ。
「お、おい、アンタたちの体……」
「ん? ああ、これかや?」
「私たちドワーフ族は、こと肉の吸収に関しては敏感でして、肉を摂取すると急速に血肉に変換する機能が備わっているのです。これだけの肉を御馳走になれば、明日には元の体に戻ります」
なんつーデタラメな肉回復能力だ!
…………と思ったが、オレもあまり人のこと言えんわな。
しかしこれだけ美味しそうに食べてくれたら、作ったオレとしても嬉しくなるね。
よし! 今夜は酒も出そう!
二人とも未成年だけど、ファンタジー世界特有の一二歳とか一五歳で成人とかよくある話だろ?
「二人とも酒は飲めるかい?」
「「酒っ⁈⁈」」
肉の時以上に二人の目がギラつく。
「ももも……もしかして酒もあるのかや?」
「あうあうあう……お酒……お酒!」
酒と聞いた途端の二人の迫力が覇気に変わったのを感じた……。
シルフィーに至っては語彙力が崩壊している……。
「も、もしかして肉以上にお酒好きなの?」
「我らドワーフにとって、酒は命なのじゃ!」
「肉は体を育み~♪ 酒は命を育む~♪ 嗚呼~♪ 素晴らしきかな肉と酒~♪ 嗚呼~♪ 今宵も共に肉と酒~♪ ……我がドワーフ族に伝わる聖歌です!」
「シルフィーの歌声はいつ聴いても心地良いのう~♪ どうじゃソーマ殿! 良い歌であろう?」
「………………ア、ウン、ソウダネ」
ドヤ顔のライラとシルフィーの言葉にそれしか返せなかった……。
どんだけ肉と酒が好きなんだよドワーフ……。
いやまあ、だからこそのドワーフって感じでもあるな。
うん、実にイメージ通りの種族だよ。
ふふ、盾神様がいたら意気投合しそうだね。
では今夜はこのまま宴といきますか!
無限収納から神酒マンゲツの樽を一つと、適当に聖杯テンリョウを三つ取り出し、聖杯に酒を注いで二人に手渡す。
「おお…… これはなんと澄んだ酒なのじゃ……」
ライラが凄く神妙な面持ちで手にした杯の酒を見つめる。
「それにこの芳醇な香り…… 神々しさすら感じますよ」
そりゃ酒神様御謹製の神酒だからね。
神々しくて当たり前だよ。
「とある方からいただいた絶品の酒だ。よく味わって飲んでくれよ」
「う、うむ…… では一口……」
「い、いただきます……」
なんか二人のテンションが妙だな?
流石に神の酒だけに、なにか感じるものがあったのかな?
そんなことを思いながら、恐る恐る丁寧に酒を飲む二人を見つめる。
そして一口飲み終えた二人は……涙をボロボロと流しながら泣き出した。
「どどど、どうしたの二人とも?!」
「すまぬ…… すまぬのじゃ……」
「ソーマ殿…… 申し訳ありませんが、少しこのままにさせて下さい……」
オレは二人の反応にデジャヴを感じた。
あっ! 天上界で初めて神酒を飲んだ時のオレと同じだ。
多分あまりの美味さと浄化の効能で、感動の境地に達しているんだろう。
それから数分の間、オレは感動してる二人を眺めながら二杯目の酒を飲んでいた。
「……う、うう……こんなに清々しい気持ちで酒の飲んだのは初めてなのじゃ……。思い返してみれば、わらわは今までなんと愚かなことをしておったのじゃろうか……」
えーと……ライラさん?
「母上が亡くなってからというものの、寂しさを紛らわすために父上やお爺様の優しさに付け込んで我儘のし放題……。関係のない城の者たちや民たちにも随分申し訳ないことをしてしまった……。わらわは……わらわは王族失格なのじゃ…………」
なんかライラが視線も上の空で語りだした……。
一方シルフィーは――
「ああ……私はなんと未熟なのでしょうか。幼き頃から姫様に御寵愛いただいている身でありながら、姫様の寂しきお心をお埋めすることも叶わず、此度に至っては食事のお世話どころか、御身をお守りすることもできずに…………」
一人反省会が始まってました……。
二人とも日頃から色々と溜まってたのか? それとも神酒の浄化の効能が強過ぎたのか? こっち側に戻ってくるまであと数分の時間を要した。
「どう? 少し落ち着いたか?」
「う、うむ…… 申し訳なかったのじゃ……」
「私も取り乱してしまい……その……」
気持ちは解るよ……。
下界に暮らすオレたちにとって、初めての神酒ってのはある意味劇薬に近い効果があるからね。
二人の反応からしても、地球やフォーランドで生きる人々も、その抱える心ってのは多分同じなんだろうな……。
オレはそんなことを思いながら、二人の杯に二杯目の神酒を注ぎ手渡す。
「二人とも、今夜は心ゆくまで食って飲め! 美味い酒と料理で腹を満たせば、どんな状況でも人生薔薇色だ!」
「人生……?」
「薔薇色……?」
二人とも言葉の意味が解らず首を傾げる。
「食って飲めば嫌なことなんて大抵忘れれるってことだよ」
そう返答しながら再びホルスタンステーキをドンと皿に乗せる。
ニヤリと笑うオレの意図を感じ取ったのか?
二人の顔にも再び笑顔が戻り、その笑顔に釣られてオレも純粋な笑顔になるのが解った。
そうそう、食事の時は笑顔でなくちゃね……。
そう言えばオレも食事の時にこういう笑顔になるのは久しぶりだな……。
やはり誰かと一緒に食べる食事はいいね。
そんなことを思いながら、オレとハイドワーフ娘二人の宴は食い倒れるまで続いたのであった……。
同人活動の方が佳境で、もう一、二週ほど週一更新になると思います。




