192話:大忙し、メイド隊 ★
ソーマがクレイト帝国の騎士を連れてテスト走行をしている丁度その時、ソーマの屋敷ではメイドの面々が忙しそうに屋敷内を右往左往していた。
「アニル! ファム! 掃除はもういいわ。あとは私たちに任せて、自分たちの準備を先に済ませてしまいなさい」
「わかったルト。じゃああとは頼む」
「合点だす。んだば申すわけねんけど、あとはあんじょうよろしゅう頼んますぅ」
「旦那様がお帰りになり次第、サーシャとレットラーもそっちに行かせるから」
「「了解 (だす)」」
「アーシャムとメキナは引き続き、向こう側の掃除をお願いね」
「受け賜わりぃ~」
「お任せあれですわ!」
ソーマが明日早急にクレイトへ発つという報告を受け、メイドたちがそれの準備と日常の仕事に追われていた。
現在それの陣頭指揮をとり、額の汗を拭うルトのもとへヘッドドレスを整えながらリコナが近づいてくる。
「待たせたわねルト。どう? なんとかなりそう?」
「ああ、悪いわねリコナ、折角のお休みなのに呼び出したりして」
「ふふ、別にいいわよ。正直なところ、慣れない休日だから時間を持て余していたわ」
「アハハ……だよね~。旦那様の提案で始まった交代の休日だけど、私もまだ慣れないわ……」
「旦那様から聞いた話では、旦那様のいた世界では五日働いて二日休むというのが一般的だったらしいわよ?」
「私もそれ聞いた。確か「シュウキュウフツカセイ」……だったかしら? たった五日働いたあとで二日も休むなんて……正直理解に苦しむわね」
「でもまぁ、旦那様が私たちのために定期的な休日を与えたいと仰られているんだから、そこは甘んじてお受けしましょう」
「だね♪ 本当にソーマ様はお優しい方だわ♪ うふふ♪」
「そうね♪」
ベテランメイドの二人が肩を竦めながら笑い合う。
「じゃあここからは私が屋敷の中のことを請け負うわ。ルトは旦那様のお帰りの受け入れ態勢を整えてちょうだい。テトラは今どこ?」
「テトラはキャンピングカーに乗れないから、今は備品の買い出しに行ってもらってる。すぐに戻ると思うから、そのまま拾って準備を手伝ってもらうわ」
「了解。あと今日のお姉様方のお世話係は確かゼストとポロンだったわよね?」
「ヒュ~♪ 流石は当屋敷の初代メイド長♪」
「伊達に一時期とはいえ、貴方たちに姉様とは呼ばれていないわよ。休日だからって、ローテーションまで忘れちゃいないわよ」
「さっすがリコナ姉様♪」
「ほらほら、茶化さないの。さあ仕事仕事!…………ところで……エキルス姉様の姿が見えないけど……?」
「それが、さっき旦那様から出立の報を受けたあと、私に準備の指揮を任せたっきり、全然姿が見えないのよ……」
「姉様のことだからサボってるなんてことはないと思うけど……」
「そんなポロンじゃあるまいし……」
「ん? 私がどうかした?」
神妙な面持ちで状況を確認している二人の間に、突然ポロンが姿を現した。
思わぬ人物の登場に二人が驚く。
「ポ、ポロン⁈ 貴方どうしたの⁈」
「今日はミツルギお姉様と一緒に訓練場に行ってたんじゃないの? まさかまたサボって――」
「違う違う! エキルス姉様に言われて、こっちのお手伝いにきたの!」
「「エキルス姉様に⁈」」
「うん、いやそれがね? エキルス姉様が突然訓練所に現れたと思ったら、なんかミツルギお姉様とお話ししだしてさ~。そしたら今日のお世話はもういいから、屋敷でルトのお手伝いをしてきなさいって言われたから帰ってきたんだよ。それよりも! 明日旦那様がクレイトに行くって本当なの?」
「え、ええ、それは本当よ。でもどうしてエキルス姉様がそんなことを?」
「私に言われても知らないよ~! で、私は何をすればいいの?」
と、ポロンがルトに指示を求めた時、今度はゼストが姿を現した。
「ああああれ? リコナ、きょきょ今日はお休みじゃなかったの?」
「ゼスト⁈ 貴方、今日はフラメンお姉様のお世話役でしょ?」
「えええと……、エキルス姉様がミツルギお姉様と一緒にやってきて、お世話役を代わるから、わわ私はルトの応援に行くようにって言われた……」
「エキルス姉様が?……まぁ姉様なら問題はないとは思うけど……」
「でもなんでまたエキルス姉様がそんなことを? ポロン、貴方その辺りは何か聞いてる?」
「ううん、全然」
「わわ私も特には聞かされてない……」
「そう……でもいいわ! エキルス姉様がお姉様方お二人のお世話役を一手に請け負ってくれているなら、結果的にこちらの人手が増えて助かるのは間違いないわ。案外それを見越して動いてくれたのかも知れないし」
「だったらいいんだけど……」
「じゃあポロンとゼストは――」
エキルスの行動を肯定的に捉えたリコナは、ポロンとゼストに指示を出す。
しかしルトだけは今も、そのエキルスの行動に懐疑的だ。
それは彼女がエキルスと同じ孤児院で、本当の姉妹のように育った間柄ゆえなのかも知れない。
『また変なことを企んでなければいいんだけど……』
一方その頃、舞踏神ことフラメンの個室にて、剣神ことミツルギとエキルスの三人が一同に会している。
ソファーに腰掛け、エキルスの淹れた紅茶を飲みながら静かに佇むフラメンとミツルギ。
そんな上神二柱の前で、エキルスは跪きながら深く頭を下げていた。
エキルスの表情は固く神妙な面持ちだが、対する二柱の女神は実ににこやかな笑顔であった。
「あはははは♪ 本当に面白いことを考える子なのだよ♪ エキルスちゃんは♪ いいよ、いいのだよ♪」
「私も力を貸そう~~♪ その意気や気に入ったぁ~~~♪」
「ありがとうございます! お姉様方!!」
「でも一応、そこまでする理由を聞いてもいいかい?」
フラメンの質問に対してエキルスは顔を上げると、迷いの無い真っ直ぐな瞳でこう言った。
「愛! ゆえに!」
恋に恋する乙女、エキルスの勝負が始まろうとしている。
次回更新は来週月曜日を予定させていただきます。
ここ数日で一気に気温が下がり、本格的な冬の冷え込みとなって参りました。
皆様も身体を温かくされ、風邪などをひかれませぬよう御注意下さいませ。




