184話:頓挫した乗っ取り計画 ★
「まずはソーマよ。先に謝罪をしておかねばならぬ。ワシはおぬしに領地を与え、国の王となる事を勧めたが、最終的にはそれをワシらが掌握するつもりでおった」
「掌握?」
会議の一発目から、アリオス爺の口から物騒な言葉が舞い込んでくる。
アリオス爺の話によると、以前言ったように東大陸各国の承認を得て、アルグランスの土地の一部をオレに与えて新しい国を作ること自体は本当にするつもりだそうだ。
問題なのはその数年後。
つまりオレが寿命で死んだあとの話だ。
アリオス爺は例えオレの子孫がいたとしても、オレ以上の脅威にはならないと踏んでいたようだ。
その代を重ねればなおのこと。
長寿のドワーフ族やエルフ族からすれば、人族の寿命などたかが知れている。
つまりアリオス爺はオレを含めて向こう五代先までは可能な限り友好的に接し、それ以降は徐々に内政的にオレの国の実権を掌握して、可能性として残る力、つまり神獣であるマークたちの力を得て、東大陸に絶対的な平穏を獲得しようと考えていたそうだ。
「つまり、他の大陸から侵略などがあった場合にのみ、マークたちの力をある程度自由に使えるようにしようって考えていたわけか?」
「掻い摘んで言えば、そういうことになる。長く見積もっても四、五〇〇年。頃合いを見て領土返還を申し付けて、そのままソーマの子孫とマークたち諸共を東大陸の守護神として取り込もうと考えておったのじゃよ……」
「フンッ……我も見くびられたものよのう……。アリオス老よ、我とお主の仲だ。斯様な策を巡らさずとも無益な争いでない限り、例え主様が居なくなろうとも、我は盟友であるライラとその一族には力を貸すぞ? これは主様と友誼を紡いだアルグランスの者だからこそだと思え」
「寛大な言葉、痛み入る……。その言葉、末代まで言い伝えよう……」
「フッ……我らの命もどこまで続くのかは知らんがな……。少なくとも、此度の話で主様より先に逝けそうであるのは安心したところではあるが……」
アリオス爺はマークに対して深々と頭を下げ、マークもそんなアリオス爺の姿を見ないように顔を逸らしながら、そんな捨てセリフをつぶやいた。
オレより先に死ねそうとか、そんなことで安心なんかするんじゃないよまったく……。
つまりだ。
人間からすれば気の長い話だが、ドワーフからすればあっという間の時間なのでそういう計画を画策してたのだが、オレの寿命がそれを上回ると知ってしまった以上、その計画が早々に頓挫してしまったわけだ。
「ソーマよ、この際だから言うが、国を与えること自体も方便よ。実際には付かず離れずおぬしを隔離するのが目的じゃった。それほどおぬしの力は強大過ぎるのじゃよ……ワシらフォーランドの民の手に余るほどにのう……」
アリオス爺はそう言いながら、申し訳なさそうな表情で俯いてしまった。
「友などと言っておきながら、わしはおぬしをそのように利用しようとしておったのじゃ……軽蔑してくれてもかまわん」
「なんでさ? オレもこのアルグランスを利用させてもらってるぞ?」
「え?」
「大体さあ? 損得勘定なくて人と付き合うってのが無理な話じゃないかな? アリオス爺? もしかして友人とか親友ってのは損得勘定抜きで付き合える仲だとか思ってないか?」
「あ……いや……それはその…………」
「オレはそうは思わない。どんな付き合いの仲になろうとも、そこには必ず損得勘定が必要だ。だからこそその人物の良い点も悪い点も容認して付き合える。それができなければ離れるだけだよ。だけどオレは今もこうしてアルグランスに居る。それはここにいるみんなの好きな部分も嫌いな部分も全部ひっくるめて、オレにとって得のほうが勝っていると思っているからだ」
「ソーマ……」
「だからアリオス爺もオレをもっと利用してくれていい。勿論嫌なことはやらないし、できると思ったことは可能な限り手を貸す。オレとはそういう付き合い方で良いんじゃないかな? でもまさか、この身体がドワーフより長い寿命があるとは思いもしなかったけどね。オレ自身も正直この先をどうしようか迷ってるところだよ……」
オレがそんなことを述べたあと、一旦小休止を挟んでからアルグランスの王族や重鎮たちはオレから少し離れた場所で一同に集まり、この先をどうするかの議論を始めだした。
少しの間だけ、オレを含めた屋敷のみんなが待たされる。
時間にして二〇分ほどしたら、また全員が元の席に戻ってきた。
どうやら話はまとまったみたいだな。
そして最初に口を開いたのはシグマ陛下だった。
「お待たせしてすまなかった。ではソーマ殿、そしてフラメン様とミツルギ様の御二方にも改めてお伺いしたい。貴方たちはこの世界で今後、どうなされるおつもりか?」
その質問に対する返答に会議室にいる全員の視線が集中するが、まぁ返答は決まっている。
「以前にも言ったと思いますが、オレが望むのは平穏な暮らしです。今回の一件で自分の知らない体質が明らかになったけど、そこは変わりありません。姿勢についても友好的な者には手を、敵対的な者には刃を。それだけです」
「私たちも変わりないのだよ。私たちの興味は特異点であるソーマという個人ただ一人。それ以上もそれ以下もない。この世界の事象には基本的には関与しないし、ソーマという存在が無くなれば天上界に帰るだけなのだよ♪」
「私も同じである。ソーマに乞われればある程度の力は貸すだろうが、その力も人知の範囲でのみだ。この下界で我ら上神本来の力を行使することは固く禁じられているからな」
おお! ミツルギ姉さんが歌わず自然に喋っている! それだけこの話が真剣なものだと思ってくれているんだろうが……。
それにしても人知の範囲ねぇ……絶対嘘だ……。
ともあれ、オレたち三人の言葉を聞き、目を合わせたシグマ陛下とアリオス爺は深く頷き合って、再びオレに視線を向けた。
「あい承知した。ではソーマよ、おぬしに与える領土の規模については後ほど改めて知らせよう。だが今回のこの話は我らアルグランスだけでなく、この東大陸各国にとっても大きな修正を入れる必要が出てきたのは確かじゃ」
つまりこういうことだった。
さっきアリオス爺が話した計画ってのは、実はアルグランスだけでなく、東大陸各国全体での計画だったらしい。
各国首脳もその腹構えでオレとの謁見に臨むつもりだったのだが、想像以上に気の長い話に発展してしまったので、その旨を早急に各国へと伝え、計画そのものの破棄と、この状況で今後オレとどのように接するのか? その協議にある程度の時間が必要となってしまったのだ。
「ちなみにその修正ってのには、どれくらいの時間が必要なの?」
「短く見積もっても半月はかかるじゃろうのう……。なんせ一切合切全部ひっくり返ってしもうたからのう……。正直一番頭が痛いのは首謀者であるワシじゃよ……」
「え~~? また半月待たされるの? オレ、早くセイルに行って醤油を手に入れたいよ~」
「ワシとて出来ることなら早く話を進めたいわい! しかしこればかりは慎重に話を進める必要があるのじゃ。すまんがこれ以上ワシを困らせんでくれ……」
まぁ、そもそもこんな体質であったオレにも少なからずの責任もあるのだし、ここは互いに自重ってことなのか?
オレ的にはまったくもって不本意な話なんだけどね!
ほら見て下さいよ五大神様たち! 不老長寿の身体なんて碌なことにならないじゃないですか!
と、そんなことを考えていたら、続けてシグマ陛下が声をかけてきた。
「ソーマ殿には申し訳ないが、こればかりは本当に大事な話なのだ。どうか聞き入れてもらいたい。そして我からもソーマに一つ頼みたいことがある」
「頼みたいこと? なんですか?」
「ソーマ殿の今後のことに対する考え方は理解したつもりだ。無論我らアルグランス武王国はソーマ殿と友好的に接していく方向で手を取り合いたいと思っている。しかし言葉や盟約状というものは水物だ。その時の状況や流れで反故になる事などよくある話だ」
「まぁ……そりゃ確かに」
「であるからして、我らとしては確固たる友好の証が欲しいのだよ」
「証?」
「うむ。聞けばソーマ殿は我らドワーフ族以上に長寿なだけでなく、異種族間でも子を成せる身体であるとか? それは事実か?」
その言葉に対してオレは神姉さんズに視線を向けるが、二人とも黙って笑顔で頷くだけだ。
「……だそうです。オレ自身はそのことに関しても全然実感がないんですけどね」
「あい承知した。ではソーマ殿よ。我らアルグランス武王国とソーマ殿との友好の証として、我が愛娘ライラを嫁に貰ってくれ」
………………ナンデスト?




