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神愛転生  作者: クレーン
第四章
205/210

199話:エキルス・ガル 中編

 アルグランス王家付きメイド隊三副長の一人、アコニト・バルバール姉様が御結婚を理由に、翌年メイド隊を去ることが決まった。


 気立てがよく、一般や見習いどころか種族の違いも分け隔てなく、時に厳しく、時に優しく指導してくれる素晴らしいハイドワーフの女性。

 同じ副長であるメイリン姉様やリゼット姉様ですら、アコニト姉様の前では自らを未熟と言わしめ、レージュ大姉様の右腕となる偉大な御方。

 無論私も幾度となくお世話になった。


 そんな人物がこのメイド隊を去ろうとしているのだ。

 その引退が正式に発表されたその日を境に、メイド隊の中では数々の噂が飛び交うこととなる。


 『次期副長の一角はリコナだ』

 『もしかしたらテトラの可能性も?』


 などといった、次期副長に関する他愛のない噂……。

 しかし私の名を挙げるのは極少数だ。

 そりゃそうでしょ?

 大姉様や三人の姉様たちを見てみなさいよ。

 全員ハイドワーフな上に家柄も申し分なし。

 リコナやテトラも貴族の娘だし、次の副長はこの二人のうちのどちらかで決まりよ。

 私のような家名を持たないどころか、孤児出身の獣人風情が副長なんてありえないわ……。


 次期副長の座を目指す。そんな意気込みもどこへやら?

 その頃の私はそんなことを思うほど、自分を卑下するようになっていた……。


 しかしそんなある日、私とリコナはレージュ大姉様から呼び出しを受けてこう言われた。


 『二人の内のどちらかを次期三副長の一角に昇格させる。来年までの間に更に己を磨き、研鑽を重ねよ』と……。


 その言葉を聞いた時、私は自分の耳を疑い、明らかに動揺した。

 しかしもう片方のリコナは平然としたものだ。

 まるでこうなることを予想していたかのように……。


 そんなリコナは真っ直ぐな瞳で私に言った。


「貴方と次の副長の座をめぐって競えることを誇りに思うわ。お互い悔いのない勝負をしましょう」


 リコナからそう言われた次の瞬間、私の暗く閉ざされていた視線の先に光明が見えた……。


 そうだ! 私は何を悩み、何に囚われ、何を考えていたのだ?

 獣人族が見下される存在ならば、そうならないように私が変わればいいのだ。

 相手の変化を待つのではない。

 己の手で変化を促さねばならないのだ。

 他人の評価を変えるなら、まずは自分からだ!


 その日を境に私は再び始動を始めて、忘れかけていた副長への道を目指して歩むようになった。

 好敵手となったリコナとも、時には同調し、時には競い合って、互いに互いを高め合う。

 そんな日々の流れ一つ一つがとても充実した。

 こんな気持ちになるのは、メイド隊への門を叩いたばかりの頃以来だ……。


 そして翌年。

 数多くの試合と実技を繰り広げた私とリコナだったが、結果として私が次期副長の座を勝ち取った。


 ハイドワーフ以外の種族がアルグランス王家付きメイド隊の副長に就任するのは前例がなく、しかもそれを僅か一二年で、若干二五歳の獣人族が実現させた私の功績をシグマ武王陛下は大きく評価し、その功績を称えて私に「ガル」の家名をお与え下さった。


 こうして私は「エキルス・ガル」として、栄えあるメイド隊三副長の一角へと上り詰めたのであった。

 メイリン、リゼットと肩を並べるそんな私の姿を見て、アコニト姉様は大層お喜びになってくれた。


「エキルス、副長就任おめでとう。だけどこれからも常に研鑽を重ねなさい。そして努力なさい。今はまだ貴方の悩みの根本を変えることはできないでしょう。でもいつか、貴方の悩みを打ち消し、貴方の運命そのものを変える人が現れると私は信じたい。どうかそれまで、決して挫けず、自分の理想を追いかけ続けなさい」


 アコニト姉様からそんな祝辞の言葉を貰った時、私は少しだけ泣いた。

 アハハ……今までのことは全て見透かされていたようだ……。

 なんだか少し恥ずかしい気持ちになる。

 でも大丈夫! 私はもう悩まない!

 運命の人なんて、そんな当てのないものなんて待ってられないわ!

 私自身の手で獣人族の評価を変えてみせるんだから!

 ここから獣人族……いや、この私、エキルス・ガルの更なる飛躍が幕を開けるのよ!




 …………とは言ったものの……私が副長に就任して二年が経ったけど、そうは簡単にはいきませんでした。

 相変わらず獣人族に対する、他国の人族の評価は厳しい状態です。


 副長である私に対しても、まだまだ難色を示す人族は多いのだ。

 私の補佐役としてリコナやルトも頑張ってはくれているんだけど……正直ヘコむわぁ~。


 そんなある日、あの我儘王女、ライラ姫様が遭難したとの報があって城内が大騒然!

 と思ったら、数日後には無事救助されたとして歓喜の声があがった。

 しかもどうしたことか?

 あの暴君姫とまで呼ばれた姫様が帰還したと思えば、すっかりとその鳴りを潜めて大人しくなったどころか、今までの暴挙を全ての使用人たちに詫び、しかもそのことを悔い改めるために光の聖教会で数日間の懺悔業まで行ったのよ⁈


 私を含めた使用人全員が口を揃えて言ったわ。

 『あの姫様に一体なにがあったのか?!』と。


 姫様と共に遭難していたシルフィリア様からその件についてのお話をお伺いしたけど、その遭難先でお二人を助けたという「人族の少年のおかげ」としか教えてくれなかった……。

 あの姫様を激変させた人族の少年ねぇ~~…………。

 もしかしてその人が私の運命の人? ふふふ……まさかね。




 それから更に数日が経ったある日の朝のこと。

 お出かけになられていた姫様御一行が、その件の少年を賓客として我が国にまで連れてくるとの報告が入った。

 いつ? 今日?!……っていうか、もう港に到着されてる⁈

 ちょっ! おまっ! ちょっと待って! 急にそんな話をされても、何も準備していないわよ!

 レージュ姉様…………は今はセイルに出向されていたわね……。

 え? 今夜にはお披露目パーティーも開催する? 無茶いわないでよ!

 ええい! こうなったら見習いも引っ張り出して事態の収束に当たるわよ! 


 リゼットは先にパーティー会場の方をお願い! 私は賓客の受け入れと謁見の準備の方に当たるわ! 済み次第すぐに応援を回すから!

 ルトとアニルは執事隊と調理班との連絡を密に!

 見習いの指揮はファムに任せるわ!

 それよりもメイリン! 早くこっちに戻ってきてぇええ~~!!

 どうしたのメキナ? ポロンが見当たらない⁈ どうせ厨房でサボってるハズだから引きずり出しなさい!




 そんなこんなで見習いたちまで動員し、メイド隊総出でなんとか賓客のお迎えを無事に果たせた。

 見習い筆頭のサーシャも上手くやってくれたようで安心したわ……。


 しかしお披露目パーティーで、その件の少年のお世話役を私とリゼットの二人で行うことになった。

 その人員を選出するまでの時間が確保できなかったので、ここは副長である私たちがその任に当たる……まぁ選択としちゃ間違ってはいないわね……。

 下手な娘を当てて失敗でもしたらメイド隊の沽券にも関わるしね。

 いい判断だと思うわ、メイリン。

 それでいい! それがベスト!

 それが他国の人族でなければね……。




 そしてその日の夕刻から、予定通り賓客のお披露目パーティーが執り行われた。

 会場の片隅でメイド隊一同と一緒に控えながら、壇上で紹介を受ける件の少年の姿を見たが、正直な印象は「異質な少年」だった。

 綺麗に整えられた銀髪に吸い込まれそうな蒼い瞳。

 着こなしている衣服は今まで見たこともなく、気品に溢れた意匠を感じる。

 今まで出会ってきた人族とは明らかに違う。

 具体的なことは言えないが、私の本能がそう感じている。

 私の何かを変えてくれる。

 そんな期待をさせるかのような予感……って! ダメダメ!

 なにそんな甘い期待を持ち出してるのよ私は!

 どうせ私の姿を見たら、あの可愛らしいにこやかな表情もきっと…………って……なにあの犬たち? あれも賓客? 姫様ったら一体なにを……って?! 大きくなった! 喋った! ええ?! 神獣様⁈ あの少年の(しもべ)?! なんなのこれ⁈




 大きな驚きがあったけど、冷静を取り戻した私とリゼットはメイリンに引率されて、件の少年の居場所へ向かっている。

 大丈夫リゼット? ええ……私もなんとか……。

 いろいろと度肝を抜かれた気がするけど、これ以上の驚きはないと……思いたいわね。

 どうやらあの少年は私たちが考えている以上の人物みたいだわ。

 ええ、ここはお互い頑張りましょう。


「では二人とも、あとは任せたわよ」


 メイリンの言葉に私たちは気を引き締め直す。

 正直、人族の相手は嫌だけどここはやるしかない。

 なにを言われようが、最後まで耐え抜いてやるわ!

次回更新は一応来週月曜を予定してますが、週末に休日出勤確定しちゃいましたので、もし更新できなければ木曜日とさせていただきます。

世知辛い……

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