197話:エキルスの涙 ★
『つまり、エキルスに頼まれて手を貸してやったと?』
『掻い摘んで言えば、そういうことになるのだよ♪』
『もっとも~♪ キャストとガドラの超感覚までは対応ができなかった様子だがぁああ~~♪』
『うんうん! そうなのだよ! まさか私たちの神気の障壁の隙間を掻い潜るとは想定外だったのだよ! 二匹とも偉いのだよ♪』
『いえ……そんな……勿体ない御言葉で……』
『えへへへ~♪ ボクも褒められちゃった~♪』
『キャストもガドラも喜んでるんじゃないの。まったく……これどうするんですか⁈』
ダイニングのロングソファーに横たわって、メイドたちに介抱されているエキルスを横目に見ながら脳内で怒鳴った。
なんでも先日、エキルスがオレのクレイト行きにお忍びで同行したいから力を貸して欲しいと、姉さんたちに懇願したそうだ。
そして二人はエキルスに神気由来の隠蔽・隠密能力を暫定的に施し、オレの神眼すらも欺くダミーマーカーまで用意して、今回の行動を実行したらしい。
なぜエキルスが屋敷での職務を放棄してまで、そのような行動にでたのかは姉さんたちは知っているようだが、その辺りは本人から直接聞けと言われた。
まったく、人の気も知らないで好き勝手に言ってくれるよ……。
とりあえずここまで来たら王都へ送り返すわけにもいかないし……このまま連れて行くしかないだろうなぁ……。
そんな感じに今後のことを考えつつ話をまとめて念話を切ろうとしたが、最後にフラメン姉さんの声が頭に響いた。
『ソーマ、エキルスは本気なのだよ』
『え?』
『だからこそ、君も真剣にその想いに本気で向き合いなさい』
フラメン姉さんはそう言い残し、向こう側から念話を切った。
と、それと当時にエキルスが「うう~ん」と少し重苦しそうな声を上げて目を覚ました。
「アレ…………ここは? 私は一体…………」
エキルスは少し朦朧とした感じでそう言いながら、少し頭が痛いのか? 真っ先に頭を手で押さえながらゆっくりと上半身を起こした。
まだ額には汗が滴っている様子だ。
横で介抱していたサーシャが、その額の汗をタオルで優しく拭う。
「エキルス姉様? 御加減は如何ですか?」
「サ……サーシャ…………? アレ? どうして私――」
「姉様、旦那様の威圧に潰されて気絶してたんですよ」
まだ少し混乱気味のエキルスに対し、アニルは水の入ったコップをエキルスの口にそっと近づけて飲むように促す。
エキルスはまだ混乱しているが、余程喉が渇いていたのか?
それをすんなりと受け入れて、頭を後ろに傾けながらコクコクとそれを飲み干した。
「ふう…… ありがとうアニル……少し気分が良くなったわ」
「いえ、それはいいんですが……」
「そうですよ! なんでエキルス姉様がここにいるんですか?」
「わたすもその辺りの話を詳しく聞きたいだすねぇ~」
水を飲み干して落ち着いた様子のエキルス。
だがそんな彼女に対し、サーシャとアニルは少々困惑気味。
レットラーとファムは身を乗り出してエキルスを問い詰める。
そんな二人の気迫に少し押されたのか? エキルスがたじろぎながら目を反らすと、丁度その方向にいたオレと視線が合う。
するとどうしたことか? エキルスの顔が徐々に赤くなり、先ほど以上の脂汗をダラダラと流し始めて硬直。
ついにはうつ伏せの状態でソファーに再び倒れこんだ。
「だっ! 旦那様⁈ えっ? あれ⁈ 私⁈⁈」
「やれやれ……ようやく正気に戻っただす」
慌てふためくエキルスを横目に、ファムはやれやれといった様子で肩をすくめ、他の三人は苦笑いの状態だ。
そしてそんな様子のメイドたちを前に、オレの後ろで様子を窺っていたベルナルドとディックは困惑気味に少し目を反らす。
「あ~~…… ソーマ殿よ、この場は我らは退散したほうが良さそうだな……」
「お、俺たちは外のテントに移動しておくから、話がまとまったら呼んでくれ」
「あ、ああ……なんか気を遣わせてしまって悪いね二人とも。よろしく頼む」
そんな感じでダイニングにはオレとエキルスを含めたメイドたちと神獣姉弟だけとなり、エキルスもようやく正気を取り戻して落ち着いた様子なので、詳しい話を始めることとなった。
しかしオレたちが色々とエキルスに質問を投げかけるが、エキルスは視線を下に逸らしたままで一言も返事を返さない。
そこでオレはフラメン姉さんの言葉を思い出す。
どうやらエキルスがこんなことをしでかしてまで、ここに潜り込んだのには大きな理由がありそうだ。
多分それを他のみんなには聞かれたくないんだろうなと、オレは察した。
「姉様! 聞いているんですか⁈ いくら姉様といえど、そうだんまりされると流石のあたいも!――」
「アニル、少し落ち着いて」
「旦那様……しかし……」
「いいから……ね?」
エキルスの態度に少々イラつきを覚えたアニルが声を荒げ始めたが、それをオレが制止して宥める。
「みんなも悪いけど、ここはオレに任せてくれないかな?」
「ま、まぁ……旦那様がそうまで仰るのであれば、私に異論はありません」
オレの言葉に気を静めたアニルは後ろに下がり、他のみんなも異論は無さそうなので、メイド四人には天上のテラスに移動してもらった。
キャストとガドラは外で野獣などの警戒にあたってもらう。
これでダイニングにはオレとエキルスの二人きりとなった。
オレはソファーの座るエキルスの隣に腰を下ろし、膝の上に置いてある手にその手を重ね、今も物悲しそうな表情でうつむいてふさぎ込むエキルスの顔を覗き込むようにして話しかけた。
「エキルス? 一体どうしたんだい? もうここにはオレたち以外は誰もいないよ? もしかしてオレにもお話はしてくれないのかな?」
そうオレが声をかけると、ようやくエキルスは静かにその顔を上げ、少し涙で目が潤んだ瞳を真っ直ぐにオレへと向けた。
凛々しさ清楚さを感じる真っ青な髪の毛とは対照的に、可愛らしい愛嬌のある猫耳。
そしてその両方とは全く異なる、異質な魅力を醸し出す金色の瞳が綺麗に輝く。
獣人特有の縦に細い瞳孔、その神秘的な二つの瞳が、まっすぐにオレの顔だけを映し出す。
綺麗だ……その目も然ることながら、エキルス自身、本当に綺麗で美しい顔立ちをしている。
普段の少々過剰なオレへのラブアピールから生じる剽軽な印象で忘れていたが、エキルスは本当に綺麗な美貌を誇る女性なのだ。
ぶっちゃけて言うと、かなりオレの好みのタイプである。
初めてエキルスと出会った時も、猫耳プラスでその魅力三倍増しで胸が高鳴った。
こんな綺麗な女性ともっと早く出会っていたら、オレの人生も少しは変わっていたのかな? って思ったほどにだ。
だがそんなエキルスは今、すぐにでも泣き出しそうな表情で瞳を潤わせながら、前に伸ばした両手をそっとオレの両頬に添える。
あ……なんかこの体制、前にもやられたことがあるので一応警戒しておこう。
なんか今のエキルスなら、そのままの勢いでツララみたいにブチュっとキスしてきそうだしな。
と、オレがそう思った瞬間、エキルスの金色の瞳が輝きだし……いや、本当に光りだしたのだ。
そしてそれと当時に、金縛りにあったかのようにオレの身体が硬直した! 何だこれは⁈
「ソーマ様……旦那様……本当にごめんなさい……」
「エ……エキルス……! い、いったい何をした⁈」
「お姉様方から頂いた最後の力を使わせていただきました……」
「フラメン……姉さんたちの……⁈」
だめだ! どんなに力を込めても身体がまったく動かせない! こんなことをオレにできるのは神の力だけだ! クソッ! あの二人、エキルスに一体何をしたんだ⁈
そう取り乱している隙を突き、オレの目の前にまでエキルスの顔が近づく。
そして大方の予想通り、エキルスは静かにオレの唇にキスをした。
だけどそんなエキルスの表情は悲しみに包まれ、閉じたその目からは涙が流れている。
なんでだよ……なんでそんな悲しそうな顔をするんだよ、エキルス……。
すると突然、オレの頭の中にエキルスの声が鳴り響く。
『ソーマ様……私の……愛おしい御方……運命の人…… 私の全てを……見て…………』
そんなエキルスの声が聞こえた次の瞬間、オレの頭の中に別の記憶が流れ込んできた。
久しぶりの週二回更新でした。
次回更新は来週月曜日を予定しています。




