183話:緊急御前会議 ★
豊穣の月、一六日。
いつも通りの朝がやってきた。
右隣にはソルム、そして左隣にはアディが静かな寝息を立てている。
胸の上にはライラ。足元にはシルフィー。
そしてその周りにはメイドたちが全員寝間着姿で……ってぇええ!!
全然いつも通りの朝じゃねえよ!!
そう……今オレの周りはそんな状態なのだ。
昨夜の風呂場の大乱戦のあと、普通に就寝時間となったわけだが、メイドたちがオレとしばらく会えずに寂しいから、せめて今夜だけでも寝を共にしたいと潤んだ瞳で懇願してきたので、絶対に夜這いやそれに付随する行為、つまり過度なスキンシップをしないことを条件に承諾すると、メイドたちはすぐさまベッドを五台並べて今のような環境を整えた次第だ。
まぁ普段使ってるオレのベッド単体でも五、六人は寝れる巨大なベッドなので、それが五台も連なれば、一七人なんて余裕なわけで……。
しかしまぁ……なんというか……みんな可愛い顔して眠ってら。
そんなことを考えながら皆の顔を見ていたら、部屋の片隅に設置している椅子からメイリン女史とレージュ女史が腰を上げ、小声でオレに話しかけてくる。
「おはようございます、ソーマ様」
「お噂通り、本当に朝はお早いのですね」
「おはよう二人とも。もしかしてあのあともずっとそこで?」
そう。この二人は椅子に腰かけながら、一晩中ライラの監視をしていたのだ。
まぁなんのかんの言っても、ライラは一国の王女だ。
オレが信用ある人物とはいえ、男のいる寝室で一緒となると、相応の監視を付けるのは当然のことではある。
「まあそれが私どもの務めですので、どうかお気になさらず」
「ソーマ様なら信用しておりますが、昨夜の話もありますし……それに逆に引きずり込まれるということもありますので一応……」
なにそれ怖い……。
まぁでも、こういう証人がいてくれるだけでも、オレとしては精神的にかなり助かるのは事実だ。
オレはそんな二人に礼を言い、無限収納からプリンを取り出して差し入れ、もう三〇分ほど静かな朝を満喫することにした。
「あ~~~スマン、ソーマよ? 悪いがもう一度言ってくれんかの?」
起床時間となり、全員が目を覚ましていつも通りの朝食を済ませ、セイル行きの荷物の最終確認をしている時にアリオス爺やシグマ陛下たちがお供を連れて屋敷にやってきたので、応接室で昨夜の話をしたらアリオス爺が眉間を指で挟みながら具合の悪そうな表情をしだした。
「うん……姉さんたちの話では、オレってそういう体質らしいんだよ」
みんな唖然とした顔をしている…… まぁ無理もないか。
オレだって驚いてるんだから……。
するとアリオス爺は平静を取り戻したかと思うと、真面目な表情でオレを見つめながら言った。
「延期じゃ……」
「え? 延期? 何が?」
「決まっておろう! ファーベストとセイル行きの日程を改める!」
「はいぃいいい⁈ なんで⁈」
「どうもこうもあるか! なぜそんな重大なことを今まで黙っておったのじゃ⁈ ワシらの計画が根底から覆るようなことを……」
「計画? 一体なんのことだよ?」
「それもこれも全部ひっくるめて、あとで説明するわい!」
「あとでって……」
「リキッド! ソーマのことを知る各官僚を一人残らず全て招集せい! 緊急御前会議を執り行う! 大至急じゃ!」
「は、ははっ!!」
アリオス爺の気迫のこもった指示で、シグマ陛下の横に控えていたリキッド宰相さんが大慌てで部屋を出て行く。
一体なにが始まるんです?!
「ソーマにフラメン殿とミツルギ殿、それとグラディウス卿!」
「え? は、はひぃ!」
いきなり家名で呼ばれ、ソルムは驚きながら裏返った声で返事をする。
するとアリオス爺はオレたちに頭を下げてこう言った。
「各々方には無礼を承知で物申す! すまぬがここは何も聞かず、どうかこのアリオスを信じて城までの御同行を願いたい!」
その言葉に沈黙が流れる……。
重苦しく流れる空気……そして最初に上がったのは、凄まじい殺気がこもったマークの唸り声だった。
「アリオス老よ……お主ともあろうものが、随分と舐めたことを申してくれるではないか……? 今の自分が何を言っておるのか、理解はしておるのであろうな?」
「無論! セイル行きを逸るソーマの気持ちを抑えた上にワシの一存で日程まで定め、この日に向けてあらゆる準備をさせてしもうた! ソルムやメイド各人の日々の心情も承知! そのうえで斯様な無礼を言い放っておる! それだけこのソーマの体質は重要な案件と認識願いたく思う! 神獣マーク殿よ!」
鋭い眼光のマークの言葉に対して一歩も怯むことなく、それに負けない眼光で睨み返しながらそう言い放つアリオス爺。
しばらく睨み合うマークとアリオス爺に、下手な声をかけれる者などここにはいなかった……。
正直オレも怖くて口出しできません……。
すると最初に目を逸らしたのは驚くことにマークの方だった。
そしてマークはオレの方に顔を向けてこう言い放つ。
「主様、死を覚悟のうえで我も進言いたします。どうかここはアリオス老の指示に……」
まさかマークが引き下がるとは予想外だった。
しかしマークほどの者が今のアリオス爺の心情を察したとなると、本当にかなり大事な話に発展する可能性が高いのかも知れないな……。
となると、ここは大人しくアリオス爺の言葉に従って色々と情報を先に得ておくのが得策か。
個人的には早くセイルに向かって醤油を得たいところではあるんだけど……。
しゃあない、ここはマークに免じて従うとするか。
「解ったよ、アリオス爺……今回は大人しく指示に従うよ」
「すまん! この埋め合わせは必ずする!」
「マークもこれ以上は畏まる必要はない。お前を咎めるつもりはないよ。むしろよくオレを諭してくれた。礼を言うよ」
「勿体なき御言葉……」
「この話を知る他の者たちも全員来るのじゃ!」
こうしてその日の昼、王城の会議室にて緊急御前会議が執り行われた。
会議室にある長いテーブルの奥に座するのは武王シグマと先代武王アリオス、第一王女ライラ。
その両サイドを固めるのは宰相リキッド侯爵と物流総括メーキス商伯。
騎士団からは総長ガッシュ伯爵と同相談役ドラン先代伯。
宮廷魔術師団筆頭、及び魔法研究所所長のアルテアと同副所長カッツ。
メイド隊及び公儀隠密は隊長レージュを筆頭に同副長メイリン、リゼット、エキルスの三名が。
ライラ姫御側役筆頭シルフィリアに陛下直属親衛隊エルナイナ、重装騎士団百騎長ダイルなど、ここまでがオレと面識のある面子だ。
その他にも財務担当やら外交担当やら農務担当やら産業担当やらと、ざっと見積もって二〇名以上の見知らぬハイドワーフやドワーフたちが座して並んでいる。
厳密には見知らぬわけじゃないが、言うほどの知己を得ていない人たちだ。
そして王族の対面に座するのがオレと神姉さんズ。
その後方にはソルムとアディ、神獣家族のマークたち。
さらにその後方に、オレの屋敷で働くメイドたちが全員立ち並んでいた。
真面目な国政会議だけあって、重苦しい雰囲気がピリピリと伝わる。
そして静寂が流れるそんな中で、アリオス爺が静かに立ち上がった。
「先代武王アリオス・ジーク・アルグランスの名において、これより緊急御前会議を執り行う! 尚、以後この場で交わされる言葉の一切を口外することを厳として禁ずる! よいな!」
「「「「「「「「「「ははぁ~~~!!」」」」」」」」」」
アリオス爺の開催の言葉と共に、王族以外のアルグランス関係者は全員深々と頭を下げて畏まりながら返事をした。
この言葉で頭を下げていないのはそれ以外の勢力の者。
つまりオレと神姉さんズにマークたちだけだ。
ソルムとアディの二人も頭は下げていないが、どうやら雰囲気の飲まれて硬直しているだけみたいだ。
気持ちは解る……。
「此度の会議に御参加頂いたソーマ・ウォーターフォール卿とその御一行の方々にも、重ねてお願いいたす」
「承知した。ウォーターフォールの名において、家族、家臣一同と共に、ここにそれを誓おう」
続けてのアリオス爺の言葉にそう返事を返す。
まぁここまでは会議前にアリオス爺と示し合わせたテンプレだ。
じゃあアリオス爺、この先は完全なアドリブだ。
さっき言ってた「計画」ってのも含めて、話を聞かせてもらおうかな?
今週末に休日出勤が確定してしまったので、執筆ペースが減少します。
次回更新が来週月曜日にできなければ、木曜日ではなく金曜日に更新となります。
どうぞ御了承下さい。ハァ……世知辛いです……。
今回のキャラ紹介はアルグランス王家付きメイド隊、三副隊長の一角「メイリン・ザイバッハ」です。
ライラ王女のお世話役で公儀隠密。暗殺術の使い手。
騎士団総長であるガッシュ・ザイバッハ伯爵の三女として生まれ、優秀な家系の中で力を蓄えて副長の座まで上り詰めた苦労人。
性格は真面目で物腰も柔らかく、多くの一般メイドや見習いから慕われている、文字通りの「お姉様」である。
活動報告でもお伝えしましたが、前回の更新分で本作は100万PVを達成しました。
読者の皆様に厚くお礼申し上げます。
それに伴ってではありませんが、先日から中止していた感想の受付を再開しようと思います。
理由は様々ですが、友人に諭された……というのが一番の理由でしょうかね?
とりあえずメンタル弱いので、そのあたりはお手柔らかに願いますw
お返事するかしないかも気分でってことでヨロシクですw




