195話:初日の野営と緊急連絡
その日の夕方、そろそろ陽も沈みそうな頃にオレたち一行は停車して野営の準備を始める。
キャストとガドラは聖杯の力によって獣から聖神進化した神獣スコルであり、通常の獣などと違って食事が不要どころか、実は睡眠などの休息行為そのものも不要の生き物だったりする。
言ってみれば今の状況なら不眠不休でキャンピングカーを牽引できる動力なので、個人的には夜間の間も皆の睡眠の妨げにならない程度の速度で夜間進行してもらおうと考えていた。
しかし流石に今日は出発初日ということもあったので、他のメンバーもそれなりには疲れているだろうと思い、その辺りは明日からにしようと思った次第だ。
そのことを皆に話すと――
「え? 私たちは別にそれでもかまいませんが?……」
「というか、普通の馬車より揺れも少なく快適過ぎますし……」
「なによりキャストちゃんとガドラくんのおかげで、私たちが御者をする必要もありませんでしたから……」
「ぶっちゃけ、今日は旦那様の方がわたすたちより働いてたんでねえですかね? すれ違う人らの相手とかで?」
――とまぁ、お供のメイドたちから以上のような返事をされてしまった。
「我らも夜間に進んでもらっても特に問題はないぞ?」
「昼間の揺れ具合でも普通に寝れそうだしな。正直馬車の揺れに比べたら全然快適だよ」
ベルナルドとディックもそんな感じだ。
ならばオレとしても少しでも距離を稼いでおきたいので、ここはみんなの意見を汲み取って夜間進行しようという流れになった。
でもとりあえず、食事と風呂の時間くらいはのんびりとやりたい。
現在の時間は一八時なので、二二時くらいに出発する感じでいこうと思う。
ということで、オレは屋根だけの大型テントを外に設置。
そこに椅子やテーブル、その他料理道具各種を並べて夕食の準備に入る。
サーシャとファムはオレのお手伝い。
アニルとレットラーはキャンピングカー内の点検と、屋根に設置している露天風呂の準備をしてもらうことにした。
そんなこんなで食事の準備も完了したので、みんな揃ってテーブルを囲んで夕食を楽しむ。
献立はライスにホルスタンのバラ肉多めの野菜炒めとチキンスープ。
デザートは作り置きしてあるプリンだ。
「うむ! これは美味い!」
「先日も屋敷で馳走になったけど、ソーマの料理には味に深みがあるな!」
ベルナルドとディックの二人がフォーク片手に、料理に食らいつく。
その様子を見てるメイドたちは「そうでしょう そうでしょう」と言わんばかりのドヤ顔の表情だ。
「特にこの料理に使っている香辛料が尾を引く!」
「これの味付けには何を使っているんだ?」
と、二人がそんな質問をすると、メイド四人は一斉に目を反らした。
「あ……いや……それは……旦那様にお聞き下さいませ……」
「わ、私たちの口からはちょっと……」
「と、とりあえず今は食事を楽しみましょう♪ ね? 騎士の方々」
「そうだすそうだす! 折角の料理が冷めてしまうだす」
「そ、そうか?」
ベルナルドはメイドたちの勢いに押されてそれ以上の追求はしなかったが、ディックはやはりどうしても気になるらしく、小声でオレにその質問を続ける。
「まぁその辺りは食事が終わったあとの風呂でゆっくりと教えてやるよ。だから今は黙って食え」
「お、おう……」
そんなこんなで食事も穏やかに済ませ、次はお風呂タイムとなったのだが、ここでも一つ問題は浮かび上がった。
とりあえずクレイトの男性騎士二人がいる手前、流石にメイドたちとの混浴は避けることにした。
したのだが――
「な、なあソーマ殿? すまんがあの二人を少しの間だけでいいので下がってはもらえんだろうか?」
「俺からも頼む。これじゃあ湯舟から出れないよ」
――キャンピングカーの天井に設置している露天風呂をオレとベルナルド、ディックの三人で満喫していたのだが、後からアニルとサーシャの二人がメイド服のままで浴場にやってきて、そのまま端で控えはじめたのだ。
「ねえ二人とも? そんなわけだからさ? ちょっとの間出ていっては……」
「いえ、私たちの此度のお役目は旦那様の護衛ですので、片時もお傍から離れるわけにはまいりません」
「騎士の方々も、私めたちのことはどうかお気になさらずに。そうですねぇ……その辺にある木や草とでも思っていただければ――」
「「無理です!」」
そういわれても、そう簡単にはいかないよねー。
結局、今後の風呂の使用に関しては、オレがいたらメイドたちも付いてきちゃうので、先にベルナルドとディックの二人だけで使ってもらうことに。
オレはその後でいつも通りメイドたちと混浴で入ることと相成った。
なんだかオレもアルグランス感性に慣れちゃったなぁ……。
文化の違い、感性の違い、嗚呼……諸行無常……。
そんなトラブルもあったりはしたが、今はみんなで露天風呂横に設置しているテラスで、のんびりと飲み物を口にしながらすごしている。
そして出発まであと一時間ほどとなったところで、キャストとガドラが身を乗り上げてテラスに顔を出した。
「主様、少々よろしいでしょうか?」
「どうしたの? キャストにガドラ?」
「いえ……多分私たちの勘違いだとは思うのですが……」
「今日一日、近くで変な気配がするんだよ~」
「変な気配?」
二頭の話によれば、出発の時から今に至るまでの間、オレたち七人以外とは別に、不穏な気配を近くに感じるというのだ。
しかしオレはその言葉に一つの疑問が浮かんだ。
キャストとガドラは獣の最高位でもある神獣だ。
人知を超えた能力も然ることながら、獣そのものの能力も群を抜いている。
視覚、聴覚、嗅覚は特にだ。
そんな二頭が「不穏な気配を感じる」と曖昧な言葉を口にしたのだ。
オレや神様が相手ならいざしらず、このフォーランドに生きる者、つまり普通の人間や動物を明確に捉えられないことなどありえるのか?
「いえ……その……誠に申し上げ難いのですが、私もガドラも明確にその気配を感じたわけではないのです……」
「ただボクたちの本能的な何かが、そう訴えかけているんです。何かがいるぞって……」
「つまりお前たちの野生の勘ってやつか?」
「恐れながら……」
「ちゃんとお答えできなくてごめんなさい……」
シュンと頭と尻尾を下げる二頭。
だけど、オレもそう言われると少し気になりだしたので、地図レーダーでこの周囲を少し検索してみる……が、結果としては何も引っかからなかった。
小さな虫や小動物は多少いたが、キャストたちが不安がるような要素は皆無だ。
一体なんだ?
そうオレが思った次の瞬間、ライラから念話が入った。
『すまぬソーマ殿よ、非常事態じゃ』
『どうしたライラ? そっちでなにか問題でも起こったのか?』
『まずは眷属全員に念話が繋がるようにしてたもれ』
『ああ、了解した』
オレは眷属通信の設定をフルオープンに切り替える。
これでオレの眷属全員での会話が可能となった。
『みんな聞こえるかや?』
『こちらシルフィリア、聞こえています』
『ソルムです。こちらも繋がりました』
『ア、アディルスです。皆様の声が聞こえるって凄いですね』
『我も問題ない。主様、突然のお呼びたて、誠に恐縮でございます』
『わたくしも問題なしである。娘と息子も聞こえていますか?』
『父上に母上まで? 一体何が?』
『みんなどうしたの~?』
そういやアディが眷属に加わってからの全員念話会議はしたことなかったな。
一気にオレの脳内が賑やかになる。
『で、どうしたんだライラ? 言われた通りにしたけど、一体なにがあった?』
『いやの……エキルスが消えてしもうたのじゃ』
『…………はい? エキルスが?』
次回更新は来週月曜を予定させていただきます。




