193話:出発前夜、そしてクレイトへ ★
急遽決定したクレイト行き。
それに伴って急ピッチでその準備を進めた一日となったが、オレも同伴するメイドも含めて、なんとか無事にその準備を整えた。
クレイトの騎士二人は早朝にオレの屋敷まで移動するのも面倒だろうからと、オレの提案で今夜は屋敷に寝泊まりしてもらうことにした。
そんなわけで夕食の前に、オレは二人とアディを伴って風呂に入ることにしたのだが、手の空いているメイドたちも同伴しようとしたので慌ててそれを制止した。
今回は普通の感性をもつ男性が一緒に入るのだ。
アルグランス感性のメイドたちは意に介せずだろうが、クレイトの二人が驚くだろうから遠慮してもらった。
誰彼構わずに人前で肌を晒すのは駄目ですよ、お嬢さんたち?
「ほほう、これが風呂という物か? これは気持ちの良いものだな」
「ああ……身体が芯から解れるような気分ですね~」
ベルナルドとディックは風呂初体験だが、かなり気に入ってもらえたようだ。
しかし本当にフォーランドって風呂文化がないんだな……。
この世界って変なところで文明の一部が欠如してるんだよね。
魔法に至っては神の手によってかなり退化させられてるし。
でもまぁ、そのおかげで旧魔法時代による文明崩壊後から現在に至るまでの長い年月で、特に大きな争いが起こってないのは良いことだ。
案外便利なものをピンポイントで取り除いた方が、世の中平穏になるのかも知れないね。
一応神様たちから文化ハザードの許可も出てはいるが、実行するときは慎重にやるべきことを注意しておこう。
でも……風呂くらいの娯楽は別にいいだろう? だって気持ちいいし♪
なんてことを考えていたら、風呂場の扉がガラガラと音を立ててリコナ、テトラ、ゼストのハイドワーフ三人組が風呂場に入室してきた。
「「「失礼いたします」」」
その光景にベルナルドとディックの二人は大慌てだ。
だって今回は男性のみだから、オレたち全員湯着は着用してないからね……。
「ちょっ! しばし待たれよ! メイドの御婦人方よ!」
「うわわわわっ!」
そんな二人にリコナたち三人は呆れたような表情だ。
湯舟に首まで浸からせてリコナたちに背を向けている。
「クレイトの騎士殿ともあろう方々が、たかがメイドの肌を見たくらいで狼狽えないで下さいませ」
「旦那様の御申しつけ通り、男子の方々の前ではちゃんと湯着を着用しておりますゆえ」
「おおおお背中を流しにきただけです……」
「い、いや……そういうことではなくてだな……」
「は、話には聞いていたけど、本当にアルグランスの女性はこういうのを気にしないのか? ソーマ?」
慌てるディックの質問に対し、オレとアディは苦笑いしながら頷くだけだ。
まぁその気持ちは解る。
普通なら男子にとって喜ばしい状況なんだろうが、その……なんだ? あまりにも平然とし過ぎているんだよね。
ファムやレットラーみたいにもう少し恥ずかしがってくれた方が、まだ救いがあるよ。
羞恥心って時と場合によっては、本当に大事なことなんだと実感するよ……。
慌てる二人の反応を見るのは少し面白いが、このままにしとくのも悪いので話を進めよう。
つーか……オレもアディもなんか慣れちゃったなぁ……。
「で、三人はどうしてここへ?」
「ですので皆様のお背中を流しに、参った次第でございます」
…………アレ? そんな風呂場の接待を教えた覚えはないぞ?
「えっとさ……リコナ? 人の背中を流すなんて風呂のおもてなし、オレ教えたっけか?」
「え? いえ、先ほどフラメンお姉様が「お風呂の作法として、男子の背中を流すのは淑女の大事な嗜みなのだよ♪」と仰れまして……。それで風呂場に行ってこいと……」
その言葉に他の二人もウンウンと頷く。
あンの飲んだくれ女神がぁああ!
無垢な乙女になんつーことを教えてるんだ!
お仕置きとして、今夜の晩酌分の神酒を回収だ!
オレは無限収納を意識して、フラメン姉さんの自室にあろう神酒を回収した。
この能力はオレの所有物である限りは、距離に関わらず回収が可能だからな。
すると…………
「うわああああん! ソ~~マ~~! 神酒が! 神酒が消えてしまったのだよ~~⁈」
すぐさまフラメン姉さんが風呂場に突撃してきた。
「みんなに余計なことを教えた罰です! 今夜は神酒抜き!」
「そんなぁ~~ 後生なのだよ~~」
うわ……ガチ泣きかよ…… でもここで甘やかすわけにはいかない!
仮にもオレはこの屋敷の主であり、今は大事な客人の接待中なのだ。
ここは少しでも威厳を示さないといけない場面だ。
「みんな、姉さんを追い出しなさい! 背中を流すのも今回はいいから」
「え? あ、はい!」
「ふええええ~ん! 私の神酒ぅ~~~……」
リコナがそう慌てて返事をすると、他の二人と協力して駄々をこねるフラメン姉さんを引きずりながら風呂場から退室した。
「ソ、ソーマ…… この屋敷っていつもこんな感じなのか?」
「まぁその……なんだ……否定はしない……」
「でも今日は騎士の皆様の前ですし、まだ大人しいほう……ですかねぇ? アハハハハ……」
ディックの質問に対し、オレとアディはただただ苦笑いするしかなかった……。
そんな騒ぎもあったが、風呂も夕食も無事に済ませたので、あとは明日に備えて寝るだけなのだが……また一つ問題が浮上した。
今は寝室にいるのだが、ソルムの機嫌がすこぶる悪い。
それを察したのか、アディは別室で寝るといって逃げた。おにょれ……。
ちなみに機嫌の悪い理由は明白。
オレが明日からクレイトに向かうという話を、ソルムは夕方王城から帰宅しようとしたときにライラから知らされるまで聞かされてなかったからだ。
「御主人様! 私は貴方の筆頭従者であり、直系の家臣なのですよ? それなのに、いくら私がメイド修業中だからって、そんな大事なお話を知らされなかったなんて……」
「だからゴメンって言ってるじゃないか……」
「いいえ! 御主人様には念話という能力も持ちなのですから、そういう大事な話は、まずこのソルムめにお知らせいただかないと他の者に示しがつきません! もっとその辺は注意してください!」
「ハ、ハイ…… ごめんなさい……」
ソルムの迫力にオレは押されてしまった……
どうやら今回のソルムは相当にお冠の様子だ。
今までなら小言を言われるくらいだったろうが、今はちゃんと声を大にして訴えかけている感じだ。
ソルムの言う通り、今や彼女はオレの正式な「家臣」なので、その辺りの自覚がちゃんとしているがゆえの抗議なのだろう。
今回に限っては完全にソルムの言葉が正論のようだ。
ここは素直に謝っておくべきだな。
「わかった。今度から注意するよ……本当にごめんな、ソルム」
「本当に御理解いただけているのですか?」
「うん、本当に理解した。今度から本当に注意します」
「なら……いいです。それに……私も少し言葉が過ぎました。申し訳ございません……」
「いいや、ソルムは何も悪くないよ。またオレが間違ったことをしたら、そうやって叱っておくれ」
「できれば私は御主人様にそういうことはしたくありません……。もうこの話はいいです。明日も朝から出発でお忙しいのですから、今日は早く寝ましょう……」
ソルムはそう言いながら、赤くなった顔を隠すようにベットに腰を下ろす。
なんか色々と気を遣わせてしまったみたいだな……。
数日間クレイトに行ってここを留守にするし、ソルムにもまた少しだけ寂しい思いをさせてしまうことになる。
そう思ったとき、オレの身体は自然と動き、ソルムの両頬を両手で挟み込んでオレの正面を向けた。
「御主人様⁈」
「動かないの。これはさっきのお詫びだよ」
オレは慌てるソルムに笑顔でそう言いながら、静かにソルムの額に軽くキスをした。
流石に本当の口づけや頬にキスするのは抵抗があるが、これくらいなら大丈夫だろう?
額にキスしたら婚約成立なんて種族はいないことも確認済みだし。
こんなスキンシップでご機嫌を直してくれるなら――
「ごっ! ごひゅじんしゃま⁈⁈」
――…………なんか想像以上に効果てきめんだったみたいです。
ソルムの顔がさっき以上に真っ赤っかで、言葉も呂律が回らなくなってしまった。
やめてソルム! そんな顔されたらオレも釣られて恥ずかしくなってくるよ!
「さ、さあ寝ようか~~」
オレはすぐさま両手を離すと、ソルムから目を逸らしながらベットの中央に寝転がる。
するとソルムも続いていつも通りにオレの右隣に寝転がってオレの右腕に抱きつくが、今夜はその力加減がいつもより強めだ。
「えへへへへ…… 初めて御主人様がキスしてくれました♪ 嬉しいです♪」
ソルムが満面の笑顔で微笑んでいる。
スゲェ……額へのキス一発でソルムの機嫌が納まるどころか好感度うなぎ登りでした。
う~ん……こりゃ余計な好感度まで上げかねないので、多用は禁物だな。
でもまぁ…………たまにはこういうのも悪くはないね♪
豊穣の月、二一日。
いつも通りの朝を迎え、諸々を済ませていよいよクレイトへ向けて出発と相成った。
メンバーはクレイト帝国の騎士団総長ベルナルド・ボナー。
クレイト帝国の若き騎士ディック・バーブランド。
オレの世話役としてメイドの中から熊耳系獣人のアニル、人族のサーシャ・アドバン、魔族ラミアのレットラー、エルフのファム・ファン、以上四名のメイドが同伴
キャンプングカーを牽引するキャストとガドラの神獣姉弟。
そしてこのオレ。
合計七名と二頭でクレイトへ向かうこととなった。
「みんな荷物の積み込みは終わってるな? 忘れ物はないか?」
「「「「はい! 大丈夫です、旦那様!」」」」
メイドたちから元気な返事が返る。
「我々も問題ない。いつでも大丈夫だ」
「メイドの方々、道中は世話になります。ソーマもよろしく頼む」
ベルナルドとディックも準備万端だ。
「じゃあリコナ、今月中には帰るから、あとのことは頼んだよ」
「はい、お任せ下さい。旦那様も道中お気をつけて。他のみんなもしっかりとね」
リコナの言葉に同伴するメイド四名が力強く頷く。
「ところでエキルスはどうしたんだい? ルト、なにか聞いてる?」
うん、実はエキルスの姿が朝から全然見当たらないのだ。
「それが……旦那様の道中の無事を祈りに、朝早くから海の神殿でお祈りをしてくると言って出ていったきりでして――」
ルトの話では親しい人が長い旅に出るときなどは、その出発日の朝に神殿で祈りを捧げれば、その旅の安全が約束される……といった迷信があるのだそうだ。
「――ということで、祈りを捧げる者がその姿を旅人に見せるとその効果も薄くなるので、ここはエキルス姉様の気持ちを汲んでそのまま出発なさって大丈夫かと?」
「そうか……」
オレはそう返事ながらAR表示の地図レーダーでエキルスの居場所を確認した。
うん、間違いなく今は海の神殿にいるようだ。
エキルスだけ見送りがないのは少し寂しいけど、ここは彼女の好意を素直に受け取っておこう。
旅の無事を願ってお祈りなんて、エキルスも意外といじらしいところがあるんだな。
「じゃあみんな行ってくる!」
「うむ! 気をつけるのじゃぞ?」
「早く帰ってきて、また新しい甘味をワシに食べさせるがよい!」
屋敷の住人以外にもライラやツララ、その他数名の王城関係者も見送りに来てくれている。
オレたちの無事を祈っての見送り、本当にありがたい話だね。
「主様、お気を付けて!」
「行ってらっしゃいませ! 御主人様~~!」
「「「「「「「行ってらっしゃいませ! 旦那様!」」」」」」」
マークとソルム、そしてメイドやアディ、使用人たちが声を上げて温かく見送ってくれた。
「ありがとうみんな! あとのことは任せたよ。では出発!」
「「御意!! 行きま~す!! ワオオオオオン!」」
キャストとガドラの遠吠えと共に、オレたちを乗せたキャンピングカーは一路クレイト帝国帝都へと向けて前進を開始した。
今年の更新は今回で終了です。
今年も一年、本作にお付き合い下さいまして本当にありがとうございます。
次回更新は二週間のお休みをいただき、1月11日を予定とさせていただきます。
再びクレイトへと向かうソーマたちにどんな珍騒動が待っているのか?
まったりゆる~くお話は続きます。
ということで、来年も「神愛転生」をどうぞ宜しくお願いします。
では皆様、良いお年を~♪




