194話:すれ違いはポンと力押し ★
オレたちが王都エトロスタンを発って四時間ほどが経過した。
現在は時速八〇キロほどの速度で、デオンフォード侯爵領に向けて北上中だ。
以前のアルグランス一周の旅の時はオレの地図を完成させるという目的があったため、可能な限りアルグランス領地の外周を進行する必要があり、結果的に人気のいない場所ばかりを進んでいた。
しかし今回はクレイト帝国に向かうというのが目的なので、普通に北へと延びる街道を進むこととなる。
となれば、やはり必然的に、この街道を利用する他の馬車や旅人たちともすれ違うわけで――
「その白、ポンだす!」
「おいおいファム? また早上がりかい?」
「確かに鳴きはアガリも早くなりますが高得点は取れませんよ?」
「ふっふふ~ん♪ アニっちもサーたんも甘いだすねぇ~♪ いま白はドラでげすよ♪」
「げげっ⁈ 本当だ! アニルさん、なんで振ったんですか⁈ いま私が親なんですよ!」
「いやわりぃ……ドラ全然意識してなかった。それに不用牌だったからさ……」
「ふへへへへ♪ これで白ドラ三で四幡確定だすよ~♪ さあさあレットん、さっさと振り込むだすよ~♪」
「う~ん……ここは安牌です」
「私も……」
「あたいもだ!」
「う~ん……みんな固いだすねぇ…… おっ! また白だす! カン! 次のドラは~……うひょ~! これまた中だす! ドラ八キっタぁああ~!」
「「「うっそ~~!!」」」
キャンピングカー内のダイニングに設置しているテーブルに、同伴しているメイド四人が囲んで麻雀で白熱中だ。
道中の暇潰し解消になればいいなーと、軽い気持ちで麻雀牌やオセロ、チェスや将棋などを錬金術などで作ってみたのだが、ここまで白熱するとは思わなかった……。
異世界名物、定番ボードゲーム恐るべし!
つーか、キミらルール覚えるの早すぎない?
特にサーシャは得点計算も含めて、完全にルールを理解しているようだ。
別のテーブルではベルナルドとディックがオセロで対戦中だ。
二組ともゲームを始めてからかれこれ三時間が経過しようとしているが、一向に終了する気配がない。
そろそろお昼も近いので、停車して休憩したいんだけどなぁ……。
と、そんなことを思っていると、キャンピングカーを牽引しているキャストとガドラから念話が入る。
『主様、前方から馬車が接近しております。申し訳ありませんが御支度を』
『お願いしま~す』
『あいよ~ すぐ行く』
二頭からの知らせが入ると同時に、キャンピングカーの進行速度が弱まったのを、搭乗している全員が感じ取る。
「旦那様、またですか?」
「うん、前方から馬車が近づいてるらしい」
「では今度は私が行きます。みんな、私の手は見ないでよ!」
アニルがそう言いながら、手牌を手前に倒して立ち上がる。
「ソーマ殿よ、我々はどうする?」
「いや大丈夫だ。この件に関してはオレたちだけで対処するよ」
「そうか? では宜しく頼む」
同じく立ち上がろうとするベルナルドとディックを制すると同時に、キャンピングカーが停止した。
どうやら視認できる距離にまで馬車が近づいているようだ。
「アニル、いくよ」
「はい旦那様!」
オレはアニルを引き連れ、キャンピングカーの前方へと移動。
そこにある扉を開いて、外側に設置している御者台に出る。
すると丁度前方五〇メートルほど先で、一台の二頭引きの馬車が同じように停車しているのが見えた。
御者台には二人のドワーフの男性がいて、こちらを見ながら狼狽えている様子だ。
「やはりこちらを警戒しているようですね。馬車の大きさから見て、恐らくデオンフォード侯爵領からきた行商人でしょう」
「じゃあ例の手順でいこうか?」
「かしこまりました」
そうアニルと言葉を交わすと、オレは威圧スキルに意識を集中。
馬車を引く馬二頭に対して威圧を飛ばして動きを止めた。
これでこちらが近づこうとしても、馬は微動だにしない。
まずはこれで向こうが逃げることを防ぐ。
お次はっと――
「キャスト、ガドラ、前進だ。ゆっくりとね」
「「御意!」」
――オレがそう指示すると、キャンピングカーが微速前進を開始。
馬が動かずに狼狽える男たちだが、近づくオレたち……というより、御者台の上で笑顔でカーテシーの姿勢をとるアニルの姿を見て呆気に取られてもいた。
そうこうしているうちに、オレたちのキャンピングカーと前方の馬車の距離がなくなった。
あとは頼むよ、アニル。
「失礼いたします。見たところ行商人の方とお見受けしますが、私たちは怪しい者ではありません。どうか警戒をお解き下さい」
いや、十分に怪しいけどね……。
「あ……あんたたちは一体……?」
「それにそのでかい獣の馬車はなんなんだ……⁈ ワシらをどうするつもりだ⁈」
「私はアルグランス王家付きメイド隊の者です。現在王家賓客となっている、こちらのソーマ様と同行してデオンフォード侯爵領に向かっている次第です。こちら側に敵意はございません」
アニルは二人にそう説明しながら、懐から一枚の布を取り出し、それを広げて二人に見せる。
「そっ! それはっ⁈」
「王家紋章入りの特権証旗⁈」
ドワーフたちがその布を見るやいなや顔面蒼白。
大慌てで御者台から飛び降りて平伏した。
「「へへーー! た、大変失礼を致しました!!」」
いや~……二時間ほど前にも同じような場面に遭遇して、その時はサーシャが対応したんだけど、やっぱこの布……というか、約五〇センチ四方の小さな旗は効果てきめんだな……。
王家紋章入り特権証旗。
それはアルグランス国内において暫定的な貴族階級クラスの身分を証明する旗である。
これを持つ者は一時的に伯爵とほぼ同等の身分が保証され、各検問所は素通り。
男爵以下の貴族当主に対しても、命令権を行使できるというものだ。
今回の旅の際にアルグランス王家が四人のメイドたちにそれぞれ持たせたもので、もし道中で何らかのトラブルが起こっても、全てアルグランス王家が後ろ盾となって国家レベルで事態の対処に当たる……といった感じの代物だ。
特権証旗というもの自体は数種類あるのだが、この“王家紋章入り”はその中でも最高クラス。
滅多なことでは発行されないし、ただの一メイドに持たせるような代物でもない。
事実、見送りに来たときのライラからそれを受け取る時のメイドたちは全員硬直してたからな。
ともあれ、いかにメイドであろうとコレを持つ以上、問答無用で平民を平伏させることができるのだから凄い効果だ。
そのあとは少しだけ詳細を説明し、そのまま路肩に停車して昼食にすることにした。
二人のドワーフたちにも少し迷惑をかけたという名目で、お昼ご飯を御馳走したのだが、大いに喜んでくれたみたいで良かった♪
そんなこんなで正午過ぎに再出発したその後も、似たような場面に五度遭遇。
その度にメイドたちがサイクルで同様の対処を行った。
正直面倒臭いのは確かだが、引き返されて、その先で変な噂を広げられたらそれこそ面倒だ。
ここはきっちりと手順を踏んで、先制威圧で動きを止めてからの某御老公よろしく必殺証旗攻撃で納得させる、といった具合で対処するのが一番だ。
それならすれ違った人たちが各所で良い噂を広げてくれるかも知れないから、帰りは多少楽ができるかも知れないしね。
そんな期待をしつつダイニングのソファーに腰を下ろすと、レットラーが肩を優しくマッサージしだし、サーシャが淹れたての紅茶を差し出してくれた。
「ありがとう二人とも」
「いえいえ、旦那様もお疲れ様でした」
「しかし想定していた事とはいえ、やはり初めて見る人たちはキャストちゃんたちや、このキャンピングカーにかなり驚いてましたね」
「言ってみれば異世界の知識による代物と、神獣というこの世界でも人知を超えた存在の融合だからね~……驚くのも無理はないんじゃない?」
「デオンフォード侯爵領の都市に到着するまでの間は、今回のようなことが何度も起こるでしょうね……」
「まぁそれも仕方がない。その時はみんなにも頑張ってもらうからよろしく頼むよ」
「「ハイ! お任せ下さい!!」」
可愛い笑顔で元気よく返事をする二人とお茶を楽しみつつ、オレは窓の外を眺めた。
空はすっかりと赤く染まっている。
そろそろ陽も沈みそうだし、夜食の準備でも始めようかな?
なんだかんだで慌ただしい一日だったが、夜は平穏であることを願おう……。
「ファム殿! それロンだ!」
「うぎゃ~! そのチーピンはひっかけだっただすか⁈ み、見事だす、ボナー卿……」
「リーチ一発タンヤオピンフ三色ドラドラ……あ! 裏ドラも乗ってますよ! やりました総長殿、倍満です! これで我らクレイト連合が逆転です!」
「ぬう! 三倍満にはとどかぬか!」
「ちょっとファム、なにやってんだい!? 次、あたいの親でオーラスだから気合い入れていくよ!」
「が、合点だす……アニっち!」
お~いアニル~、興奮しすぎて素が出てるぞ~。
卓を囲んでいる他の四名は、いつの間にか麻雀でチーム戦を行っていた。
一応みんなに言っておくが、徹満は禁止だからな~。




