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神愛転生  作者: クレーン
第二章
22/210

021話:「ご」からはじまる謝罪の言葉

 地図レーダーでマーキングしてる二人の様子を見る。

 二人とも体力が半分以下の状態で、スタミナはシルフィーはまだ半分近く残ってるが、馬鹿王女のほうはもう三割を下回っている。

 状態は「飢餓」「衰弱」や、相手が女性なので割愛するが、あまり言葉に出したくない状態もいくつか目に入った。

 結論から言うと、正常な生命活動を維持するのにはかなり危険な状態だ。

 

 南側の森には食料になりそうな植物がかなり少ないから、食料が確保できなかったんだろうな。

 軽い中毒症状を引き起こす植物もあるから、それだけは食べてないことを祈るよ。


 それにしても、そんな状況になってもオレに救助を求めなかったのが逆に驚くばかりだ。

 オレの見立てでは三日、長くても五日ほどで根を上げて謝罪にくるものだと思っていたのだが、これは想像を絶する意地の張り具合だわ。

 一言謝りゃ済む話なのに妙なプライドを出しやがって……。


 しかしこれはどうしたもんかな?

 今日は休日なので、また海でバカンスを楽しみたいと思っていたんだが、こんな状態の二人の前で前回みたいな振る舞いは流石に良心が痛む。

 予想ではとっくに和解を果たして、今日は三人で楽しく仲直りバーベキュー大会! ……なんて光景を少なからず想像してたんだ……。

 ここまできたら多分食べ物で釣って、とかの流れでも絶対に謝らないだろうし……。

 あーもう畜生!! こりゃ完全な予想外れだ。


 そうまでなっても他人に頭下げたくないのか? あの馬鹿王女は!

 プライドを張るなら、もう少しまともな方向で張ってくれよな。


 ……なんか余計に腹が立ってきた。

 そっちがその気なら、こっちもそれ相応に振舞ってやろうじゃないか!




 前回みたいに、これ見よがしに快適な姿を見せつけてやろうと家を飛び出したのだが、アロン道を抜けて南の砂浜に出た時、オレは二人の姿を見て絶句した……。

 

 二人とも並んで座りながら海の方向を見ているが、王女の方は明らかに以前のような覇気は無く、朦朧とした表情だ。

 シルフィーは騎士なので王女に比べて多少体力はある方だろうが、それでもかなり衰弱してるのは見て取れる。

 二人とも服は薄汚れて周囲に小さな虫が数匹漂っているが、余計な体力を使いたくないのか? それとも虫を払う気力もないのか、朦朧としたまま気にも留めようとしていない。

 手足や顔も明らかに痩せ細ってきており、誰の目から見ても危険な状態であることは一目瞭然だろう。


 二人ともオレの存在に今頃気付いたらしく、オレに一瞬だけ視線を向けるが、王女の方はまるで道に転がってる小石でも見るかのような無表情な顔をしたまま、また海へと視線を戻す。

 シルフィーは明らかに懇願するような目をしていたが、王女がオレに聞こえない程の小さな声で何かを言ったのか? シルフィーは諦めたような表情でオレに向かって首を振った。

 どうやら王女はオレに謝罪をする気は今もないらしい。




 ああ、わかったよ……。

 だったらとことん好きにしなよ。

 だけどこの先、アンタたち……いや、ライラ! お前は必ず選択を迫られる。

 お前の意地が勝つか? それともオレの意地が勝つか?

 いざ勝負といこうじゃないか!

 お前とシルフィーの命がかかった時、お前はどういう行動を起こす?


 そう思った次の瞬間、強い振動と共に南の森の木々が揺れ動き、なにかがこちらに向かって接近してくる。

 二人はその騒音に驚き、弱々しい動きで音のする方向に体を向け、自分たちに迫りくる見えない脅威に対して警戒する。

 だがオレにはその正体が解っている。

 先ほどからライラの周囲に張っていた警戒レーダーに警告が鳴り響いていたからだ。


 オレの一〇メートル先にライラとシルフィー。

 そして更にその先五〇メートルほどの位置に、森の中から迫っていた「なにか」が木々の隙間を抜けて姿を現し、天に向かって咆哮を轟かせる!


ブグォオオオオオオオンンンン!!!!


 それの詳細がAR表示に表示される。


>恐獣「ガンガルド」

>レベル97

>ステータス

>HP  :5000

>MP  :   0

>FP  :   0

>スタミナ:2300

>全長14メートル

>成獣(成熟期)

>オス

>スキル「噛み付き(バイキング)」「尻尾払い(テイルアタック)」「威嚇(中)」「隠密(小)」


 コイツがこの島で最強のガンガルドだ。

 初めて遭遇したやつに比べても、サイズが一回りデカい上にスキルが豊富だ。


 実のところ、コイツの動きは三日前から察知していた。

 三日前にこの南の森に入ってきた時から、図らずもライラの周辺に張ってた警戒レーダーの範囲に入らないくらいの距離をずっと保っていたのだ。

 恐らく二人を襲撃する機会を遠くからうかがっていたのだろう。

 そして二人が衰弱しきった今を絶好の好機と思って飛び出してきたみたいだ。

 多少の隠密スキルを扱うだけに、なかなかに狡猾なヤツだ。


「ガ! ガンガルド⁈」

「ひっ! ひぃいいい!!」


 二人が姿を現したガンガルドに対して恐怖する。

 まぁこれが普通の反応だわな。

 高い精神力補整に加えて、ガンガルドに遭遇するのはこれで四度目。

 流石にオレはもう慣れたよ……。


 さあ、これからどうする? ライラ王女殿下殿?




 シルフィーは腰を抜かしてへたり込むライラの前に背を向けて立ち、オレがやったナイフを構えてガンガルドの眼前に立ちはだかる。


「姫様! ここは私が食止めます! どうかその間にお逃げ下さい!」


おお、実に騎士らしい忠義溢れる言葉だ。

だが完全に恐怖に飲まれたライラの耳には、今の言葉が入っていない。


「姫様……? ……姫様!!」


シルフィーの二度目の呼びかけにようやくライラが我を取り戻す。


「もう一度言います! ここは私が食止めますから、姫様はどうか安全な場所にお逃げ下さい!」

「ばっ、馬鹿を申せ! いくらそなたでもガンガルド相手に……無理じゃ!」

「このままでは二人ともヤツに食われて犬死です……」

「しかし……しかし!!」

「貴方が居ては足手まといです! ここは聞き分けて下さい!!」


 シルフィーがライラに背を向けたままで怒鳴る。

 その言葉にライラは一瞬ビクリと体を震わせるが、シルフィーの言葉を理解したのか?

 ライラは力なく立ち上がり、シルフィーに背を向けてオレのいる方へヨタヨタと歩き出した。


「ソーマ殿! このシルフィー最後の願いです! どうか姫様を! 姫様をどうかお救い下さい!」

「シルフィー……? 一体なにを?」

「そして姫様! 御達者で!!」


 シルフィーは意を決した声で叫ぶと、そのままガンガルドに向かって突撃を始めた。

 アイツ! 死ぬ気だな!


 その姿を見たライラは大声で泣き叫びながらオレの方へ向かってくる。


「う……うわぁぁああんんんんっ!!」


 そしてオレの目の前で足をもつれさせ、そのままうつ伏せになったまま無様に倒れ込む。

 だがオレはそんなライラの姿を見下ろさない。

 今見るべきはシルフィーの姿だ。


「どうしたデカブツ! こっちだ! こっちにこい!!」


 シルフィーはガンガルドの狙いを自分一人に注力させるような動きでナイフを振るいながら威嚇する。

 だが動きが遅すぎる!


 ナイフを振るう度にガンガルドは顔を下げ、次の瞬間威嚇スキルの雄叫びを何度も上げる。

 シルフィーは何度も威嚇を浴びて恐怖に飲まれているはずなのに、どうやらライラを守る一心での精神力でなんとか耐えている様子だ。

 大した人だよアンタ……。


 シルフィーのギリギリの戦いぶりに感心していると、脚を掴まれる感触がした。

 倒れ込んだままのライラがオレの足元まで這いずってきたのだ。


「今更……今更こんなことを頼めた義理ではない……」


 ライラは俯せのままオレの脚を掴んで力無く言葉を続ける。


「もしそなたに……力があるのなら……お願いじゃ…………助けて……くれ……」


 ライラの言葉の真意は解ってる……。

 だがオレは言葉で確認したかったので、あえて憎まれるのを承知で心に無い言葉を言う。


「アイツを見捨てて自分一人だけ助かろうってのか?」

「そ……ん……な…………」


掠れるような声でそう言ったかと思うと、脚を掴む指の力が少し増し、ライラが砂まみれ涙まみれの顔を起こして訴える。


「わらわのことなどどうでもよい!! お願いじゃ! シルフィーを! シルフィーを救ってくれ! あやつは……あやつはわらわのたった一人の友なのじゃ! お願いじゃ……どうか……どうか…………」


 ちゃんと他人を思いやれることができるんじゃないか……。

 もし「自分だけでも」とか言ってたら、その場で蹴とばしてただろう……。


 ライラはそのまま泣き崩れるが、今はそれどころじゃない。

 シルフィーの姿に視線を戻した瞬間、耳をつんざくような悲鳴が鳴り響く。


「きゃああああああああ!!!!」


 やばい!

 ガンガルドが遂にシルフィーの左腕を捉えたのだ。

 上腕まで銜え込み、そのまま首の力でブンブンとシルフィーの体を振り回す。

 首が一振りする度に、肉が裂け、骨が砕ける音がする。

 そして五度目の首振りを終えた瞬間、シルフィーの体が宙を舞い、そのまま砂浜に叩き付けられる。

 無論左腕は無く、傷口からはドクドクと赤い血が流れる。


 そんなシルフィーの姿を見たライラが脚を掴んだまま悲痛な叫びを上げる。


「シルフィー! シルフィー! 死ぬな! 死ぬでない!!」


 シルフィーがライラの声に反応したのかどうかは判らないが、彼女は苦痛の表情を浮かべながら残された右手で傷口を押さえ、尚も立ち上がる。


「私は……私は…………!」


 駄目だ、シルフィーの意識が途切れる寸前だ。

 このままじゃヤツに食われる!


 そう思った時、ライラがオレの前で力無く立ち上がったかと思うと、そのままゆっくりと片膝をついて頭を下げた。


「我、ライラ・アーク・アルグランスの名において、先日そなたに行った無礼の数々を謝罪する。申し訳なかったのじゃ……。だからお願いじゃ、どうか我が友、シルフィリアを救ってくれ………………」


 ライラは声と体を震わせながらそう言った。

 恐らく彼女が初めて口にした謝罪の言葉だろう。


 ……だがオレの望む謝罪の言葉はそうじゃない!

 まだこの謝罪は立場や形式に囚われている!

 オレはお前の口からそんな格式ばった謝罪を聞きたいんじゃない!

 お前の素直な言葉を聞きたいんだよ!


「お願いじゃ…… お願いじゃ…………」


 懇願するライラに対し、オレはそのまま沈黙を続ける。

 そして二人がシルフィーの方向へ視線を戻すと、シルフィーはガンガルドの尻尾払い(テイルアタック)を喰らって吹き飛ばされた。

 

 まだ辛うじて意識は保っているが、スタミナが完全に枯渇して身動きが取れない状況だ。

 ピクリとも動かないシルフィーにガンガルドの巨体が迫る。

 人を一飲みできそうな大きな口からは、先ほど食った左腕の血が混じったヨダレがボタボタと滴り落ちる。


 そんな絶望的な光景を見たライラは泣き崩れる。


「ああ……シルフィー……シルフィィイイイイ!!」


 ああもう! 限界だ!

 今まさにシルフィーを喰らい込もうと迫るガンガルドに対し、オレは無限収納から取り出した自作の投げナイフを投げつけた。

 ナイフは一直線に空を裂き、ガンガルドの右目に直撃する。


ブギャアアアアォォォオオオオオンンンン!!


 右目を潰されたガンガルドが苦痛の叫び声を上げて脚を止める。

 これで少しだけの時間が稼げる。


 そしてライラはナイフを投げ終えた姿勢のままのオレを見上げている。


 ここが正念場だ!

 素直な言葉、聞かせてくれよ!


「謝罪する? 申し訳ない? オレはそんな堅苦しい言葉を聞きたいんじゃない……」

「な、なにを……?」


 困惑の表情を浮かべるライラに対し、更に言葉を続ける。


「オレが聞きたいのはさ、そんな格式にまみれた言葉じゃないんだよ。謝るならさ、もっと簡単な言葉があるじゃないか?」

「簡単な……言葉…………っ!」


 ライラはハッとした表情でオレの顔を見つめる。

 どうやら解ってくれたみたいだな……。

 じゃあ、謝ろっか?


「これが最後のチャンスだ。悪いことをしたらなんていう?」


 ライラは涙をボロボロと流しながら、力いっぱいの声で叫ぶ。


「ごめんなさいなのじゃあああああ!!」


 グッド&ベリーナイス!!

 それじゃあオレも謝らないとな!


「オレもお前をぶって悪かった。ごめんなさい」

「う……うわああああんんん! 本当にごべんなざいなのじゃああああ…………」


 あらら、オレの謝罪に感極まったのか? 違った意味でまた泣き崩れちゃったよ。

 ふふっ、案外可愛いところあるじゃないか♪


 さて、とにかくこれでお互いのわだかまりは無くなった!

 お互いごめんなさいで喧嘩両成敗ってね!

 

「ではプリンセス・ライラ。不肖、このソーマがあの狼藉者を退治し、シルフィリア殿を救出して参ります。それで宜しいかな?」


 オレはアニメとかで見た、左手を後ろ腰にまわし、右手を左胸に当てた姿勢で軽く頭を下げるという小洒落(こじゃれ)た「騎士の敬礼」もどきを、少しお道化た言葉と表情でやってみた。


「うん……うん……お願いなのじゃ……」


 まだ泣いてるライラはそう言いながら何度も頷く。


 では狼藉者退治を始めますかっ!!

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