181話:風呂場の大乱戦・前編 ★
衝撃のソルム家名下賜、及び爵位叙爵の件で夕食時は大いに賑わい、その勢いのまま、騒ぎは風呂場にまでもつれ込んだ。
「しっかし、あのソルムが家名を持つことになるとはねぇ~」
「私はそれ以上に爵位を得られたことの方が驚きですよ」
「しかもいきなり伯爵だすよ! グラディウス伯爵!」
「となると……やはりこれからはグラディウス伯とお呼びするべきなんでしょうか?」
セイル行きに同行する四人のメイド、アニル、レットラー、ファム、サーシャが、ソルムの身体や頭をわしゃわしゃと洗いながらそんなことを話している。
明日からしばらくソルムともお別れなので、家名諸々のお祝いも兼ね、四人でソルムのお世話をしている最中だ。
「えへへ~♪ まだ御主人様の国自体はできてないし、今は私と御主人様の間でだけの話だから、建国するまでは今まで通りでいいよ~♪」
そんなソルムは皆に身体を洗われて気持ちが良いのか? それとも家名と爵位を得て気分が良いのか? 終始ニコニコ笑顔で皆にそう答える。
「まったく……あの子ったら本当に嬉しそうな顔しちゃってまあ~……。今回の一件で益々旦那様との距離に開きができた気がするわ……」
「ハハハハハ♪ まぁまぁエキルス、そう気落ちするのはやめるのだよ♪ ささ♪ ここは一杯ぐいっとやるのだよ♪」
「恋の~♪ 悲しみは~♪ 酒で埋めるのだぁ~♪ ルルル~~♪」
「お姉様方…………はい! 今宵は御相伴に与らせてもらいます! えいや!」
「おお~♪ いい飲みっぷりなのだよ♪」
湯舟の隅ではエキルスと神姉さんズの三人が神酒による晩酌を始めている。
あ……今回はアケボノを出したんだけどエキルスのやつ大丈夫か?
神酒を飲むのは初めてじゃないから悪酔いはしないと思うけど……。
そしてオレはというと、ライラたちや他のメイドたち、すなわち居残り組の面々に寄り添われ、手厚い奉仕を受けている。
一応神姉さんズ以外は全員ちゃんと湯着を着てもらってはいるが、こうも密着されると流石に目のやり場に困る。
ライラなんてオレの膝の上にお尻乗せて座ってるし!
アルグランス独特の感覚に少しは慣れたとは思ったけど……オレまだまだ修行が足りません……。
「しかしまさか、ソーマ殿が既に名前登録のスキルが使えるとは驚いたのじゃ!」
「でもまぁ、後日に建国して国王の身となれば自然と習得するスキルではありますし、遅かれ早かれといったところですかね?」
「ですが姫様? ソーマ様とソルムの間だけの話とはいえ、彼女のステータスに正式に家名と爵位が組み込まれている以上、やはりこのままというわけにも……」
「やはりソルムの扱いに関しては、少し検討の余地も必要かと?」
レージュ女史とメイリン女史の二人が、ソルムの家名と爵位に関して少々慎重気味だ。
「とりあえずその件については後日、ソルムも交えて慎重に話し合って下さい。少なくとも、以前のように彼女を泣かせるようなことだけは無いようにお願いしますよ?」
オレはまだこのレージュ女史に対しては少し懐疑的な姿勢だ。
全部を疑ってるわけではないが、なんつーかこう……頭が固すぎるんだよね、この人。
また余計な企てで可愛いソルムを泣かされちゃかなわんので、ここは先制パンチで軽いジャブを入れておくべきだろう。
「その辺については重々に承知しておりますよ……。私とて、貴方様にこれ以上は睨まれたくありませんから」
「ソーマ様、その辺りについては私とリゼットの方でしっかりと監視させていただきますから、どうか御安心下さい」
「メイリンさんが言うなら安心だ♪ ソルムの事、どうかお願いしますね」
「えええ⁈ 私ってそこまで信用ないんですか⁈」
半分涙目のレージュ女史を見て、他の面々が一斉に笑い出した。
「なっはっはっはっは♪ 流石のレージュもソーマ殿にかかれば生娘当然じゃのう♪」
「当然じゃなくて、私は今でも生娘ですよ!」
「しかしレージュ殿も確かもう六〇〇超えてますよね? そろそろ良き殿方を見つけて身を固めないと行き遅れますよ?」
「シルフィリア殿も余計なお世話です! 私はあと一〇〇年は現役でいるつもりです!」
改めて聞くと凄い会話だな……タイムスケールの感覚が半端ないわ。
オレが寿命迎えても、この人はまだメイド長やってるんだな……。
「あ~あ、私が人族だったら直ぐにでも旦那様に迫っちゃうのにな~」
「ですわよねぇ~……」
「ちょっと二人とも! そのテの話はしないって約束でしょ!」
「「あ……ゴメンなさい(ですわ)」」
レージュ女史たちの話を聞いたポロンとメキナがそんなことを言い出し、それをリコナが咎めるように制止する。
するとどうしたことか? 他のメイドたちが少しその表情に影を落として黙りだした。
さっきまではしゃいでいたソルムたちまでだ。
「え? え? みんなどうしたの? え? どういうこと?」
「は? どうもこうも――」
オレが何事かとライラに問いだすと次の瞬間――
「そうよ! この中で旦那様と子を成せるのは同じ人族のサーシャだけなのよ! いいことサーシャ! くれぐれも旅の間は旦那様と間違いのないように!」
――顔を真っ赤にして少し目が虚ろなエキルスが、何故か素っ裸で湯舟から立ち上がってサーシャにそう言いながら指差す。
ダメだ……酒とアケボノのダブル効果で少し悪酔い……というか、絡み酒の状態になってるぞコレ?
そのうえ神姉さんズにつられて、湯着まで脱いじゃったみたいだ。
「待ってくださいエキルス姉様! なにも旦那様の前でそんな……」
当のサーシャも顔が真っ赤っかだ。
え? なに? もしかして同族同士じゃないと子供できないの?
そのことをライラとシルフィーに問いただしてみたら、やはりそうだった。
「わらわたちハイドワーフ族とドワーフ族ですら、微妙な特性の違いだけで交配できんのじゃ……。異種族間での交配など無理な話……」
「そもそも種族で寿命が全然違いますからねぇ。子供を成せる期間や発情期などもバラバラ。そんなので混血なんて出来るわけありませんよ……」
そっか……オレの漫画やアニメ知識でハーフエルフとかがいるから、てっきり異種族間での混血児なんてのもいるのもだと思ってたが……。
「なっはっはっは! もしそれが可能だったら、わらわは直ぐにでもソーマ殿に縁談を持ち掛けておるわ。まぁそれでも、わらわが子を成せる年齢になる前にソーマ殿が寿命で先立たれてしまうがの……。好いた男と同じ時間を歩めぬのは残念な話じゃ。こういう時ばかりは、この長寿な身が恨めしいのう……」
ライラが空元気に笑ったと思ったら最後にそんな本音を言い出し、風呂場の空気が一気に冷え込んでシ~ンとしてしまった。
「だからいったじゃない! このおバカ!」
「あいた! ごめんなさ~い」
テトラがポロンの頭に拳骨を落とすと、続けてリコナが深々とオレに向けて頭を下げて謝罪した。
「旦那様、本当に申し訳ございません。このような話を殿方の前でせぬのが我ら淑女の務めだったのですが……。あとでポロンたちには十分に言い聞かせますので、どうか今後とも変わらぬ御心で我らに接していただければ幸いです。特にソルムにはいつも通りの御寵愛を……」
「え? あ……うん…… なんだか変な……話になっちゃったね……」
ダメだ……空気が重い……。
みんな表情を曇らせて目線を下に向けてばかりだ……。
だがそんな時、その沈黙を破る笑い声が木霊した。
「フフフフ……異種族間での交配は無理……か……。そんなキミたちの常識が、キミたちと違う理を持つソーマに通用するとでも思っているのかい?」
その笑い声の主は、湯に浸かりながら神酒を飲むオッサ……もとい、フラメン姉さんからだった。
その表情には何故か余裕すらも伺える。
っていうか……ナニ? どういうことよ?
後編は木曜日に更新します。
ですが今週末は所用で執筆の時間が取れないと思われるので、来週月曜の更新はお休みさせていただきます。御了承ください。
今回のキャラ紹介はソーマ邸のメイド「テトラ・ウロス」です。
58歳のハイドワーフ族だが、種族的にはまだまだ若輩者である。
他のハイドワーフメイド同様、家名持ちでウロス男爵家の長女。
メイドとしての能力は選抜試験を突破しただけあって高く、気の回る性格も相まって、エキルスのソーマ邸就任までの間は、リコナの補佐役として副メイド長を務めていた。
普段は一歩引いて目立たぬよう努めているが、あらゆるところで準備を怠らない、いわゆる「縁の下の力持ち」的存在として皆から頼られている。
趣味の一環で植物学に精通しており、知識派の一面も持つ。
「テトラ~ そろそろ行くわよ~」
「……生え際ヨシ……テカり具合ヨシ……」
『なんの確認をしているんだか……』
ウロス家の人々は、己の額に一家言あるとかないとか……




