182話:風呂場の大乱戦・後編 ★
このフォーランドでは異種族間での交配は不可能。
そんな話題が出てきて少ししんみりとした雰囲気になった風呂場だが、その沈黙を破るかのようにフラメン姉さんが不適な笑い声をあげる。
そしてそんな姉さんに対し、ライラが先んじて質問した。
「それはどういうことなのじゃ? フラメン姉様や?」
「ウフフ……ソーマの身体は確かに人族……人間の身体なのだよ。でもそれは半分だけの話。残りの半分は我々神と同じ聖神体と呼ばれるもので構築されているのだよ」
それは以前、五大神様たちからも聞いた話だ。
それとこの話になんの関係があるってのさ?
「我々天上界に住まう上神はキミたち下界の住人を「子」と称して愛し、愛でる存在でもあるのだよ。ゆえに、種族、人種の区別分け隔てなく、その身に更なる子を宿し宿せる存在でもあるのだよ♪」
…………あ、察し…… お願いしますフラメン姉さん、その先の説明は止めて下さい! い や マ ジ で!!
「つまり半分神の身体を持つソーマは、その相手が如何様な種族であろうとも、子を宿せることができるのだよ♪」
「しかも~♪ その寿命もまた人とは異なり~♪ 下界に住まう住人以上のぉ~~♪ 長寿を誇るぅうう~~~♪ それは千か万か~? はたまたぁ~~♪」
フラメン姉さんのハイパー爆弾発言プラス、ミツルギ姉さんの追い打ちスペシャル爆弾発言で、皆の表情が明るくなるどころか、それを通り越してギラついた目に変わる……いや、変貌した!
「ソーマ殿や? どうじゃろうか? わらわはこの中で一番若い女子なのじゃが~♪」
なんだよライラ! その気持ち悪い作り笑顔は!
「ひひひ姫様! 若さなら私もおお同じ! 抜け駆け駄目!」
ぬおっ! いつも控え目なゼストがライラに抗議してる⁈
「いえいえ! 若さなら私も負けていませんよ! ソーマ殿、我がデオンフォード家に婿入りなんてどうですか? 今なら愚姉も付けますが?」
勝手にエルナイナまで付けようとすんな!
と思ったら、オレの背後に悪寒が走ったので目を向けると、そこにいたのは頬を赤く上気させ、どうみても発情してるエキルスだった。
「旦那様ァァン♪ そんな秘密を隠していらっしゃったなんて……本当に旦那様はいけずな御方ですわァァン♪」
エキルスが今まで以上にお色気全開で迫りながら、その手と尻尾をオレの身体に這わすが、それを阻止したのはソルムだった。
「駄目ですエキルス姉様! そんな狼藉は家臣である私が許しません!」
「ンガフッ?!」
そう叫びながらエキルスを全力で突き飛ばすと、吹っ飛んだ彼女の上半身が外側の壁を突き破った。
お~い……生きてるか~? お尻丸出しだぞ~?
そしてソルムが背中からオレを抱き寄せると、今もジリジリとオレに迫る女子衆に言い聞かせる。
「みんな控えなさい! こちらにおわす御方は後に陛下となられるソーマ・ウォーターフォール様ですよ! そのような不埒な思惑で近寄ることは、このソルム・グラディウスが断じて許しません!」
おお! ソルムの凄まじい迫力で皆がたじろいだぞ!
ナイスだソルム! さすがはオレの家臣! ビシッと決めてくれたぜ! ……なんて思っていたら、ソルムはそのままオレを正面に向けて顔を近づける。
「御主人様にお触れしていいのは家臣である私だけなんですぅ~♪ むちゅう~~♪……むぎゅ?!」
そんなことを言いながら、タコのように伸びたソルムの唇を手で制止するオレ。
ダ~メだコリャ……ソルムまで完全に頭の中がピンク色に染まってやがる!
どうすんだよ? この状況?!
オレが種族問わず交配可能と聞くや否や、みんなが急に色目をむき出しにしてきたぞ?
え? なに? オレってそんなにみんなから慕われていたの⁈
と思ったら、壁から上半身を引っこ抜いたエキルスが復活!
頭と鼻から豪快に血を流しているが、その表情は何故か笑顔だ。
「ムッハ~! いい感じに体が温まってきたわ~! 旦那様! 今こそこの私の燃える愛を!」
「「「「「「「「「「させるかぁああ!!」」」」」」」」」」
「ンガフッ?!」
そんなエキルスに対し、ライラやシルフィー、他のメイドたちが全員一斉にドロップキックをぶちかますと、彼女は壁に二つ目の穴を空けた……。
それから先、この風呂場は鉄拳と羊羹の乱れ飛ぶ戦場と化した。
ライラの喧嘩殺法に、シルフィーの無限体術。
エキルスの猫拳メイド殺法にソルムの暗黒ボクシング。
他のメイドたちも次々と秘技を繰り出し、凄まじい大乱戦となった。
…………半分は嘘だけど半分は本当だ。
まぁ簡単にいえば……キャットファイト状態だね。
そしてそんな乱戦を遠巻きに観戦しているのがオレと神姉さんズ。
その他にはサーシャ、アニル、ファム、レットラーのセイル行きお供衆。
そしてレージュ女史、メイリン女史とアディだけだ。
「フラメン姉さん……さっきの話って本当?」
「アハハハハ♪ 神は嘘をつかないのだよ♪」
「我々の言葉は~♪ 紛れもない事実ぅうう~~♪」
「異種族でも子を成せるなんて、旦那様はやはり凄い御方です! まさに神の御業ですよ!」
「アハハ……全然嬉しくないぞ~アディ~~」
アディの向ける尊敬の眼差しが今は辛い……。
「しかし意外ね? 貴方たちはアレに参加しないの? てっきり貴方たちもソーマ様を慕っているものかと思ってたんだけど?」
「いえ……確かに私は旦那様のことはお慕いしておりますが……正直そこまでは考えてなかったというか……。それに私の髪は御覧の通りですから……」
「あたい……いえ、私も旦那様のことは好きだけど……私はこんな身形だから正直そういうのは諦めているというか……」
メイリン女史の問いに対し、奥ゆかしくて控え目な性格のサーシャは、頬を少し赤らめながらそう答え、アニルは見事に鍛え上げられて盛り上がった腕の筋肉をさすりながらそう答えた。
「そんなことないだすよ! サーたんもアニルっちももっと自分に自信を持つだす!」
「そうですよ! アニルさんは獣人族の中でも綺麗な顔立ちをされていますし、サーシャの金髪だって、私たち魔族の中では結構モテる要素の一つなんですよ!」
二人の言葉をファムとレットラーが必死に否定する。
アニルは獣人族の中では美人な方なのか?
正直みんな可愛らしいので、その辺りの基準がよく解らん。
それにしてもサーシャの髪ってのはどういうことなんだ?
「なにかサーシャの髪に問題でもあるのかい?」
「その……この世界では金はかなり価値の薄い物ですので、金髪の女性は「安い女」として気嫌いなされる人族の殿方も少なからず……」
はぁ?! そんなことでこの綺麗な金髪を卑下するやつがいるのか?
じゃあなにか? こんな綺麗な金髪を持つフラメン姉さんやサーシャ、メキナが安い女っていう輩がいるってことなのか? 冗談じゃない! そんなふざけた幻想はぶち壊す!
オレの文化ハザード対象リストに一つ項目が増えたようだ。
「オレはサーシャやメキナの金髪は綺麗だと思ってるからね♪ 悪く言う奴がいたら、オレが懲らしめてやるから安心しろ」
「だ、旦那様……ありがとうございます♪」
「それにアニル。オレはアニルのような身体も言い方に語弊があるけど、結構好きだぞ? 健康的な身体でいいじゃないか」
「本当ですか? 旦那様!」
うん……少し控え目に言ったけど実はオレ、筋肉質な女性の身体も結構好きなんだよね。
あまり筋肉モリモリマッチョ過ぎるのは御勘弁だが、アニルくらいに程よく仕上がった肉体美は結構好みだ。
前世の自分が典型的な小太り体型だっただけに、こういう身体には少なからずの憧れもあるのだ。
それにその……何気にソルムに次いで、メイド内ではナンバー2の豊かなバストを誇ってるし……。
なんてことを言って、少し気落ちしていた二人を励ましていたら――
「わ、私! やっぱり参戦してきます!」
「あたいも行くぜ!」
――いきなりサーシャとアニルが立ち上がり、湯着を脱ぎ捨てて乱戦場へと突撃していった。
なぜ脱ぐ?! と思っていたら、乱戦場の皆は既に湯着がはだけてすっぽんぽん状態だったので、全裸じゃないと参加資格がないと思ったらしい。
「じゃあ折角なんでわたすも行くだす!」
「あ! 待って下さいファムさん! 私も行きます~!」
ついにはファムとレットラーまで突撃してしまった。
さすがにこの二人はまだ理性が働いてるみたいだし、アルグランス寄りの感性じゃないから、湯着を着用したままだ。
うん……オレの精神安定のためにも、その感性をいつまでも大事にしてくれよ、二人とも……。
「アハハハハ♪ みんなソーマのことが大好きなのだよ♪」
「それに~♪ 鬱憤もかなりぃ~♪ 溜まっていたようだなぁああ~♪」
「うふふふ……若いっていいわねぇ……」
「なに年寄りめいたこと言ってるんですか? レージュ姉様もまだ若いんですよ!」
乱戦場を優しい笑顔で見つめる神姉さんズとメイド重鎮たち。
なんかこの一角だけ空気が違うというかなんというか……。
完全に今の状況を楽しんでいる様子だ。
兎にも角にも、今日この日、オレの身体について重大な事実が判明、露見してしまった。
種族問わずに交配でき、ハイドワーフ以上の長寿の身体……。
正直どちらもオレにとっては不必要なモノなのに……なんでこんな身体にしちゃうかな? 五大神様たちは?
神姉さんズの力でこの身体の特性を作り変えることは可能か聞いてみたが、オレの身体は五大神様たちの最上級な神力で構築されたものなので、姉さんたちの神力では無理とのことらしい。
この一件は色々と物議を醸しだしそうな予感がするよ……。
ちなみにこの大乱戦だが、騒ぎを見かねたマークが威圧スキルを飛ばし、全員を硬直させたところで終結した。
流石のみんなも神獣パワーには勝てなかったよ……。
「まったく……主様の御前で揃いも揃って醜態を晒しおってからに! ライラにシルフィリア! それにソルムまで! 我が盟友として嘆かわしい限りよ! 他の皆も恥を知れ!」
「すまんかったのじゃ……」
「面目次第もなく……」
「ごめんなさい、マーク様……」
「「「「「「「「「「ごめんなさ~い」」」」」」」」」」
洗い場で素っ裸のままで正座されられ、マークの説教を受ける面々。
なんか昨日もこういう光景を見たな?
本当に今日はデジャブの多い日だ……。
前回予告させていただきましたとおり、次回更新は来週木曜日を予定させていただきます。
御了承下さい。
今回のキャラ紹介はソーマ邸のメイド。エルフ族の「ファム・ファン」です。
アルグランス武王国の同盟国、セイル森国・ミドベルトの出身。
62歳の若いエルフである。
アルグランスには出稼ぎで来ており、メイド歴は10年以上。
見習いメイドの教育係を任せられるほど、メイドとしての能力はそれなりに備わっている。
強い訛りの言葉使いが特徴だが、非常に人懐っこく明るい性格で、メイド間での友好関係は良好。
しかし仲の良いメイドたちに勝手にあだ名をつける癖があり、その点だけは不評のようだ。
同じ異国出身のレットラーとは仲間意識が強く、よく行動を共にする。
趣味は保存食作り。
「これはいい魚だす! 早速捌いて干物にすんべさ♪」




