202話:本気の10年の覚悟 ★
オレは今も泣いているエキルスの頭に手を乗せて優しく撫でてやった。
獣人族にも効果がある獣調教スキルを炸裂させ、エキルスの揺れる精神をみるみると落ち着かせる。
落ち着きを取り戻し、泣き止んだエキルスが静かに、そして不安そうな表情で顔を上げるが、オレはそんなエキルスに向かって優しく微笑んであげた。
「ソーマ様……」
「ありがとうエキルス。こんなオレを好きになってくれてさ。少し恥ずかしいけど、凄く嬉しいよ」
「い、いえ……そんな……。私の方こそこんな無礼をしてしまい……その……」
今になって少し恥ずかしくなったのか? エキルスは顔を真っ赤にして再び俯いてしまった。
エキルスって変なところで初心なんだよね~。
だけどその尻尾は左右にリズミカルに揺れている。
尻尾は正直だ。うん、可愛い♪
ってイカンイカン! 可愛さにニヤけてる場合じゃない。
気を引き締めて話を続けよう。
「エキルスの気持ちはとても嬉しいよ。だけどオレにはまだ人を愛するとかって感情が上手く理解できないんだ……。まぁ理由は色々とね……」
「ソーマ様……」
「だけど今日初めてエキルスからオレを愛してるって気持ちを伝えられてさ……その……なんというか、凄く救われた気持ちになったんだ。こんな偏屈なオレなんかを、そこまで好きになってくれる人がいてくれるんだって……」
「そんな……ソーマ様は立派な御方です! それはこのエキルスが――」
オレ自身を卑下する言葉を否定しようと必死になるエキルスの口を、そっと人差し指を当てて制する。
今のエキルスは少しオレを過大評価し過ぎだ。
「いいかいエキルス。オレの世界には「愛は盲目」って言葉があってね、愛情も度が過ぎると少し周りが見えなくなってしまうこともあるんだよ。エキルスはまだオレの全部を理解できてはいない。だけどオレはエキルスの愛情を信じたいし、受け入れたいとも思っている。ここまではいいかな?」
「は、はい……」
「じゃあ話を戻すよ。オレはエキルスのことが好きだし、こんなオレにそこまでの愛情を向けてくれるキミのことを大事にしてあげたいと思っている。だけど、まだ今のオレは結婚とか子供を儲けたいというところまでは踏み出せないんだ。けどね……今日エキルスにオレに対する愛情を伝えられて、少し気持ちが変わった」
「え?」
「悪いけど、上のみんなを呼んでもらえるかな? この先はみんなにも伝えておきたいことだから」
オレはそういうと、キャンピングカーの屋根上のテラスで待機しているメイドたち四人をダイニングに呼び寄せた。
「一〇年待って欲しい! この間にみんなを含めたオレの求婚者全員に必ず答えを出す!」
これがオレの出した本気の答えだ。
オレの求婚者の中で、一番時間が足りないのは人族であるサーシャで、次いでラミアのレットラー。
そしてその次は獣人族メイドの中で一番年上のエキルスだ。
エキルスはまだ子供を成せるには五〇年ほどの時間があるが、それでもドワーフ族やエルフ族、オーガ族などに比べたら圧倒的に時間が少ない。
今回エキルスがこのような大胆な行動をとったのも、その時間の猶予の少なさゆえの焦りからだ。
もっとも、その焦りを加速させたのはツララのキス騒動が一番の原因だったのだが……。
ともあれ現在一六歳のサーシャのことを考えると、やはり一〇年以内に答えを示さないと、彼女の人生そのものを無駄なものにさせてしまう。
「オレにフラれました。もう年齢的に子も成せず結婚も無理。独身で寂しい生涯を終えるしか道は残されていません」では、あまりにも罪悪感が残る……。
そうならないための時間、それがこの「一〇年」というギリギリの期限だ。
寿命の長い種族であるライラやファム、ツララたちを考慮の念頭に入れてたら、他の短命種族のみんなを無視することになる。
だからオレ自身が一〇年という期限を定めた。
幸いオレも人族の感性を保っているので、一〇年もあれば色々と考えも纏まるだろうと思ったのだ。
正直オレは、求婚者の持つオレへの情熱は、時間の流れと共に徐々に薄れてゆくものだと思っていた。
しかしエキルスの記憶を見て、その想いを目の当たりにし、それは間違いであったことに気付かされた。
みんな「本気」なのだ。
本気でオレと添い遂げようとしているのだ。
そんな本気の愛情を向けてくる彼女たちに対し、オレはあまりにも覚悟が足りなさ過ぎたことを、今になって改めて痛感した。
ここにきてようやくフラメン姉さんの言葉の意味が理解できたのだ。
「本気の想い」には「本気の覚悟」で挑まなければならないことを……。
そしてそれに気付かせてくれたのは、今現在、最もオレに向けてその愛情を示しているエキルスだ。
もし今回の彼女の行動がなかったら、恐らくオレは時間の流れに身を任せたままの考えで過ごしていたかも知れない。
でもそれでは駄目なんだ。
本気の彼女たちと共に、本気の人生を送らなければ、本気の答えなど見つかりはしないのだと。
それを教えてくれたエキルスには本当に感謝だな。
オレはその気持ちをここにいるみんなに嘘偽りなく伝えると、みんながみんな明るい表情で喜んでくれた。
特にサーシャとレットラーは互いの手を取り合って歓喜している。
エキルスもその答えに納得してくれたようで、笑顔で深くオレに頭を下げた。
礼をするのはオレの方だよ、エキルス。
流石はみんなから姉様と呼ばれるメイド隊副長だ。
そんなこんなで、以上の経緯とオレの考えをライラたち眷属に伝えた。
あとで知ったことだが、その夜にその話は求婚者全員に伝えられ、みんな大喜びしたということだ。
エキルスに関してはこのままオレに同行させることで話をつけたが、やはり無断で職務を放棄したということで、帰還後に相応の処罰は覚悟しておくようライラからお達しがあった。
レージュ女史が相当にお冠らしい……。
エキルスはアルグランス王家付きメイド隊三副長の一角。
相応の責任に付随するケジメはやはり必要なのだ……。
その報告を伝えると、やはり少し気落ちはしたが、最悪の判決が下された時は全力で彼女を守ってあげよう。
そう思えるほど、今のオレは彼女に感謝しているのだから。
エキルスは本当に「いい女」だ。
そのことを彼女に一応伝えてあげると、秒で機嫌上々になった。
前言撤回、エキルスは本当に「逞しくていい女」だ。
結局その日の夜は色々あり過ぎて気疲れしたので、夜間の移動は中止。
翌朝明けてからの出発と相成った。
女性が一人増えてしまったので、メイドたち女性陣は大型テントでふかふかの布団で。
ベルナルドとディック、オレの男性陣はキャンピングカーに複数設置した折り畳み式のマットベッドを使うことになったのだが…………。
「私、旦那様のとっなり~♪」
「あ! エキルス姉様ずるい!」
「では左隣は私がお邪魔して……」
「んげっ! サーシャに先越されただす!」
「わ~い♪ 今夜は旦那様と一緒で嬉しいです♪」
何故かオレもメイドたちと同じテントに引きずり込まれてしまった……。
まぁなんだか……屋敷にいる時の就寝風景とあまり変わらない気がするね。
ソルムとアディの二人からうって変わって、美女五人に囲まれて一気にハーレム感マシマシだけど、これも本気の覚悟を決めたオレへの試練と思って慣れてゆこうと思う。




