189話:様々な求愛行為と一人追加 ★
いきなり暴走してオレにキスをしたツララだが、獣人メイドとサーシャから後頭部に蹴りを入れられた勢いで前につんのめり、今も床にツノが突き刺さったままで沈黙している。
そんなツララに対して護衛役のランセイとコジュウロウは狼狽えるどころか、平常心そのものだ。
というか、アンタらツララの護衛だろうに、なにあっさりとメイドたちの蹴りを見過ごしているんだよ?
「まったく……また姫の暴走が始まってしもうたか……。ソーマ殿、此度の姫の非礼、心よりお詫び申し上げる」
「姫にはいい薬でござる。あ、メイドの各々方、もしあれでしたら、もう二、三発ほどお見舞いしていただいても結構でござるよ? 拙者たちは見て見ぬふりをするでござるゆえ」
うわ~……なんか凄くドライだよ、この人たち……。
この言葉からも、普段コイツに色々と面倒かけられているんだな~って思う。
そしてシルフィーとメイリン女史の目が更に生温かくなっているぞ。
と、そんなことを考えていたら、沈黙していたツララから笑い声が聞こえだす。
「ハハハハハ! 今の蹴りはなかなかに効いたであるぞ! ぬん!!」
ツララはそう言いながら、腕立て伏せの要領で突き刺さったツノを引き抜きながら、勢いよく立ち上がった……あ、鼻血出てる……って! オーガの血って青色なのか! 亀の怪獣かよ⁈
「流石は武で名を馳せるアルグランスのメイドたちだ。久しぶりに一瞬ではあるが気をやってしもうたわ! ハハハハハ!」
そう言いながら仁王立ちで笑うツララに対し、ランセイは何事もないように手ぬぐいでツララの鼻血を拭き取っており、対する獣人メイドとサーシャはオレを守ろうと、ツララの前に立ちはだかっている。
「うむ……メイドたちよ、先のソーマに対する非礼の行動については謝罪しよう。まさかソーマがワシの思い人とは知らず、少し気が動転してしもうた」
「思い人? それはどういうことですか? ツララ殿下……」
謝罪するツララに対して、まだ構えの姿勢を解かないエキルスが質問する。
ツララの話によると、オリバ氏によってカスガ国のヤマツカミ商会に渡った善哉のレシピなのだが、小豆の栽培事業に従事していたツララがそれを食したところ、そのあまりの美味しさに電流が流れるかのような衝撃を受けて感動したらしい。
そこにタイミングよく、政治的な要件でアルグランスに出向く用事もできたので、それのついでにオリバ氏の元を訪れて善哉を作った人物……つまりオレを探し出そうとしていたらしい。
しかし人の縁とは奇妙なもので、ツララの探し求めていた人物がオレと知り、その予想外の展開に気が動転。
で、あのような行動と相成ったわけだ……マジで勘弁して下さい……。
「ですが貴女がたオーガの求愛行為は、ツノを突き合わせるというものではございませんか? なぜ旦那様にキスをなされたのですか?」
「ふむ、ワシとて多種族の求愛行為の知識も頭に入れておる。ソーマが人族であるなら、その流儀に倣うは必然であろう?」
「ぐぬぬぬ……妙なところだけは冷静なんですね……」
エキルスの問いにそう答えるツララだが、その返答内容にソルムは納得がいかない表情だ。
というか、もしかして種族ごとにキスみたいな求愛行為が違うのか?
今回の一件でも、ツララのキスに過剰反応したのは獣人メイドたちと人族のサーシャだけだし、ここは聞いておくべきかもしれないな。
「それについては私が説明いたしましょう」
オレの疑問にメイリン女史が答えてくれた。
人族と獣人族は同じで口づけ、つまりキスが最上の愛情表現となる。
頬や額へは好意や親愛、接吻は愛情、手の甲へは忠誠……と、オレの知りうるキスの意味とほぼ同じだ。
だがやはり他の種族は全然違った。
オーガ族は、互いのツノを突き合わせるのが接吻と同意の行動となる。
ラミアは互いの尻尾の先を絡ませる。
これは尻尾付き魔族の大半に適応されるそうだ。
エルフは互いの耳を甘噛みする。
で、ドワーフ族は互いの背中を合わせるというのが、最上の愛情表現となるそうだ。
「へぇ~、ドワーフは結構変わっているんですね」
「ですが色々と状況によって意味合いも変わります。武装状態で背を合わせるのは「信頼」なので、これは同性間でも高貴な意味合いを持ちます。愛情表現としては普段着の状態ですね。裸同志で背合わせは生殖行為に移る前の前戯行為そのものです」
「なるほど……だからさっきのキスの時も他のみんなは無反応だったんだ?」
オレがリコナたちハイドワーフ組に視線を向けるが、みんな苦笑い状態だ。
「いや~……だって……」
「たかだか口を合わせる行為に……ねぇ?」
「ひひひ人族とじゅじゅ獣人族の感性……理解不能」
さいですか……。
オレから言わせれば、異性に対して全裸平気なドワーフの感性のほうが理解不能だよ……。
そしてレットラーとファムはといえば……。
「旦那様に尻尾ないから私は少し寂しいです……」
「わ、わたすの耳、丁度噛み頃だすよ! ひと噛み如何でげすか旦那様!」
「いや……いい」
やれやれ……先月末、庭で宴会やった時にメイドたち全員から頬にキスされたことがあったけど、この五人に関しては妙にあさっり気味だったのはそのせいだったのか……。
種族が違うだけで愛情表現の多様性もほんと様々だね。
………………ん? 裸で背合わせは前戯行為?……つまり性行為に近いってことだよな?
そういえばオレ……ドワーフの女性と裸で背中合わせしたこと……あるぞ?
そう思いながら視線をライラに向けると、当の本人は目を逸らして顔を真っ赤に染める。
おいまてこら! なんだよ? その露骨な態度は⁈
「ラ、ライラ? ちょお~っと話があるんだけどな?」
「さて~? 一体なんのことやらのう? それよりも今この場でソーマ殿が思うておることを話すと、ソーマ殿にとっては色々と面倒なことになるぞ? わらわは別に構わぬが、それでも良いのかの?」
んがっ⁈ やっぱりコイツ確信犯だ!
知らない間に既成事実作られちゃったよ!
「え? なになに? 一体なんの話ですか?」
「シルフィーには関係ないから~! ナンデモナイヨー!」
話に首を突っ込んできたシルフィーを組み伏せながらライラを睨みつけるが、当の本人は余裕の表情だ。
どうりでこんな状況下でも妙に落ち着いてると思った……。
「まぁまぁ、これも良い機会じゃ。皆の者も聞け! これはわらわの予想じゃが、ツララ殿のように思いもよらぬところから、ソーマ殿に想いを寄せることになる女子はこれからも増え続けるであろう。じゃから今回のような小さきことで見苦しく狼狽えるでない! あのような接吻如きで簡単に陥落するほど、この傑物の攻略は容易ではないわ! それと先のツララ殿のような行為が我慢できぬなら、いち早くソーマ殿に振り向いてもらえるよう精進せい! それすらも出来ぬ者はソーマ殿と添い遂げる資格無しじゃ! 早々にこの戦線から離脱せい! よいか!」
ライラの一喝で獣人メイドたちやサーシャが目を下に向けて沈黙する。
しかしライラのやつ、そんなことまで考えていたのか……まいったな……。
背合わせの一件もあるし、相当に強かだということは理解できた。
こいつのことは友人としては好きだが、今後はもう少し注意しよう。
「ふむ……では一応のところ、ワシは許されたとみて良いのであるか?」
「無論じゃ。じゃが他の者のこともある。ソーマ殿に対して過剰な行為は今は控えられよ。よろしいかの?」
「うむ、了解した! しかし他種族との間に子を成せる神の使徒にして、魅惑の甘味を生み出す者か? 益々もって面白い男であるな!」
ツララはそう言いながら、またオレの両脇を抱えて持ち上げる。
その行為に対し、他のみんなは先ほどまでと違ってかなり落ち着いた感じだ。
「うむ、ソーマよ! このワシ、ツララ・フウマ・カスガが貴公に告げる! ワシは貴公の手で生み出した甘味を通じて貴公に惚れた身だ! 他の者が聞けば突拍子もない理由であろうが、ワシからすれば身も心も捧げるには十分な理由だ! ゆえに貴公に対して結婚を申し込む! それと――」
ツララはそう言いながらオレを下ろすと、目をソルムやサーシャたちに向ける。
「――貴殿たちにも先ほどの非礼を詫びよう。貴殿たちの思い人に対して狼藉を働いたことを心よりお詫び申し上げる! 斯様な理由の上に思わぬ形での出会いと相成ったが、ワシもソーマに淡い恋心を抱く身だ。もし許されるのであれば、貴殿たちの末席に置かせて欲しい。如何であろうか?」
ツララはそう言いながら、深く頭を下げてそう告げる。
そんなツララに対して真っ先に拍手を送ったのは、意外にもエキルスだった。
「頭をお上げくださいツララ殿下……。理由からすれば、私も似たようなものです。この獣人の身を偏見なく、心から認めて下さった人族の御方がソーマ様だった……それが私がソーマ様をお慕いする理由です。他の子たちも大半は似たような理由ですわ……」
「そうであるか……」
「ですので、旦那様のことを本当に真剣に思うのであれば、この戦線に参加される殿下を私は歓迎します」
「そうか!」
「ですが! この場では身分も何もありません! 殿下もこの恋路戦線では我らと同じ立場であり、戦友となります。それとそれに付随するルールには必ず従っていただきます! それでもよろしいですね?」
「うむ! 戦友上等である! 定められたルールは以後必ず順守するゆえ、皆の者もどうかよろしく頼む! 今日は良き出会いに沢山恵まれた素晴らしい日だ! ハハハハハ!」
「「おめでとうございます! 姫!」」
高笑うツララに対して護衛の二人や、ソルムと他のメイドたちも温かい拍手を彼女へ送った。
完全にオレは蚊帳の外である。
前略、神様たちへ。
昨日結婚希望者が一六人になったと思ったら、翌日には更に一人増えました……。
「うふふふ♪ なにやら楽しそうなことになっているのだよ♪」
「駆け巡れ~♪ 恋する乙女たちよ~♪ ラララ~~♪」
ドアの隙間から除いている神様たちが無慈悲な言葉を投げかけます……。
今週もなんとか更新できましたが、最近少し仕事も趣味も忙し過ぎなので、少し休養も兼ねて2週間ほどお休みさせていただきたいと思います。
次回更新は12月14日を予定させていただきます。御了承下さい。
せめてその間に2話分くらいのストックを用意したいなぁ……
ストックの余裕は心の余裕……余裕が欲しいですw
今回のキャラ紹介はアルグランス武王国・重装騎士団所属の若きエース。
ハイドワーフ族の「ダイル・マクモーガン(160歳(147話以降))」です。
騎士出身の貴族、マクモーガン士爵家の当主。
軽口の多い優男だが、騎士としての能力は高く、アリオスからも一目置かれている。
神獣ガドラと共に赤銅竜討伐の功績を経て、士爵から男爵となった。
ソーマとは気が合う仲で良き兄貴分、良き理解者となる。




