187話:オーガ姫ツララ ★
序盤は三人称視点
その後はソーマ視点で展開します
豊穣の月、一六日の夕刻。
アルグランス王城、謁見の間にて、武王シグマと先武王アリオス、その他重鎮たちが、オーガの女性とその護衛二名と会見していた。
「では、カスガ国のジンライ天王は、此度の一件の折衝役をそなたに一任すると?」
「うむ! これが父上、天王陛下からの親書である!」
オーガの女性が差し出した封書をリキッド宰相が受け取り、危険がないことを確認したあとで、それをシグマに手渡すと、彼はその手紙に目を通して軽く頷いた。
「うむ……確かに確認させていただいた」
「カスガ国第一王女であるワシ、ツララ・フウマ・カスガが直々に交渉をさせていただく! ついては、かの者への渡りとその他諸々の便宜を貴国に取り計らっていただきたく思う」
「ではそのまま貴国と我が国の同盟条約も?」
「無論である。その件に関してもワシが全て管轄することになっておるゆえ、急ぎ調印の儀を交わしたい! 先の話を聞き、最早思索に耽る時間も無駄である。ここは一刻も早く貴国と同盟を結び、互いに良き理解を深めたほうが確実に得策であるからな」
「委細承知した! では明後日までに全ての準備を整えよう。それまでは我が王城にて過ごされるがよかろう。長旅で些かの疲労もたまっておろう?」
「いやなに。オーガの身体は丈夫であるゆえ、斯様な気遣いは無用である。それよりも一刻も早く、その噂の神の使徒殿とやらを見てみたい。可能であるなら明日にでも渡りをつけられたし!」
「その件に関しても承知した。ダイルよ、急ぎソーマ殿へこのことを報告いたせ」
「ははっ!」
シグマの指示にダイルが駆け足で謁見の間から退室する。
そんな彼の姿が見えなくなるまでのあいだ、オーガの女性、ツララは目で追っていた
「あれが竜殺しと噂のダイル・マクモーガン士爵か? 随分と若いハイドワーフ殿とお見受けするが?」
そんな彼女の疑問にアリオスが大きな声で笑い声をあげる。
「ハッハッハッ! 今は男爵だよ。その辺りの話も詳しくしてやりたいところではなるが、もうすぐ陽も沈む夕刻である。逸る話は後ほどとして、まずは夕食で腹を満たされては如何かな? オーガの姫君よ」
「フ……そうであるな。此度の大役ゆえ、少々気が急いておったようだ。ではしばしのあいだ貴国の世話になる! よろしくであるぞ!」
ツララが腕を組みながらの仁王立ちで高らかにそう言うと、彼女の背後に控えるオーガと虎耳獣人の男性武者二人が跪いて深々と頭を下げた。
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豊穣の月、一七日。
いつも通りの朝を迎えた。
右隣にはソルム、左隣にはアディが静かな寝息を立てている。
うん……昨日一昨日であんなことがあったのに、本当に今まで通りの朝の光景だ……。
みんな頭のスイッチの切り替え早いな~。
そういうところはちょっと見習いたいよ。
で、昨夜のことなんだけど、夕食時にダイルがやってきた。
なんでもカスガ国の王族が王都に来ているらしく、オレと会って話がしたいのだそうだ。
主な要件はオレの国を建てることに関する承認やその他諸々。
つまりここで話をつけておけば、後々カスガ国にまで出向く必要がなくなるってことだ。
向こう側から出向いてきてくれるなんて、こちら側からすれば超ラッキー♪
ここは無難に話を進めて、なんとか認可を得たいところだ。
そんなことを考えていたら、今日の起床係のメイドが入室してきた。
さ、朝食を済ませて面会の準備だな!
今日も忙しくなりそうだ。
「オリバさんが面会を?」
「ハイ。今し方に使いの者が来られまして、至急旦那様に報告したいことがあると……」
朝食時にハルガスから今日の予定を確認していたのだが、思わぬ事態になった。
「まいったな……今日はこれから、その例のカスガの王族さんとの面会があるんだよね?」
「ハイ……しかしながら、オリバ氏も早急に旦那様のお耳に入れたい情報があると申されておりまして……。使いの者を今も待たせておりますが、如何致しますか?」
「ハルガス、こういう場合、その二組を同時に相手するというのは両者にとって失礼なことになるかな?」
「いえ、先客の受け入れに十分な時間があった場合であれば話は別ですが、カスガの王族様は昨日の夕刻、オリバ氏は今朝と、今回は両者共に緊急での面会要請となっております。とあれば、受け入れ元である旦那様が斯様な采配を取られても、文句は言えませぬでしょう」
「わかった。じゃあ使いの人に了解の返事をしておいて。あとはオレの方で上手くやるよ」
「かしこまりました。ではそのように」
午前九時。
報告のあった通りの時間に、屋敷へ二台の馬車がやってきた。
一台はアルグランスの王族が使っている馬車。
そしてその後方にあるのは、それより一回りも二回りも大きい巨大な馬車だ。
馬も大型で四頭引きと、なかなかのビッグスケールだ。
「ソーマ殿! おはようなのじゃ! 今日はカスガ国の客人をお連れしてきたゆえ、宜しく頼むのじゃ」
先頭の馬車から出てきたのは引率役のライラとシルフィー、それとダイルとメイリン女史だった。
そして後方の馬車の扉が開くと、そこからは赤い肌を持つ、身の丈二メートルを超える女性が出てきた。
頭には二本のツノを持つ。
ダイルの報告にあった通り、オーガの女性だ。
「ほほう! 貴公が御爺様の言っていた神の使徒、ソーマとやらか? 聞いていた通り、本当に小さい女子のような男であるな?」
そう言いながらオーガの女性ツララは、ヒョイと軽々しくオレを両手で抱え上げた。
そんなツララの行動に対し、二つの動きがあった。
一つ目はオレの後ろに控える犬モードのマーク。
今にも噛みつきだしそうな勢いだ。
「小娘! 我が主様に対して無礼であるぞ! さっさと下ろさぬか!」
「なっ⁈ 言葉を発する獣⁈ では貴公が話に聞いていた神獣とやらか⁈」
「早く主様を下ろせと我は言っている!!」
マークの覇気に臆することなく、興味津々の視線をマークに向けるツララ。
そんなツララに対し、二つ目の動き。
ツララに続いて馬車から出てきたオーガの男性と、馬車の御者をしていた虎耳の獣人男性の二人組がツララを諫める。
「姫、その神獣様の仰られる通りです。早くソーマ様を下ろされよ」
「出会って早々これとは……先が思いやられるでござる……」
どうやら話に聞いていた、ツララの護衛役の武者のようだな。
二人の言葉に従い、ツララはようやくオレを地面に下ろす。
「うむ! どうやらここはワシが無礼をしたようだ! 許せソーマとやら! ワシの名はツララ・フウマ・カスガ。カスガ国の第一王女である! 後ろに控えるはワシの忠臣、ランセイとコジュウロウだ!」
「お初にお目にかかり申す、神の使徒殿よ。ツララ姫の御側役を仰せつかっているランセイ・トヅカと申す者。以後お見知りおきを」
「拙者の名はコジュウロウ・セイカイと申す。ランセイ殿と同じく姫の御側役を仰せつかっている者でござる」
ツララの紹介で、二人の武者、オーガのランセイと虎獣人のコジュウロウが深々と頭を下げる。
ランセイは成熟した男性で、中年入りかけって感じかな?
コジュウロウはまだまだ血気盛んって感じの若武者だ。
「この度は我が姫が無礼をしたようだ。心より謝罪する」
「姫にはあとでしっかりと言い聞かせるゆえ、どうかここは穏便に……」
二人とも一見すると強面の武者っぽい容姿なのだが、なかなかどうして? かなり礼節を弁えた人格者のようだ。
差し詰め世間知らずの姫様に振り回される苦労人ってところなのかな?
なぜそう思ったかって?
そんな二人に対して、シルフィーとメイリン女史が生温かい視線を送っているだからよ……。
まるで「ええ、ええ、分かりますよその気持ち」と言わんばかりに……。
「ははは、物珍しいものを見た時はこういうものですよ。どうかお気になさらずに。マークもそこまでにしておけ。向こうはちゃんと謝罪している」
「御意……」
オレが今もツララ姫を警戒するマークを諭したところで、張り詰めた空気が緩やかに流れ出したのを感じた。
「すまぬ、神獣殿よ。決してそなたの主殿に悪気があったわけではないのだ」
「承知した、オーガの姫よ。ただし今後は斯様なことのないよう心せよ……」
「うむ! 肝に命じておこう。貴殿と争いたくはないのでな」
そんな感じで一波乱あったものの、その後は互いの自己紹介を済ませ、そのまま応接室に場所を移して今後のことについて話し合うことになった。




