表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神愛転生  作者: クレーン
第四章
206/210

200話:エキルス・ガル 後編 ★

 演奏隊の音楽が優雅に流れるパーティー会場の中、私とリゼットの二人はライラ姫様の命の恩人である人族の少年「ソーマ」のお世話役をするために、メイリンを介して紹介された。


 なにはともあれ、何事も最初が肝心。

 私は笑顔を作り、リゼットに続いて少年に挨拶をした。


「エキルスです。姫殿下の御恩人にお仕えでき光栄の至り。なんなりと申し付け下さいませ」


 私はそう言いながら静かにカーテシーの姿勢をとって頭を下げた。

 そして顔を上げ、その目に入った彼の顔は……予想通りの表情だった……。

 異質な物を見るような驚きの表情。

 そして彼の視線と私の視線が合っていない。

 彼の視線は真っ先に私の頭上にある物、獣の耳に集中している。

 私が何度も味わった強烈な不快感……いつもそうだ……人族は誰も私の目を見てくれない……そしてこの少年も……。


 しかし相手はこの国の賓客。無礼は許されない。

 私は強引に平静を装おうとしたけど……駄目だ……上手く思考が回らない……。

 そして私はつい余計な言葉を口走ってしまった。


「あ……やはりこの耳が気になりますか……?」


 だぁあああああ⁈ 私ったら何を言ってるのよ!!

 しかも相手から目まで逸らして!!

 これじゃあ私が「どうせ獣人だから忌避感を感じてるんでしょ?」って嫌味言ってるようなものじゃない!

 ああ……私、終わった……。

 レージュ姉様の耳に入ったら大説教、最悪首が飛ぶわねこれは……。

 もう今の私には耳と尻尾を下げて俯くことしかできなかった。


 そんな不甲斐ない私を庇おうと、メイリンが必死に彼を説得してくれているみたいだけど……もういいのよメイリン。

 心を強く持てなかった私のせいなんだから……だからもう――


 そう思った矢先、彼の口から信じ難い言葉がこの耳に飛び込んできた。


「全!然!問題ありません! むしろ猫耳で大変結構!」


 その言葉を聞いた私たち三副長は、口を揃えて素っ頓狂な声を上げた。


「「「は……はいぃ?!」」」


 え? なに言ってるの…………この人?

 その言葉に反応して思わず彼に今一度その目を向けたが、少年は今度はちゃんと私の目を見てくれていた。

 澄んだ蒼い瞳が真っ直ぐと、私の金色の瞳を見つめる。

 ああ……人族からそんな目で見られたのは何時ぶりだろうか?

 そして少年は間髪入れずに私の獣の耳や尻尾を「至高」とまで言い放ち、それどころか、それの良さが解らないほうが異質であるとまで言ってくれた。

 そして自分に自信を持って欲しいと……。


 ああ……この言葉がただの世辞でも構わない……。

 私のような獣人を公衆の面前で、人族が声高らかに認めてくれる。

 その言葉が今の私にとってどれほどの心に癒しとなるか……。


 長い間、心の奥底から積り積もった黒い感情が、まるで聖なるもので浄化されるような清々しい感覚を感じた時、私はとうとう感極まって涙を流してしまった……。




 そのあともこの少年、ソーマ様は色々と私に気をかけて下さった。

 私に選ばせて取り分けた料理も、嫌な顔一つ見せずに食して下さった。

 私が手に触れた皿や食器も、なんの抵抗もなく受け取って下さる。

 そしてその皿に盛られた料理を、さも当たり前のように口へと運んで下さる。

 それは私に対する信頼が無ければできないことだ。

 料理自体がソーマ様の口に合わなかったという結果ではあったが、そんなことは私にとっては些細なことだ。


 私の外見を認め、私が触れた物を手にし、私が選んだ物を受け入れてくれる。

 それがどれほど嬉しいことか……。


 ああ、ソーマ様! ソーマ様!! ソーマ様!!!

 私は何時如何なる時もソーマ様のお姿を目で追っていた。

 多分この時すでに私はこの御方に心を奪われていたのだろう。


 そのあとにソーマ様の姉君と称されるフラメン様が現れたけど、その方も種族を問わずに優しく接して下さる寛大な御方でした。




 そんなソーマ様とフラメン様御姉弟の人となりは、たちまちメイドたちの間で持ち切りとなった。

 あのライラ姫様を豹変させた人物、やはり只者ではないと。

 特に獣人をまったく毛嫌いしないという話は多くの獣人メイドたちに好感を与えたようで、後日にソーマ様がお過ごしになられるお屋敷に務める使用人の選出に、大きな影響を与えた。


 私もお屋敷のメイド長としてお仕えしたかったけど、レージュ姉様がいないのに、副長が王城を離れるべきではないとメイリンに止められた。

 え? ルトとリコナは選定に勝ち上がって向こうへ行くの⁈

 なんて羨ましい!!

 えっ? ポロンまで?! こういう時は本気出すのよね……あの子……。


 その数日後に、選定に勝ち上がったメイド一〇名はソーマ様にお仕えすることとなり、屋敷のメイド長に就任したリコナから活動報告が連日届くが、読めば読むほど羨ましくなる。


 やはりソーマ様はメイド全員分け隔てなく、優しく接して下さっている様子だ。

 それだけにとどまらず、お料理も得意らしく、みんないつも美味しいお食事をいただいているみたい。

 私もソーマ様の手料理を御馳走になりたいわ!


 そんな報告を何度も読み返しながら、ソーマ様への想いは募るばかり……。

 その日の夜、私は自分を慰めた…………。

 ソーマ様を想う高揚感と、人族と獣人族では子を成せぬ現実……その虚無感の両方が襲い掛かり、私は涙を流した。

 その時だけ、異種族同士では子を成せぬ神の悪戯を恨んだ……。

 私も人族だったらよかったのに…………。




 それから数日が経ったある日、ソーマ様がマクモーガン卿とソルムの二人を伴って、アルグランス一周の旅に出られることとなった。

 神獣のマーク様たちも同行されるので、半月ほどでお戻りになられるらしいけど……いくらなんでも早すぎない?


 まぁそれはさて置いて……随伴するソルムが羨ましい!!

 しかしあの子も一般メイドとなって相応に実力もつけているし、ソーマ様のお付きとしては申し分ない。

 ソーマ様自身もかなりの実力者というお話だし、なによりも神獣様が御一緒なのだ。

 マクモーガン卿という不安要素を差し引いても、問題は皆無でしょう。

 ここは温かい目で御見送りするとしましょう。

 まぁ少しソルムが妬けるので、ちょっとだけ意地悪言っちゃいそうだけど♪




 ソーマ様御一行が旅立たれてから数日が経ったある日、突然ライラ姫様から私たち三副長に向けて「ソルムを解雇した」との報を言い渡された。

 え? ソルムを解雇? それは一体どういうこと?

 状況が全く理解できず、メイリンが姫様に問い質すが、返ってきた返事は「ソルムはアルグランス王家付きメイド隊を除隊となり、ソーマ様の正式な従者となった」これだけだった。

 ソルム……一体あなたの身に何が起こっているというの?

 そして間の悪いことに、その翌々日にレージュ姉様がセイル森国から帰国。

 姫様からソーマ様の事やソルムの一件を聞かされると、予想通り唖然とした表情で固まってしまった。

 心中お察しします、レージュ姉様。

 訳がわからないですって? 御安心を。

 私も訳わかりません。




 その三日後、またまた国を揺るがす事件が起こった。

 クレイト帝国が我が国と講和を求め、使者団を派遣してきたのだ。

 人族至上主義を掲げていた、あのクレイト帝国がドワーフの国であるアルグランス武王国に講和?

 なんでそんなことに?


 シルフィリア様に詳しいお話を伺ってみたが、なんでもソーマ様の逆鱗に触れたらしく交戦。

 その結果、クレイトは武装解除で完全降伏したそうだ。

 しかも帝国内部で起こっていた事件も解決したとかで、ソーマ様はアルグランスのみならず、クレイトの恩人にもなってしまったらしい。


 だからソルム! あなたの身の回りで今、一体なにが起こっているの⁈




 激動する日々を過ごす中で、ソーマ様にもう一人の姉君、ミツルギ様が王都へ御来訪なされ、フラメン様と御一緒にお屋敷に住むことになった。

 面白い喋り方をされる御方だけど、フラメン様同様に底知れない力を感じる……のは気のせいだろうか?




 そして数日後、ようやくソーマ様がソルムと見知らぬ獣人の少年を引き連れて王都へと帰還なされた。

 お帰りを心待ちしておりましたわソーマ様!

 またこうしてお会いでき、とても嬉しゅうございます♪


 数日間離れて再認識した。

 私、やっぱりこの人に恋をしている。

 この胸の高鳴りは間違いない。


 そしてその翌日、私たちはソーマ様の正体を知ることとなった……。




 ソーマ様の正体を要約すると、異世界からやってきた神の使徒だということだった。

 フラメン様もミツルギ様も、フォーランドの神々の更に上に君臨する上神と呼ばれる存在。


 正直言って私……いや、その場にいた誰もが、その想像を絶する内容に驚きを隠せなかったけど、私にとっては最早些細なことだ。


 ソーマ様と添い遂げたい!


 これが今の私の素直な感情だった。

 子が成せなくてもいい。

 ただ私の天命が尽きるその時まで、この御方の傍にいたい。

 そう思えるほど、私は彼を愛してしまっていた。




 翌日、先武王陛下と姫様に同伴したが、その時のソルムに対する接し方でソーマ様からお叱りを受けた。

 ソルムの今の立場を自覚させるためということで、レージュ姉様からの指示で一芝居うったのだけど、ソーマ様に嫌な印象を与えてしまった。

 レージュ姉様! 今回ばかりはちょっと恨みます!


 そのあと、ソーマ様とレージュ姉様の間で今後のソルムの扱いに関して一悶着あったり、先武王陛下との話の中で出てきたソーマ様の地図を見て驚いたりと色々あった。

 そしてその話の中で、ソーマ様のお屋敷が人手不足という話が耳に入る。

 ならばここは是非とも私が!!

 私はその時の気持ちの勢いのまま、ソーマ様のお屋敷で働く承認を姫様から得た。



 ヒャッホォオオオオ!!

 これで昼夜問わずソーマ様と御一緒できるわ!


 ということで、私はソーマ様のお屋敷のメイド長に就任した。




 その日から始まった、夢かと思うような日々の連続。


 朝、目が覚めるとソーマ様の笑顔が見える。

 昼、振り向けばソーマ様のお姿が見える。

 夜、ソーマ様のお優しい声を聞いて眠りにつく。


 ああ……なんて幸せな日々なのだろうか?

 この夢がいつまでも覚めなければいいのに。

 しかしソーマ様が一国の王になられた時、必ずお別れが来てしまう……。

 当然私もその時はお供したい気持ちで一杯だ。

 だけどソーマ様は自らの子を成せぬ、私のような獣人を意味もなく一緒に連れて行っては下さらないだろう……。

 ソルムはソーマ様の従者……私には……御一緒する理由が何もない……。


 ソーマ様と添い遂げたい気持ちは一番だけど、これ以上は私の我儘……いや、妄想でしかない……。




 しかしその数日後、フラメン姉様とミツルギ姉様の口からとてつもない事実が告げられた。


 『ソーマ様は種族を問わず子を成せる力がある』


 ……………………………………………………………

 っっっっしゃぁぁああああああ!!

 今までの不安要素だった問題、全部解決!!


 恩義あるレージュ姉様には悪いけど、もう副長の座なんてどうでもいいです!

 私は絶対にこの御方と添い遂げる!


 しかしやはりライバル多し!

 姫様やシルフィリア様はおろか、メイドたちもこぞってソーマ様へ求婚の意思を示す。

 でも私だってソーマ様を想う気持ちで負けるつもりはないわ!




 そんなこんなで翌日には、緊急御前会議の席で正式にソーマ様へ求婚を申し込んだ。

 だけどソーマ様御自身は、なにやら結婚に対して前向きではない様子……。

 前世でなにかがあったらしいけど、それをお話になってはもらえないようだ。

 だけど、今はこれでいい。

 私……いや、ソーマ様に想いを寄せる私たちの意思を、ソーマ様に認知していただけるだけで今は良しとしておきましょう。

 あとは時間が解決してくれることを願うだけ…………。




 そんなふうに考えていた時期が、私にもありました。




 甘かった! 全然甘かったわ!!

 あの鬼姫がっ!! …………失礼。 

 カスガ国の第一王女、ツララ・フウマ・カスガ殿下が!

 こともあろうにソーマ様へ突然のキス!!

 しかもその後に、正式にソーマ様へ求婚!!


 もうこの際、求婚はいいわよ!

 ライラ姫様も仰られる通り、ソーマ様ほどの傑物に引かれぬ女子なんていやしないわ。

 だから求婚者があとを絶えないことに関しては抵抗はない。

 だけどキス!! キスしたわ! しかも接吻! このアマ!

 私だってまだしてもらったことないのにぃいいいい!!


挿絵(By みてみん)


 ソーマ様に問答無用でキスした狼藉に対して怒りを露わにし、身を任せたままの飛び蹴りをみんなと共に放ってしまった。

 幸いそのことに関して、ツララ殿下も自ら無礼をしたと反省して不問として下さったし、今後は私たち求婚者と同列に立って、定めたルールに従うということで話はまとまったけど……。


 私もソーマ様と一度でいいからキスしたい~~!

 だけど正攻法で迫っても多分無理……私みたいな剥き出しの好意を向けていても、ソーマ様は容易く躱されるのがオチだわ……。

 本当にいけずな御方!




 駄目だ……考えれば考えるほど不安になってくる。

 ライラ姫様とツララ殿下は一国の王女。

 シルフィリア様は侯爵家令嬢で、アルテア所長は貴族ではないけど肩書きは申し分なし。

 ソルムはソーマ様の従者ではなく、直々に爵位と家名を賜った「家臣」となった。


 だけど私には……………………あるじゃない?

 私は何を迷っていたのだろう?

 愛にそんな肩書きなんて必要ないわ!

 愛は誰もに、等しく平等に、神が与えたもうた感情! 想い! 意思!


 この自分の意思だけは嘘じゃない!

 もうここまできたら、自分の信じる愛を貫くだけよ!

 私自身の進退なんて最早どうでもいい。

 この気持ちをあの御方に全て伝えたい。

 そのためには……お願いします、二柱の神々よ。

 どうか私めに、この想いの全てを伝える力をお与え下さい。

 愛ゆえに!!




 そして私は全ての責任を放棄して、ソーマ様の大型馬車に忍び込んだのだった……。




 レージュ姉様、捨て子だった私を拾い上げ、今まで育んで下さった恩義を裏切ってしまい申し訳ありません。

 メイリン、リゼット、貴方たちと共に副長の座にいられたことを誇りに思うわ。

 メイドの妹たち、こんな私を姉と呼んでくれてありがとう。

 最後に不甲斐ない姉になってごめんなさいね……。


 そしてシグマ武王陛下……獣人の身である私に対し数々の御寵愛をいただき、本当に感謝の念に絶えません……。

 ですが私…… いえ、愛に生きる決心をした“今の私”に「ガル」の名を名乗る資格はございません。

 いただいたその名、慎んでお返しさせていただきます。

 アルグランス武王国に栄光あれ!




 これでもう後戻りはできない。

 王都を出発してかなりの時間が経ったけど、そろそろ屋敷のみんなも、私がいなくなったことに気付き出す頃だろう。

 私も早くソーマ様と二人きりになる機会を見つけないと……って、えっ⁈ なにこの威圧感?!

 全身が震える! 冷や汗が止めどなく流れ出て心臓が圧迫されるような覇気!

 まさかこれはソーマ様の?! まっ、待って下さい!!

 あ……もう駄目…………意識が途切れる…………!

 せめて……せめて意識を失う前にお伝えしたかった…………




『エキルスは貴方を愛しています』って…………――――

次回更新は不定とさせていただきます。

出来り限り一週間以内には更新したいと思いますので、よろしくお願いします。

とりあえず月曜日か木曜日のどちらかで更新って感じで。


折角の200話記念だというのに、締まらないコメントで申し訳ないです。

今後とも「神愛転生」を宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ